17、しあわせ
紫乃ちゃんの髪はサラサラである。
弓奈はドライヤーをかけてあげながら紫乃の髪に手ぐしを通してその感触を楽しんだ。乾かし終わったらうなじの辺りから冷風を背中に送り込み、紫乃ちゃんのパジャマをふわーっと膨らませるのが最近弓奈がハマっている遊びである。
「やめてください・・・」
「ふわー♪」
「ふわーじゃないです」
紫乃は嫌がっているふりをしているが、湯上がりの火照った体に冷風は気持ちいいので本当は喜んでいる。弓奈に頭も撫で撫でしてもらって充分満足した紫乃は「先に部屋に行ってます」などと言って脱衣所を出ていった。弓奈は自分の髪を乾かしながら紫乃の背中を見送ってくすくす笑った。
お気に入りのグラスにこだわりの天然水をなみなみと注ぎ、腰に手を当てながらグビッと飲むのがお風呂上がりの紫乃の習慣である。グラスにきらきらと反射する天井の電気に見とれて飲むのを忘れ、しばらくそのポーズのまま動かない時もあるが、とにかく水分はしっかりと補給していく方針なのだ。綺麗なお水をいっぱい飲むことが健康の秘訣だと、全面的に信頼している後輩の美紗さんが言っていたからである。紫乃はなぜか美紗の言うことは多少真偽がはっきりしていなくとも信じてしまうところがあるのだ。
「いい湯だったねぇー」
ネグリジェ姿の弓奈がダイニングにやってきた。紫乃はお風呂の中であんなに気持ちいいことをしてもらったというのに、お風呂上がりの弓奈のセクシーな素肌を眺めてまたドキドキしてきてしまった。そもそも紫乃は頭の中が真っ白になった後に深い眠りに落ちることなく、その日のうちに目を覚ましたのは初めてであり、まだ自分の体の調子を掴めていない。全てはあのクッキーのお陰であり、これは今度月乃さんにしっかりお礼をしなきゃいけないなと紫乃は思った。
ちなみにこの時の細川月乃ちゃんは、シャランドゥレグランドホテル二階のレストランにてサーモンのムニエルを美味しく食べてるところであった。
「おいしいですわぁ♪」
尊敬する紫乃様にクッキーを渡すことが出来てご機嫌な月乃ちゃんは独り言もいつもより多めになっている。疲れがとれて元気になった紫乃様にはぜひとも早くお休みになって明日を有意義に過ごせるよう英気を養って頂きたいところだが、勤勉な紫乃様のことだから今頃大学のお勉強をしているかもしれないなと月乃は思った。
「紫乃ちゃん、何してるの」
「寝る準備です」
紫乃は黙々とベッドメイキングをしていた。このタイミングでお勉強しようなどという発想は無いのだ。
『ピヨピヨピヨ♪ ピヨピヨピヨ♪』
するとそこへ電話が掛かってきた。呼び出しのアラームが多少変なのは津久田財閥のセンスによるものである。
「あれ、誰だろう」
「無視しましょう」
紫乃は電話をさらっと無視できるタイプの女である。
「大事な連絡かも知れないし、出てくるね」
「はい」
弓奈はリビングの固定電話に向かった。
「はい、倉木です」
ちなみにこの部屋は倉木の苗字で借りているため、紫乃は完全に弓奈のお嫁さんポジションである。
『なに!? ゆ、弓奈なのか!?』
電話を掛けてきた方が何故驚いているのかよく分からないが、この声の主に弓奈は心当たりがあった。
「え、もしかして、竜美さん?」
『竜美なのじゃ!』
「竜美さーん! お久しぶりです!」
夏以来声も聴いていなかったので弓奈もこれには大層喜んだ。
『嬉しいのじゃ弓奈ぁ! お前を探しておったのじゃ』
「私も嬉しいですよ! なにかあったんですか?」
長電話になりそうな気配なので弓奈はそばにある椅子を寄せて腰掛けた。この椅子は商店街の福引きで当たってしまったものであり、お店のカウンターにあるような脚の長い椅子である。弓奈の脚だってスラッとしていて長いのだが、さすがに床に足先がつかないのでブラブラさせることが多い。
紫乃はしばらくベッドの上で弓奈の枕を抱きしめながら彼女を待っていたが、なかなか戻ってこないので今のうちに寝る準備をしてしまおうと歯磨きなども済ませることにした。が、洗面所から戻って来ても弓奈の電話はなかなか終わらない。待ちきれない紫乃は弓奈の枕を持ってリビングのソファへ行き、その上で子猫のように転げ回った。
「紫乃ちゃん、もう少しだから待ってね」
電話中のはずの弓奈が優しく声を掛けてくれた。実は弓奈は『緊急事態じゃ! そのまま待っておれ』と言われたまま数分無言電話の相手をしているので紫乃とも会話できるのだ。
紫乃は受話器を片手に椅子に腰掛けている弓奈の姿をじっと見つめ、弓奈と目が合うとサッと枕に顔を隠すというのを何度も繰り返した。だるまさんが転んだ状態である。
ここで、受話器によく耳を澄ましてみるとかすかに竜美さんが誰かと会話している声が聴こえることに気づいた弓奈は、受話器を耳に押し当てて意識をそちらに集中させてみた。あ、もしかしたら犬井さんかなと思った瞬間、弓奈は自分の脚にドキッとするような柔らかくて温かい感触を感じた。
「し、紫乃ちゃん・・・」
紫乃は弓奈の隙をついて彼女の足元にぺたんと座り、左脚にむぎゅっと抱きついたのである。ネグリジェはひざまでしかないので椅子に座っているとほとんど素足であり、弓奈が足をブラブラさせる度に裾からちらちらと見える綺麗なふとももを前にして紫乃は我慢出来なくなってしまったのである。
「紫乃ちゃん・・・電話中だからちょっと待ってね」
紫乃は弓奈のひざの横あたりに頬擦りしながらうなずいた。あまり触られたことがない場所なので弓奈はドキドキしてしまった。
『おい弓奈!!』
「わぁ! あ、お帰りなさい」
ちょっとロマンチックな空気になっていたため、受話器から急に大声がして弓奈は非常にびっくりしてしまった。
『問題は解決したぞ! お前は役立たずな女じゃのう!』
「え!? 解決したんですか」
いつの間にか向こうで問題が解決したらしい。なんのための電話だったのか謎である。
『お前の長話に付き合ってやってもいいが、私は急用ですぐに学園に戻らねばならん!』
「そ、そうですか」
まるで弓奈がヒマ人かのような言い方である。
『しかしもうお前の電話番号はバレバレじゃあ! 明日以降もいっぱい電話を掛けてやるから覚悟するのじゃ』
「は、はーい」
これは明日からも紫乃ちゃんをじらすことになっちゃうだろうなと弓奈は思った。
『そのときはお前のリーベの話もゆっくりきかせるのじゃ! さらばじゃ弓奈!!』
「はーい、さよならー」
しかし元気そうでなによりである。今度また会いに行きたいなと思いながら弓奈は受話器を置いた。
すると待ちかねていた紫乃が弓奈の腰にしがみついてきた。お腹に紫乃の頬が当たって服の上からでもとても温かい。
「はい、電話終わったよ。ごめんね待たせて」
弓奈はしがみついたままの紫乃をよいしょよいしょといいながら寝室まで運んだ。ベッドの上に乗せるとようやく紫乃は弓奈の体から離れ、お布団の上にすっかり無防備な格好で仰向けに横たわった。
「あれ、紫乃ちゃん、枕は?」
「知らないです」
しらばくれているが、弓奈の枕をリビングに置いてきてしまったのは紫乃である。
「取ってくるね」
紫乃がもう寝る気まんまんなので弓奈も枕を取りに行くついで寝る準備をすることにした。廊下の電気は足元のライトだけ点けておくのがポイントである。
弓奈を待ちながら紫乃も寝室の電気を調節することにした。部屋のはじっこに立っている背の高いライトと、ナイトテーブルの上の小さなライトを点けて、お部屋の電気は消してしまうのだ。このくらいの明るさが紫乃にとっては丁度いいのである。
「お、もう暗い」
弓奈が寝室に入ってきたので紫乃はお布団に潜り込んだ。
「おまたせ」
温かな色で照らされた弓奈の優しい微笑みや、天井でぼんやり揺れる彼女の陰がとても素敵なので紫乃は胸がキュンとしてしまった。
「じゃあ、どうしよっか」
弓奈がベッドに乗ってハイハイして紫乃の顔を覗きに来た。紫乃は恥ずかしくて布団で顔の下半分を隠したまま弓奈を見つめた。
「お話しする?」
紫乃は弓奈とベッドの上でお話しするのも大好きなのでうなずいた。
「じゃあ、お話ししようね。眠っちゃだめだからね」
甘えん坊モードになっている紫乃と接する時の弓奈は紫乃よりずっと年上の優しいおねえさんのようである。ちなみに誕生日で言えば一日ほど紫乃のほうが上だ。
弓奈はお布団に潜り込み、紫乃の方を向いて寄り添った。弓奈さんのいい匂いが鼻をくすぐるので紫乃のドキドキは加速する。
「なんのお話する?」
紫乃は弓奈の綺麗な顔に見とれている。あまり返事をせずに弓奈に任せておいても事は上手く進むものである。
「レタスの話する?」
「・・・いやです」
弓奈はたまにシュールな冗談を交えてくるのでこれには反応しなければならない。
「紫乃ちゃん、私ね」
弓奈が語り出した。
「私ね、今とっても幸せだよ」
囁くような優しい声に、紫乃は胸がぽっと温かくなった。
「紫乃ちゃんは、どうかな」
幸せ・・・私も幸せ・・・紫乃は心の中で繰り返しつぶやきながら、ゆっくりうなずいた。布団に半分顔を隠しながら上目遣いにうなずいて返事をする紫乃がたまらなく可愛くて弓奈は今すぐ抱きしめてしまいたくなったが、もう少しがまんすることにした。
「ホント?」
「うん・・・」
紫乃は声もセットでもう一度うなずいてみた。
「私ね・・・紫乃ちゃんが幸せでいてくれるから、私も幸せなんだなぁって思うの」
なかなか恥ずかしいセリフであるが、ここは二人だけの世界なので気にしてはならない。
「だからね」
「うん・・・」
「いっぱい幸せになってね」
弓奈は紫乃のほっぺを指先でやさしくくすぐった。
「幸せになろうね」
弓奈の優しい声に紫乃はほっぺを赤くしながらゆっくりうなずいた。
紫乃は今本当に幸せである。紫乃の高校時代は振り返ってみればどれもこれも美しい思い出ばかりだが、胸が締め付けられて眠れない夜や涙を流した夕暮れもあった。恋のつらさもたくさん味わってきたのである。だから紫乃は今のこの幸せを存分に味わい、毎日を素直にのびのびと歩いていってよいのである。
ただ、紫乃が最近気がかりなのは、弓奈さんは紫乃の幸せのためにいろいろしてくれているが、自分はそれと同じくらいのことを弓奈さんにお返しできているだろうかという点である。弓奈のほうは本人の言う通りもう完全にスーパーウルトラ幸せであり、そんなことを紫乃が悩む必要など全くないのだが、自分自身のわがままなところや素直じゃない態度にちょっぴり自覚のある紫乃は、やはり少し悩んでしまうのである。なんとかして、弓奈さんにしてもらうばかりでなく、自分もお返ししていきたいと紫乃は思っているのだ。
おめでたいことに、そのお返しチャンスは意外とすぐ訪れることになる。
「紫乃ちゃん・・・」
二人はお布団の中で寄り添い、見つめ合っていた。
「紫乃ちゃん・・・かわいいよ」
髪を撫でられながらかわいいと言われて紫乃は思わず脚をもじもじさせた。さらさらのお布団とシーツが素足に心地よくて、試しに右足をにょーんと前へ伸ばしてみたら弓奈の足に触れてしまい紫乃はドキッとした。弓奈はちょっぴり笑いながら紫乃の足に自分の足をからめて、ゆっくりとすりすりしてくれた。シーツの何倍も気持ちいい、温かくてすべすべの脚に内ももをなぞられて紫乃はぞくぞくしてしまった。
「紫乃ちゃん・・・」
可愛く反応する紫乃の様子にとうとう我慢できなくなった弓奈はゆっくり体を起こし、お布団は被ったまま紫乃の体に覆いかぶさるように四つん這いの姿勢になった。弓奈の長い髪が紫乃の頬にかかる。
「紫乃ちゃん・・・私・・・我慢できなくなっちゃった」
紫乃もだいたい同じ気持ちである。
「いっぱい・・・チュウしてもいい?」
弓奈のいい香りに包まれて、紫乃は無意識のうちにうなずいてしまった。
はじめに弓奈は紫乃のほっぺにキスをした。そして首すじから鎖骨のあたりに向かって少しずつ少しずつキスの位置を移していった。柔らかくて優しい唇を何度も押し当てられて、紫乃はもだえてしまった。
「脱いじゃおっか・・・」
弓奈は紫乃のパジャマを脱がしていった。紫乃はこういう時本当に素直なので弓奈に全て身を任せている。
やがて弓奈のキスが紫乃の胸に辿り着く。弓奈はキスするだけでなく、ぺろっとしてあげたり、ちゅぱちゅぱしてあげたりした。弓奈は紫乃の控えめなお胸の感触が大好きである。
紫乃が耐えきれずに声をもらすと、弓奈が顔をあげた。
「紫乃ちゃんも・・・ちゅぱちゅぱする?」
そう言って弓奈がゆっくり体を起こして服を脱ぎはじめたので、紫乃も起き上がって弓奈のネグリジェのはじっこをそっと噛んでそれをぶんぶん振り回しながら、弓奈がブラジャーを外してくれるのを待った。
「はい、どうぞ。召し上がれ♪」
弓奈さんのおっぱい・・・大好きな弓奈さんのおっぱい・・・紫乃は少しもだえてから弓奈の胸に飛び込んだ。冗談のつもりで言った「召し上がれ」というひと言が妙に生々しくて弓奈は自分で照れてしまった。
紫乃は弓奈のおっぱいが大好きなので、小さなお口をいっぱい使って甘えた。すべすべぽよんな感触とうっとりするような温かさ、そして桃のようないい匂いが紫乃をますます甘えん坊にしてしまうのである。
「いっぱい飲んでね」
本当にミルクを飲んでいるような幸福感に紫乃の頭はくらくらした。紫乃ちゃん専用のおっぱいなので慌てる必要はないのに、つい夢中になってちゅぱちゅぱしてしまうので紫乃はひどく呼吸が乱れた。
「・・・大丈夫?」
紫乃は弓奈の谷間に顔をうずめて呼吸を整えた。もっと整えやすい場所があるはずなのだが紫乃は弓奈にしがみついているのだから仕方が無い。
「じゃあ・・・そろそろ交代ね」
再び弓奈は紫乃を押し倒してキスを始めた。ベッドの上ではすっかり弓奈がリードする役である。腕も、指先も、お腹も、お背中も、内モモも・・・弓奈のやさしいチュウは愛の花吹雪となって紫乃ちゃんの全身に降り注いでいった。
「うっ・・・ん・・・」
紫乃ちゃんがとっても可愛い声を出し始めた。そろそろ頭の中が真っ白になってしまうのかもしれない。
「紫乃ちゃん・・・」
弓奈は紫乃に覆いかぶさるようにして抱きつき、全身を使ってすりすりなでなでした。弓奈も呼吸が乱れている。
「紫乃ちゃん・・・どう? 幸せ・・・?」
「うん・・・うん・・・」
朝起きた時も、一緒にご飯を食べた時も、パンを袋に詰めまくっている時も、部屋に帰って来る時も、弓奈さんと一緒にいる時間は全部幸せだなと紫乃は思った。紫乃は必死にうなずきながら弓奈の背中に細い腕を回してぎゅっとしがみついた。
「キスするから・・・もっと・・・もっと幸せになってね・・・」
「うん・・・んっ・・・!」
魔法の唇が、紫乃の唇に優しく触れた瞬間、紫乃のハートは天に昇った。紫乃の小さな体にはあまりにも大きすぎる幸せの衝撃である。
恍惚な様子でぐったりした紫乃ちゃんを優しく抱きしめながら、弓奈は紫乃ちゃんのパジャマに手を伸ばした。服を着せてあげてから寝ないと紫乃ちゃんが風邪を引いてしまうかもしれないからだ。
「よいしょ」
弓奈の右手が紫乃のパジャマを掴んだかと思った瞬間に、予想外の出来事が起きる。
「ん?」
弓奈の気のせいでなければ、自分の体に回されていた紫乃の腕にちょっぴり力が入ったのである。
「紫乃ちゃん・・・もしかして、まだ平気なの・・・?」
「ん・・・んん・・・」
半分眠ったようなとろーんとした表情で紫乃が目を覚ました。紫乃はしばらく状況が分からず頬を赤くしたまま弓奈の顔を見つめてぼーっとしていたが、やがて弓奈にキスをしてもらった瞬間のことや、夕方に食べたクッキーのことまで鮮明に思い出した。どうやらあのクッキーの効果は本物であり、しかも今回目を覚ましたのはお風呂場で頭の中が真っ白になった時よりも早かったため、効果を発揮する機会が多くなるほどその力が強くなるというかなりマジカルなクッキーだった可能性がでてきたのだ。月乃ちゃんも凄い物をプレゼントしてくれたものである。
「ゆ、弓奈さん・・・」
「なぁに紫乃ちゃん」
これは幸せ返しのチャンスかもしれない。いつも一緒にいて幸せな気持ちにさせてくれる弓奈さんに・・・毎晩のように頭の中真っ白にさせてくれる弓奈さんに・・・今こそ恩返しをするチャンスである。
「私も・・・キス・・・キスします・・・」
「え・・・?」
紫乃は一度体を起こしてから横になっている弓奈に上から抱きつき、先程彼女がしてくれたようにまずはほっぺから、首すじ、鎖骨のあたりへとキスをしていった。
「し、紫乃ちゃん・・・ん・・・」
予想もしなかった事態に弓奈は非常にドキドキした。紫乃のさらさらな髪が自分の体を撫でるように滑っていくのがとても気持ちよく、紫乃の小さな唇が肌に触れる度に色っぽい声を出してしまった。
「紫乃ちゃん・・・紫乃ちゃん・・・」
弓奈は自分の胸にキスしはじめてくれた紫乃の頭を優しく撫でた。紫乃のちっちゃな舌を胸に感じるのはとっても幸せである。
「ねえ・・・紫乃ちゃん・・・」
弓奈は紫乃の顔を上げさせた。
「紫乃ちゃんのミルク・・・飲んでもいい?」
先程の順番を守るとするならば、次は弓奈が紫乃のおっぱいを飲める番のはずである。弓奈は紫乃を抱きしめながら体を起こした。
「いい?」
「・・・うん」
「じゃあ・・・いただきます」
「んっ・・・」
弓奈は紫乃の小さな背中に優しく手を添えて胸をちゅうちゅうし始めた。大好きな人におっぱいを吸われる幸せに紫乃は頭がどうにかなってしまいそうだったが、ここは自分が幸せになるのではなく、弓奈さんを幸せにしてあげることがメインなのでぐっとこらえた。
「おいしい・・・おいしいよ・・・紫乃ちゃん・・・」
気持ちいいのを必死に我慢して自分の頭を撫でてくれる紫乃がいじらしくて弓奈はいっぱいいっぱいミルクを求めて吸い付いた。
「そ、そろそろ・・・」
「ん?」
「そろそろ・・・交代・・・」
「そうだね」
再び横になった弓奈の美しすぎる体に、紫乃はまたキスをしていくことにした。腕も、指先も、お腹も、お背中も、内モモも・・・紫乃の小さな唇によるキスが、弓奈のハートをますます高ぶらせていった。ここまでの紫乃はなかなか上手くやっている。
しかし、少しずつ紫乃の心身にも幸せの魔の手が忍び寄る。弓奈の全身は絵にも描けないほど美しいという点以外は他の人間と変わらないと思われがちであるが、実はそうではない。弓奈の唇が魔法の唇といわれる所以となっている、人々に幸せな瞬間をもたらす不思議な力は、効果は弱めではあるものの彼女の全身から常に溢れているものであり、弓奈の唇にキスをしなくても、全身にちゅっちゅしていたら少しずつ快感が体にたまっていくのである。
「んんっ・・・!」
「紫乃ちゃん?」
弓奈のキレイなお背中にキスをしていた紫乃が可愛い声を出した。
「紫乃ちゃん・・・大丈夫?」
まずいことになったと紫乃は思ったが、ここで諦めるわけにはいかない。なんとしても弓奈さんに幸せな瞬間を味わってもらいたいのだ。
「うっ・・・ん・・・んっ・・・!」
「紫乃ちゃん・・・」
紫乃は体をびくびくさせ、呼吸を乱しながら必死に弓奈の体にキスをしていった。そして弓奈のやっていた通り、キスが全部終わったら弓奈を仰向けにしてその上から抱きついたのである。
「紫乃ちゃん・・・大丈夫?」
「んっ・・・!」
耳元で弓奈の声がしたので紫乃の体はますますビクッとしてしまった。しかし紫乃は諦めず、不器用な体を頑張って使ってほっぺや脚や胸をすりすりした。ここまでされてしまったら弓奈も我慢できず、紫乃をぎゅっと抱きしめた。二人のおっぱいがむにゅっと密着した。
「紫乃ちゃん・・・キスしてくれるの?」
「うん・・・」
「でも紫乃ちゃん・・・また頭の中真っ白になっちゃうかも」
紫乃は必死になって首を横に振った。今日は弓奈さんに幸せの恩返しをするのだから、自分ばっかりが真っ白になってはいられないのである。ちなみにこの状況とはあまり関係ない話だが、紫乃が好きな色は紫である。
「じゃあ、紫乃ちゃん・・・おいでっ」
「うん・・・んっ!」
唇と唇が触れた瞬間、紫乃の全身の力が抜けて弓奈に覆いかぶさってしまった。紫乃ちゃんまたしても真っ白である。しかし驚くべきことに、今度はなんと頭の中が真っ白になってほとんど時間を空けずに紫乃が意識を取り戻したのだ。
「し、紫乃ちゃん」
紫乃は弓奈の耳元で必死に息を整えながら、返事の代わりにぎゅうっと弓奈を抱きしめた。
「弓奈さん・・・弓奈さんにも・・・幸せ・・・うっ・・・!」
紫乃はがんばって顔をあげて、再び弓奈の唇にちゅっとした。
「んっ・・・!」
「紫乃ちゃん・・・!」
弓奈は紫乃を強く抱きしめたまま体を起こした。
「ありがとう紫乃ちゃん・・・ありがとう・・・私のことも幸せにしようとしてくれてるんだね」
またまた目を覚ました紫乃はぎゅっと弓奈にしがみつきながら大きく二度うなずいた。弓奈の髪が鼻先に当たってとても気持ちいい。
「ありがとう紫乃ちゃん・・・私ね、ずーっと幸せなんだよ。朝起きた時も、ご飯食べてる時も、レジ打ってる時も、ここに帰ってくる時も、紫乃ちゃんと一緒にいる時はいっつも、本当に幸せなの」
「え・・・」
さっき自分が思ったことと同じことを言われたので紫乃はいつのまにかぽたぽたと涙を流していた。紫乃は弓奈の肩からあごを離して弓奈と見つめ合った。
「私も・・・いっつも・・・いっつも幸せ・・・」
「ホントに?」
「うん・・・うん・・・」
「私もだよ・・・紫乃ちゃん。だから、紫乃ちゃんはそのままでいいからね。いつもそばにいてくれれば・・・私はそれで本当に幸せなの」
弓奈もいつのまにか泣いていた。弓奈は優しく微笑みながら泣けるタイプの女である。
「弓奈さん・・・弓奈さん・・・大好き・・・!」
紫乃は弓奈の唇にキスをした。やはり紫乃の頭の中は真っ白になり、弓奈の体にしがみつく形で一度力が抜けたが、またすぐに意識を取り戻した。
「んっ・・・うっ・・・!」
すぐに意識がはっきりするとはいえ、あの幸福感を連続で味わい、それがまだ体じゅうを駆け回っているので紫乃の頭の中はすごいことになっている。
と、ここでちょっとした朗報である。実は弓奈の唇に宿っている魔法は、何度もキスをすると一時的に相手の唇にもその力を移すことがあるため、現在紫乃の唇にはその魔力がかなりの割合で蓄えられているのだ。だから今のキスで弓奈はかなりドキッとするような快感に包まれたので驚いている。
「ゆ、弓奈さん・・・!」
「紫乃ちゃん・・・!」
二人はまたまた小さくキスをした。紫乃は頭の中が真っ白になり弓奈にしがみついたまま足をピーンとさせ、弓奈もかなり大きな快感を感じて紫乃をぎゅうっと抱きしめた。自分にチュウをしては肩をビクっと震わせて幸せの世界にいってしまう紫乃が愛おしくて、弓奈は紫乃をつよくつよく抱きしめたのだ。クッキーの活躍で目を覚ました紫乃は弓奈の耳のあたりペロっとなめて意識が戻ったことをアピールし、また弓奈と短いキスをした。一日に一回しか味わえないはずの幸福感を何度も何度も味わって紫乃は夢を見ているような気分だった。
「紫乃ちゃん・・・紫乃ちゃん・・・!」
「んっ・・・・んっ!」
そろそろ紫乃の唇に宿る幸せのパワーが、弓奈の唇の魔法と同等のレベルにまで達したようである。二人のドキドキもこの上ないほど高まっており、どこまでが弓奈のおっぱいでどこまでが紫乃のおっぱいなのか分からないくらいぎゅうぎゅう抱きしめ合って密着していた。
「紫乃ちゃん・・・私も・・・私も・・・真っ白に・・・なっちゃうかも・・・」
「うん・・・うん・・・」
「ずっと・・・一緒にいてくれる?」
「うん・・・うんっ・・・」
紫乃は最後の気力を振り絞って何度もうなずいた。弓奈は嬉し涙を流しながら最後におもいきり紫乃に告白することにした。
「紫乃ちゃん・・・紫乃ちゃん大好き・・・大好きぃ!」
「私も・・・私も好き! ・・・好き! 好き好き! 好き! 大好きぃい!」
紫乃からも胸のうちを全てを出し切る愛の告白があったところで、二人は本日最後のキスをした。ちょっぴり長めに2秒程も唇を重ねてしまったため、ここまで紫乃の快挙を支えてきたクッキーさんもこれには勝てず、紫乃は最高の幸せの瞬間と共に弓奈の胸に落ち、弓奈のほうも実は初めての快感だったこともあり紫乃を胸にぎゅうっと抱いたまま幸せな眠りの世界に落ちていった。幸せな二人はこうして身も心も一つになったのである。
チョコクッキーの力が起こした奇跡ではあるが、ちょっぴり不器用で素直じゃないところも多いけれど、弓奈さんの幸せのためならどんなことでも必死になって頑張れる、そんな紫乃の純粋な愛情が生んだ幸せな一夜だったとも言えるかもしれない。