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14/22

14、屋根の上

 

 その日は京都もいいお天気だった。

 竜美さんは休日の賑わいの四条河原町の交差点を先程からずっとうろうろしている。和服姿の幼い少女が信号を行ったり来たりするので、何かの催し物かと勘違いした観光客たちが彼女の写真を撮ったりしていた。竜美さんが現在抱えている問題も知らずに通行人たちは呑気である。

 竜美さんはパッと見は小学生だが立派な女子高校生であり、たった数人しか生徒がいない幻の学園の生徒会長である。竜美さんのお世話係であり副会長を務めている犬井さんは、かつては非常に厳しく融通の効かない女だったが、今は竜美さんの健やかな成長とすべての生き物の調和を願う優しいおねえさんであり、お陰で今の竜美さんは自由に外出ができる。

 しかし竜美さんは本日、その犬井さんを怒らせてしまったのだ。

「ぬぬ・・・」

 竜美さんは腕を組んだまま横断歩道を行ったり来たりである。




「おい犬井!」

 彼女たちの朝は調理実習室でごはんを炊くことから始まる。

「おはようございます竜美様」

 犬井さんはいつも何を考えているのか分からないくらい寡黙な女だが、この時間の彼女が考えていることは大抵、どうすれば美味しい料理が作れるのかとういうことである。料理は彼女の本来の使命ではないため実はものすごく下手なのだが、一年以上地道に作り続ければどんな料理音痴でもある程度のものは作れるようになるものだ。ちなみに今朝のご飯は焼きほっけである。

「今日は良い天気らしいぞ! 一緒に遊びにいくのじゃ」

 校舎は基本的に地下なので竜美さんは外で遊ぶのが大好きなのだ。

「宿題は終わったのですか」

「まだ黄金週間は残っておるのじゃ。固い事を気にしておるとモテんぞ」

「宿題は終わったのですか」

「お前も私くらいおおらかな人間になれば、人の尊敬は自然と集まってくるのじゃ」

「宿題は終わったのですか」

「朝メシは何かの」

「宿題は終わったのですか」

「まだなのじゃ」

 おそらく犬井さんは自分が竜美さんに甘くなっていることを自覚しているので、せめて宿題に関しては厳しくしていこうと考えているのかもしれないが、今日はまた一段と厳しい姿勢である。

「宿題が終わるまではお出かけしてはいけません」

「なんじゃ・・・つまらんのう」

 竜美さんは犬井さんのことが大好きなのでいっぱい甘えたいのだが今日は無理らしい。ごはんを食べたら大人しく部屋に戻って意味不明なドイツ語の読解に取り組むべきであるようだ。



 さて、薄味のほっけでお腹がいっぱいになった竜美さんは自分の部屋に戻って畳にうつぶせになり問題集を開いたが、いまいち集中できずにページの隅に犬井さんの顔の落書きなどをしていた。竜美さんは字は汚いが絵は意外とうまい。

「退屈じゃのう」

 こういう時は部屋の中でシャボン玉を飛ばすに限る。本当は八坂神社の正面の石段に座って観光客の顔めがけて飛ばしたいところだが贅沢は言えない。竜美さんはシャボン玉セットを探した。しかしどうやらシャボン玉セットはこの部屋には無いようで、前回使用した時のことを振り返ってみたところ生徒会室に忘れてきていることを思い出した。これはこっそり取りに行くしか無い。

 竜美さんはふすまを開けて顔だけ廊下に出した。廊下は黒畳のいい香りがする。犬井さんはどうやらいない様子なので今がチャンスだ。

「それっ」

「なにをしているのですか」

「う!」

 駆け出したとたん犬井さんに見つかってしまった。犬井さんはタイミング良く彼女の自室から出て来たのだ。

「ちょ、ちょっと休憩なのじゃ」

「まだ5分しか経っていません。もう少し頑張ってください」

「ぬぬ・・・」

 かなり厳しい感じだが、頑張ってくださいと言って頭をぽんぽんと撫でてくれたので、まあ許してやるかと竜美さんは思った。

「ん? 犬井これからどこか行くのかの」

 よく見ると犬井さんは外出用の下駄を手に持っている。

「はい。大切な用事です」

「犬井が一人で出掛けるとは珍しいこともあるものじゃ。どれ、何か手伝ってやろうかの」

「いえ、竜美様は結構です。付いて来ないでください。大切な用事ですので」

「何の用事なのじゃ」

「まだ言えません。とにかく付いて来ないと約束して下さい」

「わ、分かったのじゃ」

 犬井さんはそのまま階段に向かっていった。竜美さんは犬井さんの白い着物から香るお香の匂いが大好きである。



 さて、あのように念を押されて気にならないわけがなく、竜美さんの好奇心は八月の送り火のごとく燃え盛っていた。

「犬井のやつ、私に隠れて何をしに行ったのじゃ」

 竜美さんは少しタイミングをずらして彼女のあとを付けていくことにした。



 四条通りを西へ行くこと500メートル、鴨川を渡った辺りでなぜか犬井さんは通行人に声をかけた。

「なんじゃあいつ・・・新しい女を学園に勧誘でもするのか」

 西風閣の入り口あたりで案内役をしてくれている藤ちゃんという少女を入れても3人しか生徒がいないので増員は名案だが、どうやら犬井さんは道を尋ねただけだったらしい。目の前に交番があるし、そこに地図の載った小さなプレートも掲げてあるのでわざわざ人に声をかけるのもおかしい話だが、京都の人は知らない人に道を訊かれることに結構慣れているから問題はない。問題があるとするならばそれは犬井さんのビジュアルである。彼女は目隠しが大好きなちょっと危ない人であり、今日も例外なく目の高さで白い布を巻いているので声をかけられた人はそればっかり気になっている様子だった。ちなみに犬井さんは竜美さんが近くにいない時はほとんど勘だけで歩いている。

「買い物なのかの」

 犬井さんの目的は分からないままだが、竜美さんはさらに彼女のあとを付けて人混みをこそこそと抜けていった。こそこそと言っても竜美さんのほうも錦の着物を着ているので目立ちまくりである。



 四条河原町の交差点は地下鉄の駅があることもあり待ち合わせスポットとして有名だが、交差点である以上、島になる部分が4つ存在するから案外ややこしく迷子が生まれ易い。

「しまった! 犬井を見失ったぞ」

 休日ともなると大変混雑するので誰かを尾行している時は注意が必要な場所でもある。竜美さんは石のベンチに下駄のまま飛び乗って背伸びをした。実にお行儀がわるいが、こうすれば身長はおよそ170センチである。

「どこへ行ったのじゃ・・・」

「ここです」

「わっ!」

 犬井さんが現れた。尾行していたことなどバレバレだったらしい。

「ついて来てはならないと申し上げたはずです」

「こ、これはだな・・・つまり・・・」

 めずらしく犬井さんは頬を赤くして怒っている。どうやら本気で付いて来て欲しくなかったらしい。

「す、すまなかったのじゃ・・・」

「・・・竜美様はどうして約束を守って下さらないのですか」

「その・・・ちょっと気になっただけなのじゃ。悪かったのじゃ・・・」

 犬井さんは顔を赤くしたまま竜美さんに詰め寄っていたが、やがて背中を向けて小走りに去って行った。大好きな犬井さんを怒らせてしまった哀しみに竜美さんはしばらく立ち尽くしてしまった。



 こんな時どうしていいか分からなかった竜美さんは、親友に助けを求めることにした。親友とはもちろん、自分に本当の世界の美しさを教えてくれて、犬井さんの心まで動かしてくれた伝説の美少女倉木弓奈のことである。彼女には好きな人がおり、その少女ともうまくいっているようなので教えてもらえることは多いはずだ。弓奈はずっと東のほうに住んでいるため今すぐ会いに行くことは困難だが、電話くらいはできるに違いない。竜美さんは四条河原町のデパートの前にあるバス停脇の電話ボックスに入ってみた。

「どうやって使うのじゃ」

 小銭を入れないとだめらしい。竜美さんは通販は得意だが現金を持ち歩く習慣がないため着物の袖には小銭がちょこっとしか入っておらず、これでなんとかするしかない。

「で、電話番号じゃと・・・」

 残念なことに肝心の弓奈の電話番号を竜美さんは知らなかった。電話帳とかいうアホみたいに重い本が置いてあったので開いてみたが、弓奈の名前は見つかりそうにない。これはピンチである。

「ぬぬ・・・」

 こういう時は知恵を使うしかない。本人に連絡がとれないのなら彼女の関係者を当たればいいのではないか。いやしかし弓奈の番号も知らないのにその友達の番号など分かるはずもない。

「お!」

 ここで竜美さんは閃いた。役立たずと思われた電話帳でも、学校の名前くらいは見つけられるはずである。弓奈の学校に電話すれば、彼女の情報が得られることは間違いないのだ。

「よし」

 たしか弓奈はこの春にもう学園を卒業しているはずだが、今日は休日だし学園にふらっと遊びにきている可能性もある。竜美さんの人間離れした強運をもってすればこの作戦、うまくいくかもしれない。



 うまくいかなかった。

 サンキスト女学園に電話を掛けることには成功したがそこに弓奈はおらず、「隣街に住んでるよぉ♪」などとゆるい感じで教えてくれるだけだったので、弓奈の後輩である生徒会のメンバーを電話口に呼んでもらったが、その少女も電話番号は知らなかった。実に使えない学園である。

 手がかりが学園の隣りの街ということだけなのでお手上げかと思いきや、竜美さんは諦めなかった。弓奈の住んでいる街と学園へは一度行ったことがあるので住所はなんとなく分かっているから、記憶している限りの情報を元に電話番号を調べてみることにしたのだ。市外局番辺りは間違いないはずである。が、その続きはもちろん不明だ。

「んー、適当にかけてみるかの」

 適当の力に頼ってみることにした。小銭が限られているので慎重に数字を選ばざるをえないが、竜美さんの持つ神懸った運をもってすれば、もしかしたらうまくいくかも知れない。



 うまくいかなかった。

 電話ボックスで散々迷いながら番号を考えていたらその時間が仇となったのか、隣街に電話をかけたはずなのに受話器をとったのは先程の生徒会の少女だった。たった今移動してきたらしい。ですのですの言うのでちょっと面白いやつだとは思ったが、面白がっているヒマはないので、次にどこかで電話が鳴ってもでないように念を押して電話を切った。

「んー、弓奈に繋がりそうな番号は・・・」

 さっきの番号が違うと判明した以上、次で弓奈に繋がる可能性は僅かながら上がったことになるため、竜美さんの人知を越えた強運をもってすれば、あるいはうまくいくかもしれない。



 うまくいかなかった。

 最初に電話に出た女は「はい! フレッシュバーガーシャランドゥレショッピングモール店です!」などと意味不明なことを言い始めた上に、弓奈のことを尋ねたらそのようなスタッフはいないとの一点張りである。そういえば弓奈には好きな人がおり、弓奈のことだからその少女と今も仲良く暮らしている可能性が高いと思った竜美さんは、ここで一度捜索目標を変更して、その弓奈の親友が近くにいないかどうかを尋ねてみた。一度顔を見ているので外見を説明できないことはない。いかにもお嬢様みたいな髪型をしており頬はモチ肌で、全体的にネコっぽくちょっと生意気そうな目をした少女だ。すると「あっ・・・少々お待ち下さい」などと言うから期待してしまったが、電話口に呼ばれてきたのはなんと先程から度々登場しているですのちゃんだった。どこに掛けてもこの少女がいるのでちょっと不気味である。もうこうなったらコイツでもいいかと思った竜美さんはこの少女に喧嘩の仲直りの方法を訊いてみたが、回答があまりにも平凡だったためやはり弓奈のほうがいいなと思い電話を切ることにした。

「うーん、うまくいかないもんじゃの」

 小銭は残り僅かである。おそらくあと一回しか電話をかけられないだろう。竜美さんは冷静になって番号を考え直すため一度電話ボックスの外に出て、眉間にしわをよせたまま交差点の横断歩道を行ったり来たりした。





「3じゃ!!」

 どれくらい時間が経っただろうか。いつの間にか陽は西の山並みに沈みかけ、空を茜色に焼いており、ついでに竜美さんの周囲には可愛い着物の女の子がいると聞いて集まった人だかりでキャアキャア賑わっていた。とうとう最後の数字を思いついた竜美さんはそんな人垣をしゃがみ歩きですり抜けて先程の電話ボックスに戻った。

「3じゃ! 最後は3じゃ!」

 こういうのは勢いが大事である。竜美さんは投入口に十円玉を乱暴に突っ込んで電話番号を押した。

「頼むぞ・・・弓奈、出てくれぇ・・・!」

 呼び出し音と心臓の音がいい感じでセッションを始めた頃に、その人が電話に出た。

『はい、倉木です』

「なに!?」

 竜美さんは息を飲んだ。

「ゆ、弓奈なのか!?」

『え、もしかして、竜美さん?』

「竜美なのじゃ!」

『竜美さーん! お久しぶりです!』

「嬉しいのじゃ弓奈ぁ! お前を探しておったのじゃ」

 これはまさに強運だが、おそらく竜美さんではなく弓奈が持っているほうの運で電話が繋がったに違いない。弓奈の運は宇宙規模なので知り合いが適当に選んだ数字を自分たちのマンションの固定電話に繋げることなど赤子の頬をくすぐるより容易いのである。

『私も嬉しいですよ! なにかあったんですか?』

「そうなのじゃ。実は犬井を怒らせてしまったのじゃ」

『い、犬井さんをですか』

「うむ。悪さをするといつも叱られるが、今日の感じはいつもと少し違ったのじゃ・・・仲直りするにはどうすればいいのか教えて欲しいのじゃ」

『そうですかぁ。何が原因だったんですか?』

「犬井が一人で出掛けるから付いてくるなと言うとったのに、後を付けてたらバレたのじゃ」

『なるほど・・・んー 、難しいですね・・・』

 ああやっぱり弓奈は親身になって相談にのってくれるなと竜美さんは思った。やはり持つべきものは胸の大きな友達である。

 と、ここで驚くべき事が起こた。電話ボックスをこんこんとノックする人がいるので竜美さんが振り向くと、そこにいたのはなんと犬井さんだったのだ。

「い、犬井!?」

『え、どうかしたんですか竜美さん』

「弓奈! 緊急事態じゃ! そのまま待っておれ!」

 竜美さんは最後の小銭である百円玉を追加で投入して受話器を電話機の上に乗っけたままボックスを出た。

「い、犬井! いったいどうしたのじゃ」

 犬井さんは着物のあちこちに砂埃がついていたり、すり切れたような形跡が見られる。どうやら何度も転んだり物にぶつかったりしたようだ。

「竜美様、おそくなりました」

「おそくなったって・・・犬井、今日は私に内緒で一体なにをしていたのじゃ?」

 犬井さんは脇に置いてあった巨大なスーツケースのようなものをひょいっと持ち上げ、少し頬を染めながら小声で答えた。

「鯉のぼりを・・・買いにいっておりました」

 今日は5月5日、こどもの日なのだ。大きいものに憧れる竜美さんは以前から空を悠然と泳ぐ鯉のぼりに憧れており、「鯉のぼりが欲しいのう・・・」と犬井さんの前で何度かつぶやいたことがある。

「・・・私からの・・・ぷれぜんとです」

「い、犬井・・・」

 犬井さんは竜美さんをびっくりさせたかったのだ。

 竜美さんは鯉のぼりそのものも勿論嬉しかったが、犬井さんが自分のために内緒で何かものをくれたことなどなかったのでそのことに非常に驚いた。竜美さんのほうも顔が赤くなってしまった。

「・・・ばかもの。もう日が暮れてしまったではないか。鯉のぼりは青空を泳ぐからかっこいいのじゃ。こんな時間まで一人で探し回りおって!」

 竜美さんはそう言って犬井さんに抱きついた。胸の辺りは犬井さんのいい香りがいっぱいである。

「申し訳ありません。転倒した時に方向が分からなくなったものですから」

「間抜けな奴じゃ。これからは、ずっとそばにいてやるぞ・・・」

 竜美さんは何度も何度も犬井さんのおっぱいに頬擦りした。



「おい弓奈!!」

『わぁ! あ、お帰りなさい』

 竜美さんは電話ボックスに戻った。

「問題は解決したぞ! お前は役立たずな女じゃのう!」

『え!? 解決したんですか』

「お前の長話に付き合ってやってもいいが、私は急用ですぐに学園に戻らねばならん!」

『そ、そうですか』

「しかしもうお前の電話番号はバレバレじゃあ! 明日以降もいっぱい電話を掛けてやるから覚悟するのじゃ」

『は、はーい』

「そのときはお前のリーベの話もゆっくりきかせるのじゃ! さらばじゃ弓奈!! ダンケダンケ!!」

 竜美さんは力強く受話器を置いた。散々待たせておきながら言いたいことだけ言って電話を切るというかなり迷惑なパターンだが、相手は優しい弓奈なのできっと大丈夫である。




「竜美さまぁ、犬井さまぁ、写真撮ってもいいですかぁ!」

 提灯を持った藤ちゃんが、近所のこどもたちと一緒にやってきた。竜美さんたちは鯉のぼりを学園の入り口である西風閣のてっぺんに結びつけ、屋根の甍に腰けて休んでいたところである。星空を背景にして二人の姿と鯉のぼりがどれほど写真に写せるかは謎だが、藤のために竜美さんはカッコイイ虎のポーズをとってあげた。

 気持ちのいい夜風が頬を撫でる度に二人の頭上で鯉のぼりがゆらりと揺れて、五月の天の川できらめく水しぶきをあげた。屋根の上からは東山から望む京都の夜景が一望できる。

「犬井、この屋根の値段はいくらなのじゃ」

「文化財ですから値段はつけられません」

「じゃあ鯉のぼりのほうが安いのか。屋根より安い鯉のぼりじゃな」

「童謡の歌詞を勘違いされていませんか」

「おおきーなー真鯛ーはーおとうーさーんー♪」

「真鯉です」

 この時間がずっと続けばいいなと竜美さんは思った。竜美さんはそっと犬井さんに寄り添ってもたれかかった。

「犬井」

「はい」

「恋に落ちるという表現があるが、あれはどうも納得がいかぬ。今私の気持ちは天にのぼるような心地じゃからの」

「・・・恋のぼりとおっしゃいたいのですか」

「その通りじゃ」

 竜美さんは犬井さんの腕に抱きついて肩のあたりに小さく二度キスをして、そのままおでこを肩にくっつけた。

「好きだぞ・・・犬井・・・」

 犬井さんは少し恥ずかしがりながら反対の手で竜美さんの髪をなでて、彼女の髪にそっと唇を押し当てた。犬井さんはクールで厳しいおねえさんだが、女性らしい温かい母性と深い慈しみをその胸に持っている。色んな出会いが、彼女をステキな人間に変えたのだ。

「私も・・・好きです・・・」

 屋根の上の二人の恋が天の川までのぼっていくのを、月は優しく見守っていた。

 

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