10、脱衣所
『まもなくサンキスト女学園です』
月乃のようなプライドが高い系小心者の女子には、自分の得意分野、もしくは既に知っているものについて非常に強気に出るという特徴がある。初めて行くお店では終始緊張して、やろうと思っていたことができなかったり余計なことをしてしまったりするのだが、二度目以降であればまるでその場所が実家かなにかであるような余裕のある立ち振る舞いをすることができるのだ。単なる自意識過剰とも分析できるが、常にかっこいいお嬢様でありたいとする、ある種の信念を持っているのは決して悪いことではない。
『お忘れ物にご注意ください』
バスは学園のロータリーに停車した。月乃がここにやって来たのは二度目なので以前とは比べ物にならない堂々とした態度でバスを降りた。
さて、彼女がここに来た理由は香山先生にお会いし、Akaneさんという歌手のサインを貰えないかどうかお願いするためである。相手は教員なのでまずは職員室に行ってみるのが普通かもしれないが、なにしろ月乃は部外者なので、いくら観光客向けに解放されている日だとは言え一人で校舎内をうろつくのは少々難易度が高い。最初にあかりに会ってから、一連の作業に協力してもらうしかない。
「・・・そもそも、なんでわたくしがこんな苦労をしなきゃいけないんですの」
全くその通りだが、サインの依頼に関してはクッキーを受け取ってしまった食いしん坊の月乃に非がある。
ロータリーから管理棟まで歩いてきたが学園の生徒の姿はあまり見られなかったので、この隙に月乃は生徒会室に行くことにした。
「・・・あら」
生徒会室の扉には『会長室♪』という微妙に的外れな内容のプレートが下がっているのだが、今日はそこにメモがぺたんと貼付けてあった。
「・・・会長の津久田は後輩の美紗ちゃんと一緒に大浴場にいます。ご用の方は大浴場へお越し下さい。・・・これはなんですの?」
生徒会の仕事が忙しいなどと言っていたのに昼間からバスタイムを楽しむ余裕があるらしい。公務への真摯な姿勢が全く感じられないので、これは月乃のお嬢様パワーを以て厳しく指導してあげなければならないから、月乃も大浴場とやらに向かうことにした。管理棟の昇降口に置いてあった来校者向けの学園案内パンフレットを見れば場所は容易に把握できる。移動の間に偶然香山先生にお会いできないかと注意深く周囲を確認しながら歩いたが、先生らしき人は見かけなかった。やはりあかりと合流してから職員室に行く必要がある。
「・・・ここ・・・ですわよね」
外観は近代美術館のような感じで非常に新しい建物に見えるが、近づいてみれば確かにスーパー銭湯の薬湯のようないい香りが五月の風に乗って月乃の鼻をくすぐってくる。
「・・・入っていいのですの?」
知り合いである生徒会長に会いに来たところ、ここに誘導されたのだからおそらく大丈夫だろうが、念のため忍び足をして大浴場に入ることにした。
非常に明るいエントランスで、壁の木造パネルから新築の家みたいな匂いがする。ちょっと緊張してきてしまったが、脱衣所の場所はすぐに分かったのでオロオロせずにしっかりと背筋を伸ばして行くことにした。
「どなたかいますの? 入っていいですかしら」
そう脱衣所の入り口前で言いかけたら、返事の代わりに勝手にドアが開いた。人が着替えをする部屋なのにまさか自動で扉が開くと思ってなかったので月乃は肩をビクッとさせた。
「・・・あら、自動でしたのね」
月乃は余裕な表情で髪を整えて、自分が平静であることをドアちゃんにアピールしてから脱衣所に入った。普段から無生物に対してもお嬢様のスタイルを崩さぬよう勤めることが大切なのである。
脱衣所に入ると、すぐに人の気配を感じた。キャッキャとはしゃぐような声が浴場から聴こえてきたのだ。畳まれた制服が入ったカゴが二つほど棚に見られるし、どうやらあかり様たちは既に入浴中らしい。ピカピカに磨かれた鏡、チリひとつ落ちていない床、最新の扇風機・・・なかなか月乃の好みの脱衣所である。
「あかり様、いますの?」
着替える前にまずはあかりがいるかどうか確認する必要があるので月乃は曇ったガラス戸の前でそう声を掛けてみた。
「おお!? もしかして月乃ちゃん?」
返事があった。
「月乃ですわ」
「よく来たカワイ子ちゃんよぉ! 入っておいで! 床滑り易いから気をつけてね」
「わかりましたわ」
さっそく月乃は服を脱ぐことにした。タオルの類いは持って来ていないが、カゴの横の檜の台に白くてふかふかのタオルがたくさん積んであるのでこれを使っていいということだろう。このゴールデンウィーク中、月乃はずっとシャランドゥレグランドホテルに連泊しており毎日かなり豪華なバスルームを使わせてもらっているが、湯船にお湯を張る手間が面倒でいつもシャワーだけで済ませているため、そろそろお風呂が恋しくなっていたところである。なのでとっても楽しみなのだが、はしゃいでいる感じを表に出したくないので、あくまでもあかり様に会うために仕方なく昼間っから入浴をするという雰囲気を出していくことにした。
「まったく、仕方ないあかり様ですわ」
ご機嫌な月乃は髪をさっとまとめると、タオルを縦に抱いて胸の辺りから下をなんとなく隠して曇ったガラス戸に向かった。
「開けますわよ」
さすがにこれは自動ドアではないので、ちょっと重いスライドドアを左手に力を込めてガラッと開けた。
「・・・あら?」
「え?」
「・・・え?」
「つ、月乃ちゃん・・・どうして裸になってるの?」
あかりと美紗は入浴していたわけではなく、ジャージ姿で生徒会の仕事をしていたのだった。
「まあまあ月乃ちゃん! 元気だして!」
「・・・ブクブク」
月乃は湯船の中で足を抱えて小さくなっている。
「月乃さんとおっしゃるんですね。先日は、あの・・・ありがとうございました!」
「・・・ブクブク」
美紗も脱衣所で裸になってお風呂場に戻って来た。
「いやぁ、お昼から入るお風呂って気持ちいいねぇ!」
「そうですね」
「・・・ブクブク」
月乃は誤摩化すこともできないような恥のかき方をしてしまったためすっかり落ち込んでいるのだ。
本年度の3年生が卒業する際に卒業制作で何かを残していこうという企画が立ち上がったのだが、それが大浴場に飾れる大きなモザイク画に決まったため、あかりと美紗は本日そのモザイク画の大きさを決めるべく壁の採寸を行っていたのである。午前中に清掃が終わったばかりなので制服のまま足を踏み入れると服があちこち濡れてしまうためジャージに着替え、2人で協力して真面目に作業をしていたところ、素っ裸の女の子がやってきたという訳である。
「月乃ちゃん、私たち全然気にしてないけど?」
「そ、そうですよ!」
「・・・ブクブク」
月乃は恥ずかしくて顔があげられない。丁度浴槽にお湯が入ったし採寸も済んだからいっそのこと皆で一緒にお風呂に入っちゃおうということになったのだが、何だか気を遣ってもらっているこの空気もお嬢様の月乃には堪え難いものがある。
しかし体が温まってくると心もほっこりしてくるもので、少しずつ月乃もリラックスしてきた。過ぎたことの反省は大いに結構だが、そこにとらわれ過ぎて前に進めなくなってしまってはどうしようもないので、月乃はあかりたちにバレない程度の速度で少しずつ少しずつ背筋を伸ばし始めた。
「あ、月乃ちゃんの背が伸びてきた」
「・・・せ、背は関係ありませんわ」
こういうやり取りができるようになれば月乃が持ち直してきた証拠である。
「それにしても月乃ちゃん、お肌キレイだね」
「・・・触らないで頂けます?」
あかりが指先で月乃の左肩や二の腕の辺りを撫で始めた。
「わぁ・・・本当ですね」
「ひぃ!」
美紗も右側から月乃の腕をつんつんしてきた。美紗様のほうはこういうスキンシップを積極的にとるタイプに見えなかったため月乃は驚いてしまった。これは美紗が月乃にすっかり心を許し、友達だと思っている証拠なので逃げないでつんつんされるべきである。
高校生のお姉様たちに、湯船の中で両側から肩や腕をなでなでされるというこの状況になぜか月乃は必要以上に頬を赤くしてしまった。
「ところで月乃ちゃん」
「・・・は、はい?」
あかりが囁いてきた。耳はくすぐったいのでやめて欲しい。
「キミがここに来たってことは、もしかしてもう依頼が完了したってことかな?」
「あ!」
月乃は大切なことを思い出した。
「そ、それがですね・・・様々な事情がございまして、わたくしはこの学園の香山先生という女性を探しに来ましたの」
「香山先生?」
「は、はい」
あかりの胸が腕にちょっぴり当たったので月乃は右に少しずれた。
「美紗ちゃーん」
「はい」
「香山先生ってこの後ここに来るって言ってなかったっけ」
「はい、おっしゃってました。採寸の作業に合流して下さる予定でしたので。もう作業は終わってしまったんですけどね・・・」
「だってさ月乃ちゃん、ここで待ってれば会えるよ」
「は、はい」
今度は湯船の底についた右の手のひらが美紗の手のひらと少し重なってしまって月乃は慌てて手をどかし、左にずれた。二人の間で月乃だけがさっきからオロオロしている。こんなに広いお風呂なのになぜ3人くっつくような位置取りなのか月乃には疑問である。
あかりが湯船の中で平泳ぎを始めた頃、脱衣所のガラス戸が開いて赤いジャージの女性が顔を出した。
「やっほーみんなぁ。遅れてごめんね♪」
「先生! 待ってました! でももう採寸完了しちゃいました!」
「そっかぁ、ちょっと用事があってね、友達迎えに行ってましたぁ」
まさかこのゆるい感じの女性が香山先生ではあるまいなと月乃は思った。
「友達って誰ですか?」
「茜ちゃん」
「石津さんですかぁ!? 皆で一緒にお風呂入りましょう!」
「それがねぇ、茜ちゃんさっきまで朝日が丘公園で雪乃ちゃんにヴァイオリン教えてたんだけど、この後仕事あるの忘れてたんだって。仕事行く前にお化粧しないといけないから今そこの洗面所使わせてもらってるの。この後すぐに私が送っていくの」
「そうなんですかぁ残念」
「あかり様、茜ちゃんってどなたですの?」
「え? 石津さんだよ石津さん」
「石津様?」
せっかく茜ちゃんという名前が出て来たのに、月乃はそれがサインを貰う相手のAkaneであることに全く気づかない。なにしろ月乃の頭の中ではAkaneというのは超有名な歌手であり、サインの入手は困難を極めるという意識があるから、まさか学校のお風呂に入ってぼーっとしながら雑談しているうちに向こうからふらっと来てくれるなんて考えられないのである。
「ほら、昨日の発表会で月乃ちゃんの次にヴァイオリン弾いてたおねえさんだよ」
「え!? あの石津様ですの!?」
月乃は発表会でユーモレスクを弾いたお姉様が、歌手のAkaneであることに気づいていない。とんだ天然お嬢様である。
月乃は石津さんに昨日の感動をお伝えしたいのでさっさとお風呂から出ることにした。
「わたくし、そろそろ上がりますわ」
「私も出よーっと!」
「じゃあ私も出ます。とってもいい湯でしたね」
シャワーをさっと浴びてよく体を拭き、3人はほぼ同時に脱衣所に上がったのだが、そこへ裸の女の子がとことこと駆け寄って来て美紗に抱きついた。
「美紗っ」
「ゆ、ゆ、雪乃さん!?」
雪乃は石津さんにヴァイオリンやギター、歌を教わっており、普段は美紗も一緒なのだが、今日は彼女が生徒会の作業のため同行できなかったため雪乃は美紗が恋しかったのである。どうやら雪乃は石津さんと一緒に香山先生の車に乗って学園へやって来たらしい。
「ゆ、ゆ、雪乃さん、少し離れてください、さすがに、これは・・・はぁ!」
二日前の月乃の働きにより、雪乃は美紗に心を完全に開き、思い切り甘えることができるようになったため、お互いに裸だろうが構わず抱きつくのである。
「美紗ちゃん、雪乃ちゃんともうひとっ風呂入ってくれば?」
「ふ、二人きりでですか!?」
「雪乃ちゃん、お風呂入る気まんまんだもん」
「え! あぁ・・・その・・・私・・・あっ」
美紗は雪乃に手を引かれて、湯けむりの中に戻って行った。このあと二人がとっても幸せで気持ちいい時間を過ごしたことは言うまでもない。ラブラブな様子で非常に結構である。
月乃はずっと気配を消していたため従妹の雪乃に気づかれることはなかった。なぜ自分がここにいるのか説明するのは困難だし、一昨日のバニウオの声が自分であることがバレたら恥ずかしいからである。
そして月乃がピカピカの鏡が並んだ洗面台のほうに目を遣ると、見覚えのある美しい女性が座っていた。
「やあキミたち、すまないが少しこの場所をお借りしたい」
「石津さぁん! 今日も素敵ですぅ!」
「相変わらずあかりくんは元気がいいな」
「はい!」
月乃は石津さんに挨拶したいが、どのようにして声を掛けていいか分からずとりあえずバスタオルに身を包んで、鏡越しの石津さんから見える位置で髪をふきふきしていた。
「細川月乃くん、だったかな」
「は、はいっ?」
「昨日のショパンは素晴らしかった」
「あ、ありがとうございます!」
石津さんは一応プロなのでドーナツの値段だけじゃなくちゃんと共演者の名前くらいは覚えるのである。
「あの、あの! 石津様のヴァイオリン、わたくし感動いたしましたの! あんな大人になりたいって、そう思いましたの!」
「そうか、ありがとう。とても光栄だ」
この時にカバンから色紙を出してサインを貰えばそれで舞からの依頼は完了だというのにAkaneだと気づいていないのだから仕方が無い。
「月乃くんに訊きたいのだが」
「なんですの?」
「・・・初めて会った時の私と今の私、印象は違うだろうか」
「いいえ! 初めて拝見した石津様も今の石津様もとても素敵ですわ!」
「そうか! それは良かった」
ちなみに石津さんは月乃と初めて会ったのが一昨日のドーナツ屋であることを理解しており、一方月乃は初めて会ったのが昨日の発表会だと勘違いしている。石津さんの顔は元からとても美しいのだが、何しろ負のオーラを背負っているため、お化粧で華やかさをプラスしていないとオバケだと勘違いされることが多く、最近は本人もそれを気にしているのである。
「そういえば月乃ちゃん、香山先生に用があるんじゃなかったの?」
「あ、そ、そうでしたわ!」
「え? 私に用事?」
香山先生は先程からずっと石津さんのメイクをお手伝いしているが、手を止めて顔をあげてくれた。温かな色の照明がいい感じに当たっているせいか分からないが、ジャージ姿なのにちょっと気品が感じられて月乃はドキッとしてしまった。
「その・・・どこからお話すればいいか分からないのですが、舞さんという女性がですね・・・」
「鈴原さんそっくり・・・」
当然の感想である。
「・・・そ、それはもういいですわ。舞さんという女性がですね」
「舞さんってぇ、もしかして去年ここ卒業した安斎舞さん?」
「え・・・と、たぶんそうですわ」
「テニス部の部長だった子」
「あ、その人ですわ」
「あの子には色んな思い出があるなぁ〜」
香山先生が遠い目をし始めた。いつの間にか制服に着替えていたあかりが月乃の横に椅子を持ってきて腰掛けた。
「え、もしかして月乃ちゃんが今日やってる告白の依頼って」
「告白のほうの依頼は細川遥様から頂いたもので、お相手はその安斎舞さんですわよ」
「依頼書に書いてあった『舞』ってあの舞先輩だったの!? じゃその細川遥さんって私知ってるよ! いつも舞先輩と一緒にいた影の薄い先輩だ!」
あかりはようやく遥が誰なのか気づいた。
「あら・・・知り合いでしたの?」
月乃も近くにあった椅子を寄せて腰掛けることにした。
「遥先輩はね・・・ホントに苦労してたよ」
自販機で買ったメロンソーダを片手にあかりが語り出した。
「遥先輩が舞先輩のこと好きなのは周りの人もなんとなく気づいてるんだよ。だけど肝心の舞先輩のほうが全く遥先輩の気持ちに気づかないんだ」
「そうだったねぇ、ずっとずっと一緒の二人なんだけど、二人の性格というか、キャラクターのせいでお互い素直になれないところがあるみたいで」
香山先生も参加してきた。意外と真面目なことを言う。
「私、あの二人ならきっと上手くいくと思うんですけど、先生はどう思いますか?」
「先生もそう思う。だって、3年間ずっと一緒にいて、お互いのピンチを支え合ってきた二人だもん。・・・だけど」
「だけど・・・?」
「なにかきっかけが必要なのかなぁ。二人は恋への一歩を踏み出す前に、先にすっごく親しくなっちゃったから、意識し合うのが恥ずかしくて、無意識のうちに自分の中の恋心から目を反らしちゃうみたいで」
「確かにそういうのはありそうですね・・・」
「かわいそうだよねぇ・・・」
「はい・・・」
さっきまでアホみたいにはしゃいでいた先輩と、大人の雰囲気0だった先生が、真剣になって遥様と舞様の関係について語り合っているのを聞いて、月乃は少しずつ自分が情けなくなってきた。自分は遥様たちの気持ちや、彼女たちがこれまで歩んできた道にこれっぽっちも関心を示さず、ただ自分が考える硬派なお嬢様のイメージの実現のために「恋はいけませんよ」と指導しようなどと考えていた。自分勝手とまでは思わないが、なんだかひどくおこちゃまな考えをしていた気がしてきたのだ。
「舞先輩なんかは問題児みたいに言われてましたけど、私はあの先輩、とってもいい人だと思ってるんです!」
「先生も。あの子は他人の幸せを考えられる思いやりのある子だと思うな」
「そうです! 後輩はみんな尊敬していました」
月乃はうるうるし始めてしまった。
「そうか・・・二人の心に大きく居座っている『友達同士』という意識を取り除けば、自然と二人は結ばれるかも知れない。二人は幸せになるべきだ」
鏡越しの石津さんもそう言っている。
「私、頑張ってる人が報われないのはおかしいと思うんです! そりゃ、努力すればなんでも上手くいくなんて思ってませんけど・・・。人としてこの気持ちは譲れないっていうか・・・舞先輩と遥先輩は幸せになって欲しいです・・・」
ここで月乃はすっくと立ち上がった。
「わたくし、行って参りますわ!」
「月乃ちゃん・・・?」
固く握った拳は決意の証である。
「人の幸せの邪魔になるものがご本人たちの手で取り除けないものなのでしたら、他の人が力を貸せばいいのですわ! 人助けに理由なんて必要ありませんのよ!」
月乃はクールなお嬢様のくせに涙もろく情に厚いところがある。
「さすがだよ月乃ちゃん! 私たちも手伝うよ!」
「これは危険な戦いになるかもしれません。あかり様はここに残って、二人が結ばれたあとに盛大なお祝いをする準備をお願いしますわ」
「月乃ちゃん・・・」
「心配はご無用ですのよ。必ず二人を幸せにしてみせますわ」
月乃の心は今真夏の太陽のように燃えている。
「私からもお願いね、月乃ちゃん」
「私も応援している。がんばってくれ、月乃くん」
「ありがとうございます。行って参りますわ」
月乃は椅子を片付け、涙の跡をティッシュで拭き取って気合いを入れると、脱衣所の出口へ向かった。
「つ、月乃ちゃん・・・!」
「なんですの?」
「まだ服着てないよ」
「あっ」