二人をつなぐ2人
#二人をつなぐ2人
ピリリリリリ、ピリリリリリリ、ピリリ、ガチャ
「はーい?明ー?」
『…楓、今お前んちの前にいる』
「は?何で。今風呂上がりなんだけど…」
『助けて。死にそう。具体的にはこの場で吐きそう』
ドタタッガタン…ガチャッ…
「…入って」
「うん」
* *
「ほら、とりあえずこれ飲んで」
風呂上がりの濡れた髪を拭きながら、テーブルにコップと麦茶を置く。
半ば強引にうちに入った明は、のそのそと上がりこみ、定位置についたが、いつものひねくれた笑顔はなく、若干涙ぐんでいる。
「で?なんで僕の家に顔面蒼白で駆け込んできたわけ?」
一番気になっていたことを率直に聞いてみる。明がこうなるってことは相当なのだろう。
「…雅と」
「え、なんで雅くん?」
「…雅と、今日、お試しデートって体で、カラオケ行ったんだ」
「…へー」
「そんで、向こうから、好きだって言ってくれて。付き合う、ことに、なったんだよ…」
「えっ、そうなの!?とりあえず…おめでとう?」
「…そのあと、俺んちの近くのモール行って、俺んちまで、来てもらったんだよ」
「あーあそこか」
「んで、飲み物用意して、となり座って肩寄せ合って、雅が俺のものになったんだな、恋人なんだなって思ったら、もう止まんなくてっ…」
「…あー」
我慢していた涙をポロポロ流し始めると、明は話すのをやめてしまった。
こういうところは雅も子供だよな、と思ってしまう。
「…どこまで、しちゃったの」
「押し倒して…首に、キスして…しようって言って…乳首つまんで、キスして、舌入れた…その間、何回も雅、待って、って言ってたのに、俺…どうしようもなくて…っ泣かせた…」
「あーあ…」
僕は、自分の経験と聞いた話から推測した。
その結果、
「多分だけど。雅くん、それ嫌なんじゃなくて――」
* *
「――びっくりしただけだよね?」
「…」
無言でうなづく。
俺と凛は、10分ほど泣いて泣いて、お互いの涙を拭いあった。
そうして涙は出なくなって、腫れたお互いの顔を見合わせて、笑った。
今、凛はメモをしながら俺に一つ一つ質問を繰り返していた。
「まとめると、明さんが大好きで、するのもいやじゃないけど、いきなりの事でびっくりした。びっくりして、その先まで考えた。その時に、怖いって思っちゃったのは自分が男だからだと思って、女じゃない自分は明さんの負担になる、と思った。あってる?」
「…うん。あってる」
「そっか。じゃあ、雅。今でも、明さんのこと好き?嫌いになった?」
「そんな訳無いっ…!っあ、えと…今でも、好き、だよ。もちろん」
「ふふ、それだけ食い気味に言うんだったら確実だ。よしよし」
「うるさいなっ…!でも、明、がっかりしてんじゃないかな…」
「…なんでそんな考えになっちゃったの」
凛の心底呆れたような声が胸に突き刺さる。
「だ、だって、恋人だからするのは当たり前なんだしっ…!それを断られるどころか、泣いて嫌がられたら、向こうだって気分よくないだろうし…」
「はぁ…もー、雅はそのネガティブな考え一回捨てること!いい!?」
「うっ…はーい…」
「で、明さんだけどさ。多分今相当落ち込んでるよー彼」
「へっ!?なんでよ!?」
「雅さあ、明さんをなんだとおもってるわけ?雅が明さんを大好きなように、明さんだって―――」
* *
「―――雅が、大好きなんだよ…!」
「うんうん、そうだねー大好きだねー。じゃあどうしたらいいかわかる?」
「全くわからんっ…!」
「…はぁ」
「だって、俺、最低だし…雅にいうの怖いし…」
時刻は午後9時をまわった。未だに半泣きでグズグズ言い続けている明を半分放置して夕飯を作った。残り物で野菜類とベーコンがあったから今日はポトフにしてみた。どや
「明、もう飯食ったの?なんなら食べてく?」
「…食べる。そんでもう疲れたから泊まってく」
「はいはい。じゃあ鍋ごとそっち行くから鍋敷き出してー」
* *
「りんちゃんごめんなさいねえ、明日学校なのにこんな時間まで面倒見てもらっちゃって」
「いいんですよー、課題もないし、雅の面倒見るのも好きだしー。あ、おばさんこれすっごい美味しいです!さすがだな~」
「あらあら、そんなこといってぇ。褒めても何も出ないわよぉ」
あははははは、と甲高い笑いが響く。
9時になって、心配した母が様子を見に来て、泣き腫らした顔を見ても何も聞かずにご飯食べなさい、りんちゃんも一緒にねと微笑んでくれた。
が、忘れていた。女は群れれば姦しいのだ。
「ごちそうさま」
「あら、もういいの?父さんがお風呂でたから入ってきなさいな」
「あ、あとちょっとで話まとまるので雅が風呂出るの待っててもいいですかね?」
「あら、そう?全然いいわよー、むしろ泊まっていけばいいわよ。雅の隣の部屋、好きに使っていいからね」
「あ、じゃあそうしようかな!ありがとうございますー」
…この年になっても自然に泊まっていく流れになるから、家は異質だと思う。
* *
「…楓、料理うまくなったなあ」
「だろ?3ヶ月の自炊生活の賜物だよ」
「…はあ」
「!…明も、明日講義埋まってたっけ」
「?うん、ギッシリでもないけど」
「そっか…でも夜は空いてるよな、予定」
「…?そうだけど?なに?」
「…明日、雅くんとちゃんと会って話したら」
「…は?…そんなの、断られるに決まってんじゃん」
「…そうでもないって言ってるんだけどなあ」
僕は、ご飯を食べながらりんちゃんと連絡を取っていた。
案の定向こうも雅くんといっしょらしく、『めっちゃ自分責めてます。びっくりしただけみたいだから明日お話しに行かせたいんですけど、明さんのほうはどうですか?』だそうだ。
あまり二人の恋愛に干渉するのは良くないが、セッティングするのを後押しするくらいしてあげてもいいだろう、ということで、確実に断られることのない時間を伝え合った。
あとは頑張れ、二人共。
* *
「さてと。雅、明日は講義あるの?」
「…確か、必修は午前だけ。午後は…うーん…出ておきたい」
「そっか…じゃあ、明日夜7時に、明さんと会う約束つけなさい。そんでおうち入れてもらって、ちゃんと話してきな」
「…!む、むr」
「そんなんだといつまでもズルズル引きずって、そのまま自然消滅とかなりかねないよ?」
「…行きます」
「よし。そんで、おうち行ってからの行動だけど――雅、自分で決めな。」
「…へ…?」
「当たり前でしょ、自分の事なんだから。そんなとこまで私が指図していいわけないよ」
「そっか…」
「自分が、言いたいことを、したいことを、どうして欲しいかを、全部行ってきなさい。
その結果、どんなことになっても悔いはないはず。でもね、多分いい方向にすすめる。がんばってきな。応援してるから」
私は、雅のお風呂中に楓さんと連絡を取った。
あの明さんが泣くほど後悔しているようで、『うざすぎて鍋ごとふっかけそうになった』なんて言っていた。
楓さん可愛いなあ…苦労性属性かあ…と思いつつ(後半は聞かなかったことにして欲しい)、二人がスムーズに会う約束をつけられるようにお互いの都合のいい時間を合わせた。
その数分後、『だめだ、完全に怯えててメッセもおくれないって。悪いんだけど雅くんから誘ってくれるようにしてもらえる?』ときたので、強行突破で喝を入れた。
あとは頑張れ、二人共。
* *
『明さん
さっきは逃げてごめんなさい。泣いちゃったのはびっくりしただけだよ。ごめんね』
『明日、夜七時くらいって空いてる?ちゃんと会ってお話したい。できれば、もう一度明の部屋にいきたい』
「かっかかかかかか楓どうしよ雅からメッセきたやばい明日?明日!?え!?」
「うわびっくりした…良かったじゃん、向こうから誘ってくれたんだろ」
「いやそうだけど別れ話とかされたらもう俺立ち直れない無理無理無理…」
「あーもううっさいなあ!!いいからオッケーしなよ!さっきから言ってんじゃん、嫌われたわけじゃないんだって。ほら、別れ話するためにいちいち相手の家行くか?」
「…!おれ、期待、してもいいの…?」
「うんうん、大丈夫。ほら、既読つけたんだから早く返事しなよ」
ほわああああああと奇声を上げながら返事を打つ明を横目に、俺もりんちゃんの『今送りました、実況お願いします!』というメッセージに返事を送る。
「ほら、返事出来たらねるよ!布団出しとくから自分で敷いてね。おやすみ!」
「おやすみ。ありがとう、楓」
「明日、なんて言おうかな…」
「講義中に考えててなんも聞いてないとかやめてよねー?」
「うん、頑張る…って、なんで布団持ってきてんの!?」
「久々に一緒に寝ようかと。彼氏持ちの弟の横なら別に大丈夫でしょー」
「うわひっど…電気消すよ」
「うん。頑張れ雅。おやすみ」
「…ありがとう。おやすみ」
夜は更け、星空は輝く。
「「「「明日、うまくいきますように」」」」
凌「俺何時まで出てられないのかなあ…ていうか、カフェ自体全然出てこないね?」
ごめんて。
全方向に土下座したいと思います。
1つ、読みづらくて申し訳ございません。全ては私の文章力の無さが招いた結果でございます。
2つ、更新が大変遅くなりまことに申し訳ございませんでした。言い訳がましいですが、珈恋のあとがきでも申し上げましたとおり学生の身であります。そうです、絶賛テスト前期間なうです。
火曜に全てが一度終わるので、そのあとお話を終盤まで一気に持っていく所存です。
そして凌さん、ずっと出せてなくてゴメンね。次の短編では凌さんメインにするからね…!!
次回更新も気長にお待ちくださいませ。ではでは~