「嫌だ」と「待って」
#「嫌だ」と「待って」
「明さ…明!今日は本当にありがとう!楽しかった」
「こちらこそ。楽しかったよ」
残り時間も、俺たちはめいっぱい楽しんだ。
いっぱいキスして、いっぱい歌って、いっぱい笑った。
延長はせずに、ひと駅先のショッピングモールのゲーセンにもいった。
すべてがキラキラして、楽しくて。難しいことなんて一つも考えずに笑っていた。
「…雅、このあと時間大丈夫?ちょっと家よっていかないか?」
「え!明のおうち…いいの?」
「うん。俺ひとり暮らしだし、ここからだと
すぐだから。狭いけどな」
たは、と苦笑いする明を見て、半分迷っていたのが吹っ切れて
「行ってみたい!家は門限とかゆるいから大丈夫だしっ」
と答えていた。
「そっか。じゃ、いこっか。」
手をにぎって、二人で歩き出す。
ああ、幸せだ。
* *
「おかえり雅、遅かったわね…って、あんた…!何、どうしたの!?」
「なんでもないっ!!飯もいらないから気にすんなっ…!!」
階段を駆け上がり、突き当りの部屋に入り鍵を閉め、荒くなった息も整えずにその場に倒れ込んだ。
流れ落ちる涙を拭うでもなく、泣き喚くでもなく、ただただ涙を流した。
デジャブだな、と思い、自分の恋愛にたいする運のなさにため息が出る。
「明さん…っ」
足から全身に広がった震えが止まらない。歯はカタカタと音を立て、鳥肌のたった腕を抱きしめる。
不意に、コンコン、と部屋のドアがゆっくりノックされた。
母親には気にするなといったはずなのに。誰だよ、もうほっといてくれよ。
「…雅。いるんでしょ?」
聞こえたのは凛の声だった。
驚いて机に足をぶつけ、いることを知らせてしまう。
「おばさんが、あんたが泣きながら帰ってきたから何か知ってるか、って言われた。
今日、明さんとデートだったんでしょ?
…あたし、失敗したかな。足りなかったかな。ごめんね、ゴメン…」
なんでお前が謝るんだよ。凛は悪くない、悪くないんだよ。
「…振られちゃったの、かな」
「違うっ…!!」
思わず叫んだ。
「…へ」
開錠し部屋に招き入れる。
「話、聞いてくれるか」
涙ながらに、俺は話し始めた。
* *
「お邪魔しまーす。」
「お邪魔されまーす。荷物とかそのへんに置いて、適当に座ってて。飲みもん…あ、そっか、雅未成年か…烏龍茶しかないけどいい?」
「大丈夫だよー」
ワンルームの明さんの部屋は、モノトーンと赤でまとめられていた。
ロフトベッドのしたに、タンスとPC机、椅子。部屋の中央にはローテーブルとソファが置かれ、全体的にすっきりしている。
「ほい、どーぞ。」
カップを二つ持った明がひとつ差し出してくる。
「ありがとう、明。…明のコップに入ってるのなに?」
「ああこれ?チューハイ。雅と付き合えた記念に飲んどこうと思ってなー」
かはは、と笑う明さんに、苦笑いを見せた。
一度、水だと思って飲んだものが酒で、おかしなテンションになり泣きまくった挙句倒れて三日寝込んだことを思い出し、辛い思い出だった…と振り返る。
「雅」
「へ」
唇にキスをされ、ふ、と笑みを残して抱きしめられた。
――――その勢いで、俺は床に押し倒された。
首筋にきすをされ、ぺろりと舐め上げられる。数秒後、ちくりとした痛みが走った。
「んっ」
「雅…」
「…へ?」
「雅、しよ」
「へっ、や、ちょっ…え」
着ていたカットソーの裾から入れられた手が腹を這い、人に触れられることのない、男には無用のそれをつままれる。
いやだ、待って。
覚悟はしていたし、男と付き合うのはそういうことだと理解していた。
こわかった。このまま、明に…
全身を寒気が襲い、鳥肌が立った。
「あき、らっ、待って、やっ…んっ」
深いキス。舌を絡め、歯の一つ一つまで舐め尽くされる。
まって、まって。そんなに早く進まないで
「っは…」
俺の唇と、明さんの舌が、名残惜しむように糸を引いて離れる。
「雅、可愛い」
「や、まって、明、お願いっ…」
俺は懸命に訴えたが、明は聞き入れようとしない。
俺だって男だから、目の前に恋人がいたら盛るのもわかる。
ああ、女って心ひろいんだな、と思った。
俺は、女じゃないから、それが、できない―――
涙が溢れた。
男の俺は、明には負担…?
「ひっく…ふぇ…」
「!雅っ…!?」
「ごめ、なさっ…も、無理…」
「……!?…っ!俺っ…ゴメン…その、ほんとっ」
「いいんですっ…っひ、く」
「ほんと、ごめん…」
やめて、謝らないで。あなたは何も悪くないです。
「今日は、もう、帰ろう」
明、ごめん…
「…うん」
「ほんと、ごめん。駅まで送る」
明の住むアパートの通路で靴を履いていると、そう言いながら明が出てきた。
その優しさが、胸に入り込んでキズにしみた。また泣いてしまいそうで、怖かった。
「いいよ、大丈夫。道、覚えたし。それじゃ」
そういうと、早足で階段に向かい駆け下りる。
ごめん。ゴメン…っ
* *
話し終えた時には、俺はもう涙が止まっていた。
自分に対する、怒りと絶望しか残っていなかった。
「…雅」
名前を呼ばれ、凛に向き直ると、凛は大粒の涙を流していた。
「凛、何で泣いて、ちょ、ティッシュ…!」
シュッシュ、と何枚かボックスから引き抜き凛に渡す。
涙を拭いて、それでも次から次へと、凛の大きな目からあふれる涙を、俺はただ見ていた。
それから、きゅ、と抱きしめられた。
暖かくて、柔らかい。凛も女の子だな、と実感させられた。
じわ、と視界が滲んだが、暖かみに触れた肌がスっと溶かした。
「雅。雅はね、何も悪くない。怖いのは当たり前だし、いきなり押し倒されたりなんかしたら、好きな人でも女の子も怖いし、自分が悪いんだって思っちゃうのもわかるよ。
でもね、雅は男の子なんだよ。ホントは逆の立場なの。怖いのは当たり前だよ、そりゃ。
でも、好きな人傷つけたくないんだよね。わかるよ、大丈夫だよっ…」
凛の言葉、一つ一つ、暖かくて優しかった。
眠れない夜のホットミルクのように、胸に染み込んで傷を癒した。
「りんんんん…うぇえ…」
子供みたいに泣いた。
泣きじゃくって、二人で涙を拭いあった。
凛は自分のことのように泣いてくれた。
凛、ありがとう。いつまでも、俺の大事な妹でいてくれ。
絶対に受け付けないそれが、起こったときに「いやだ」
まだ覚悟がないときにそれが起こって、待って欲しいときに「まって」
そう言う感じです。
ちぐはぐで、何もかも最初の二人が、いきなり歩幅を違えてしまいました。
付き合ってからがとっても長いおはなしになりそう、このお二人。
読みにくかったらごめんなさい。
そして更新遅くてごめんなさい。
ぜひ一言でもいいので、コメントを残していってくださると膝から崩れ落ちて喜びます。
どうでもいいけどゼリーはマンゴーゼリーが一番だと思うんだ。