Eclipse-2014's Valentine's-Day 4
「やっちまったなあ」
「やっちゃったね」
「完全に怒ってるな」
「タイミング悪いなんてもんじゃないね」
「おら、フリーズしてねえでとっとと追っかけろ、バカ」
肩を押され、勢いでスツールから立ち、そのまま開いたままだったドアから走った。
ひどい吹雪だった。
吹き荒れる暴風と、雪が渦巻く音が耳を襲う。
限界まで細めた目に、後ろ姿のシルエットが浮かぶ。
大声で呼び止め、その隣に並んだ。
「戻ろう」
「嫌」
「なんで」
「なんでも」
「せっかく来たんだから、寄ってけって」
「だって」
足を止めた彼女の顔は、フードで隠れて見えない。
「あんなに、いっぱい」
「ああ。あれか」
「食べきれないでしょう。だから、いいの」
「よくないだろ。むしろ手伝ってほしいくらいだ」
「何それ」
ようやく俺の方を向いた目は怒ってはいたが、泣いてはいないようだった。焦りも、無駄な緊張も、一発で溶けてしまう。
「あれは、シンのだよ」
「シンちゃんの?」
「ファンの奴らが、送り先知らないからってウチに持って来たんだよ」
「じゃあ、さっき外でもらってたのは」
「さっき?」
「勝手口の近くで」
「ああ、あれも代理で。他も全部シン宛」
「でも、今、食べてた」
「シンの奴、プレゼント類は手紙以外全部辞退してるからって、俺が勝手に受け取ったって言って押し付けやがったんだよ。あいつの営業ポリシーなんか知ったこっちゃねえってのに」
もう一度顔を覗くと、不機嫌そうに唇を尖らせてはいたが誤解は解けたようだった。頬が赤いのは、寒いせいではないはずだ。
「戻るか」
「待って」
HAPPY VALENTINE'S-DAY
そう言って、彼女は持っていた大きなプレゼントを差し出してくれた。
ひとまずおしまいです。
ホワイトなバレンタインデーを記念して。
次に、会話だけのおまけあります。