Eclipse-2014's Valentine's-Day 3
普段あてにならない天気予報は、今日に限って大当たりだった。
ビル風が重なって打ち付けるように吹雪いてくる中では、案の定傘なんて役に立たなかった。ファーつきのフードを深く被って髪の毛を無理やりしまいこみ、靴下を重ねた上のレインブーツが雪に埋まらないように、ほとんど前の見えない通りを街灯を頼りに進んだ。
あれから、随分時間が経ってしまっていた。お菓子作りに焦りは禁物なのに、急げば急ぐほど余計にうまくいかず、完成したのは夕食の時間もとっくに過ぎてからだった。そこからラッピングやら着替えやらを済ませて準備が完了したのがついさっきの十一時前。おまけに、放置していた携帯には晃斗さんから何時間も前にメールが入っていた。
ルーチェの店先にたどり着いた頃には、ブーツに雪がしみた爪先も荷物を抱えていた指先も、感覚がなくなっていた。お店の閉店時間は過ぎていたけれど、雪と結露で白くなった窓のすきまから オレンジ色の灯りがともっていた。まだ、お客さんがいるのかもしれない。
これでもかというくらい着ぶくれて、髪は風と雪でぼろぼろ、メイクすらまともにしていないけれど、もう立ち止まっている時間はない。一年に一度の、特別な日が終わってしまう。
声を出さずに意を決して、濡れた木のドアを身体で押した。
カランカラン と、いつものベルの音が鳴った。
聞こえたのは、それだけだった。
見えたのは、たくさんのお菓子の箱や袋と、その中の一つを開いて口を動かす晃斗さんの、明らかに戸惑った視線だった。
開けっぱなしのドアのせいで、背中が冷たかった。
晃斗さんの隣にいたシンちゃんが、何かを言っている。
私も、自分でわからないまま何かを言った。
そのまま、白く煙る、寒い道をもと来た方へ戻った。