Eclipse〜Lips
ドアベルの音と一緒にお店に入ると、ちょうど彼の頭と天井のあいだで、白い渦みたいな煙が揺れているところだった。
「気遣わなくてもいいのに」
「ん?」
「煙草。吸っていいのに」
「臭いつくだろ」
私の方をちら と見るやいなや、カウンターに乗っかっていた灰皿でそれを消す。ヘビースモーカーのはずなのに、私の前では頑ななまでに吸おうとしない。
「美味しいの」
「不味い」
「不味いのに吸うの」
「不味いから吸うんだよ」
訳のわからない答えを返しながら、いつものアイスティーを用意してくれる。私もいつもの席に座り、傍にあった灰皿から吸殻を手にとってみた。火をつけたばっかりだったらしく、まだ長いままだった。
「もったいない」
「知ってる」
「でも、やめられないんだ?」
彼がいつもやるように、ひしゃげたフィルタを指で挟んで口もとに近づける。焦げた香りが、鼻の奥を通る。
「こら」
唇に触れそうになったそれを、ひょい と取られてしまった。
「別に吸わないもん」
「そういう問題じゃない」
「どういう問題?」
彼が話の途中でそっぽを向くときは、顔を見られたくないとき。
いつもポーカーフェイスな彼が顔を見られたくないときは、それが崩れるとき。覗きこむと、なんだよ とわざとぶすっとする。きっと、私と同じことを思ってる。
「自分はいっぱい吸うくせに」
アイスティーを一口味わい、喉を潤し湿った舌で唇を舐める。さっき塗ったリップクリームの味が、ほんのりとだけど残っている。
「やめてもいいけど」
「本当に?」
声が近かった。少し荒れた唇が、すぐ目の前に映った。
小さく息を吸った。目を瞑って、その瞬間と、感触を待った。
キスしてないけどキスネタ短編。
早く本編でいちゃいちゃちゅっちゅすればいいよおまいら!!!