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Eclipse~SS  作者: 楪美
11/14

Eclipse~Closer, closer







「今帰りか」




振り返っても、誰もいなかった。首と脚を、少し動かす。上からの声だった。




「晃斗さん」




手を振ると、返してくれた手と一緒に、ふわ と煙草の白い煙が揺れる。




「遅いんだな」

「図書館に籠ってたの。お店、お休み?」

「寒いから、だと」

「月」

「ん?」

「月、見える?そこから」

「いや。見えない、な」

「行っていい?」

「ああ」




外付けの階段を上るのは初めてだった。縦に細長い踊り場で、欄干に寄りかかる晃斗さんの隣に並ぶ。見上げても、眠らない街に照らされた、くすんだ夜空が続いているだけだった。




「やっぱりダメかあ」

「この天気じゃな」

「今日、スーパームーンだったんだって」

「スーパームーン?」

「地球と月の距離が近づいて、普段よりも大きく光って見えるの。七十年ぶりくらいって言ってたよ」

「凄いな」

「ちょっとくらい見えてくれないかな」

「次は、いつなんだろう」

「十八年後だったかな」




切り取られたようにぽっかりと浮かぶ満月を見上げる、四十歳近くになった自分と、晃斗さんを想った。両手を温めるふりをして、口元を隠す。




「雨」




瞼の少し上が小さく濡れた。音もなく降りだした小雨が、夜光に照らされて空に映る。




「もう、帰りな」




返事の代わりに、くしゃみが出てしまう。ぴりぴり と、冷たい空気が足もとから這ってのぼってきた。




「傘、貸すから」




大丈夫 と返そうとした途中で、またくしゃみに邪魔をされた。晃斗さんが、顔を背けながら吹き出す。寒かったはずの身体が、じわ と熱くなる。




「ひどい」

「ごめん」

「帰る」

「悪かったって。暖まっていけばいい」




緩みそうな頬を引き締めて、わざと不機嫌を装う。




「帰れって言ったくせに」

「何飲みたい?」

「ジンジャーティー」

「了解」




とんとんとん と、足音を揃えながら、階段を降りていく。




広い背中を追いながら、もう一度空を見上げた。










雨の予報は、知っていた。




課題も調べものもないのに、夜遅くまで待って、いつもと違う帰り道を選んだ。




私もずるいけれど、姿を見せない貴女もずるい。







ひねくれた演出でも許せてしまうのは、名前の通り、似た者同士な私たちだから。





Fin


ボツ晴天Verはいつかどこかで

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