雨の日の同居犬
「藍瑠ー?俺が悪かったから出て来いって」
キッチンの片付けを済ませ、俺は藍瑠の立て籠もっている部屋の前で声をかけ続ける。
かれこれ30分が経過しているが、一度も返事はない。
時折部屋の中か啜り泣く声が聞こえてくるが、それ以外は物音ひとつしない。
面倒だ。はっきり言って。
ほんの数週間前までは平和だったのに…
あの雨の日、騙されなければ…
バイトの帰り、傘をさしながら歩いていると、くぅんと悲しげな声が聞こえた。
元々犬が好きな俺は迷わず声に近付き、その声の主を見つける。
そこに居たのはダンボールに入れられて弱っている茶色い子犬…
その可愛さと儚さに一目で心奪われた俺は、子犬を抱き上げてパーカーの中にいれてしまった。
そう…今思えば、それは今の不幸な日常を招いてしまったのだ。
家に連れて帰り、まずはタオルで念入りに拭いてやる。
ふるふると身体を震わせて横たわる子犬に、温めたミルクを飲ませていき、零れたミルクを拭ってやり、と、兎に角世話を焼き続けた。
そんな苦労の甲斐あってか、子犬は3日もすれば回復して元気に走り回るようになっていた。
「お前さ、捨てられたのか?」
俺の問いに、子犬はコテンと首を傾げる。
その仕草があまりにも可愛くて、他に飼い主を探そうという俺の思いは簡単に崩れていく。
「俺と暮らすか。」
この時手放せばよかったと思っているのは言うまでもない…。
「んー…」
1人で寝ていたはずだった。
いや、確かに1人で寝ていた。
なのに…なんで…!!
「誰だ⁉」
朝起きると、俺の隣に女の子が寝ていた。
それも服を着ていない、犬耳と尻尾付きの異常なほどの美少女だ。
「んぅ……なぁに…?」
俺の声で目を覚ました犬耳美少女は、目を擦りながら眠そうな目で俺を見つめる。
思わずドキンと心臓が高鳴るが、一先ずよく考えてみろ、自分…
昨日の夜は確かに俺と子犬しかいなかったはずだ。
それが起きて見れば不信な少女が1人増えている。
いや…待て。そういえばさっきから一度も子犬の姿を見ていない。
気配すら感じない…
「なに考えてるの?」
「いや…ちょっと…
ていうより、君、誰なんだ…?」
我ながらよく冷静にいれたと思う。
混乱しすぎて逆に冷静になったのか?
「わたし…?
んー…わんっ」
…………なんなんだ、こいつ。
そう思ったのは言うまでもない。
俺の前に座って笑顔で鳴いた美少女。
よく見れば胸元に傷がある。そういえば、あの子犬にも傷があったな…なんて考えてみるが、無意識のうちに俺の目は露わになったままの胸へと向いてしまう。
決して大きくはないが形のいい綺麗な胸。
そして、まだ誰にも触れられたことのないであろうピンクの頂……
「って違うだろ!!」
「っ⁉」
「あ…悪い……」
突然怒鳴った俺を、彼女は怯えたような目でジッとみる。
やめろ…その目で見られると理性がぶっ飛びそうだ…
「頼む…取り敢えずこれを着てくれ……」
なるべく見ないようにしながら近くに脱ぎ捨ててあったパーカーを渡す。
これ以上この格好で居られれば理性に打ち勝つ自信がない。
「……やだ」
空耳だろうか?いや、今確かに…
「嫌っつったか?」
「うん。服嫌い」
コクンと頷き、今度はねだるような目を向けてくる。
「嫌いじゃなくて…女の子がそんな格好でいたら変だろ?」
俺の言葉を聞いても頷こうとはしない。
むしろ泣きそうな顔でジッと俺のことを見ていた。
「……着なきゃ追い出すよ?」
「着る」
よし、勝った。渋々服を受け取る彼女を見て、俺は確信した。
だが…
「着方…わかんない…」