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ハルデア皇太子殿下との縁談/シンリーとの絆

「ディアお嬢様、起きてください」

「天使……?」

「も、もう…!!」


 シンリーとのやりとりも9回目である。流石に天使と誤認して抱きしめることが許されたのは5回目までだった。ちなみにそれまでの間は、シンリーの提案でひたすら魔法の特訓をしてきた。


 魔法の特訓とは言っても、『RPG』のようなモンスター等の経験値ではなく、魔法のMPを極限まで使った後に、ぶっ倒れた後、爆睡をかますことで、レベル上げを行う方法である。


 もっと具体的に表すなら、『セブンス学園』内の魔法講義で主人公のMPを使いまくった後、セーブを行い、次の日に設定して繰り返すのだが、あたしの場合はセーブが出来ないので、『爆睡』に置き換えて実践している。


 つまり、『セブン⭐︎プリンセス』内のゲーマーで流行ったレベル上げ方法、通称『Re魔法講義から始まるMP消費生活』と呼ばれた方法の私なりにアレンジした方法である。



 それを1週間繰り返した結果、現在のステータスはこんな感じだ。


『Lv12

 名前:ディア・ベルンルック

 称号:3年以内に99%死亡

 HP:600

MP:1200

 扱える闇魔法:ダークフレイム(小)、ダークヒール(小)、ダークシールド(小)

 通り名:小麦叩きの公爵令嬢

     引きこもり令嬢  

     自意識過剰令嬢  

     邪道令嬢            』

 

  あたしのステータスが話せるなら、色々文句をつけたい所だが、一旦、ディブロお父様とステラお母様が待つ朝食が先決だろう。


「旦那様と奥方様が2階でお待ちですわ」

「はーい!!」


 待っていましたと言わんばかりにシンリーに返事をした後、この世界に来た時と、この1週間でほぼ変わらない日々を過ごしていた。


「おはよう、ディア、シンリー」

「おはよう、ディアちゃん、シンリー」

「ご機嫌よう、ディブロお父様、ステラお母様」

「おはようございます。旦那様、奥方様」


 そしていつもの様に出されたロールパンやサラダ等を感謝して味わう。


「ディブロお父様、視察に行きたいです!!」

「えーと…だな」

「今日はウェスト村が良いですわ!!」


 今日で『外出禁止期間』は終了している。つまり、今日からあたしを縛るものは何もない!!


 しかし、なぜかあたしの提案にディブロお父様は目を露骨に泳がせている。


 それならばと思い、あたしの方が場所を指定して、畳み掛けるまでだ!!


「昨日、ディアへ縁談が来てて、会ってほしい方がいるんだ」

「是非とも、お断りしたいのですが…」

「分かってくれ、相手はセブンス王国の第一王子ハルデア皇太子殿下なのだ」


 カランッ


 これはこれは、早速、あたしに取って、ギロチンイベントの発生だね…。隣の方から、金属の落ちる音がしたので、ちらりと見る。焦った表情をしたシンリーが珍しく粗相をしていた。


「ディブロお父様、死んでもお断りします」

「どうしてしまったんだい?ディアが想いを寄せていたハルデア皇大使殿下だよ??」

「ディアちゃん、会うだけ会ってみたら?」


 基本的な見合いならば、ディブロお父様がブロックできる。しかし、王族となれば、話が別だ。


 頭で理解していても、納得はできない。


 もちろん、ディブロお父様やステラお母様が、あたしが『ディア•ベルンルック』になる前の過去の想いを知っていたから、今回の『ハルデア皇太子殿下』との縁談を受けたのかもしれない。


 しかし、今のあたしにはちっとも嬉しくない。


「わかりました。ハルデア皇大使殿下と会ったら、あたしをあと3つの村へ視察に連れていくことを約束してください」

「わ、分かった。それで手を打とう」


 ただ、残念ながら、既に王家と合意した縁談話を無碍にするわけにはいかない。


 だから、条件を付与した上で、ステラお母様の言葉を借りて『会うだけ』会うことにした。


「ちなみに、それは何日後ですか?」

「今日だ」

「………聞こえませんでした」

「今日なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 あまりにも疑いたくなる段取りの日付だったので、聞こえないふりをしたら、ディブロお父様が大きな声で取り乱してしまった。


 いくら王族とは言え、仮にも公爵家に対して昨日の今日とは無礼じゃない?と思った。しかし、これに関しては、前向きな双方の思惑の合致により、段取りが即日で決まってしまったのだろう。


「シンリー?顔色悪そうだけど、どうしたの?」

「い、いえ」

「そう?あたしのドレスアップとか任せるね」

「え?ええ」

 

 少し様子が変なシンリーを気にしながら、憂鬱で仕方がない朝食を終えた。


ーーーー


 朝食を終えた後、3Fのドレスルームへ向かい、シンリーに見繕ってもらうこととなった。


「やっぱり、何か元気ないよね」

「そ、そんなはずは…」


 しかし、いつもならすぐに決めてくれるドレスアップも覚束ない。そして、シンリーの顔も晴れていない様子を見たあたしは、彼女を壁へ迫る。


 ドンッ


「シンリーの嘘つき」

「私は仕事の立場上言えないだけです!!」

「言えないって何!!」

「お子様のディア様にはわかりません!!」

「言ってみないとわからないよ!!」


 この日、初めて、シンリーと喧嘩した。きっと彼女には彼女の事情があったんだろう。


 そんな中、ディブロお父様に呼ばれて、仲直りもできずに、心に穴が空いたまま、そのままハルデア皇太子殿下と会うこととなった。


ーーーーー


「やぁ。久しぶりだね。覚えてるかい?」

「はい」


 自分でも驚くほど無機質な声でハルデア皇大使殿下に答えてしまった。


 前世で『セブン⭐︎プリンセス』ゲーマー時代に何度も見たから覚えてるよ。


 この『サイコパス王子』は、主人公の『アルセラ』じゃなくて『バッドエンド確定の悪役令嬢』に何をしに来たんだっ!!


「君の噂は聞いているよ。『感謝の公爵令嬢』」

「いやはや、ハルデア王太子殿下の耳に渡っているとは光栄です。ここは、若い者同士におまかせいたしましょうか」


 パタンッ


 ハルデア皇太子殿下が待つ部屋へと足を運ぶと広々とした応接室の様な場所だった。黒色の大きなソファーに近衛兵と思しき護衛が左右の席に2人、真ん中の席に赤髪の爽やかイケメンがいる。


 その赤髪の爽やかイケメンとは、『セブン⭐︎プリンセス』で何度も見た7人のうちの攻略対象の1人、『ハルデア皇太子殿下』のことだ。


 一方で対面のソファーにディブロお父様がいて、あたしは彼の隣の席へ移動した。そして、挨拶が始まったと同時に、算段していたのだろう。


 ディブロお父様と護衛の2人が同時に、応接室の部屋から早々に移動していった。


 それにしても、勝手に『感謝の公爵令嬢』と通り名がついてるのは実にむず痒いものである。


「えーと、困ったね。2人きりになってしまった。じゃ、まずは趣味を教えてくれるかい?」

「小麦の脱穀作業です」

「小麦の脱穀作業?ベルンルック公爵令嬢はすごいんだね」


 苦笑いの表情をしているが、実に不愉快である。そもそも、2人きりになるようにしたのは、十中八九、ハルデア皇太子殿下の指示だろう。分かっているからこそ、彼の見え透いた演技にイラッとしたので報復として回答を困らせてやった。


 一方、ハルデア皇大使殿下は首を右方向へ傾げながら、適当にあたしの話に合わせ、手放しで褒めてきた。


 しかし、彼の選んだ手法はあたしとって逆効果でしかなく、『セブン⭐︎プリンセス』をプレイしていた時以上に嫌悪感が増しただけだった。


『サイコパス王子』を擁護するならば、王族なら、農作業を知らなくても不思議ではない。


 しかし、せめて、知ろうとするスタンスはなかったのだろうかと呆れてしまった。


「いいえ。残念ながら、ハルデア皇太子殿下の足元にも及びません」

「いやいや、僕なんて大したことないよ。それで、今日は君に婚約を申し込みたいと思ってね、この指輪を……受け取ってくれないかい?」

「お断りします」


 ハルデア皇太子殿下のルートの突入契機は『セブン⭐︎プリンセス』で主人公のアルセラが持つ光属性の魔法の有用性を『セブンス学園』で発揮して、まずは彼に認めてもらう必要がある。


 その背景として、ハルデア皇太子殿下の境遇に原因がある。セブンス王国の王族に生まれた彼は幼少期から王政に触れており、『利用できる人間かどうか』の考えに基づいた行動を取るからだ。


 つまり、ハルデア皇太子殿下は主人公の『アルセラ』と距離が縮むたび、愛がなかった器に、愛が注がれていくラブストーリーである。


 当然、『ハルデア皇太子殿下』と『バッドエンド確定の悪役令嬢』が婚約しても死刑が近づくだけだし、彼の隣は主人公の『アルセラ』であるべきと判断した結果、即座にお断りの返事をした。


「そうかい。よかっ………え?」


 これもハルデア皇太子殿下の中で決めていたセリフだろう。『セブンス王国』の第一皇太子殿下の自分を断る女性はいない。ましてや、自分に想いを寄せていた『ベルンルックの公爵令嬢』ならば、尚更の事だ。だから、現在の彼は鳩が豆鉄砲を喰らったような情けない表情になっている。


「お断りします」

「……本当にいいのかい?」

「はい」


 何度も同じ返答をしているのに、そんなに鸚鵡返しをされたいのだろうか?そう疑問に思いながら、2回目のお断りを伝える。


「後悔はないかい?」

「はい」

「今からでも考え直す気は?」

「ありません」


 後悔ってまだ一分も経ってないし、考えを改める気もさらさらない。


「………今日は出直す事にしよう」

「そうですか。では、道中、お気をつけてお帰りください」


 一通りの問答を終えた後、全身を怒りで震わせ顔を真っ赤にした『ハルデア皇太子殿下』が帰る事を決意したらしい。


 あたしは見送るべきかどうかを悩んでいたが、彼が勝手に退室しようとした、その時だった。


 ガチャッ


「ハルデア皇太子殿下、如何でしたかな?」

「……今日は失礼させて頂く」

「はっ、それでは見送らせていただきましょう」


 ちょうど良いタイミングで、ディブロお父様と護衛が帰ってきたので、全部任せることにした。


ーーーーー


 ハルデア皇太子殿下とのめんどくさいやりとりを終えた後、あたしは自分の部屋へと戻る。


「あっ…」

「ディアお嬢様…これはっ!!」


 自分の部屋へ戻るとシンリーがいて、彼女は静かに声を殺して涙を流していたらしい。あたしに気づいて振り返ると、頬に伝う雫が流れていた。


「あの…お見合いの方はどうなりましたか」

「断ったよ」

「ど、どうしてですか!!ディアお嬢様はハルデア皇大使殿下をお慕いしていたはずです」


 それはあたしがなる前の『ディア』であり、あたしではない。ただ、シンリーがあたしのために本気で怒ってくれるのは伝わった。


「元々断る予定だったからね。それより、そろそろ話してくれないかな?」

「……ディアお嬢様がハルデア皇太子殿下との婚約を受け入れたら、私の居場所がなくなるって思ったんです。想像するとすごく怖くて嫌でした」


 シンリーの言葉を聞いた瞬間、彼女を強く抱きしめた。もし、仮にあたしが誰かと婚約しても、あたしはシンリーを見放さない。


 あたしの胸で泣き崩れるシンリーをひたすら、安心できるように強く抱きしめ続けた。



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