『ディアベルンルックのステータス?』
「ディア、良かった!!心配したよ」
「え?ディブロお父様…?」
「かなり遅かったから、ディアに何かあったのではないかと思ったんだ…!!」
ディブロお父様がいる所へ戻ると、すっかり三日月が顔を覗かせる頃合いだった。そして、あたしを見たけだ瞬間、ディブロお父様はすぐに駆け寄り、あたしに抱きついてきた。
「ってディア、せっかくの可愛らしい青色のドレスが汚れで台無しになってるじゃないか!!」
「えー…旦那様、ディアお嬢様が小麦畑で領民達共に農作業をしていたからです」
「シンリー、なぜ止めなかったのだ!!」
「旦那様、大変申し訳ございません。しかし、ディアお嬢様が突然飛び出して行かれたもので…」
「シンリーは悪くないわ!!悪いのはあたし!!」
当然、ディブロお父様がシンリーを責めようとしていたので、彼女の前に胸を張ってでる。
パチッ
「い、痛いです」
そうするとディブロお父様からデコピンを受けることとなった。
「確かに、ディブロお父様のいう通り、あたしの行動は軽率でした。大変申し訳ございません」
「ディア、君は仮にも『ベルンルック領』を治る娘なのだ。もっと自覚をだな……」
「しかし、ディブロお父様、たとえ王族だったとしても、あたしは、自分が治る民がやる仕事を最低でも一度は経験すべきだと考えていますわ」
まずは悪いと思った事を謝罪をした後、あたしなりの考えを伝える。
そうすると、額に手を当ててディブロお父様は、小さな声で嘆き続けていた。
とりあえず、できるだけ早く帰ろうと言う結果になり、馬車へ乗り込もうとした時だった。突然、後ろから大きな声が聞こえて振り返る。
「「(あははは!!)ベルンルック公爵様、どうか不躾ながらお願い致します(ー)」」
「なんだ?娘はやらんぞ」
「「(あははは!!)絶対に違います(ー)」」
アースとロンがディブロお父様に向かって、頭を地面へ這いつくばらせ、日本で言う土下座の姿勢を取っている。
すごく3人にとって真剣な場面のはずなのに、全力で否定された事により、まるで、あたしが『ロン』と『アース』から遠回しに振られたみたいで少しだけイラっとして頬を膨らます。
「ディアお嬢様は私のですから」
「うんっ!!」
しかし、それもシンリーが放つ魔法の言葉のおかげで、すぐにどうでも良くなり、甘えたくなったあたしは彼女へ抱きついた。その後、ロンとアースとディブロお父様の方に視線を戻す。
「「(あははは!!)どうか、ディアお嬢様の護衛にしてください(ー)」」
「えぇ?あたしの悪口を言ってたのにー!?」
「あっ…」
「「あっ…」」
「あちゃー、ロン、アース、ごめんなさい」
アースとロンの突拍子の願いを聞いた瞬間、思わず、口が滑ってしまった。もちろん、わざとじゃない。絶対にわざとじゃない!!あたしは、そんな仕返しをするような器の小さな女じゃない!!
あたしのやらかしにシンリーが1番早くに気づいて、ロンとアースが気づいた。最後に気づいたのはあたしで、ディブロお父様はあたしの言葉を信じられないのか、目を丸くしていた。
「ディア、シンリー先に馬車へ戻っておきなさい。私は度胸のある勇敢な青年達と少し楽しいお話をしてくるから、待っててくれないかい?」
「は、はーい」
その後、ディブロお父様に連れて行かれるロンとアースは涙目になっていた。あたしはそんな彼等に『南無阿弥陀仏』の念を送った。
「それにしても、ディアお嬢様、盛大にやってしまいましたねー」
「シンリー、揶揄わないで…!!」
結局、あたし達の乗り込んでいた馬車が進んだのはそれから20分後の事だった。なぜか、ディブロお父様は上機嫌で馬車の中へと帰ってきた。
ーーーーー
「「「「旦那様、ディアお嬢様、お帰りなさいませ」」」」
夜遅くに帰ってきたのに、それでも待っていたメイド達の忠誠心に感心しながら屋敷へと帰る。
「そう言えば、あたしの時は出発の見送りがなかったような…」
「あぁ、ディアとシンリーは身支度でいなかったから、仕方ないよ」
どうやら、ディブロお父様の話によるとシンリーとあたしが身支度をしていた時に、メイド達の見送りは既に終えていたらしい。
「ディブロお父様、明日は…」
「ディアは『1週間の外出禁止』だ!!」
「うぇぇぇぇぇん!!」
「泣いてもダメだ!!」
恐る恐るディブロお父様と私室の部屋で別れる間際に、明日も遠回しに視察へ行けないか?と聞くと『1週間外出禁止』の命令が出てしまった。
彼はあたしには甘々だと思い、泣き落としで行けるかなぁと思い実行してみたが、惨敗だった。
ーーーーー
「シンリー、あたし、明日から何しよう」
「ディア様、魔法はどうでしょうか?」
そう言えば、『セブン⭐︎プリンセス』は恋愛がメインだが、その舞台である『セブンス学園』は魔法を学ぶ学園である。
あたしが、『セブン⭐︎プリンセス』のゲーマーだった頃は、きちんとストーリーを進めていく上で主人公や攻略対象のレベル上げも重要だった。
ちなみに、悪役令嬢の定めなのか、『ディア』が扱う魔法は希少の闇魔法であり、主人公の『アルセラ』が扱う魔法は希少の光魔法である。
闇と光を除いた魔法は基本的に『火』『水』『風』の3属性のみから構成されており、基本は1人に1属性だ。
あたしの知識が正しければ、『セブン⭐︎プリンセス』に登場するキャラクターであれば、貴族や平民問わず、扱えるはずだ。
ゲームではステータスの表示があったけど、この世界にそんなのあるだろうか。
『Lv4
名前:ディア・ベルンルック
称号:3年以内に99%死亡
HP:300
MP:800
扱える闇魔法:ダークフレイム(小)、ダークヒール(小)
通り名:小麦叩きの公爵令嬢
自意識過剰の公爵令嬢 』
そう思いつつ、あたしが心の中でステータスと唱えた瞬間、見たくもない『数値』『称号』『通り名』が目に浮かびあがることとなった。
特に、称号の『3年以内に99%死亡』って何だろうか?馬鹿にされているようでイラッとする。
通り名もそうだ!!『小麦叩きの公爵令嬢』と『自意識過剰の公爵令嬢』なんて嫌味以外に表記する理由があるのだろうかと怒りたくなった。
「シンリーは、魔法ってどうやって覚えるの?」
「え?そうですね。何かを達成した時に、脳内で魔法ができる様な感覚がします。ただ、貴族様の様に平民の魔法は実践的な物ではありません」
「そっかぁ…」
つまり、魔法のシステムの構造自体はこの世界の住民とあたしがほとんど一緒だと言うことが判明した。あたしの場合、ゲーマーだったから、視覚情報として捉える事ができているのだろう。
それと、シンリーが言っていた貴族の方が平民の魔法より実践的で優れているのは『魔法を専門とする学園』に通うからという事で説明がつく。
「明日、外に行って使ってみよう!!」
「『1週間外出禁止』です」
「くっ……シンリーやるわね…!!」
「誰よりもディアお嬢様を見ていますから!!」
「あたしだってシンリーを見ているわ!!」
「いいえ、ディアお嬢様よりも私の方が…!!」
「いいえ、これだけは譲らないわ」
「「ぐぬぬぬ………」」
先程まで負けたくないと思っていたのに、自分の言った言葉を理解した途端、恥ずかしくなる。
そして、それはあたしだけでなくシンリーも同じらしくて、しばらく沈黙が続くこととなった。
「その、引き分けってことでどうかしら」
「ディアお嬢様、さすが、名案です」
「それでは寝ましょうか」
「今日もですか…?」
「シンリーがあたしと寝るの嫌なら諦める…」
「それはずるいです…」
そして、シンリーと共に2日目を過ごした。