アルセラとのデート 2
「こちら紅茶です。どうぞ」
「いただきますね!!」
「アリス姉様、私は冷たい方が希望でした!!」
「アルセラ、わがままはだめです!!」
あの後、ロンとアースは『ホープ』と『サクセス』の側にいる事となった。
そのため、あたしとアルセラだけが孤児院の中へと入り、応接室と思しき場所のソファーで寛ぎながらアリスさんの淹れてくれた紅茶を飲む。
「えっと…色々聞きたいことはあるのですが…」
相変わらずのアリスさんとアルセラのやり取りを前に、精一杯の苦笑いを浮かべながら、あたしの方から話を切り出す事にした。
「あ、これは失礼しました。そうですね…。どこから話しましょうか。まずは、私がこの孤児院を建てたきっかけはこの子なんです」
「ど、どういうことでしょうか??」
「ある寒い冬の中、アルセラは身体に傷だらけの瀕死の状態で倒れていました。その時に、不思議と彼女の身体がうっすらと光っていたんです」
なにそれ……
どういう事……
目を伏せたアリスさんからアルセラと出会った話を聞いた瞬間、両耳を塞ぎたくなると共に、心の中の戸惑いが収まってくれない。
「ディア様、アリス姉様のは、昔の話です!!今更、私は気にしていません!!それに、そのおかげで私はアリス姉様とディア様に会えたんです」
そんなあたしの心中を察したのか、アルセラが笑顔で微笑みかけながら、話しかけてくる。その一方で、あたしはそんな彼女の健気な姿に精一杯の作り笑顔を浮かべることしかできなくなった。
「じゃぁ、アルセラの光魔法は……」
「それはこの子がこの世界の誰よりも『生きたい』と思ったからだと私は考えています。それに、元々はやんちゃな子だったんですよ??」
アリスさんは慈しむかのような視線を送りながら、優しくアルセラの頭を撫でる。
その一方で、撫でられたアルセラは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
「その…!!私が変われたのは、ディア様の噂を聞けたおかげなんです。あの時の私はアリス姉様以外、全員を敵だと思ってました…!!」
「ええ。あの日に出会って以降、初めて私以外の人に興味を持ってくれましたからね」
あたしは、まるで楽しい思い出を語るかのように懐かしみながら、笑顔を浮かべて話す2人を前に、なにも言えなくなる。
「もし、よければ、この孤児院を見学してもよろしいでしょうか」
「え?ええ…。それなら私も同行を……」
「いえ、2人は積もる話もあるかと思います。だから、ゆっくり話していてください!!」
「ディア様!?」
そして、あたしはアリスさんからの許可を貰った直後、アルセラの制止する声を振り切り、1人で孤児院を観察する事にした。
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「可愛いお姉ちゃん!!アルセラお姉ちゃんとアリスお母様、知らないー??」
「そうだぜ!!いつもなら、ご飯の時間のはずなのに、いなくて困ってんだ!!」
アルセラとアリスさんから逃げたあたしが文字通り、孤児院を回っていると、孤児院で生活する子供達から話しかけられることとなる。
「んー、ごめんね??2人は少し忙しいみたいだから、あたしが作るよ!!」
実際、あたし達が訪れたから、ご飯が遅れたのは事実だろうと思い、困った表情をした子供達に謝罪をした。
その後、裾を捲り、力コブを見せながら、代わりにあたしが料理を作ることを提案する。
「えー、お姉ちゃんって貴族なんだろー??誤魔化そうとしたって無駄だぜー?」
ギクッ…
「貴族なんて温室育ちばっかだとアルセラお姉ちゃんが言ってたー!!」
グサッ…
これでもベルンルックのノース村では料理に定評があるんだぞ!!と声を大にして言いたい。
しかし、流石に子供相手にムキになる訳にはいかないため、冷静に対処にする事とした。
「よーし、分かった!!あたしの料理が不味かったら残していいよ!!」
「まっ、俺様は期待しねえけどな??」
「残していいなら……」
あたしが料理を残していい事を伝えると、子供達は渋々と言わんばかりの表情で納得する。
「よしっ!!じゃあ、調理場を教えてちょうだい」
「オッケー!!」
話が纏まったため、彼等に孤児院にある調理場を教えてもらいながら、移動する。
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そして、調理場へ移動すると、アリスさんが清潔にしてくれていたのか、築年数が経過してる割に、調理器具や材料が整理されていた。
「材料としては、少量のお肉と玉ねぎ、ピーマンに味付けが残ってる感じだね。んじゃ、あたしが作るから、みんなは遊んでるといいよ」
あたしは調理場の材料を確認した後、作る料理を即断して、サイズが合わないアリスさんのエプロンを借りつつ、料理へ取り掛かろうとした。
「うーん、やっぱ、俺様も手伝うとするぜ!!」
「わ、私も!!」
「ぼ、僕も!!」
あたしが孤児院の子供達に料理が完成するまでの間、どこかで遊ぶように伝えるとラースと呼ばれて、アリスさんに注意されていた孤児院の子を中心に、みんなが手伝いを申し出てくれる。
「よーし!!じゃあみんなで美味しいナポリタンを作って、アリスさんやアルセラを驚かそうか!!」
「「「「「「おーっ」」」」」
そんな彼等の申し出を断るのは失礼だと考えたあたしは、孤児院の子供達と協力して作る事を決意し、彼等を指示する事となった。
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まず、あたしは調理する前に2グループに分ける事にした。
1つ目のグループは大きい子達が中心で野菜を切る係だ。他のグループは、小さい子達を中心としており、パスタを茹でる係である。
そして、あたしは仕上げをするまで、それぞれのグループを指揮する事となった。
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「その持ち方は怪我するからダメー!!包丁握る時はね、野菜を支える手を丸くするの」
「け、結構むずかしいんだな…!!」
「じゃ、もう一度、お手本やるから見ててねー」
トンットンットンットンットンットンットンッ
みんなの様子を回っていると、ラースと呼ばれた男の子の包丁の持ち方が危険だったため、怪我をする前に注意をする。
そして、再度、みんなの前で包丁のお手本を見せると上達していった。その結果、野菜を切るグループは円滑に進んでいく。
もちろん、ピーマンの形が不揃いや玉ねぎが大きい部分もあるが、それはご愛嬌とした。
「可愛いお姉ちゃんー、あれー!!」
「おおっ、沸騰してるね!!それじゃ1人ずつパスタを入れていくからねー。見ててねー??」
パサッ
あたしは束ねたパスタに、軽く力を込めて曲げた後、鍋全体に広がるように入れる。
「「「「おおおおっっ!!」」」」
そうすると歓声が沸いたため、別に大したことはしてないんだけどなぁと心の中で思いつつ、彼等にあたしの真似をするように伝える。
その間に、あたしは大きめのフライパンへお肉を先に入れて、火が通ったのを確認して、切った野菜とケチャップを入れて手短に炒めていく。
最後に、茹で上がったパスタを皿に分けていき、上に作ったソースをかければ、完成である。
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「ほ、本当に作れたんだな……!!」
「えーと、不味ければ、残すんだっけー??」
当然、あたしは言われた事を根に持つタイプであるため、彼等へニヤニヤと微笑む。
「ま、まだ美味しいと決まった訳じゃねぇ!!」
「そ、そうだよ!!」
そうすると子供達が苦し紛れに反論してきた。
そのため、あたしは完成したナポリタンを両手で持ちながら、彼等の案内の元、孤児院の食事場へと向かう事となった。
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「ほらー、ラース、美味しいでしょー?」
「くっ…!!」
「サリナもマークも、どうなのー?」
「「大人げない…!!」」
孤児院の子供達の案内の元、食事場へ移動し、出来立てのナポリタンを食べながら、みんなと会話する。その間に孤児院達の子供達の名前も覚えて、以前よりも、随分と距離が近くなった。
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「ディア様…!!これは誰が…!!」
「みんな、ご飯を忘れてごめんなさい。今から、急いで作るからって、美味しそうな匂いが……」
そんな風に子供達と話していると、慌てた様子でアリスさんとアルセラが食事場へ入ってくる。
「えっと、実はみんなでナポリタン作っちゃったんだけど、2人の分もあるから食べる??」
とりあえず、焦った表情をする2人に、あたしがナポリタンを食べる事を提案した。その結果、アルセラとアリスさんは驚いた表情をしつつも、食欲に勝てないのか、縦にこくりと頷く。
コトンッ
そのため、空いてる机へ2人のために、用意していたナポリタンを2つ置いた。




