パタリーとのデート 後編
「あたしもパタリーが好きだよ」
あたしは深呼吸をした後、パタリーに対して率直な想いを伝える。
「………………………じゃぁ」
「でも、想いだけじゃ恋は実らないの」
パタリーがあたしの想いを聞いて嬉しそうに微笑みながら、続きの言葉を話そうとした瞬間、敢えて、あたしは途中で彼女の声を遮った。
「………………………どう言う意味」
「簡単なことだよ。きっと、あたしと付き合ったらパタリーは不幸になるの」
「………………………意味が分からない」
『恋は盲目』、あたしだって『バッドエンド確定』の悪役令嬢『ディア•ベルンルック』でなければ、喜んでパタリー達と交際していただろう。
でも、あたしは『セブン⭐︎プリンセス』の『ディア•ベルンルック』である。その現実を一度も忘れて過ごした日々はない。だからこそ、あたしは心を鬼にしてパタリーを拒絶した。
一方であたしの言葉を聞いたパタリーは、首を左右に大きく振り、あたしの拒絶を拒絶する。
「じゃあ、分からず屋のパタリーに問題点を伝えるよ…。まず、あたし達は女の子同士だよ?」
「…………………性別なんて関係ない」
「あたしはシンリーもアルセラも好きだよ?」
「………………そんなの今更な事」
「周りに認めてもらえるかもわからないよ?」
「…………………周りなんてどうでもいい」
「あたしといると必ず危険に巻き込まれるよ?」
「…………………そんな事、承知の上」
「ディブロお父様を敵に回すよ?」
「…………………諦めずに何度も説得する」
「『魔王』に操られる可能性だってあるし、おまけに死ぬ確率も高いよ!!! 」
「…………………僕達がそうさせない」
「あたしと出会わなければパタリーには素敵な男性と結ばれる未来だって…あっ……っ!?んんっ」
あたしがありとあらゆる問題点を挙げているのに、パタリーは涼しい顔で何の迷いもなく答えてくる。そんな彼女の様子を目の当たりにすると、まるで、あたしだけが付き合う事を考えすぎてたように感じて思わず、ムキになってしまう。
そして、ムキになった結果、絶対に言わないと決めた事を途中まで話しかけて、正気へ戻る。
「…………………それだけは言わせない」
正気に戻った数瞬後、あたしの前に跪いていたパタリーが聞いたこともない低い声であたしの声を遮り、物凄い力であたしの両肩を掴む。
そんなパタリーの低い声に驚きつつ、彼女の表情を見ると、本気で怒っているように見えた。
それと同時に、初めて、パタリーの本気で怒った表情を視界に入れた瞬間、あたしは彼女が怖くなって、ぎゅっと目を瞑ってしまう。
刹那、あたしの肩が引き寄せられると共に、ふわっと香るプリンの甘い香と共に、あたしの唇に柔らかい感触が伝わってくる。
そのため、恐る恐る目を開けて確認すると、パタリーがあたしを覆い被さるかのように、上から自分の唇をあたしの唇に重ねていた。
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「………………ごめん」
「…ううん。あたしも失言だった」
今までの口付けは、あたしからしていたが、初めて口付けをされる側に回り、どう反応していいのか分からなくなる。
それに加えてあたしとパタリーでは身長差がある分、さっきの口付けが原因で麻痺したのか、自分の身体が思うように動かなかった。
「………………これが僕の気持ち。ディアお嬢様が僕を受け入れられないなら断っても責めない」
そんな麻痺状態のあたしにお構いなく、パタリーは上からあたしを覗き込みながら、伝える。
「………………でも、未来とか危険とかで断られて納得できるような恋じゃないっっからっっ!!」
「だけど、あたしの隣に居続けると、この世界自体が敵に回るかもしれないんだよ……」
「………………僕が味方でいるから大丈夫」
「…………パタリーはバカだよ……こんな……何もできないあたしなんかを………っっんぐ!?」
パタリーが最後まで言わせないと言わんばかりに、強引にあたしの唇を奪う。
そんな彼女の行動にあたしは目を見開いたものの、目の前のパタリーが目を瞑っていたため、あたしも自然と目を瞑って受け入れる。
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「……………………ディア、愛してる」
「じゃあ、こんなあたしを幸せにしてね?」
お互いの息が続かなくなるまで、長い口付けを交わした後、パタリーから真剣な表情で伝えられ、恥ずかしさを紛らわすため、彼女を揶揄う。
「………………僕の生涯にかけて誓う」
そうすると、パタリーが先程よりも更に真面目な表情で返してきたため、あたしは恥ずかしさのあまり、俯くことしかできなくなる。
————これって◯ス堕ちって言うのだったかしら??それとも百◯堕ちだったかしら?
————今生のお願いだから黙ってて!!
————何ですの!!きちんと、わたくしは『◯ーラームー◯』の薄い本で学びましたわ!!
そして、あたしが俯いていると、理不尽デストロイヤーの『木葉』によるとんでもないワードによって、あたしとパタリーの間に流れていた甘い雰囲気がぶち壊されそうになる。そのため、それ以降の『木葉』はフルシカトする事にした。
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「っ…!?き、急にどうしたの??」
「………………ディア、今夜は月が綺麗だ」
『木葉』をシカトした直後、急にあたしはパタリーによって肩を寄せられてしまう。
突然の行動に驚いたあたしが、パタリーへ質問すると、彼女は空に浮かぶ満月を指差しながら、今宵の月の感想を伝えてきた。
「そうだね…」
しかし、あたしは月よりもパタリーの横顔に見惚れてしまい、彼女の表情を見ながら相槌を打つ。その後、彼女の手を自分の指に絡めながら握りつつ、自分の頭を彼女の右肩へ預ける。
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「ディアお嬢様!!!!!!!!!なんで、パタリー様に骨抜きにされてるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ディア様、ほんの少しは信じてたのに!!」
「ふぇあ!?」
そんな風にあたしがパタリーに甘えていると、シンリーとアルセラが大きな声で駆けつけて来て変な声がでてまう。
しかし、気にせずに一瞬で体勢を整えた後、声のする方向へ、急いで振り返る。
「……………………僕の『恋人』のディア」
「ち、ちょっと!!パタリー!?」
あたしがシンリーとアルセラに対して、どう言い訳しようと考えていると、パタリーがあたしの肩を抱き寄せながら、2人にマウントを取る。
「パタリー様、まさか、ディアお嬢様を自慢するために、デートの順番を1番にしたんですか!!」
「ロン様とアース様があんなに口が硬いなんて思いませんでしたわ。こんな事になるなら、ディア様のコレクションを早めに出しとけば…!!」
「ちょっと、聞き捨てならないんだけど!!!アルセラ、あたしのコレクションって何!?!?」
シンリーがパタリーを責めているが、あたしからすれば、アルセラの『コレクション』発言の方が気になり、彼女へ質問する。
「ディア様はそんなことは気にしなくていいんです!!それより何か言い訳はあるんですか!!」
「アルセラ様の言う通りです。ディアお嬢様…!!どう言う経緯で、堂々と甘えていたんですか!!」
しかし、肝心のあたしの質問は華麗にスルーされ、逆に2人からジト目を向けられてしまう。
「…………………ディア、逃げよう」
「え、ちょ…ちょっと!!パタリー!?」
「ディアお嬢様、逃しません!!」
「ディア様、必ず話してもらいますから!!」
2人にジト目を向けられた直後、悪戯っぽく微笑んだパタリーに手を引かれて、彼女と共にアルセラとシンリーから逃げながら、ベルンルックの屋敷へと戻る事となる。
そんな鬼ごっこを最後に、あたしとパタリーとのデートは終わりを迎える事となった。




