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パタリーとのデート2

「………………ここ」


『セントラル地区』に入り、パタリーにデート場所として連れて来られた場所は、落ち着いた雰囲気で老舗感のある小さな飲食店だった。店の看板には『後生のシェフ』と書かれている。


「ディアお嬢様、俺達は外で待ってるぜ」

「あははは…!!ごゆっくりー」


 とりあえず、あたしはここまで連れてきてくれた『ホープ』と『サクセス』に感謝をした後、パタリーと手を繋ぎながら、馬車から降りた。


 ロンとアースも一緒に店に入るのかな?と思っていたが、どうやら、彼等は馬車に残るようだ。


ーーーー


「………………………期待させすぎた」


『後生のシェフ』に入る直前、パタリーがガクッと肩を落としながら、あたしの方に呟く。


 正直な事を言えば、『デート』と言うからには、『セントラル地区』の中心部にありそうなおしゃれなレストランで雰囲気を楽しみながら、美味しい食事を楽しむものだと妄想していた。


 ————『ディア』の理想は、お洒落な街の喫茶店で、周りのカップルに囲まれながら、恥ずかしさを噛み締めるような甘いデートでしたわね?


 ————『木葉』、ぶっ飛ばすよ……??


 そんな脳内妄想に対して、アル中かつ『セー◯ー◯ーン』にハマった情けないあたしの契約者の『木葉』が、初めて、声を掛けてきたかと思えば、とんでもない前世の黒歴史を暴露してきた。


 当然、あたしはそんな彼女に対して、心の中でブチ切れて彼女に抗議する。


 ————続きは…っと2人は都会に上京、結婚して子供は2人、優しい夫と余生をって……!!現実はアル中で漫画とゲームばっかでしたわね!!!


 ————お願い、やめてぇぇぇぇぇぇ!!!


 ————やっと立場を弁えるようになりましたわね。今回はその辺で許してあげますわ。


 しかし、『セブン⭐︎プリンセス』で何度も目にした理不尽っぷりを発揮されてしまい、あたしは『木葉』に完全敗北を喫することとなった。


ーーーー


「………………ディアお嬢様??辞める??」

「い、いや!!違うの!!もちろん、入るよ!!」


『木葉』とやりとりをしていると、更に顔色を暗くしたパタリーがあたしの顔を覗き込む。そのため、両手を前に伸ばして横に振りつつ否定した後

、『後生のシェフ』のお店の中へ入る事にした。


ーーーー


 カランッカランッ


 店の木製の扉を開けると扉の上部に備え付けてあった鐘の甲高い音が店内に鳴り響く。


 鐘の音が収まった後、改めて店内を観察すると小さな音量でクラシックな音楽が流れており、全体的に薄暗いが、落ち着いた雰囲気だった。


 そのまま店内を観察していると、パタリーがあたしの手を引いて奥へ先導する。


ーーーー


「…………………予約していたパタリー」

「待っていたよ。パタリーちゃん。自由にくつろぐといいよ」

「…………………うん」


 パタリーに手を引かれて到着した先には温和な笑みを浮かべた『後生のシェフ』の店主と思しき老紳士が料理の準備をしながら待っていた。


 そして、パタリーが彼に名前を名乗った後、空いていたソファー席へ腰掛け、料理が運ばれてくるまでの間、寛ぐ事となる。


ーーーー

 

「ほら、これが前菜だよ」


 ほんの少し経過した頃、店主があたし達が座るソファーの前にあるテーブルへ前菜を乗せた長皿を持ってきてくれた。そのため、長皿にある料理を観察してみると、白身魚のテリーヌやキッシュ、サラダやパン等が盛り付けられている。


 それに加えて、どの前菜も食欲を掻き立てるような匂いをしており、見た目だけならば、当家のシェフに引けを取らないクオリティだ。


「……………………冷めないうちに食べる」

「え?ああ、うん」


 そんな風に、あたしが出された前菜を観察していると目の前に座るパタリーからグゥの音も出ない正論を言われて、キッシュを口へ運ぶ。


 その瞬間、あたしの全身に稲妻が走る事となった。最初こそ、キッシュの外側は甘くてふわふわだったのに、食べ進めていくとキノコとほうれん草の濃厚な旨味が溢れて来たのだ。


 そんなキッシュにフォークが止まらなくなり、いつの間にか、あたしは目の前にある長皿に盛り付けてある全ての前菜の虜となっていた。


ーーーー


「ディアお嬢様、ジェフルは元気かい??」


 一口サイズに切ったテリーヌを口に運んでいると、香ばしい匂いを放つビーフシチューを両手に、店主さんがあたしに質問をした。


「……ジェフル料理長を知ってるんですか??」


 あたしの名前ならまだしも、ジェフル料理長を知ってるのはどう言う事?と疑問に思い、逆に店主さんへ質問する。


「…………………ディアお嬢様、師匠の師匠」


 そうすると、あたしの質問に対して、パタリーが衝撃的な答えを出す。それと同時に、彼女がここをデート場所として選んだ理由も納得した。

 

「っっ!?通りでこんなにも美味しい料理を……」

「もう何年も前の話だけどね。今は引退して、ここでのんびりと作ってるよ」

「………………嘘、半年先まで予約埋まってる」


 あたしが驚愕しつつも出された料理の味に納得していると、店主は笑顔で返してくれる。


 そんな店主の返事を聞いて、シェフならではの優雅な余生の過ごし方だなと感心していると、またもや、パタリーが衝撃的な事実を放つ。


 ちなみに、店主は暴露したパタリーに引き攣った苦笑いを浮かべていた。



ーーーーー


「ほら、これがメインメニューのサーロインステーキだよ」


 ビーフシチューの後、カルボナーラが続き、最後にコースメニューのメインディッシュである熱々の鉄板に乗ったステーキが登場する。


 ちなみに、ビーフシチューも牛本来の濃厚な味わいであり、カルボナーラも濃厚なチーズとパスタが絡み合っていて、どちらも絶品だった。


「柔らかっっ!!うーん…!!仄かにラムの香と別皿のステーキソースも侮れないね……!!」


 そして、最後のステーキも舌の上で転がすと口の中で蕩けて消えるような柔らかさで、あまりの美味しさに大きな声で感想を口に出してしまう。


「ディアお嬢様の口にあって良かったよ」

「…………………満足??」

「うんっ!!!!」


 落ち着いた雰囲気の場で大きな感想を言ってしまい、恥ずかしさを感じていると店主もパタリーも気にする素振りもなく、心底嬉しそうだった。


 だから、あたしもパタリーの質問に満面の笑みを浮かべて縦に頷く。


「それじゃ、最後にプリンアラモードだよ」


 そして、最後にプリンの周りに生クリームがあり、その上にはさくらんぼやメロン等がふんだんに乗っているデザートが登場する。


 あたしが喉をゴクリッと鳴らした後、プリンをスプーンで掬って口へと運ぶ。


 そうするとプリンは自家製なのか、濃厚な卵の味わいだけでなく、プリンの上に掛かってる甘いカラメルがより美味しさを引き立たせていた。


 もちろん、それだけではない。生クリームの上に乗ってあるフルーツも鮮度が抜群なのだ。


 その結果、目の前にあったプリンアラモードはすぐに、なくなる事となった。


ーーーーー


「大満足!!お腹いっぱいだよー!!それで、このお店の料金はいくらかな??」

「………………お代なら師匠が払ってる」


 あたしが満腹になったお腹を摩りながら、パタリーに質問すると、彼女は首を小さく横に振りながら、ジェフル料理長が払った事を伝える。


 そして、パタリーの言葉を聞いた瞬間、もう、親バカなんだから……と心の中で呟きつつも、ジェフル料理長に感謝をした。


ーーーー


「ディアお嬢様やパタリーちゃんのためなら、いつでも席を優先にするから、遊びにおいでね」

「はいっ!!また来ますっ!!」


 暫くソファーで寛いだ後、店主が嬉しそうな表情を浮かべながら、あたし達へ優しい言葉と共に出口まで見送ってくれる。


 もちろん、『後生のシェフ』のファンとなったあたしは、元気よく店主に返事をした後、ロンとアースが待つ馬車へ乗り込んだ。


ーーーーー


「「ヒヒーンッッ」」

「パタリーさん、約束通りに俺達は帰るぞ」

「あははは!!またねー!!」

「…………………ありがとう」


 突然、馬車が停止したためあたしとパタリーが馬車から降りると、ロンとアースは戸惑うあたしを放置して、馬車を動かしてどこかへ移動する。


「えっと、ここっていつもの………」


 親衛隊なのにあたしを置いていくなんてどう言う事……??と思いつつも、周りを見渡すと見覚えのある緑が広がっている。


 そう、あたしとパタリーが立つ場所は、あたしが闇魔法の鍛錬で使う場所だったのだ。だから、無意識のうちに声が漏れてしまう。


「…………………そう。それよりも、今日のデートは楽しかった?」

「もちろんだよ!!あんなに寛いで美味しい食事は祝勝パーティー以来だね!!」


 なぜ、デートなのにこの場所へ?と疑問に思いつつ、パタリーの質問に答える。


「………………ディアお嬢様を連れて行ったのは、僕の超えたい目標を知ってもらいたかった」

「うーん、いくら、パタリーでも難しそうだね」


 パタリーは拳を握りしめながら、悔しそうにあたしの方に話す。


 彼女の料理の腕は確かだけど、ジェフル料理長や店主を超えるのは難しいと思い、飾らずにあたしの率直な感想を伝える。


「……………………うん。でも、ディアお嬢様が僕の隣で咲き続けてくれたら、必ず越えられる」

「それって……」

「………………………ごめん。最初から、僕にとって人目が付かない場所ならどこでも良かった」


 沈みゆく夕陽に照らされながら、戸惑うあたしに微笑みかけつつ、パタリーが近づいてきた。


「………ディアお嬢様、僕と付き合ってほしい」


 そして、パタリーが至近距離まで近づいた後、あたしの目の前で跪いて告白をする。


 そんな彼女の告白に返事をする前に、あたしは大きく深呼吸をした。


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