デートの順番決め
「ディア、心配しましたのよ!!」
「ベルンルック公爵嬢、悩みかぁぁぁ。悩みなのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「みんな、ごめんね。もう大丈夫だから!!えっと、ヒュートン先生もありがとうございます…」
シンリー達と魔法演習場へ戻るとサラとヒュートン先生があたしの方へ駆け寄ってくれたため、彼等に自分が大丈夫なことを伝える。
「ディア!!」
「な、何……」
そんな中、いつもクールなジークが珍しく、大きな声であたしの名前を呼んできた。
彼もなんだかんだ、あたしのことを心配してくれたのかな?と密かに心のどこかで期待を抱きつつ、彼の呼びかけに返答する。
「よかった……。意識は正常みたいだ。あとは頭のネジが数本落ちていないかどうかだけだな…」
そー……そういう事ね!!!やっと、『理不尽』が終わってほっとしていたのに、今度は『毒舌』って訳ね!!あぁぁぁぁぁぁぁ!!!キレそう!!!!
ジークの呼びかけに返答すると彼はあたしに近づき、まるで、呼吸をするかのように毒舌を吐いてきたため、心と共に血管が爆発しそうになるのをギリギリのところで自分を抑え込む。
「ええ。ぶっとば………ゴホンッ。いいえ。大丈夫よ。心配してくれてありがとうね」
「いいや、気にしなくていい。ディアがおかしいのは今日に限った事ではないからな」
自分を抑え込んでいるうちに、心の本音が漏れそうになったため、咳払いをして誤魔化しながら、心の中で微塵も思っていない感謝を伝える。
そうすると、追い討ちを掛けるかのように、更なる毒舌が飛んできたため、なんとか爆発寸前のギリギリのところで耐えることに成功した。
「ベルンルック公爵嬢、実技試験は合格にしておくからなぁぁ!!シュミレット辺境伯の言う通り、今日はおかしいから早く寝るといいぞぉぉぉ」
「ええ、ありがとうございます!!!!!」
相変わらず、ヒュートン先生の空気読めない発言に、再び爆発しそうになるものの、一先ず合格がもらえたため、蓄積したストレスを発散するかのように、大きな声で彼に感謝を伝える。
その後、あたし達は魔法演習場を後にして、『セブンス学園』の校門に移動した。
ーーーーーーー
「ディア様ぁぁー!!!さぁ…シュミレット辺境伯領へ帰りましょう??」
モニョっ
や、やわらかっ!?じゃない!!
『セブンス学園』の校門付近へ移動すると、あたしの頭に柔らかいナニカの感触がして、視線を上に移動する。視線を上にすると、どうやら、あたしを抱きしめていたのはシルヴィアさんで、柔らかい感触は彼女の豊満に育ったメロンだった。
ちなみに『祝勝パーティー』の日以降、シルヴィアさんからあたしに直接的な接触はない。
しかし、毎日のように彼女から可愛らしい赤色や桜色のハート型シールで留められたラブレターのような物があたしの元へ届いていた。
もちろん、その度にアルセラとシンリーが不機嫌になり、宥めることに苦労した思い出がある。
「シルヴィア、私に挨拶はないのか??」
「さぁ、ディア様、私の手を。イエナリ、ディア様付近の護衛の強化をしなさい」
「シルヴィア殿、我は構わないでござるが、その………色々な意味でいいでござるか??」
周囲を見ると、シルヴィアさんに無視されたジークは静かにキレており、アルセラとシンリーはいつものように黒色のオーラを放っていた。
つまり、見る人が見れば、ホラーのような光景ができあがっているのだ。
「構いま…………っつ!?」
「イエナリ、よくやった」
しかし、シルヴィアさんは何も思わないのか、イエナリさんに肯定しようとした瞬間、裏で手を回していたであろうジークが彼女を捕縛する。
「ディアお嬢様も、シルヴィアさんを眺めていないで、反省してください………!!なんで、すんなりと抱きつかれていたんですか!!」
「え?あ、あたしも!?」
「そうですよ!!ディア様って戦闘以外では、すべてポンコツなんですかっ!!」
そ、そんな無茶苦茶な……!?
ジーク達のやりとりを眺めていると、あたしもシンリーとアルセラから怒られてしまった。
「ディアの周りって強烈な人が集まりますわね」
「サラお嬢様、鏡を使いますか??」
「ウィス!!それってどういう意味よ!!」
あたしがシンリー達から怒られていると、後ろの方であたし達を見守っていたはずのサラとウィスの方でも、何やら言い合いが生じたようだ。
その結果、それぞれの馬車に乗るまで、長い時間を要することとなった。
ーーーーー
「ジークとサラと今度会う時はベルンルックの屋敷で行われる『交易会談の場』だね」
橙色に輝く夕陽が顔を覗かせる頃、各々の馬車に乗る直前、ジークとサラに別れの挨拶をする。
「ディア、私とポチの事はいい。交易会談前にデートをするのだろう??」
「そうですわよ!!わたくしがディアに接触する都度、アルセラ嬢達から凄まれて困りますの」
あたしが挨拶すると、ジークは、自分の眼鏡をクイッと持ち上げながら、鋭い視線を向けてくる。そんな彼に、サラが激しく同調した。
「答えを出さないディアお嬢様が悪いんです」
「優柔不断なディア様が悪いと思います」
そんなサラの意見を聞いたシンリー達が容赦なく、あたしのジト目を向けながら責めてくる。
「奇遇だな。わたしも同意見だ」
「わたくしも同じ意見ですわよ」
「我も殿に同意でござる」
「サラお嬢様に同意します」
「さぁぁぁ、みんなぁぁぁ帰ろうかぁぁぁぁ!!!」
その結果、なぜか、シンリー達へ同意する声が増加したため、あたしは大きな声で遮ると共に、ロンとアースが乗る馬車へ乗り込むことにした。
ーーーーーー
ガララララ……
「ディアお嬢様って、いつの間にあんなイケメンの友達になったんだ……」
「あははは……ロン、悲しまなくても、僕達は元々脈なしだからねー!!」
「アース、ま、まだ俺の可能性が0と決まったわけじゃねぇって……………!!」
あたしが馬車へ乗り込むとロンとアースが、ジーク達を見たのか、何やら盛り上がっている。
しかし、あたしはこれまでの疲労が蓄積していたのか、急に瞼が重くなり、視界がぐにゃりと歪んだ後、自然と意識を手放してしまった。
ーーーーー
「ディアお嬢様…!!」
「ディア様…!!」
「……………………ディアお嬢様」
目を開けると、上から覗き込みながら、心配そうにあたしの名前を呼ぶシンリー達を見て、自分が馬車の中で意識を失っていたことに気づく。
「ご、ごめ……疲れてたみたい。いつもの事だけど、ここまで運んでくれてありがとう」
だから、あたしは上半身を起こしながら、シンリー達へ感謝をする。
「いいえ。それより、ディアお嬢様、デートの順番や日にちはどうしましょうか。もちろん、パタリー様にも伝えておきました!!」
「シンリー、流石だね!!うーん……」
どうやら、あたしが寝ていた間にパタリーにも『デート』の事を伝えていたようだ。だから、シンリーに感謝をした後、特別休暇前の前半で行う『デート』のスケジュール等について考える。
「……………………僕が1番をもらう。なぜなら、行く場所が決まってるから」
「では、私がディア様の2番目をもらいましょう。私も、パタリー様と同様に行く場所を決めてますが、少し時間を要します」
「そうすると必然的に私が最後になりますね。パタリー様もアルセラ様も、先にディアお嬢様と一線を越える事は許しませんからね!!」
あたしがスケジュールを考えていると、どうせ揉めるだろうと思っていた『デートの順番決め』があっさりと決まった。
その理由として、どうやら既にシンリー達は、事前にあたしとの『デート』で行く場所を決めていたらしい。そのため、後は『デートの日程』だけを確定させるのみとなった。
「じゃあ、あたしがスケジュールを確認した後、1番手のパタリーから空いてる日を伝えるよ!!その……改めて、お手柔らかにお願いするね??」
だから、自分のスケジュールを確認した後、3人に『デートの日』を伝えることで了承をもらい、心の中でこそばゆいと感じつつも、シンリー達にお手柔らかにしてもらうようお願いする。
その後、あたし達はいつものように、下にはアルセラ、両隣にいるシンリーとパタリーと手を繋ぎながら、もう一度、眠る事となった




