理不尽なお嬢様(転生前ディア視点)
コンコンッッ
「入室を許可するわ」
「ディア、おはよう。それと今日はディアの誕生日パーティーをする日だからね!!!」
「あの、ディブロお父様、ご機嫌な所悪いのですけど、『りんごが赤い』のようなことを言われても、わたくしにはちっとも響きませんわ」
朝早くに、寝ていたわたくしを起こして、余計な事を言ってくるディブロお父様に腹が立つ。
そもそも、今日はベルンルック公爵家の長女のわたくしが、この世に生まれた誕生日、それこそ、全員に泣いて祝われるのは当然でしょう。
「そ、それはそうなんだが……」
わたくしの言葉に、しどろもどろになるディブロお父様を見て、余計に腹が立つ。
「もう下がっていいですわよ」
これ以上、話をするとストレスが溜まるだけと判断したわたくしは、彼を部屋から退室させる。
ーーーー
コンコンッッ
「し、失礼いたします。ディアお嬢様、ロイヤルミルクティーをお持ちしました」
「そう。ロイヤルミルクティーには、ホットケーキが合うわね。頼めるかしら??」
ディブロお父様が退室して、ほんの少し時間が経過した頃に、あからさまにわたくしの顔色を窺いながら、メイドが入ってきた。
だから、わたくしはさっきのディブロお父様の会話で生じたストレスを発散するかのように、メイドへホットケーキををお願いする。
「か、かしこまりました」
その後、わたくしの頼みに全力で走り、なんとか間に合わせようと、無駄な努力をするメイドを心の中でほくそ笑む。
その理由は、どれだけ早く動こうが、スイーツを作り直しをさせる事が確定しているからだ。
これは、わたくしの溜まったストレスを発散する遊戯、それ以上でもそれ以下でもない。
「はぁっ……はぁっ……デ、ディアお嬢様、ホットケーキをお持ちしました」
「そう?感謝するわ。でも、わたくし、今はシュークリームが食べたい気分なの」
「……わ、分かりました」
目の前のメイドは他のメイドと違って、全力なだけに、ほんの少し罪悪感が湧きそうになるが、所詮は、平民のメイドである。
つまり、替えが効く存在でわたくしのような貴族のような子女とは別の存在だ。
だから、わたくしは容赦なく、ストレス発散の遊び道具にして、わたくしのためだけにある世界で、悠々自適な生活を送るつもりだった。
ーーーーー
「ここは………」
わたくしの誕生日パーティーの会場へ出席した所までは記憶にあった。
しかし、それ以降の記憶がない。だから、わたくしの身になにか起きたのだろうと考え、まずは自分がいる周囲を確認することにした。
「真っ暗闇の中……いいえ。奥の方に光る物がありますわね」
奥の方に視線をやると光が見えたため、わたくしはその場所へ移動する。
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光の示す場所の方へ移動すると、無数に液晶のような物があり、その液晶の1つに『誕生日パーティー』に参加しているわたくしがいた。
だから、そのままぼんやりと液晶の方を眺めていると、『誕生日パーティー』メイドが、液晶の中のわたくしに、ワインをかけたらしい。
「ってこれに映ってるのはわたくし!?せっかくのドレスにワインを掛けられてるじゃないの!!こんな事をしたメイドなんて極刑一択だわ!!」
液晶の中に自分がいることに疑問を持ちつつも、周りの人達へ聞こえないはずなのに、つい、いつもの癖で大きな声で怒鳴りつけてしまう。
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『そう…シンリー、怪我はなかった?』
『え?ええ』
『あなたのおかげで目が覚めましたの。どうか、あたしだけのメイドになりませんか?』
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しかし、液晶に映るわたくしはメイドを叱責するどころか、挙げ句の果てには感謝の言葉を述べわたくしの『専属メイド』にしようとしたのだ。
「あ、あんなのわたくしじゃないですわ!!偽物に決まってますの!!わたくしを返しなさいっっ!!」
この場所では液晶の向こうに、わたくしの言葉が届かない事を頭で理解していても、わたくしは大きな声で叫ばざる負えなかった。
ーーーーー
「これは……」
暫くの間、液晶の中にいるわたくしを見たくないと思ったため、他の液晶の方へ目を移す。
そうすると、たまたま見つけた液晶の中に、訳のわからない缶を片手に、見慣れない薄暗い部屋の中で、機械を触っている女性が映っていた。
なぜか、わたくしはその女性から目が放せなくなり、彼女の方を観察する。
『あー……ひくっ…………『セブン⭐︎プリンセス』のディアってどうせ死ぬ癖に、なんで攻略ルートの邪魔をするんかなぁ………ひくっ…』
そうすると酔った彼女の口から、わたくしの名前が聞こえてきた。だから、わたくしは女性が触ってる『機械』の画面を凝視する。
「嘘……どう言う事なの…。あの機械の中でわたくし達が動いていますわ……」
女性が操る機械を目にした瞬間、まるで、わたくしが歩んできたすべての人生が『誰か』の掌で運ばれた空虚な物のように感じてしまった。
それと同時に目の前の現実を受け入れられず、わたくしは呆然と立ち尽くすこととなる。
ーーーーー
『ひくっ……『ディア⭐︎DEATHズ』のくせに、お前はあたしの邪魔ばっかりしやがって……』
一体、あれからどれくらいの時が経過したのだろうか。結局、わたくしはこの訳のわからない空間に閉じ込められたまま、過ごし続けている。
その間、女性が操作する機械の画面ではわたくしが何度も敗北して死ぬ運命を辿り続けていた。
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『あの時、すごく嬉しかったの。だから、シンリーには、あたしの親衛隊隊長として、あたしの命尽きるまであたしの隣にいて欲しい。良ければ、あたしが授けるこの剣を受け取ってください』
『はい…。私の全てをディアお嬢様へ捧げます』
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その一方で、液晶に映る偽物のわたくしは、メイドだけではなく、訪れた村を含めて、誰からも好かれるような人物になっていた。
そんな偽物のわたくしを見て、自分の身体を取り戻した暁には、彼女が築き上げてきた全ての関係を壊してやるという復讐心が芽生える一方で、本当に復讐をすれば、機械で何度も目にした死を辿る可能性がある事に頭を悩ませる。
その結果、ジレンマを抱えながら、液晶に映る偽物のわたくしの観察を続ける事にした。
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『愛娘のディアがこんなにいい子に育った。私は胸を張って『セブンス学園』に送り出せる。今以上に幸せを望むと罰が降るだろう』
ディブロお父様がわたくしに見せてた笑顔ってこんなに眩しかったかしら……。
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『その分、ディアちゃんは、昔より泣くようになってしまったけどね』
ステラお母様っていつも、わたくしを見るたびに不安そうにしていらしたのに……。
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『それならば、『ベルンルックの女神様』、覚えて欲しい事がありますじゃ。それは、『イースト村』が誰よりも、味方だという事ですじゃ』
『最後に、『ベルンルック領の女神様』、伝え忘れておった。わたしゃら、『ウェスト』村もあなた様のためならば、戦う準備ができてるかえ』
『他の村でも聞いたかもしれないが、『ノース村』も、『ベルンルックの女神様』のためなら喜んで、力を貸すんだがな??』
『最後に『ベルンルックの女神』様、『サウス村』もあなた様のためならば、力になります。これから、私はベルンルック公爵様に相談がありますので終わるまでリラックスしてください』
随分と皮肉だわ……。わたくしなんて『理不尽の権化』なんて呼ばれ方をしていたのに……。
ーーーーー
そのままぼんやりと液晶を観察していると、偽物のわたくしは、本物のわたくしと異なり、無数の笑顔を咲かせ、誰からも慕われ、『ベルンルックの女神様』とまで呼ばれるようになっていた。
「なぜ、そこまで頑張るんですの??」
「なぜ、そこまで感謝するんですの??」
「なぜ、そこまで守ろうとするんですの??」
わたくしは液晶に映る偽物のわたくしの行動が気に入らず、憂さ晴らしをするかの如く、誰にも聞こえないと理解しながらも、敢えて、彼女を責めるような口調で疑問を声に出す。
しかし、そんな声に出した疑問とは裏腹に、液晶の偽物のわたくしが、これだけ必死に足掻こうとする理由が、定められた死の運命に抗おうとしているからという事をわたくしも心の中では、分かっていた。それでも、声に出さなければ、受け入れられなかったのだ。
きっと、わたくしならば、態度を改めなければ死ぬと頭で分かっていても、液晶に映る偽物のわたくしのような行動はできないだろう。
そして、自分にできないと気づいてしまったからこそ、偽物のわたくしが救ってきた『笑顔』を目の当たりにした瞬間、久しく、わたくしの瞳からポタポタと温かい雫が頬を伝うこととなった。
「あれ……おかしいですわね……」
誰に届く訳でもないのに言い訳をしつつ、止まらない頬から伝う雫を両手で拭い続けた。
ーーーー
「…………認めるしかありませんわね」
それ以降も、わたくしは、液晶に映る偽物のわたくしを観察し続ける。
隙あらば……なんて浅い考えもしていたが、『ハルデア皇大使殿下』に決闘で勝利した瞬間、そんな気も失せ、彼女へ未来を託す事を決めた。
「………悪くない気分ですわ」
液晶にいるわたくしに未来を託そうと思った瞬間、それまで苦しかった呪縛が一気に解けて行き、わたくしの本音が漏れてしまう。もちろん、わたくしの声が届くはずもない。それなのに、なぜか、この時ばかりは届いた気がした。
ーーーー
その日以降、他に映る液晶にも興味を持ち、観察する事にした。その中でも、いつも女性が飲んでいた変な缶に興味を抱く。
だから、無理だろうと思いつつ、心の中でよこしなさいと念じると、なぜか何もない暗闇の空間から変な缶が登場した。
カチッ
シュワワワ……
だから、わたくしは変な缶を手に持ち、液晶の女性がやっていたように缶を開け、口へ運ぶ。
「苦いけど、癖になりそうですわね」
予想していた味とは異なったが、飲み続けているうちに、なんだか気持ちよくなってしまい、たちまち、虜となってしまった。
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そして、変な缶にハマった後、他の液晶にちらっと映った『◯ーラー◯ーン』の漫画と呼ばれる物に興味を抱いて読んでみたり、無意識のうちにわたくしはこの空間でやりたい放題をしていた。
「この場所は、わたくしにとって天国ですわ!!!」
そうすると、つい最近まで憂鬱だった場所がすごく居心地が良くなり、寝転びながら、いつもの変な缶を飲み干し、『◯ーラー◯ーン』の漫画を読み、惰眠を貪る生活を謳歌することとなった。
ーーーー
暫く経過した頃、いつものように寝そべっていたはずのわたくしが、なんの因果か偽物だったわたくしに召喚されることとなった。
挙げ句の果てに、なぜかわたくしの視界の端には、変な数字と情報が並べられている。
その後、数字と情報を確認した瞬間、わたくしは『コノハ•クスノキ』として、必然的に死を辿る未来に抗おうとする目の前の『ディア•ベルンルック』を支えたいと心の底から願った。
『Lv500
名前:コノハ•クスノキ
称号:闇の魔女/超越者
状態:契約待/方法:口付けして光った後、宣誓
HP:50000
MP:150000
扱える闇魔法:ダークフレイム(極大)、ダークヒール(極大)、ダークシールド(極大)、ダークセイバー(極大)、ダークガードロス(極大)、ダークアタックロス(極大)、デストロイダークハンマー(極大)、ダークバインド(極大) 』
 




