『理不尽』と『感謝』の契約と口付け
「あなた、わたくしがなんて呼ばれてたのか、知ってますわよね??……………正気ですの??」
「今は、そんな事いいからっっ!!さっさと、契約の方法を教えてよ!!」
きっと『理不尽の限り』を尽くしてきた自分をディアなりに反省したのだろう。
ただ、あたしから言わせてもらえば、今の潮らしい彼女の方が不気味である。
それに加えて、こうしている間にもディアの身体が薄れているのだ。だから、あたしは彼女に大きな声で急かす事にした。
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「…………口付けと契約に関する宣誓ですわ」
そうすると、先程よりも顔を紅潮させた『ディア』が小さな声でモゾモゾと話す。
「ちょっと!!何言ってんのか聞こえないよ!!」
「だからぁぁ!!口付けと宣誓ですわよ!!!!契約方法として、わたくしの視界に記載されてますの!!!」
それってステータスの事じゃ……ってそんな場合じゃないよ!!契約方法が口付けと宣誓!?!?
今にも薄れかかっているディアへ大きな声で文句を言うと、トマトのように顔を真っ赤にした彼女が更に大きな声で、あたしに反論した。
そして、彼女から契約方法を聞いた瞬間、あたしも自分の体温が、まるで沸騰するヤカンのように、急速な温度で上昇していくのを感じる。
「ゴホンッ、しっかりなさい!!そもそも、あなたが聞いてきた事でしょう!!契約が成功した暁には、わたくし好みの腰置き馬に調教しますわ!!」
「な、なんて理不尽な……!?そもそも、『ディア』だって恥ずかしそうにしてたじゃん!!それと、あたしは馬じゃないもん!!」
あたしが『口付け』に対して、躊躇っているとディアが呆れた表情しながら『セブン⭐︎プリンセス』の時のような理不尽な事を言ってきた。
そんなディアの理不尽な物言いに、心のどこかで嬉しく思いながら、反論する。
「お、お黙りなさい!!!ほ、ほら、わたくしの身体をご覧なさい!!本当に時間が……んんっ」
あたしがディアの理不尽に反論すると、彼女が焦った表情をしつつ、理不尽に説教をしてきた。だから、あたしは踵を爪先立ちにした状態で、説教する彼女の唇へ蓋をする。
最初こそ、ディアは抵抗しようとしたが、あたしがそれ以上の力で抑え込む。
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ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ
冷静になって、落ち着こう。
あたしは前世の自分の身体へ、今のあたしの身体を密着させつつ、唇を重ねただけだ。
それなのに、まるで永遠と錯覚する程に長く感じ、あたしは胸のドキドキと鼓動の高鳴りをディアにバレないよう、隠すので精一杯だった。
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そうすると、突然、ディアの身体が黒色の状態のまま激しく発光を始める。
「『宣誓』するなら今ですわよ!!」
それと同時に、ディアは今が『宣誓』のタイミングだと教えてくれた。
「ディア、あたしの契約者となって、ディアの力をあたしに貸してちょうだい!!!」
だから、あたしはディアの目の前に右手を伸ばして、微笑みかけながら宣誓する。
「全く、わたくしの素性を知ってるのに、契約を頼まれるなんて思わなかったわ。そうね……。今後は『楠木葉』として、力を貸してあげるわ」
あたしの宣誓の後、『木葉』も宣誓すると、あたし達の身体が再び、暗雲に包まれる。
それと同時に、あたしが転生する前の『ディア•ベルンルック』の記憶や想いの全てが、あたしの中へ流れ込んでくることとなった。
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「………これで、契約は成功したの??」
「心配なら、自分の手の甲を見て確認する事ね。そんな事より、どう責任取るつもりかしら??」
「へ?」
あたしは『木葉』に言われて、自分の右手の甲をみると大きな黒色の星が刻印されていた。
心の中で、刻印された星をかっこいいと思ったのも束の間、なぜか、目の前の『木葉』から責任を追及されてしまい、情けない声が出てしまう。
「途中で、わたくしは抵抗しようとしたわよね?それなのに、口付けを辞めようとしなかった…!!これは、月に変わって皆殺し案件ですわ」
いや、そこは『月に変わってお仕置き』でしょ?なんで、バイオレンスな思考になるの!?!?
そんな風に心の中でツッコミながら、『木葉』の理不尽な責任追及の対策を頭の中で考える。
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「ファーストキスを奪った責任として、『バッドエンド』の運命を塗り替えて『木葉』と共に『ハッピーエンド』を掴むよ。これで、どうかな?」
その結果、あたしなりの責任の取り方を目の前の『木葉』に伝えると彼女の口角が上がった。
「それでいいわよ。でも、失敗したらあなたの黒歴史を新聞にして、この世界に広げるわね?」
卑劣!!極悪非道!!!無慈悲!!理不尽!!絶許!!!
意地悪そうな笑みを浮かべながら、悪魔のような脅迫をする木葉に、自分の心の中が大荒れとなり、つい、彼女に言い返しそうになる。
しかし、言い返せば言い返すほど、更なる理不尽があたしに襲いかかる可能性があるため、ギリギリの所で踏ん張ることにした。
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「あら、言い返さないの??それじゃ、わたくしは、あなたの記憶にある『◯ーラー◯ーン』の漫画の続きが気になるから戻るとするわね」
「一体、木葉はどこにいるのよ……」
「今のわたくしがいる場所は、あなたが目を背け続けているもう1人のあなたの精神の中よ」
目の前の木葉の回答を聞いた瞬間、あたしは目を伏せる。そして、この世界に転生したばかりの自分を頭の中で思い出した。
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『セブン⭐︎プリンセス』に転生してから、あたしは生き方を変えるため、『アル中』だった自分を捨てて、周囲に感謝から始めることにした。
そう。言い換えれば、あたしは前世の『楠木葉』の人格を捨てて、この世界で新たな『ディア•ベルンルック』の人格を作りあげたのだ。
つまり、彼女の口ぶりから察するに、『ディア•ベルンルック』の中には、常にあたしと言う人格がいるから、必然的に『木葉』は『アル中』だった前世の人格の記憶の中にいたのだろう。
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「そう言えば、わたくしもあなたの事で1点だけ、気になることがあったわ」
「えっと、何かな??」
理解はできるものの、木葉の回答にどう返そうかと迷っていた矢先、彼女が何かを思い出したかのように、あたしの方へ話しかけてきた。
そのため、あたしは彼女の方は聞き返す。
「あの3人の中の誰が本命なのかしら??」
「っぅ!?」
そうすると、木葉からデリカシーの欠片もない爆弾な質問が飛んでくることとなった。その結果、あたしはあからさまに動揺してしまう。
「ちなみに、わたくしは、あのメイドと睨んでいるわよ。あの主人公もシェフも捨て難いけど、ファーストキスもしてるだけあってあの子だわ!!」
「ごめん。やっぱり帰って!!!」
「………冗談ですわよ。だって、あなたの方は全員と付き合う気なのでしょう??応援してるわよ」
「っっぅぅ……ばかぁぁぁぁ!!」
そう言えば、あたしに木葉の記憶等が流れてきた時点で、彼女の方にも、あたしの想い等が筒抜けだったのだろう。
つまり、あたしが彼女から揶揄われたと理解して、木葉へ怒ろうとした瞬間、彼女はあたしの目の前から、既に消えていた。
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————困ったら、わたくしを呼ぶといいわ
————もうっ!!………次は許さないから!!
その後、呆然とあたしが屋上から見える雲1つない青空を眺めていると、どこからとなく声が聞こえてきたので、あたしはその声に返答する。
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「はぁっ…ディアお嬢様……!!探しましたよ!!」
「はぁ…はぁ…ディア様!!」
少し経過した頃、あたしが遅い事を心配したのか、シンリーとアルセラが荒い呼吸をしながら、屋上の方へ入ってきて、あたしの名前を呼ぶ。
「2人とも、心配かけさせてごめんね??今から魔法演習場に戻ろっか」
だから、あたしは2人へ振り返り、魔法演習場へ戻る事を提案する。
「ディアお嬢様、失礼ながらあの女性は……」
「残念だけど、彼女は消えちゃった」
その後、シンリーから質問されたため、あたしがありのままの事実を伝える。それなのに、シンリー達がジト目を送ってくるため、何度も説明しながら、魔法演習場へ戻ることとなった。




