『理不尽の権化』のディアと『感謝の公爵令嬢』のディア
最初からこの設定は考えていたため、実は、2章から伏線を撒いてました……。『ディア』はサブヒロイン以上のような立ち位置です。
「全員、集まってるなぁぁぁぁ…!!これより特別休暇前実技試験の説明を始めるぞぉぉぉ!!」
あたし達が屋上から魔法演習場へ移動して、少し経過した頃、ヒュートン先生が入ってきて、『特別休暇前実技試験』の開始が宣言された。
「まずは試験の内容だが、『ベルンルック公爵嬢』以外は、魔法を発現させる事だぞぉぉ」
「ヒュートン先生!!なぜ、あたしだけ試験の内容が違うんですか!!」
当然、あたしだけ他の生徒と試験内容が異なるなんて許せるはずがない!!だから、あたしはヒュートン先生が試験の説明している途中に割り込んで、クラスメイト達の前で猛抗議をする。
「もちろん、『決闘』の時に、多彩な闇魔法を発現させたからだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
しかし、そんなあたしの猛抗議は、ヒュートン先生の『正論』を前に、消え去る事となった。
「じゃ、1人ずつ名前を呼ぶから、名前を呼ばれた生徒は僕の近くで魔法を発現する事だぁぁ!!そして、合格した瞬間、『特別休暇』だぁぁぁ!!」
「やっと実家に帰れるわ……!!」
「僕もやりたい事が山積みなんだ…!!」
「この日のために魔法を続けてたんですもの」
ヒュートン先生がした説明に、他の生徒は大盛り上がりを示す一方で、あたしは口から魂が飛び出そうな状態になっていた。
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「えーと、ディア?きっと、実技試験のことなら大丈夫よ?ね?だから、戻ってきてちょうだい」
「サラ様の言う通りです!!ディア様が試験に落ちるはずがありません!!」
午後の試験が開始してから、ずっと放心しているあたしに近づき、アルセラとサラが元気づけようと声をかけてくれる。
「どうだか………」
「「ジーク様、今は黙っててください!!」」
「…………………でも、そんなこと言ってるけど、既にアルセラもサラも合格したよね??」
相変わらず、余計な事を言おうとしたジークへアルセラ達が口止めをするが、あたしはアルセラ達が早々に合格した事を知っている。
だから、あたしは、アルセラとサラの方へジト目を送りながら、質問した。
ちなみに、ジークも合格していて、あたしだけがまだ名前を呼ばれていない状況である。
恐らく、試験が別の内容な事を考えれば、あたしは最後に受けることになるだろう。
「わ、わたくしはアルセラ嬢から試験前に圧力を掛けられてて、仕方なくですわよ??」
「サラ様、私の名前を出すのは卑怯です!!サラ様だって、試験が終わった時に『余裕だったわ』って言ってたじゃないですか!!」
「なっ!?そ、それならば、アルセラ様もわたくしの感想に同意してましたわよね??」
あたしの質問に対して、視線を泳がせながらサラが言い訳をして、アルセラは反論する。その結果、あたしの目の前でアルセラvsサラの誰も得しない試合のゴングが鳴ることとなった。
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「最後にベルンルック公爵嬢ぉぉぉ」
アルセラvsサラの永遠に終わらない酷い試合を眺めていると、遂にヒュートン先生からあたしの名前が呼ばれることとなった。
「まずは、不安にさせてすまなかったぁぁぁ。しかし、ああでも言わなければ、他の生徒が納得しないと思ったんだぁぁぁぁ」
自分の名前を呼ばれたため、恐る恐るヒュートン先生の方へ移動する。そうすると、彼はあたしに対して、大きな声で謝罪した。
そんなヒュートン先生の姿勢を見て、あたしは彼の言葉の意味を考えて、理解する。
あたしは、3ヶ月前にハルデア皇大使殿下と激しい魔法の戦闘を繰り広げた。つまり、魔法実技試験の内容が他の生徒と同じような『魔法の発現』だと、文句の声が上がってもおかしくない。
だから、ヒュートン先生は、出席しているクラスメイト達がいる前で、大々的にあたしの試験の内容が異なる事を発表したのだろう。
「ヒュートン先生、事情は分かりましたが、あたしは実技試験で何をすればいいのでしょうか」
ただ、彼の事情を理解できても、実技試験の内容が別なのは事実だ。だから、あたしは試験の内容について、ヒュートン先生に質問をする。
「正直、合格にするつもりだが、苦手な魔法とかがあるならば、敢えてこの場で、僕がいる前で使って練習してみるのはどうだろうかぁぁぁぁ」
そんなあたしの質問に対して、ヒュートン先生は魔法演習場に残っている生徒達の様子を確認しながら、大きな声であたしの方へ提案した。
「それなら、苦手な魔法というより試した事がない魔法ならばあります。どうでしょうか??」
ヒュートン先生の提案を聞いた瞬間、自然と勇気が湧き出て、新しい一歩を進めと言わんばかりに、彼の言葉があたしの背中を押してくれる。
だから、あたしは自分のステータスに表示されていた魔法の説明を見て、触れないようにしていた闇魔法『ダークサモン』を使う事を提案した。
「もちろんだともぉぉぉ!!僕が付いているから安心して使うといいぃぃぃ!!」
ヒュートン先生は、あたしを安心させるかのように、自分の胸をポンっと叩きながら、大きな声であたしの提案を了承してくれる。
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「すーはーっ……闇魔法『ダークサモン』」
何これ……っっ!?全身に力が入らなっっ…
あたしがいつものように、詠唱すると魔法演習場が文字通り、暗雲に覆われ始める。
それと同時に、フルマラソンを走ったかのように、自分の身体が重く、すべての力が抜け切るかのような倦怠感と脱力感に蝕まれる事となった。
「こ、これは!?残っている生徒は、僕の周囲に集まるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ディアお嬢様ぁぁぁ!!」
「ディア様ぁぁぁ!!」
ヒュートン先生は大きな声で生徒を守ろうとしており、アルセラとサラはフラフラのあたしに気づいたのか、泣きそうな表情で駆け寄ってくる。
そんな2人に、あたしは大丈夫と伝えて、暗雲が消えるまで、警戒体制を続けた。
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そして、少し経過した頃、周囲の暗雲が消え去って行く中、ボサボサの黒髪を背中まで伸ばし、ノーメイクな状態の女性が姿を現す。
おまけに、女性の全身はクマの着ぐるみパジャマでエストロングゼロとを片手に持った……………前世のあたし事、『楠木葉』が寝そべった状態で姿を現した。
「今、わたくしは『◯ーラー◯ーン』の漫画を読んでた途中でしてよ!!って………!!もしかして、この世界のわたくしじゃないですの!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『ダークサモン』の闇の力を持つ者って黒歴史って事??もうわけがわかんないよっっ!!!
あたしは前世の自分が現れて、軽いパニック状態となり、大きな声で絶叫する。
しかも、アルコールで顔を紅潮させてるところまで、あたしと似ているのだ。
「ディアお嬢様!?この綺麗な女性は誰ですか!?」
「ディア様!?この方は…」
「ベルンルック公爵嬢、どうしたぁぁぁ」
「あたしに付いてきたら………ディブロお父様に言いつけるからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
シンリーやアルセラ、ヒュートン先生があたしの身を案じてくれるが、あたしからすれば、そんな悠長な事をしてる時間はない。
だから、ディブロお父様の名前を使ってその場にいたみんなを脅しつつ、フラフラだった身体を限界突破させたまま、気合と根性で前世の自分を人気のない場所へと連れ出すこととなった。
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「山ほど聞きたいことがあるけど、その前に、やらなければならない事があるからぁぁぁぁぁ!!」
結果、まずは中身が『ディア』と思しき、前世の姿をしたあたしのボサボサの髪をほぐしたり、顔を洗ったりして、最低限の外見を整える。
その後、いつものように屋上へ移動した。
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「わたくし、あなたの事を見てましたわよ」
「さっきまで、エストロングゼロを片手に『◯ーラー◯ーン』の漫画を読んでたのに!?!?」
『ディア』と思しき女性を屋上へ連れて行った後、何を話そうかと迷っていた矢先、彼女から話しかけてきた。
「ずっと見てる程、お人好しじゃないわ。そんな事、あなたが知ってるわよね??」
「うん。知ってるよ……。あれ?もしかしてだけど、あたしに時々、声をかけてくれたり等も『ディア』がやってくれてたの??」
———そうね…。悪くない気分だわ。
————悪くない気分よ
あたしは、たまに聞こえてきた声の正体が『ディア』かもしれないと思い、彼女へ質問する。
「ええ、その通りよ。他にもわたくしのことをボロクソに言ってくれていた事も知ってるわよ?」
やっ、やっぱりそう……ギクゥゥゥゥゥッッ
ディアの声だと判明して、嬉しくなったのも束の間、悪い笑みを浮かべたディアから、爆弾発言を受けて、身体中から冷や汗が止まらなくなる。
「残念、そろそろ時間みたいだわ……。一応、聞いておくけど、わたくしの事を知ってるあなたが、わたくしと契約なんてしないわよね??」
あたしがどのように彼女へ弁明するかを考えていると、少し悲しそうな表情をした『ディア』があたしの方へ問いかけてきた。実際、彼女の方を見ると、身体が薄く消え掛かっている。
「ちょっと、勝手に決めつけないでよ!!契約するわよ。で、あたしは何をしたらいいの??」
あたしが大きな声で契約すると言った瞬間、目の前にいた『ディア』が目を見開くと同時に、あからさまに動揺した。




