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2章EP 祝勝パーティー 後編

 あたしはディブロお父様からバトンを受け、『祝勝パーティー』の会場へ足を踏み入れる。


 ちなみに、あたしはエントランスから『祝勝パーティの会場』まで案内したものの、扉の前までであり、会場に入るのは初めての事だった。


 そんなあたしの視界に飛び込んできた光景は、笑顔と共に、盛大な拍手であたしを迎えてくれる参加者達の姿だった。


 あたしはそんな参加者達に手を振ったりしつつ、周囲を観察すると『祝勝パーティーの会場』には、『叙勲式』と同様、参加者の人数に合わせたテーブルと椅子が用意されているようだ。


 以前の『叙勲式』と少し違う点があるとすれば、最前列の席に、各村長やジーク達のような当家側が招待した人が座っている所だろう。


「ディア、こっちだよ」


 あたしが『祝勝パーティー』の会場を分析していると、ディブロお父様のあたしを呼ぶ声が聞こえてきたため、声のする方向へ移動する。


「ディブロお父様、お待たせしました」

「ディアは小さいからこの壇上に立って、みんなにスピーチするといいよ」


 事実だけど!?事実だけども!?


 ディブロお父様から小さいと言われた事に心のダメージを負いながら、あたしは彼の用意した壇上の上に立って話す事となった。

 

ーーーー


 コトンットンッ


 そのため、あたしはディブロお父様の用意した木製の壇上へ足を乗せ、改めて、上から周囲を確認する。その後、あたしは小さく深呼吸をした。


「先程、ベルンルック公爵よりご紹介に預かりましたディア•ベルンルックと申します。えー…そうですね。まずは、皆様が『祝勝パーティー』に参加してくれた事を、心から感謝いたします」


 深呼吸をした後、あたしは参加者の方々へ、改めて、自己紹介をする。そうすると、あたしの自己紹介に合わせて、『祝勝パーティー会場』の奥の方からクラシックの音楽が小さく流れ始めた。

 

「こんな機会もないので、皆様には、あたしの話を聞いていただければと思います。……まず、そもそも、あたしはこんな素晴らしい日を迎える事ができないまま、死を迎えると思っていました」


ーーー


 それにしても、これが夢ではなく、実際にあたしが『ディア•ベルンルック』へ転生しているならば、どこかで死ぬことは確定しているだろう。


 それならば、死ぬのは『あたし』だけでいい。


ーーーー


 せっかくできたあたしを思ってくれる家族

 仲良くなったシンリー

 これから先、出会う主人公や攻略対象達


 でも、みんな、3年以内に別れてしまうんだ。


 そう思うと、なぜ、あたしはこの世界に転生したのだろうと思い、涙が止まらなくなる。


ーーー


『ディア•ベルンルック』に転生したと分かった日、あたしは、何度も絶望した事を脳内で思い出しながら、ありのままの想いを伝える。


「どういう事かしら?」

「ディアお嬢様が死ぬ?冗談だろう?」

「しかし、あの表情、嘘はついてなさそうだ」


 あたしの言葉を聞いた『祝勝パーティー』の参加者の方達が、一気に騒がしくなる。主に、騒々しくなったのは、後ろの列の人達で、最前列の招待者は縦にこくりと頷いてくれていた。


「当時のあたしには、光が見えませんでした。そんな時、見習いだったメイドと出会うことになりました。きっと、あたしはそのメイドと出会えなかったら、『決闘』にも敗北していたでしょう」


 あたしが『ディア•ベルンルック』に転生してから、この世界に『色』を教えてくれたのは、誰でもない、シンリーである。


 振り返れば、シンリーが失態をしていなければ、今のありのままのあたしを貫けたのだろうか?『運命』に抗おうとできたのだろうか?


 ううん。あたしの事はあたしが知っている。


 きっと、抗おうともしなかっただろう。


「あたしからのお願いです。この『祝勝パーティー』を利用する形となりますが、皆様、どうか、そのメイドへ盛大な拍手をしてくれませんか?」


 だから、この『祝勝パーティー』を使って、普段、日の目を浴びない『シンリー』に少しでも恩返しをしたいと思い、参加者へお願いをする。


 パチッ

 パチパチッ

 パチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッ


 あたしの願いが通じたのか、『祝勝パーティーの会場』では、最初こそ、まばらだったが、最終的には、盛大な拍手が行われる事となった。


ーーーー


「そして、あたしがこの日を迎えれたのは、皆様、1人1人のおかげです。だから、今度は参加者同士で拍手を送り合いましょう!!!」


 シンリーの拍手が鳴り止んだ後、今度は参加者同士の拍手を提案する。


 もちろん、シンリーの出会いがあたしの運命を変えたのは紛う事なき事実だが、それだけではここまで辿り着けなかっただろう。


 あたし達が食べるための食料は?

 あたし達が食べるための料理は?

 ベルンルックの屋敷が綺麗なのは?

 あたし達が安心して暮らせるのは?


 例を挙げて行けば、キリがない。つまり、この場にいる参加者も警備をしている護衛兵も、誰もがあたしにとってかけがえのない存在なのだ。


 パチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッパチパチッ


 そうすると、そんなあたしの想いが通じたのか、参加者が互いに向けつつ、四方八方から盛大な拍手が湧き起こる事となった。


ーーーー


「最後に、あたしから一言ございます」


 盛大な拍手が鳴り止んだと同時に、あたしは参加者の人達に告知した後、深く深呼吸をして、大きな声を出す準備をする。


「みんな、今日まで本当の本当にありがとうううううう!!あたしはみんなの事が大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!さぁ、今日はもちろん、無礼講!!!みんなで、『祝勝パーティー』を楽しもう!!!!!!」


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


「「「「ディアお嬢様ぁ、万歳」」」」

「「「「ディアお嬢様ぁ、万歳」」」」


 あたしは最後に大きな声で、参加者に感謝を伝えると共に、『祝勝パーティー』の開始を宣言する。その瞬間、盛大な拍手と共に、『祝勝パーティー』に参加している全員から、あたしの名前が大きな声で何度もコールされる事となった。


 暫くの間、あたしは参加者へ手を横に振ったり笑顔を浮かべるような努力をしたが、途中で恥ずかしくなったあたしは、壇上から降りる。


 あたしが壇上から降りると、永遠に続くかと錯覚しそうになったコールも鳴り止んだ。


 そして、参加者達は、自由行動を取るようになり、周囲と話を楽しむ者や料理を手に取る者等で各々の行動に別れる事となった。


ーーーーー


「ディアらしくて、気持ちのいいスピーチだったよ。後は、私に任せて自由に回るといいさ」


『祝勝パーティー』の参加者の行動を見送った後、付近にいたディブロお父様によって、あたしは自由行動が許可される事となった。


ーーーーー


「ディアお嬢様……!!」

「ディア様…!!」

「…………………ディアお嬢様」


 ディブロお父様から自由行動が許可され、シンリー達の方へ合流するために移動しようとした。


 その時、シンリー達のあたしの名前を呼ぶ声が聞こえてきて、声のする方向へ振り返る。


 そうすると、あたしの視界には、普段着とは異なる3人の姿が飛び込んできた。


 まず、シンリーは向日葵のような黄色のドレスを着用しており、いつものポニーテールではなく肩までストレートに伸ばしている。


 次にパタリーシェフはエメラルドを彷彿とさせるかのように、鮮やかな緑色のドレスを着用していて、髪型もシニヨンになっていた。


 最後にアルセラは満開の桜を彷彿とさせるかのような桃色のドレスを着用しており、彼女も髪をツインテールからストレートへ伸ばしていた。


「おわっ!?」


『祝勝パーティー』の会場で、そんな3人の容姿に見惚れていると、どうやら、あたしに気づいたのか、彼女達が飛びついてくる。


 もちろん、『祝勝パーティー』で音を立てて、倒れるなんて、たまったもんじゃない!!と考えたあたしは、必死に後ろへ倒れないよう、限界を超えたその先の力であたしは踏ん張る事となった。


ーーーー


「ディアお嬢様、さっきのスピーチ、すごく感動しました!!もう、結婚したいくらいです!!」

「ディア様!!どうして、シンリー様を贔屓したのでしょうか!!納得できません!!」

「……………………許せない」


 その後、シンリーがあたしの話を褒め称えながら、なぜか、求婚を申し込んでくる一方で、アルセラとパタリーシェフは自分の出番がなかった事に、頬を膨らませてあたしに怒ってくる。


 別に、あたしとしては、シンリーを贔屓したわけではない。しかし、この世界のあたしの今があるのは、彼女と衝撃的な出会いのおかげである。


「えーと、次にあたしがみんなの前で話す事があれば、アルセラとパタリーシェフの話も出すから、その、今回は許してね?」


 ただ、シンリーしか取り上げなかった事は事実のため、あたしはそっぽを向いて拗ねるアルセラとパタリーシェフを全力で宥める事にした。


「………ディア様、今回だけですよ?」

「……………………仕方ない」

「それよりディアお嬢様、私達の事はいいですから、他の方々の元へ行ってください」


 アルセラとパタリーシェフから許してもらった後、シンリーから背中を押された事で、半ば強制的に他の人達の所へ移動する事となった。


ーーーーー


「わしは、ベルンルックの女神様らしい素晴らしいスピーチだったと思うのじゃ」

「ルキナもそー思う!!」

「ふぇっふぇっふぇっ…歳はいかんね。涙がもろうなってるかえ…」

「ベルンルックの女神様!!僕、感動したよ!!」


『祝勝パーティーの会場』を歩き回っていると、ゾル村長とルキナちゃん、リア村長とスイレン君のそれぞれから話しかけられる事となった。


 ちなみに、参加者のゾル村長達も『祝勝パーティー』に合わせた服装をしている。


「ありがとうございます。でも、あたしの今があるのは、第一に『イースト村』の人達と『ウェスト村』の人達の理解があったからです」


 実際、あたしの『ディア•ベルンルック』の出発点が『イースト村』や『ウェスト村』でなければ、こんなにも順調にいかなかったと思う。だから、4人へあたしなりに感謝してお辞儀をする。


「リア村長、聞いたか?わしらが同じ歳の頃は、到底こんな考え、できなかったのじゃがな」

「ふぇっふぇっふぇっ……無理だねぇ。でも、わたしゃは、そんな事より『迷い』が消えたようで、その事について安心したかえ」

「ええ。あたしの中にあった『迷い』はあたしにいる心温かい人達のおかげで消えました。それでは、私は他の方の挨拶に行ってきますね」


 きっと、ゾル村長やリア村長には、あたしの『弱さ』がバレていたんだと思う。そんなあたしの返答にゾル村長達は、満足そうに頷いていた。


ーーーーーー


「ディアお嬢様、さっきのスピーチ良かったぞ。アンリエッタもそう思うだろう??」

「あたいなんて号泣してしまったねぇ」

「ディアお嬢様…!!先程のスピーチ、私の心に響き渡りましたっっ!!」


 次にあたしが『祝勝パーティー』の会場を移動していると、ノース村のラース村長と彼の付き添いのアンリエッタさんと、サウス村のアイリー村長から話しかけられる事となった。


「ラース村長、アンリエッタさん、アイリー村長、ありがとうございますっ!!」

「俺達の方もこのような晴れ舞台に贈ったドレスを着てくれた事、嬉しく思うぞ。改めて、これからよろしく頼む」


 ラース村長に感謝を伝えつつ、あたしは3人と握手を交わした。その後、あたしは他の人達の方へ移動する事となる。


ーーーー


「実にディアらしい挨拶だったな」

「わたくしは良き友人を持てて誇らしいですわ」

「ディア様ー!!探しましたー!!」

「2人ともありが……うぐっ…!!」


 次に、あたしが『祝勝パーティーの会場』を回っていると、ジークやサラ達と会う事となった。


 そして、彼等もあたしのスピーチを手放しで褒めてくれる。いや、ジークの場合、褒めてると言っていいのか、甚だ疑問に感じるが、その点はあまり、気にしない方がいいだろう。


 そんな2人に感謝を伝えようとした瞬間、あたしはシルヴィアさんに抱きつかれる事となった。


「ディアお嬢様…!!やはり、様子を見に行ってて正解でした。今、助けに行きます」

「ディア様、じっとしててください…!!」

「………………………強敵」


 シルヴィアさんに抱きつかれていると、挨拶回りをしているあたしを追ってきたのか、再び、シンリー達が参戦して現場は混沌と化する。


 その結果、あたし達は、シルヴィアさんvsシンリー達を傍目に、『祝勝パーティー』の料理等を思う存分に満喫する事となった。


 そうすると、いつの間にか、『祝勝パーティー』は終わりを迎える事となる。


ーーーーー


 ————悪くない気分よ


『祝勝パーティー』が終わる直前、周囲に満面の笑みを浮かべて楽しそうにしている人達を前に、どこからとなく声が聞こえてきた気がした。


 ————これが今のあたしだよ。


 だから、あたしも心の中で誰に聞かせる訳でもなく、どこかに返答をした。


ーーーーー

(????)


「『ディア•ベルンルック』程の才を持つ人間を見た事がない……!!それ故に、その才能を使いこなせないから、僕の魅力に気づけないんだ…!!」


 薄暗い部屋の中、1人の男は『ディア•ベルンルック』の肖像画の前に立ち、両腕を広げて、大きな声で語っている。


「つまり、君は被害者で可哀想な人だ!!だから、僕が()()()()()使()()()()、君を救って目覚めさせなければならないんだ…!!僕の痛みを分かち会える友よ、君もそう思うだろう??」


 電気も付けない薄暗い部屋の中、男は()()()に同意を求めていた。


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