2章EP 祝勝パーティー中編
「……………っ?!ご機嫌よう、シュミレット辺境伯子息様、本日は、当家の『祝勝パーティー』にご参加くださり、ありがとうございます」
エントランスへ入ってきたジーク達にあたしは、不覚にも彼らの姿に見惚れてしまい、反応が少し遅れてしまう。
まず、3人の中の中央にいるジークは、紅蓮のマントを背に羽織り、白色のジャケットとズボン、最後に茶色のブーツを着こなしていた。
正直、普段のセブンス学園で目にする彼の格好とは思えない程のセンスのあるスタイルである。
そんな普段と異なるジークだけでも驚愕してしまうのに、残り2人の容姿レベルも高いのだ。
1人目は純白の髪に桜色の髪飾りを前髪に留めた背丈が高いメイドさんである。
2人目は日本の侍を彷彿とさせるかのような甲冑を身に纏うワイルド系の護衛の男性だった。
ーーーー
「なんだ?こちらをジロジロと見るのではない。それとも、私達は変質者に呼ばれたのか??」
あー…ないわ。ナイナイ。不覚にも一瞬だけトキメかけたけど、うん。ナイわ。
この男は、人の神経を逆撫でしなければ、生きていけないのか?って疑いたくなるような物言いにあたしが、反論しようとした時だった。
「いでで…シルヴィア、止せ」
「いいえ。ジーク御坊ちゃま、主君にそんな言葉を使うべきじゃありません」
あたし達の目の前にもかかわらず、シルヴィアと呼ばれたメイドさんがジークのブーツを踏んで、彼に説教を始めたのだ。
「ディア殿、ジーク様とシルヴィアのやり取りは、気にしなくてよいでござる」
「え?ああ、どうも」
そうすると、ワイルド系の護衛が親切に、あたしの方へジーク達の方を説明してくれる。
「名乗りを忘れるとは、失礼したでござる。我はイエナリでござる。ジーク様へ仕えてる身だが、貴殿がジーク様が所属する主君でござるか?」
「えっと……うーん、主君というか、まぁ、ジークはあたしの派閥に入ってるね」
一方で、イエナリと呼ばれたワイルド系の護衛が自己紹介後、質問してきたので回答しておく。
それにしても、『シルヴィア』と『イエナリ』と呼ばれた人達は『セブン⭐︎プリンセス』で、見たことのない『濃いキャラクター』達である。
それと、シルヴィアさんとイエナリさんのジークと接する態度を見ていると、言葉では言い表せない違和感があたしの中で生まれる事となった。
「ディアの側近に似ているだろう?」
自分が抱く違和感に首を傾げていると、ジークは含んだ笑みを浮かべ、あたしへ質問してくる。
「言われてみれば、確かに?」
「なに、簡単な話だ。つまり、私はディアの真似をしただけだ。シュミレット辺境伯領の民の中から優秀な者や忠誠心が高い者を部下にしたのだ」
ジークの言葉を聞いた瞬間、あたしの中にあった違和感が解けて行く気がした。
シルヴィアさんは主君であるジークに説教したり、イエナリさんも、独断であたしの方へ自己紹介をした後、質問していた。
つまり、この世界の貴族の常識に沿えば、本来、シルヴィアさん達のような自由な行動は許されない事のはずなのだ。
「なるほど……感想は?」
だから、あたしは2人に違和感を抱いていたのか、と納得すると同時にジークへ質問する。
「時に腹立たしくもあるが、悪くない気分だな」
そうするとジークの方からぶっきらぼうな回答が返ってくる。相変わらずのツンデレだなぁと思いながら、彼の返答へ、縦にこくりと頷いた。
ーーーー
「ご挨拶が遅れました。ディア•ベルンルック様ですね?私はシルヴィアと申します。いつも、あなた様を遠くから、見守らせていただきました」
あたしはシルヴィアさんの自己紹介を聞いて、ジークの使用人が彼女だと理解した。
それと同時に、『セブンス学園』で情報収集する時の彼女は、今の容姿と異なる事も推測する。
「シルヴィア様、お初にお目にかかりますってええええ!?い、いきなりなにを…!?」
あたしがシルヴィアさんへ、挨拶を返そうとした瞬間、彼女から抱きしめられることとなった。
それも、かなり強い力である。
「言い忘れていたが、シルヴィアは、ディアの熱烈なファンでガチ恋勢だぞ」
ちょ、おま…!!せっかくの『祝勝パーティー』で修羅場を引き起こす気か!?さっきのルキナちゃんでさえ、危なかったのに…!!
ジークが無責任にした補足説明に、心の中で彼に恨みを放つ合間にも、あたしは、シルヴィアさんから全力で抱きしめられることとなった。
ーーーー
「シルヴィア様、そろそろ『私のディア様』を離していただけませんか??」
「えぇー…アルセラ様?普段、私はディア様を遠くから見守ることしかできないんです。今くらい、譲ってくださってもいいじゃないですか」
そして、とうとう我慢の限界が来たのか、隣のアルセラがシルヴィアさんの腕を掴んで離そうとする。当然、目の前のアルセラは、ルキナちゃんの時以上の漆黒のオーラを纏わせていた。
しかし、シルヴィアさんは、当たり前のようにアルセラの事も熟知しているようで、平然と彼女の頼みを拒絶する。
「ディアお嬢様、本日の招待客はこれで終わりですので………へぇ」
アルセラvsシルヴィアさんの開始直後、外からシンリーが戻ってきて、あたしに招待客に関する報告しようとした時だった。
シンリーは報告の途中でシルヴィアさんから抱きしめられるあたしに気づいたのか、彼女も当たり前のように、アルセラと同じ漆黒のオーラを纏わせた後、アルセラの方へ加勢する。
ーーーーー
その結果、アルセラとシンリーvsシルヴィアの陰湿な戦いの火蓋が切られる事となった。
ーーー
最初はジークの命で情報収集していたシルヴィアさんがシンリーとアルセラの暴露をした事で優勢だったが、2人は過去のジークによる暴露により、多少の耐性がある。
もちろん、それでも彼女達へ、かなりのダメージは入るが、暴露が決定打にはならなかった。
その後、アルセラとシンリーが攻勢に転じる形となり、あたしと毎日寝てる事等で、シルヴィアさんへマウントを取り始めたのだ。
どうやら、シルヴィアさんにとって、彼女達のマウントは効果抜群だったらしく、最終的には、お互いがそこそこのダメージを負う痛み分けという結果で終わりを迎える事となった。
ーーーー
「……………ジーク、ごめん。案内の方が遅くなったけど、今からするね?」
「………いや、私の方もすまなかった」
「「はぁ…」」
あたしが申し訳なさそうに、ジークに軽く謝罪をして、案内の続きをしようとすると、彼の方も目を伏せてあたしの方へ謝罪する。
そして、シンリー達を見てあたしは額に手を当てつつ、ため息を吐くと、ジークのため息とタイミングが一致する事となった。
「「「ディア(お嬢)様、なんで、そんな男と一緒にため息ついてるんですか」」」
いやいや、なんで、シンリーとアルセラと共に、シルヴィアさんもハモってるの!?!?
心の中でシルヴィアさんにツッコミを入れつつも、あたしが口に出せば、現状以上に面倒な事態になる事は容易に想像できる。
そのため、軽く受け流した後、ジーク達を『祝勝パーティー』の会場へ案内した。
ーーーーーー
「ディブロお父様、『祝勝パーティー』の招待客の案内を無事に終えました」
シンリーとアルセラはジークと共に、『祝勝パーティー』の会場の中に入っている。
つまり、ジーク達を見送った後、あたしだけがディブロお父様の執務室へ移動したのだ。
もちろん、その理由はあたしが『祝勝パーティー』の挨拶をしなければいけないからである。
「ディア、今日の『祝勝パーティー』には招待客と当家の警備の任に当たっている護衛兵と一部のシェフ以外の全員が参加しているよ」
「そうなんですね。今頃は、全員が『祝勝パーティーの会場』の中に入ってるんですか??」
「その通りさ。だから、あまり参加者を待たせるわけにはいかない。私が軽く挨拶をしたら、ディアに挨拶を変わるから想いのまま話すといいよ」
いやいや、想いのまま話すって、そんなアバウトな指示がある!?たった今、起きたんだけど!!
あたしが心の中で、ディブロお父様の言葉に、ツッコミを入れている合間に、彼はあたしの手を引いて、2Fの『祝勝パーティー』の会場の扉の前へ移動した。
ーーーーー
「私がディアの名前を呼んだ時に、『祝勝パーティー』の会場に入ってくるといいさ」
「ちょっと、あたしは本当に自信がなくて…」
「うまくできなくても、私がフォローしよう。なに、ディアは私の自慢の娘なんだ」
あたしの身体を持ち上げ、視線を合わせながらディブロお父様は真っ直ぐな言葉を伝えてくる。
「も、もうっ……!!」
「いだだだだ……」
ディブロお父様の言葉が照れ臭く感じてしまい、あたしは彼の腰をつねる。
「ディブロお父様のおたんこなすですわ!!」
「ふふっ、今となっては、その怒り方がすごく懐かしく感じるよ。じゃあ、行ってくるね」
あたしがディブロお父様に怒ると、彼はあたしの言葉を聞いて、懐かしそうな笑みを浮かべた後、『祝勝パーティーの会場』に入った。
ーーーーーー
『この度は、ベルンルック公爵家に集まってくれた事を誠に感謝するよ。本日の『祝勝パーティー』の司会を務めるディブロ•ベルンルックだ』
あたしはディブロお父様が入った後、『祝勝パーティー』の会場の扉へ、耳を押し当て、彼の挨拶を聞くことにした。
ディブロお父様は慣れているのか、手際よく、『祝勝パーティー』に参加しているみんなへ挨拶すると、会場内から大きな拍手が湧き起こる。
『この『祝勝パーティー』は愛娘のディアが『ハルデア皇太子殿下』に決闘で勝利したことを記念に開催しているんだ。早速だが、私の愛娘のディアに入ってもらい、挨拶をしてもらうとしよう』
ディブロお父様は文字通り、簡易的な挨拶をした後、即座にあたしの方へバトンを渡してきた。
そんな彼の言葉を聞いた後、『祝勝パーティー会場』の扉の前であたしはゆっくりと深呼吸をする。そして、ゴクリッと息を呑んだ後、『祝勝パーティーの会場』へ入室することにした。




