2章EP 祝勝パーティー 前編
ジークとサラとウィスを当家の『祝勝パーティー』へ招待してから、月日が経過して、今日は当家で開催される日だ。
そして、現在、あたしが立つ場所はベルンルック家のエントランスである。
つまり、あたしは招待客を『祝勝パーティー』の会場へ案内するのが役目なのだ。
こうなった経緯について、時は少し遡る。
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『祝勝パーティー』の前日、ディブロお父様とステラお母様によって、当家の幹部と呼ぶべき人達が集められていた。
まずは、護衛部門から、あたしの親衛隊のロンとアース、護衛兵の隊長のアイザックさんと副隊長のシュナイダーさんが呼ばれたようだ。
ちなみに、ロンとアースはアイザックさんとシュナイダーさんを前に全身を震わせている。
次に、料理部門のジェフル料理長とパタリーシェフが呼ばれたようで、最後にあたしの側近としてシンリーとアルセラが出席することとなった。
「いよいよ、明日は待ちに待った『祝勝パーティー』の日だ。当家はディアが3歳になってから、他の貴族を招待することができなかった」
「ええ。あの頃のディアちゃんに会わせる訳にはいかなかったですもの」
グサッ
なぜだろうか。絶対に、あたしは悪くないはずだ。それなのに、ディブロお父様達の話を聞くと、謎の罪悪感と共に心にナイフが刺さる。
「ガハッハッハッ、懐かしいですなぁ。吾輩もお嬢様には、散々な目に遭わされましたわい」
「アイザック隊長、ベルンルック公爵様の御前ですよ、発言にお気をつけてください」
「ガハッハッハッ、シュナイダー、この御仁がそんな事、気になさるはずなかろう」
グサッ グサッ
それに加えて、あたしが転生する前の『ディア•ベルンルック』は、強面のアイザック隊長を相手に、何かをやらかしていたらしい。その結果、あたしの心に2本のナイフが刺さる事となった。
「こっちも『理不尽の権化』には、散々手を焼かされたぜ……。なぁ?パタリー」
「……………………う、うん」
グサァァァッッッ
更に、ジェフル料理長とパタリーシェフまでもがアイザック隊長達の会話に参戦した。
一方でパタリーシェフはあたしの方をチラリと様子を窺っている様子だった。しかし、あっさりと師匠の言葉に同意した結果、あたしの心に刃物が何本も刺さる事となった。
「昔は知らないが、今のディアお嬢様もなかなかだぜ??勝手に気絶するまで魔法の鍛錬したり、『ハルデア皇太子殿下』と勝手に決闘したりな」
「あははは!!実質、僕たちよりも強いよねー!!それに、相談なくて無茶ばっかりするし!!」
グサァァァァァァァッッッ
ロンとアースによって暴露された結果、あたしの心のライフは0になりかける。
「あ、あの、皆様、ディアお嬢様が瀕死ですので、そろそろ本題に入りませんか??」
最終的に、シンリーの提案により、『ディア•ベルンルックの被害者会』が終わる事となった。
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「そうだね。ディアの件は後日に回すとして、ここに集まってもらったのは『祝勝パーティー』の役割を決めておこうと思ってね」
え??ディブロお父様、後日に回すの!?あたしの残りHPはもう0よ!!
心の中で悲鳴を叫びつつも、声には出さないように、この場では堪えることにした。
「ガハッハッハッ、それならば、吾輩達は、シュナイダーの部隊と分けて護衛でもしておくわい」
「そうだね。元々、アイザック隊長達には護衛を任せるつもりだったよ。それとロンとアースは、彼等が率いる部隊についてくれるかい?」
どうやら、いつもあたしを護衛していたロンとアースだが、『祝勝パーティー』では、当家の護衛兵達に混ざって、屋敷を警備するらしい。
「わ、分かった」
「あははは……はいー」
ロンとアースはすごく嫌そうな表情をしながら、返事をしている。
ガシッ
「ガハッハッハッ、なあに、訓練より警備の方が楽じゃわい」
そんなロンとアースにアイザック隊長が彼等の席の方へ移動し、豪快に笑いながら鼓舞した。
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「次に料理部門だが、ジェフル料理長、腕は鈍ってないかい??」
「お言葉だが、以前よりも自信あるぜ…。それに、愛弟子の晴れ舞台だしな」
「…………………僕はディアお嬢様といたい」
ジェフル料理長は、ディブロお父様の言葉に腕を捲り上げアピールしているが、パタリーシェフのモチベーションはすごく低いらしい。
その結果、彼女の言葉に、ジェフル料理長は驚きすぎるあまり口を開けたままになり、ディブロお父様達も驚愕の表情を示している。
「パタリーシェフ、あたしの大事な友達が『祝勝パーティー』に来るの…。その時に、あたしはあたしだけの『シェフ』って自慢したい…かな?」
なぜ、彼女の料理に関するモチベーションが低いのか、分からない。でも、あたしはジークやサラに、パタリーシェフが凄いことを自慢したいし、何より、彼女の料理をあたしが口にしたい。
だから、あたしはありのままの想いを彼女に伝てみるが、最後の方に恥ずかしくなり、声が小さくなって、途切れてしまった。
「弟子よ、愛しの姫様がそういってんぜ?」
「……………………うん。僕、頑張る」
「ディアお嬢様を愛しの姫様!?!?許しません!!」
「ええ。私達は『ディア様の嫁1号』と『ディア様の嫁2号』って呼ばれているんですから」
「……………………っぷ。ロボットみたい」
当然のように、ディブロお父様達がいるにもかかわらず、シンリーとアルセラがジェフル料理長の言葉へ噛みついた。
そして、ジークからもらった不名誉極まりないニックネームで、マウントを取ろうとしたようだが、パタリーシェフから一蹴されてしまう。
その結果、シンリーとアルセラ以外から大きな笑いが生じる事となった。
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「なんたる屈辱…!!あの、ディアお嬢様にまで笑われてしまうとは…!!」
「ディア様にだけは笑われたくありませんでしたね。しかし、ロボットとは的確な表情でした…」
「ええ。その点は認めざるおえません。とりあえず、呼び方の変更を求めましょう!!」
結果、パタリーシェフのモチベーションの問題は解決した。しかし、その一方で、みんなから笑われたシンリーとアルセラが悔しがる表情をしながら、小さな声で、またもや何かを企んでいた。
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「最後にディア達の仕事だが、当家に訪れたゲスト達の案内を頼めるかい??」
「え?そんな大役を務めれませんよ…」
みんなが落ち着いた頃、漸く、ディブロお父様から、あたし達の役割が発表される事となる。
てっきり、あたしとしては、『祝勝パーティー』の準備の指揮くらいだと思っていた。
しかし、予想に反して、ゲストの案内を任される事となり、あたしは拒否をしようとする。
「いやいや、ディアには、これ以外に祝勝パーティー開催の宣言も頼むんだからね?」
「はっ!!!!!」
「ディアちゃんの『祝勝パーティー』だもの」
これ以降、あたしが何を言っても自分の役割が覆ることはなかった。その結果、あたしはディブロお父様からの提案を受け入れる事となる。
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こうして、現在に至り、あたしとアルセラは招待客がベルンルックの屋敷に訪れるのを待っているのだ。ちなみに、シンリーは外で、来客が到着したら、あたし達に知らせるのが役割である。
「ディアお嬢様、パーティー招待客の『サラ•マンドール子爵嬢の御一行』が到着しました」
「通してちょうだい!!」
パタンッ
あたしの言葉を聴いて、エントランスの扉に控えていたメイド達が扉を開ける。
そこにいたのは、サラとウィスの他に護衛兵の数人が立っていた。
ちなみに、中心にいるサラの外見は、『セブンス学園』で着ていたドレスよりも、高そうな純白のドレスを身に纏っている。
もちろん、ドレスだけではなく、サイドテールにしていた髪型もハーフアップになっており、後ろの髪留めが銀色の蝶がうっすらと見えた。
「ご機嫌よう、ベルンルック公爵嬢。今日のような素晴らしい宴へ、わたくしを招いてくださった事、心から感謝いたしますわ」
「ご機嫌よう、マンドール子爵嬢、当家の招待に応じて、来てくれた事を心より感謝します。それでは、お手を、会場までご案内いたしましょう」
そんなサラは慣れた動作であたしの方へ近づくと、挨拶をした後、カーテシーをする。
とりあえず、あたしも同じような言葉を使いながら、サラに倣い、カーテシーをした後、彼女の正面にあたしの右手を差し出す。
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「ふふっ、ディアってこういうの初めてなんでしょう?それにしては上出来だと思いますわ」
「それはどうもっ!!」
エントランスからパーティー会場へ移動中、サラに揶揄われながら、あたしは移動した。
「それでは、マンドール子爵嬢、ここで『祝勝パーティー』が始まるのをお待ちください」
そして、あたしは次の招待客が来ないよう、足早にエントランスへ戻る。
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「ディアお嬢様、パーティー招待客の各村の村長の御一行が到着いたしました」
「通してちょうだい!!」
パタンッ
あたしの言葉を聴いたエントランスの扉に控えていたメイド達が扉を開ける。そうすると、ゾル村長達が笑顔を浮かべて、入ってきた。
「ご機嫌よう。皆様、当家の招待に応じて、来てくださった事を心より感謝します。それではパーティー会場の方へご案内致しましょう」
「可愛いお姉ちゃーん!!!!!」
「ル、ルキナちゃん!?」
あたしがカーテシーをしながら、ゾル村長達へ挨拶をすると、ゾル村長の孫のルキナちゃんが大きな声と共に、あたしの方へ抱きついてきた。
「可愛いお姉ちゃんの嘘つき!!ルキナに会いに来なかった。だから、けっこんね!!」
「えーと……その、ルキナちゃんが大きくなって、気持ちが変わらなかったら、ね?」
「ルキナ、言質取った!!!」
言質……!?
え?その歳でそんな難しい単語知ってるの!?
隣のアルセラの方を見ると、彼女から漆黒のオーラが見えた気がして、急遽、あたしはゾル村長達の案内を急いで行うことにした。
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「ディア様、ルキナ様との件で私達からたっぷりのお話がありますから」
招待客リストに、到着したゲストの名前を記入しているアルセラが案内から戻ってきたあたしに、感情のない声で話しかけてきた。
「えっと、まさか…??」
「ええ。速攻で、シンリー様とパタリー様に情報を共有させていただきました」
あたしは。アルセラの言葉を聴いて、地獄が確定した瞬間、床へ膝をつく。
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「ディアお嬢様、最後のパーティー招待客の1人、『ジーク•シュミレット辺境伯』の御一行が到着しました」
あたしが床に膝を突いてから、少し時間が経過した頃、漸く、ジーク達が到着したようだ。
「通してちょうだい!!」
そして、あたしの言葉を聴いて、エントランスの扉に控えていたメイド達が扉を開ける。そうすると、ジークと見知らぬ2人が入ってきた。




