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『デレツン』『親衛隊』

「それでは私達も寝ましょうか」

「ええ」

「…………………………うん」


 シンリー達があたしに気を遣ってくれているのだろうか、いつも、あたしの隣や下で寝る事を競っていたのに、離れて眠ろうとしている。


「えっと…」

「ディアお嬢様、私達だって場を弁えています」

「ディア様、今日くらいお休みください」

「…………………おやすみ」


 べ、べ、別にあたしがシンリー達と寝れなくて寂しいとか、そう言うわけじゃないしっ!???


 必死に心の中で強がりながらも、自分からシンリー達に甘えるのは負けだと唱え続けて、目を瞑って無理やり寝ようとする。


 しかし。眠れない!!!


「その、あたしに近づかなくて本当にいいの?」

「ええ」

「ディア様が私達に気遣いを!?ありがとございます。でも、大丈夫です」

「…………………今日くらい休む」


 そ、そーですかっ!!

 そ、そーさせてもらいます!!


 シンリー達に尋ねても、あたしの方へ近づく気配がなかったので、質問をすると、彼女達から先ほどと同じような回答が返ってきた。


 絶対に自分からは甘えないぞと決めた手前、あたしはなんとか眠るために目を瞑る。


 しかし、眠れない!!


「そ、その、本当の本当に……あたしの近くで寝なくても良いの??」

「はい。ディアお嬢様、今日は特別です」

「だから、ディア様、早くお眠りになってください」

「………………………おやすみ」


 な、なんで、こんな時だけ!?

 ぐっすり寝たい時は、甘えてくるのに!?

 いっそ、自分から甘えるか??

 それは、それで敗北感が……


 あたしは目を瞑りながら頭の中で、どうするかについて考える。


ーーーーーー


「さ、さみしいの…」


 その結果、無意識のうちにあたしは、シンリー達へ甘えるような言葉を出してしまっていた。


「ち、ち、ちが…っっ、今のは間違いでっ…」


 あたしは無意識に甘えていた事を自覚した瞬間、即座に否定しようとする。


「私のディアお嬢様っっ!!ええ。ええ。是非とも、今宵も一緒に寝ましょう」

「私だけのディア様!!お待たせしました。さあ、準備は整っています」

「……………僕のディアお嬢様、一緒に寝よう」


 あたしが否定をした数瞬後、3人が連携するかの如く、シンリーがあたしの下に潜り込み、パタリーシェフとアルセラが両腕に抱きついてきた。


「もうっ……!!3人共バカだよ……………でも、あたしもバカ…………」

「寂しがりやで『デレツン』のディアお嬢様…!!なんて、お可愛い!!!」

「ディア様の『デレツン』ってレアですよね。脳内メモリーに永遠に保存しなくては………」

「………………………唯一無二の女神!!」


 くだらないと思ってた寝る場所争いに、巻き込まれるうち、あたしはシンリー達がいなければ、安心して寝られない身体になっていたらしい。


 その結果、3人が何やら興奮しながら、あたしに話しかけてくるが、あたしから先に甘えた手前、恥ずかしさで俯く事しかできなかった。


ーーーーー


「分、分かったから、寝よう……??」


 しかし、いつまで経っても、興奮が治まらないシンリー達へあたしが眠る事を提案した。その結果、彼女達もすんなりと縦に頷く。


 結果、目を瞑ると先ほどの1人で眠るのとは全く、異なっており、シンリー達の温かさに包まれて、安心感を覚える。その結果、あたしはすぐに意識を手放す事となった。


ーーーーー


「ディアお嬢様、おはようございます」

「天使…?」

「もうっ!!」


 まずはいつものように、起こしてくれたシンリーへ抱きつき、甘えるまでが朝のセットである。


 ちなみに、この世界へ来てから通算66回目のやりとりだ。


「じー……」

「もちろん、アルセラにもね」


 シンリーの後、アルセラにも抱きついてシンリーと同じように甘える。何せ、昨日はあたしから甘えたことがあった翌日だ。そのため、この程度で恥ずかしくなることがなくなっていた。



 パタンッ

「………………じー」


 そして、最後は、いつものように、パタリーシェフが直々に部屋から覗いていた。だから、あたしは彼女の方にも抱きついて甘えた。


 その後、いつものように、2Fの食事場へ移動して、朝食を取る。


ーーーーー


 今日の朝食のメニューは、鯛のポワレを中心としたふわふわなロールパンやコーンスープ、サラダで、あたしは口へ運んでいく。


「ディアお嬢様、いつもそうですけど、どうして口に運んだ後、少し目を閉じてるんですか??」

「たとえば、あたし達が当たり前に食べてる、このロールパンってイースト村で小麦粉を採取してくれた方々がいて成り立ってるよね??」

「ええ。おっしゃる通りです」

「不思議とね、目を瞑ると浮かび上がってくるんだ。どんな想いで作ったのかとかね。だから、あたしはその人達に感謝をして食べてるんだ」


 シンリーから質問を受けてあたしが回答すると、彼女もあたしの真似を始めた。


 そんなシンリーに倣って、机を囲っていたパタリーシェフやアルセラも同じ事を始める。


「確かに、ディアお嬢様の言う通りにしてみると、何かが見える気がします」

「ディア様、本当にすごい……!!すごいです!!」

「……………………これ、料理人としても大事」


 そうするとシンリー達にも、気づきがあったらしく、あたしは喜ぶ彼女達を見て嬉しくなる。



「目を瞑ると視覚情報が遮断されるだろう?だから、味に集中できて素材の背景が見えるって奴だな。それにしても、パタリーはまだまだだな?」

「…………………師匠が僕に教えないのが悪い」


 シンリー達が喜んでいると、珍しく、厨房からジェフル料理長があたし達の方へ移動して、パタリーシェフの髪をわしゃわしゃとしている。一方でパタリーシェフは、ジェフル料理長に撫でられて、唇をつんと尖らせていた。


「早くロン達の馬車へ行かないと…!!」

「ディアお嬢様、名残惜しいですが、仕方ありません。ここからは、急ぎましょう」


 しかし、そんなやりとりを見守るも束の間、いつもの出発する時間がギリギリになっていたため、それ以降、味わって食べる事を諦める。


 その後、パタリーシェフとジェフル料理長へ朝食の感謝と別れの挨拶をした後、3Fのドレスアップルームへ急ぎ足で向かう。


 ドレスアップルームでは、シンリーから黄色のドレスを勧められ、そのドレスに全身を包む。


 そして、あたし達は、足早にベルンルックの屋敷を出る事となった。


ーーーーー


 ベルンルックの屋敷を出ると、いつも通り、分かりやすい場所に、ロンとアースが馬車を準備してくれている。


 その前方の方へ移動して、あたしとアルセラは『ホープ』と『サクセス』に挨拶と感謝を伝えた後、彼らの毛並みを堪能した。


「ロン、アース、おはよう。今日も待たせてしまったかな?それじゃ、行こっか」

「ディアお嬢様の支度が遅いのはいつもの事だ」

「あははは!!早い方が不自然だよねー!!」


 2人の言い方に少しイラッとはしたが、遅くなるのは事実のため、我慢する。


 ガララララ……


 その後、あたし達の馬車は『セブンス学園』へ出発する事となった。

 

ーーーーー


「『決闘』の影響か知らないが、いつものような不愉快な視線や会話が消えているな…」

「あははは、『ホープ』や『サクセス』に危害を企てようとした奴らもいなくなりそー!!」

「ちょ、アースそれは秘密って……」

「やっぱり!!あたしの愛馬に手を出そうとする愚か者がいたんだね?報告してくれれば…」


『セブンス学園』の校門付近に到着すると、昨日の今日にもかかわらず、噂が綺麗さっぱり消えており、注目も浴びることはなかった。


 あたしとしてはそれよりも、アースが口を滑らせた内容の方が気になる。


「はぁ…陰ながら、ディアお嬢様を心配かけさせまいと、実は親衛隊で極秘裏に動いてました」

「指示役はシンリー隊長、実行役は俺らだったが、大したことはしてないな」

「で、でも……」


 確かに、あたしは『サイコパス王子』等に手を焼いていたが、頼られていない様な感覚がして、少し寂しく感じてしまった。


「ディアお嬢様、親衛隊を信じてくれ。それに、今の俺もアースも、そこそこ強いんだぜ……?」

「あはははは!!少しでも、ディアお嬢様の助けになりたいから努力したねー」

「も、もうっ……!!分かった。でも、少しでも無理と感じたら、報告してね!!行ってきます!!」


 ロンとアースに不覚にもドキッとしてしまったあたしは、それを隠すかのように、彼らを捲し立てる。そして、言い終えた後、ぽかんとする彼等に背を向けて『セブンス学園』へ行こうとした。


ーーーーー


「ロン、アース、1つお聞かせください。先程、ディアお嬢様に色目を使いましたよね??」

「まさか、親衛隊の方々、ディア様を『狙える』なんて、そんな思い違いをしていませんよね?」


 馬車から降りる寸前、背中に黒いオーラを纏ったシンリーとアルセラがロンとアースに詰め寄ろうとする声が聞こえた気がする。


 だから、修羅場になりそうと思ったあたしは、1人で、馬車の前方へ移動して、『ホープ』と『サクセス』の毛並みを堪能することにした。







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