ジークフリート登場/新たな派閥?
「魔法の習得には個人差があって………………… 以上だ。各自、昼休みを取るんだぞぉぉぉ。午後からは魔法演習場だから忘れるなぁぁぁ!!」
ヒュートン先生の合図で、午前の座学が終わることとなった。マンドール子爵嬢の方をみると、彼女は、少しだけ弱り切っている様子みたいだ。
「マンドール子爵嬢、こうなった以上、これからは常にあたしの近くにいるようにして欲しい。後、悪いけど、あたしの方へついてきて」
だから、『午前の座学』を終えたあたしは、足早にマンドール子爵嬢の近くへ移動する。そして、彼女にあたしへついてくるよう、指示する。
マンドール子爵嬢はあたしの指示にこくりと頷き、『セブンス学園』の屋上の方へ移動した。
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「わたくし、やっとベルンルック公爵嬢やウィスが言っていた意味が理解できましたわ……」
「サラお嬢様…………」
こうなる事は分かっていたが、それはあたしが前世の経験があるからだ。貴族とはいえ、まだ6歳の女の子に、あたしやウィスさんレベルの知能を求めようとする方が間違いだろう。
ただ、こういう事態に陥ってしまった以上、マンドール子爵嬢をあたしは守りたい。
それと、正直な本音を言えば、彼女と一蓮托生のような関係になれた事を嬉しく思った。
「マンドール子爵嬢、後悔してる……?」
「後悔していないと言えば、嘘になりますわね。でも、あの時、わたくしが信じた『感謝の公爵令嬢』は『魔法演習』の時と同じく、今回は、『ハルデア皇太子殿下』から守ってくれましたわ」
満面の笑みを浮かべて、マンドール子爵嬢はあたしの方へ微笑みかける。
「それに、お昼もわたくしのことを気遣ってくれる。だから、わたくしは『感謝の公爵令嬢様』、あなたを選んで正解だったと確信しましたわ」
あぁ………
マンドール子爵嬢が眩しいな…。
眩しすぎるよ……。
どこまでも真っ直ぐに淀みのない視線で、自分が決めた事を貫くマンドール子爵嬢と前へ進む事を怯えていた過去の自分の姿を重ねてしまう。
「その、ディアでいいよ……。ううん。マンドール子爵嬢とは友達でいたいの。だから、あたしの事は、ディアって呼んで欲しいの」
「わ、わかりましたわ。そ、それならば、わたくしもサラって呼んでくださるかしら」
「サ、サラ……これからよろしく……ね?」
「デ、ディア……え、ええ」
なぜだろう。ディブロお父様に呼び捨てされるのと、サラから呼び捨てされるのとでは全く異なる感覚になる。前者は安心感があるのに対して、後者は恥ずかしさが込み上げてきた。
そして、それはあたしだけでなく、サラも同じらしく、しばらくの間、伸ばせば手が届きそうな至近距離で見つめ合う時間が続くこととなる。
「ディアお嬢様、はーなーれーてくださーい!!これ以上見つめ合う必要はありませんよね!!!」
「シンリー様のいう通りです!!これ以上は、絶対にダメですからね」
最終的にシンリーとアルセラから離されたことで、あたしとサラは一旦、落ち着く事となった。
ーーーーーー
パタンッ
「ベルンルック公爵嬢、それで本当に守り切っているつもりなら、飛んだ道化師だぞ」
嘘……??
ここは、あたし達だけの場所のはず……
あり得ないと思いつつも、恐る恐る声のする方向へ視線を向ける。
そこにいたのは、スラリとした高身長に、眼鏡を掛けた『青髪イケメン』こと、通称『毒舌のツンデレ王子』が、使用人も連れていない状態で、あたし達の近くに立っていた。
「ご機嫌よう。あた………」
「不要だ。それより、道化師、早く手を打たねば、マンドール子爵嬢の人生は『終わる』ぞ」
おかしい。
ゲームの時はこいつの毒舌をかっこいいとさえ、思っていたのに、今は無性にイラっとした。
そもそも、あたしも貴族間の挨拶なんて、回りくどくて、めんどくさい派である。しかし、変な噂が立つのが嫌だから仕方なくやってるのだ。
それに、ほぼ初対面のジークフリートより、あたしの方が貴族階級も上のはずである。
最も許せないのは、サラの人生が終わるはずがない。これから、サラはあたしと共に『セブンス学園』を満喫していく予定なのだ。
それなのに、上から目線で、人のことを『道化師』などと、可能ならば、あたしの右曲がりのストレートアッパーを喰らわしてやりたい……!!
「道化師、考えている事を当ててやろう。これからは、『セブンス学園内では、私が守るんだ』とでも、思っているのだろう?」
ギ、ギクゥッッ!!!
どうやら、あたしの考えていたプランは『毒舌のツンデレ王子』でお馴染みの攻略対象の1人、ジークフリートに全て見通されているらしい。
「…………………だったら、何かしら?」
ここで、彼にあからさまな否定をすれば、ジークフリートの思い通りになるだろう。だから、あたしは彼を認めた上で、開き直る事にした。
「ふむ。往生際が良い事は、悪くない」
「話を逸らさないでちょうだい!!あたしなりにサラを守ろうとしているの。何が足りないの?」
ジークフリートがあたしの考えを読んでいて、『サラが終わる』と言っている。つまり、あたしのやり方でサラを守ろうとすると、彼女は本当に危機的状況に対面する日が訪れるかもしれない。
「いいだろう。整理していこうか。まずは、マンドール子爵領の名産物を知ってるか?」
「えーと……」
「わたくしの名産物は乳製品ですわ」
あたしがジークフリートの回答に詰まると、サラが補足で説明してくれる。
「その通りだ。次の質問だ。乳製品だけで『マンドール子爵領』の領民は食べていけるか?」
「無理でしょうね。でも、ジークフリートの考え方が極端すぎると思うわって………まさか!?」
あたしは自分の言葉を言った直後に、ジークフリートの質問の意図を察した。それに気づいた瞬間、一気に身体が震え始める。
「ほう。その様子だと気づいたな………??」
「……………ええ」
「ディア、どういうことかしら」
『ベルンルック公爵家』のような名家を除けば、通常の貴族は他の貴族と『交易』をしなければならない。つまり、『派閥』とは『交易』を繋いだ貴族関係のような物である。
そして、『サラ』は『ハルデア皇大使殿下』に正面から逆らった。もちろん、『王族』ともなれば、『交易』の制限なんて簡単だろう。
つまり、金輪際、『マンドール子爵家』は『交易』ができない可能性がある。
「恐らく、マンドール子爵領は交易している他の貴族から排除されるわ」
「そ、そんな…」
「急いでディブロお父様に頼まなければ……!!」
「待て。道化師と頑固女」
ジークフリートの言葉を聞いた瞬間、サラは不安そうに呟く。そんな彼女の様子を見て、あたしはディブロお父様へ頼む事を決意した。
しかし、やれやれと言わんばかりに、あたしとサラの慌てる様子を見たジークフリートがため息を吐く。そして、ため息と共に、彼があたし達を不名誉なあだ名と共に呼び止めた。
「私がここに来た理由はそれだ。つまり、道化師、私と新たな派閥を作る気はないか??」
「何を悠長なことを……」
ジークフリートはあたしの方へ手を差し出して、『派閥』を作ることを提案した。




