『ヤンデレ?』『家族?』『膝枕?』
ガララララ……
「また来たいな…」
あたしはイースト村からウェスト村へ移動する馬車の中、パタリーシェフの膝元に座り、景色を眺めていると自分の本音が出てしまった。
「ディアお嬢様、また、来ればいいんですよ」
「………………今度はパンも作りたい」
「ディア様、是非、連れて行ってください」
あたしが漏らした本音に対して、シンリー達が嬉しい返事をしてくれる。
「ディアお嬢様、こういっちゃなんだが、こんな小麦畑しかない村のどこがいいんだ?」
「あははは!!でも、僕はうれしー」
「うーん、ゾル村長やルキナちゃん、村民の方々が優しい事はもちろんだよ?でも、何より、あたしの親衛隊のロンとアースが育った村だからね」
あたし達が『イースト村』を絶賛してると、ロンとアースは疑問を出していた。そのため、あたしは、彼らに『イースト村』の想いを伝えると、なぜか、彼等が急に黙り込んだ。
「ロン、アース、私のディアお嬢様ですからね」
「ちぃっ…わぁってるよ!!」
「あははは…でも、好きになっちゃうよねー」
どうしたのだろうと思っていると、シンリーがロンとアースへ圧力をかけており、彼等はいつものように彼女の圧力を受け流していた。
「ディア様は罪作りです。でも、だからこそ、私はそんなディア様の全てが欲しいです」
「…………………………させない」
「パタリーシェフ、アルセラなりの冗談だから、気にしなくて、大丈夫だよ!!」
パタリーシェフがアルセラの言葉を聞いて警戒していたため、彼女を納得させたつもりだった。
それなのに、あたしの言葉を聞いたパタリーシェフとシンリーがジト目を送ってくる。
しかし、あたしには前世の『セブン⭐︎プリンセス』の知識があり、あたしの知識に沿えば、アルセラが『ヤンデレ』になることはない。
「ディア様、そんな所も愛してますっ!!」
「えへへ…」
だから、ジト目を送って来たシンリーとパタリーシェフにドヤ顔で、力説しているとアルセラがあたしを褒めてくれる。
久しぶりに褒められ、嬉しくなり、頬が緩む。
「ディアお嬢様は私達が守りましょう」
「………………うん」
頬を緩ませ笑顔を浮かべていると、シンリーとパタリーシェフが真剣な表情で会話をしている。
しかし、2人の話の内容が耳に入らないくらい、あたしは褒められて喜んでいたみたいで、そのまま、馬車に揺られ続けて、正気に戻った時にはウェスト村の付近まで到着していた。
ーーーー
正気に戻ってからほんの少し経った頃に、あたし達の馬車が停止したため、『イースト村』と同じように、ロンとアースに馬車を預ける。
そして、そのまま馬車から降りて、ディブロお父様の馬車がある方へ移動した。
ちなみに、ウェスト村へ到着した頃には、夕陽が顔を覗かせようとする時間である。
「リア村長、遅い時間ですまないが、愛娘のために立ち寄ってもいいだろうか?」
「ふぇっふぇっ…まっ、入るとええさ」
ウェスト村の門では、リア村長とスイレン君と護衛達があたし達を迎え入れてくれた。
そして、そのままディブロお父様の頼みに、リア村長が頷いたおかげで、そのまま、あたし達はウェスト村の中へ入れることとなる。
「改めて、リア村長、お久しぶりです。あ、スイレン君も待っててくれたんだね」
「うん!!ぼくも『ベルンルックの女神』様にお会いできて嬉しいよ!!」
スイレン君へ挨拶すると、あたしのことを『ベルンルックの女神』と呼んだことに違和感を感じた。なぜ、彼のような子供が、あたしの更新された『通り名』を知っているのだろうか?
そう考えながら、あたしが困惑の表情をしていると、リア村長が口角をあげていたので、なんとなく直感で、犯人が分かった気がした。
「リア村長、もしかして、あたしの新しい通り名をスイレン君に教えましたね?」
「ふぇっふぇっ、わたしゃにはさっぱり……」
リア村長の言葉を聞いてあくまでシラを切る気かっ、そう思いながらも証拠がないため、彼女を追及する事ができない。
「ふぇっふぇっ……ところで『ベルンルック公爵様の夫人』まで来るのは初めてのことだねぇ。大方、前に持たせた刺身にでも釣られたかえ?」
「そ、そういうわけではありませんわ!!」
一方で、ステラお母様はリア村長に思惑を見透かされて悔しいのか、真っ赤な顔になり、両手を前に出して、横に振りながら、否定する。
「ふぇっふぇっ……わたしゃはてっきりそうだと思っていたかえ」
「いいえ!!まさか、ディアちゃんじゃあるまいし、そんな訳はございませんわ」
「……ステラお母様、後でお話をしましょう」
ここぞとばかりに、娘のあたしを盾に使おうとしたステラお母様の肩を叩き、満面の笑みで『話し合い』を提案する。そうすると、ステラお母様はあたしから分かりやすく、視線を逸らす。
「じーっっ…」
当然、『イースト村』の一件を根に持っているあたしは、ここぞとばかりに、ステラお母様を逃さないと言わんばかりに、じっくりと見つめる。
「ううっ…ディアちゃんのいじわる…」
じっくり見つめると、ステラお母様の潤んだ表情になる。そんな彼女を見て、自分の母親なのに、ドキッとしてしまった。
「ふぇっふぇっ…ディアお嬢様は騙せても、わたしゃには無理だねぇ。そう言えば、今日は『鯛の刺身』の在庫を切らしていたんだったかえ」
「そ、そ、そんなひどいわ!!……うわぁぁぁん」
リア村長の言葉を聞いた瞬間、ステラお母様があたしの方へ抱きついて、声をあげて、泣き始めた。とりあえず、あたしは、そんな彼女の頭を撫で撫でして落ち着かせようとする。
きっと、ステラお母様は無自覚なのかもしれないが、彼女があたしに抱きついた瞬間、様々な身体の部位があたしの方に当たっているのだ。
そのため、自分の母親を意識しそうになるのをグッと堪えて平静を装った。それに、あたしはステラお母様が視察に着いて来た理由の1つに『刺身』が目当てだったことも知っている。
だから、どうにかできないか?とリア村長の顔を見た瞬間、彼女があからさまにニヤニヤしていたので、刺身に関する事は嘘だと理解した。
「その…ステラお母様はあたしの大好きなお母様なので、この辺で勘弁してあげてください」
「ふぇっふぇっ…そうさせてもらうかえ」
「えっ?えっ?ディアちゃん、どういうことか説明してちょうだい」
可愛い…!!
ステラお母様、ピュアすぎて可愛いよ!!
ステラお母様が必死であたしとリア村長を交互に見ているが、分からないらしく、あたしの方へ説明を求めてくる。そんな彼女の様子を見て、ディブロお父様が彼女と結婚した理由がわかった。
「えーと、結論から言えば、ステラお母様、安心してください。鯛の刺身はありますから」
「よ、よかったぁぁ」
あたしが笑顔でステラお母様に刺身があると伝えると、彼女は満面の笑みを咲かせる。本当にステラお母様は天真爛漫だと思った。
「ディア様とステラ様って本当に似ていますね…鈍い所とか…人垂らしな所とか…」
「だから、旦那様も、ディアお嬢様と奥方様には敵わないんでしょうね」
「…………………大抵のわがままが通ってる」
「それにしても、あのお二方は絵になるよな…」
「あははは…ロンの言う通り、綺麗だよねー」
あたしとステラお母様が喜び合っていると、アルセラを中心として色んな会話が聞こえてくる。
ただ、周囲の会話よりも、今は、目の前のステラお母様の満面の笑みに見惚れてしまっていた。
ーーーー
暫く、ステラお母様の笑顔に見惚れた後、あたし達はウェスト村の中を移動する事となった。
「ふぇっふぇっ…まっ、わたしゃの家で準備している夕飯を食べてから帰るとええ」
「リア村長、世話になるね。もう、今日の釣りとかは終わっているのだろう??」
「ふぇっふぇっ…この時間だからとっくの前に終わってるかえ。まっ、わたしゃは『ベルンルックの女神』様と話したい事あるかえ」
その間に、ディブロお父様とリア村長が話している内容を聞き、改めて、周囲を見渡すと夕陽が顔を出した頃合いだった。恐らく、あたし達はウェスト村で、リア村長の自宅にて、夕飯をご馳走になった後、帰る事となるだろう。
なぜならば、あんまり遅い時間になると、明日の『ノース村』や『サウス村』の視察に支障が出るかからだ。だから、あたしはディブロお父様とリア村長の会話に納得しながら、移動した。
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リア村長の自宅も、ゾル村長と同様でウェスト村の中では、やや大きい家だった。建物自体も基本的には煉瓦で床は木材がベースとなっている。あたし達は、リア村長の自宅の玄関で挨拶した後、家の中にお邪魔する事となった。
「『ベルンルックの女神様』、今日は僕ととーちゃんで大量に魚を釣ったんだよ!!」
「そうなんだ、楽しみー」
「ま、まぁっ…!!」
「うん!!今頃、みんな準備してくれてるから!!」
スイレン君があたしに笑顔で話しかけてくれて、あたしが彼に笑顔で返答すると、ステラお母様がそれ以上の笑みを浮かべて喜んでいた。
ただ、同時にあまりの手際の良さに疑問を感じる。あたしの疑問とは、あたし達がいつも視察へ訪れる際、多少の前後はあれども、都合良く、村の方々があたし達を迎えて入れてくれる事だ。
特に、今日のウェスト村は、夕食等の段取りがあまりにも、良すぎる。だから、あたしは思い切ってディブロお父様に質問してみることにした。
「もしかして、ディブロお父様って各村へ、事前に伝えているんですか?」
「ディア、よく気づいたね。その通りさ」
あたしは疑問をディブロお父様へ尋ねると、どうやらあたしの考えは、正解だったらしい。
恐らく、護衛兵の方に、おおよその到着時間や内容等を村に伝達させていたのだろう。
だからこそ、ディブロお父様の有能な所が『ディア•ベルンルック』に利用されたことを悔しく感じるが、あたしの目の前で笑顔を浮かべる彼の表情を見て、横に首を振る。
「ディブロお父様、いつもありがとう!!そんなかっこいい所が大好きで尊敬してるよ!!」
きっと、ディブロお父様が見たいのは、あたしの笑顔だと思った。だから、満面の笑みであたしは彼に抱いていた想いを伝える。
「ベルンルック公爵様!!し、しっかりしろ!!」 「あははは!!これは天に召されたかなー」
「ふぇっふぇっ…さぞ嬉しかったかえ」
「ディアちゃん、親衛隊に任せていきましょう」
せっかく、喜ばせようと思ったのに、あたしの言葉を聞いた瞬間、ディブロお父様は玄関で立ったまま気絶してしまった。
そのため、ステラお母様の提案に頷いて、この場は、ロンとアースに任せて、あたし達は奥の部屋へ進む事となった
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「スイレーン!!『ベルンルック公爵様』達を連れてきたなら手伝いなさーい」
「ほら、スイレン、一緒に魚を捌こうかっ!!」
気絶したディブロお父様を放置して、ほんの少し進んだ時だった。スイレン君があたし達と共に帰ったきた事に気づいたのか、彼のお父さんとお母さんと思しき人達が彼を呼んでいる。
「『ベルンルックの女神様』、ゆっくりくつろいでてね!!僕、手伝いに行ってくる!!」
スイレン君は手伝いに行くため、あたし達を置いて、奥の方へ移動する。
「ふぇっふぇっ……それじゃ、続きはわたしゃが案内するかえ」
そのため、リア村長の案内の元、あたし達は食卓の方へと案内されることとなった。
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「ふぇっふぇっ…料理ができるまで、自由に床で寝るなり、料理を待つなり、魚拓を見回るなり、好きにしたらいいと思うかえ」
リア村長に案内された食卓はベルンルックの食事場ほど開くはない。しかし、それに準ずるほど広いテーブルと椅子が用意されていた。
更に驚く事としては、壁の方には、何枚もの魚拓が並べられている。
「ウェスト村って初めて来たんだが、すげーな」
「あはは!!この村もよさそー」
気絶したディブロお父様をあたし達がいる食卓まで運んだロンとアースは、物珍しそうに、壁に貼り付いている魚拓を見回っていた。
ちなみに、ディブロお父様は未だに気絶している状態である。
「ディアちゃん、すごいいい匂いがするわ」
「ステラお母様、涎が…」
「こんなに美味しそうなんですものっ!!」
そして、ステラお母様は変わらず、テーブルで料理の香に涎を垂らし、幸せそうにしている。
「もうっ、ディアお嬢様、ここです」
「え?」
「ほら、早く」
パンパンッッ
シンリーに呼ばれて振り返ると、彼女は椅子ではなく床の方に座って膝の方を差し出していた。
最初はどういう事だろうと思ったが、膝枕かな?と思い、試しに寝転んでみようと思った。
「最後のイースト村の時、緊張したでしょう。どうか、ここでくつろいでください」
「シンリー様にまた抜け駆けされました」
「…………………くっ」
どうやらあたしの予想は正解だったらしく、そのまま、シンリーに甘えることとなり、彼女の柔らかな太ももに頭を置く。そうすると、アルセラとパタリーシェフが悔しそうな表情をしていた。
「シンリー、パタリーシェフ、アルセラも、いつもあたしのことを思ってくれてありがとうね」
そんな3人を愛おしく思ったあたしは彼女達へ感謝を伝えた後、そのまま、ゆっくりと目を瞑り、一眠りすることにした。




