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『マンドール子爵嬢』と『偽りの言葉』

「『ベルンルック公爵嬢』様、午後の講義では私達をお救い頂きありがとうございました。今から、少しだけお時間を頂けないでしょうか?」

「えーと……確か、あなたはウィスさん?」

「はい。僕はサラ•マンドールお嬢様の執事をしているウィスと申します」


『魔法演習場』を退室して、校門付近へ移動中、栗色のマッシュヘアーで整った顔だち、黒色のタキシードを身に纏ったあたしより身長が高い執事の方から呼び止められることとなった。午後の講義の時に、『ファイアボール』から守ろうした彼の姿が印象的だったので、記憶に残っている。


「時間はありますが、ご用件を伺いましょう」

「簡潔に申し上げますと、『サラお嬢様』が1-Aの『誰もいない』教室にて待機しています。どうか、僕についてきていただけないでしょうか?」


 あたしが『サラお嬢様』を守ったからと言って、必ずしも良い事が起こるわけではない。もしかしたら、これが『罠』の可能性もある。


 だから、あたしはウィスさんへ用件を伺うと、彼はあたしの意図を察したのか、『誰もいない』事を強調しながら、彼は話した。


「ディア様、騙されてはいけません…!!」

「ディアお嬢様、私達の後ろへ…!!」


 アルセラとシンリーはあたしを庇うためにあたしの前へ出て、警戒体制に入っている。


「疑われるのは当然です。私達も同じく、陰口を言っていました。しかし、『感謝の公爵令嬢』様、どうか信じていただけないでしょうか?」


 ウィスさんが言ってる事に『証拠』はない。それなのに、『直感』で信じる事ができる気がした。もちろん、『直感』だけでなく、『根拠』もある。まず、あたしを敢えて『感謝の公爵令嬢』と呼んだ事、そして、あたし達の目の前で陰口を言っていたと素直に話した事だ。


 つまり、ウィスさんはあたし達に『不利な面』を話してでも、来てもらいたいのだろう。


 それに加えて、彼の主人である『サラお嬢様』が『1-A』の教室に待機している理由も簡単だ。


 恐らく、あたし達とサラ達が接触しているのを他のクラスメイト達に見られた場合のリスクを減らすためだろう。



「あたしは信じるよ。でも、ウィスさんはそれでいいのかしら?『大事なご主人様』なんでしょ?あたしと接触するリスクは分かってるはずだよ」

「サラお嬢様は不器用でまっすぐな方です。僕もリスクを理解しており、何度も申し上げたのですが、聞き入れていただけませんでした」


 ウィスさんの言葉を聞いて、あたしは午後の講義の時の『サラお嬢様』の言葉を思い出す。


『ウィス!!わたくしの近くに来てはだめよ…!!』


 あの時、彼女が何を考えてウィスさんを守ろうとしたのかは不明だ。それでも、貴族であるはずの彼女が、自分の使用人を守ろうとした。


 もちろん、あたしからすれば彼女のたった行動は想定外の行動だった。しかし、そんな彼女をあたしは嬉しく思い、口角が自然に上がる。


「分かった。行くよ」


『サラお嬢様』と呼ばれた女子生徒に興味を持ったあたしはウィスさんの申し出に了承した。


「ディア様、本当にいいんですか?」

「ディアお嬢様、罠かもしれませんよ」


 あたしがウィスさんの誘いに肯定するとシンリーとアルセラはまだ彼の事を警戒しているらしい。そんな2人のあたしを心配する姿を見て、愛おしく思い、彼女達の頭へ手を乗せる。


「ううん。大丈夫。もし不安なら、シンリーとアルセラはあたしについ……」

「「行きますっっ!!」」


 そして、手を左右に動かして撫でながら、あたしは彼女達へ話を切り出す。もちろん、シンリーとアルセラはウィスさんと同行する必要はない。


 だから、あたしは彼女達にあたしについて行く必要がない事を告げようとすると、途中で察したのか、シンリー達は同時に大きな声で返事する。


「あたし達の意見もまとまったし、みんなで『1-A教室』へ移動しよう!!」


 あたしの提案にウィスを含め、その場にいた全員が縦にこくりと頷いたのを確認した後、再び、あたし達は『本校』へ移動する事となった。


 とりあえず、『セブンス学園』の校門付近で待機していたであろうロンとアースへ、心の中で全力で謝罪をしておいたので問題ないはずだ!!



ーーーー


 ウィスさんを先頭にあたし達は『本校』へ入り、『1-A教室』の扉の前へ移動した。


 彼が言っていた通り、すでに1年生は全クラスの生徒が帰宅していた。『1-A教室』の中には1人の女子生徒を除き、誰もいない。


「今更かもしれないけど、この教室、どうやって入る事ができたの?」

「ヒュートン先生へ、午後の講義の件で『ベルンルック公爵嬢』へ感謝をしたいと申し出た所、快く承諾してくださいました」


『1-A教室』に入る直前、ウィスさんに気になっていた事を質問する。そして、彼の回答を聞いて、『涙を浮かべながら、喜んでいる暑苦しいヒュートン先生』の姿が容易く思い浮かんだので、これ以上の深入りはやめておく事にした。


ーーーー


 パタンッ


 ウィスが扉を開け、あたし達は『1-A』の教室へ入る。改めて、教室を見渡すと真ん中の列の机の席に、紫色の髪をサイドテールにした女子生徒が静かに膝を組んで座っていた。


「サラお嬢様、連れて参りました」

「ウィス、ご苦労様」


 ウィスは、自分のご主人様へ、あたし達を連れてきたことを報告した後、彼女の後ろへ控える。


「ご機嫌よう。マンドール子爵嬢」

「ええ。ご機嫌よう。ベルンルック公爵嬢、とりあえず、近くに座りなさいよ」

「そうさせていただきます」


 基本的に親しい人には砕けた口調で話せるが、距離感がある貴族に対しては、前世の『セブン⭐︎プリンセス』に出てくるキャラクターを思い浮かべて、無意識に話し方を模倣してしまう。


「今更だけど、確認させてもらうわ。あの時、なぜ、わたくしを助けてくれたのかしら??悪いけれれど、『ベルンルック公爵家』に返せるほどの待ち合わせはなくってね…」

「お気遣い不要でございます。ただ、あの時、マンドール子爵嬢は『理不尽』に怪我を負いそうになりました。そのため、強いて理由を挙げるとすれば、あたしが『理不尽』を大嫌いだからです」


 マンドール子爵嬢からすれば、あたしから助けてもらったことに負い目を感じているのだろう。


 それこそ、ウィスが言っていた通り、彼女の中で、仕方ないとは言え、あたしの陰口を言ってた事に負い目を感じている可能性もある。


 しかし、あたしは別にマンドール子爵嬢へ恩を売るために、助けたのではない。この世界に転生して、あたしが決めた『セブン⭐︎プリンセス』内での生き方に従ったまでだ。


 だから、マンドール子爵嬢へそのまま、あたしの想いを伝えると彼女は目を丸くした。


「ぷっあっははははは…!!あなた、本当に面白いわ…!!これが『魔王の生まれ変わり』??どうやら、アルセラ嬢の言う通りだったようね」

「………………情けない。だから、自己紹介の時に宣戦布告したのです。こんなに優しくて偉大で可憐なディア様の魅力に気づくのが遅すぎます」


 そして、マンドール子爵嬢は突然、お腹を抱えて笑い出した。笑っているマンドール子爵嬢へ、アルセラは冷たい視線で見つめながら、普段の彼女とはまるで、別人のように言い返している。


「アルセラ、あたしの事を褒めてくれるのは嬉しいけど、そんなにすごくないからね」

「ディア様は気にしなくて良いのです。私は、心の底からお慕いしています」


 あたしがアルセラの言葉へ修正すると、いつもの彼女の可憐な表情へ戻った。あたしの家族やシンリーやパタリーとは、普通に接していただけに、アルセラが見せた一面に困惑してしまう。


 ただ、何はともあれ、普段の彼女に戻ったので、深く考えない事にした。


「ベルンルック公爵嬢、アルセラ嬢って自己紹介の時もそうですが、貴族に敵意満載ですわね」

「マンドール子爵嬢、怖がらせて申し訳ないわ」


 今回に関してはアルセラの方が言い過ぎだと判断したあたしは、『マンドール子爵嬢』へ謝罪する。そうすると、彼女は気にしてない様子で、縦にこくりと笑顔で頷いてくれた。

 

「そう言えば、1つ気になったのだけれど、なぜ、ウィスさんを助けようとしたのかしら?」

「わたくしに仕えてくれているからですわ」

「それってどう言う…」

「わたくし、こう見えてわがままで頑固ですわ。だから、使用人が変わる事も多くありますの。つまり、ウィスが怪我をすれば、わたくしの面倒を見てくれる人がいなくて困りますわ!!」


 ウィスさんから予め聞いていた情報と実際に話してみただけで、彼女が『わがままで頑固』なのは重々理解できた。ただ、これを口に出すと、めんどくさい事になりそうなので辞めておこう。


 それよりも、彼女がウィスさんを庇った理由が納得できて、あたしは大満足だ。


「それとわたくし、1人ですの。つまり、わたくしは、1-Bクラスをメインにしている『ミディア辺境伯の派閥』を抜けてきましたの」

「そうなんですね。そう言えば、別クラスの生徒とすれ違う機会ってなかなかないような……」

「それに関しては、入学式の説明で、講義時間をずらしていると言ってましたわ……。ちなみに、わたくし達は定期的に会う事になってましたわ」


 当たり前だが、1年生は3クラスある。そんな中で、同じ派閥の生徒が同じクラスに全員所属している方が珍しいだろう。


 つまり、マンドール子爵嬢のような別クラスをメインとする派閥のクラスメイトが『1-A』にいても、何もおかしくはない。


 それと同時に、彼女の説明により、魔法演習の時に別クラスの生徒と会わない理由も分かった。


「色々教えてくれて感謝しますわ。でも、マンドール子爵嬢は派閥を抜けて大丈夫なのかしら?」

「ゴホンッ、ベルンルック公爵嬢、もう一度よく聞きなさい。わたくしはフリーですの」


 あたしは首を傾げながら、マンドール子爵嬢の言葉を縦にこくりと頷く。


「フリーですのっっ!!」


 なぜか、縦にこくりと頷いているのにも関わらず、あたしの顔の目前まで顔を近づけ、大きな声で、マンドール子爵嬢はあたしへ宣言する。


「ディアお嬢様、その、『マンドール子爵嬢』はディアお嬢様の派閥に入りたいのかと…」

「ディア様、良かったですね!!」


 シンリーがあたしに補足で説明して、アルセラが笑顔を浮かべる。


 あたしも、『マンドール子爵嬢』のやり方は強引だけど、本当に嬉しく思った。きっと、彼女があたしの友達になってくれるなら、『セブンス学園』の生活も明るくなる。



「『子爵家』の加入??あたしのような『ベルンルック公爵家』と??悪いですけど、お断りさせて頂きますわ。今なら間に合うでしょう??『ミディア辺境伯』の『派閥』へ戻りなさい」



 きっと、今なら頭を下げれば、彼女ならば、『派閥』の復帰も間に合うと思う。


 だから、あたしは自分の心に嘘をつき、心から思ってもない事を彼女へ伝える。


 あたしの言葉を聞いたマンドール子爵嬢はもちろん、シンリーやアルセラまでもが、先ほどまでの笑顔から驚いた表情に変化した。


 そして、あたしはシンリー達の手を無理矢理引いて、退室しようとする。


 ガタンッ


「そんな、泣きそうな表情で突き放すような言葉を言われても、納得できないわよ!!!!わたくしは絶対に、あきらめないわ!!」


 あたしは大声で叫ぶマンドール子爵嬢の言葉を無視して、背を向け、1-Aの教室を退室した。


 きっと、彼女の言葉に、振り返って返事をしようとするとあたしの『嘘』がバレてしまう……。


 その真実を隠すために、あたしは前に進む。


ーーーー


「ディアお嬢様、よろしかったのでしょうか…」

「ディア様の気持ちも分かりますが…」


 アルセラとシンリーにとって、なんだかんだ、マンドール子爵嬢から本当のあたしを信じてもらえた事が嬉しかったんだと思う。


 でも、敵の『ハルデア皇大使殿下』は絶大な権力を誇る最強最悪の相手である。あたしに近づけば犠牲になるのはマンドール子爵嬢だ。


 マンドール子爵嬢を好ましく思ったからこそ、あたしは彼女と友達にはなれない。


「アルセラ、シンリー、帰ろっか」

「ディアお嬢様、せめてこれで拭いてください」


 シンリーに指摘されて、ポロポロと流れる大粒の涙を彼女のくれたハンカチで拭う。


 陰口や嫌味を言われるよりも、『友達』になれそうだった人を意図的に傷つけて、遠ざける方が何百倍も心が痛くて辛かった。


 しばらくの間、涙を拭って落ち着いた後、あたし達は『セブンス学園』の校門付近で待機している『ロン』と『アース』達へ合流する事となる。


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