『3人だけの屋上』『間接キッス?』
「属性魔法は以下の種類で………以上だ。各自、昼休みを取るんだぞぉぉぉ。午後からは魔法演習場だから忘れるなぁぁぁ!!」
ヒュートン先生の言葉を最後に午前の魔法の講義は終わることとなった。
「アルセラ、シンリー、お弁当食べに行こうっ」
「ディアお嬢様、どこへ行くんですか?」
「ディア様……!?」
あたしはアルセラとシンリーの手を引いて教室を出て、階段を上がって行き、数字でロックする鍵に施錠された屋上の扉の前へ到着した。
「7777と入力したら開くんだよねー」
ガチャンッ
バタンッ
あたしは自慢げに2人へ伝えながら、施錠のロックを解いて、屋上の扉を開ける。
もちろん、これはあたしがしてきた『セブン⭐︎プリンセス』の攻略知識のおかげだ。
「わぁ…ディアお嬢様、風が気持ちいいですね」
「それにしても、ディア様、よくこの屋上の鍵の番号を知ってましたね」
「あー、えーその、あははは!!なんかこう、休憩時間くらい…3人でゆっくりしたかったから、あたし頑張っちゃった??」
シンリーは桜色の髪を靡かせ、気持ちよさそうにしてるのに対して、アルセラからジト目をもらう。とりあえず、彼女の視線を逸らしながら、あたしは必死に誤魔化す事にした。
「ディア様は私が使おうとしていた自己紹介を知ってたり、色々不思議な方ですから、別にいいんですけど…ね?」
ギクゥ
アルセラの鋭い視線と共に放たれた言葉に、あたしの心臓が飛び出そうになったが、どうやら彼女は納得してくれたらしい。
「ディアお嬢様、アルセラ様、早くパタリー様のお弁当を食べましょう??」
「ほ、ほら、食べよう!!」
とりあえず、このままの流れはまずいと思ったあたしはシンリーの意見に同意する。そうすると、アルセラも笑顔で縦にこくりと頷いてくれたので、気づかれないように胸を撫で下ろす。
その後、シンリーがパタリーシェフのお手製弁当を開ける。
どうやら、今日のお弁当のメインは豪快なソーセージにキャベツを挟み、マスタードとケチャップで味付けのあるホットドッグがメインらしい。
その他には、別容器にジャーマンポテトや鯛のムニエル等も用意されている。
「これはアルセラの分、シンリーの分ね!!」
お弁当の取り分けに関してはあたしが率先して行うことにしている。
その理由としては、2人にやらせるとあたしの分を多めにしようとするのが見え見えだからだ。
「んーっ……パタリー様の料理は冷めていても美味しいです!!日々成長しています…!!どうやったら、冷めていても、このパリッとしてジューシーな食感を出せるのでしょうか。凄いです!!」
「そうそう。パタリーシェフってスイーツもあたしのために学んでくれたし、すっごい努力家だよね。身長も高くて、クールでかっこいい…」
シンリーやアルセラは言うまでもなく、美少女タイプだろう。彼女達は感情をオープンにしつつ、あたしを隣で支えてくれる、謂わば、幼馴染系のメインヒロイン属性だと思う。
しかし、パタリーシェフはどちらかと言えば、クール系で、甘やかしてくれるタイプだ。普段の彼女は冷静なのに、意外と負けず嫌いで、実は怒りっぽい。でも、裏からあたしを見守ってくれる、お姉さん系のメインヒロイン属性だと思う。
もちろん、属性は違えど、あたしにとっては、3人が大切である事に変わりはない。
「ディアお嬢様!!!あと数年待っててください!!!!牛乳を飲みまくります!!」
「わ、私も身長を伸ばします!!ディア様はいつまでも、そのままの小さいままでいてください」
あたしがパタリーシェフに思ってる事を2人へ伝えると、アルセラとシンリーが必死であたしに宣言する。どちらのタイプも良いのだから、個人的に、2人はそのままでいて欲しいと思った。
ただ、万が一の時に備えて、パタリーシェフと同様にスレンダー系になったアルセラとシンリーを頭の中でイメージを浮かべてみる。
残念ながら、とても似合わなかったので、あたしは首を全力で横に振った。
それと、アルセラの最後の言葉にイラッと来たので、彼女へジト目も送っておく。
なぜならば、あたしはステラお母様のように遺伝でナイスバディになることが確約されている!!!
「ほら、2人とも、お弁当を食べる手が止まってるよ?食べよう?」
当然、必死そうな2人に向かって、あたしは余裕があるため、話を切り替える事にした。
「ディアお嬢様、余裕そうにしておりますが、必ずしも、奥方様のナイスバディが遺伝すると思わない方がいいですよ…………」
なぜかあたしの右肩にポンッと、シンリーが手を乗せ、まるで無理だと言わんばかりに首を横に振りながら伝えてくる。
「ディア様、その……頑張ってください」
「ちょっと、2人とも、それどういう意味!?」
挙げ句の果てに、あたしの左肩へポンッとアルセラが、身体を小刻みに振るわせ、笑いを堪えながら、伝えてきた。もちろん、あたしは抗議を示したものの、彼女達に笑顔で避けられる。
「まっ、意味は自ずとわかるはずです。それと、やはり、ディアお嬢様は、『嫁』側です」
「ええ、ディア様は完璧に『嫁』側ですね」
相手にされなかったあたしがアルセラとシンリーの言葉に対して、涙目で睨む。
そうすると、更なる追い討ちと言わんばかりに、2人はあたしへ『嫁』宣言をしてきた。
その宣言に対して、悔しいと感じたあたしは、2人の隙をついて、アルセラとシンリーのホットドッグの食べかけを両手に取る。
「あたしを揶揄うなんて2人にはまだまだ早い。このホットドッグを返して欲しければ、『旦那』側があたしって認めることだよ!!」
「ディアお嬢様に『間接キッスの度胸』があるはずなどありません!!」
「悔しければ、してみてください!!」
ぐぬぬぬ……
なぜ、あたしの前世が恋愛経験皆無で、度胸がないとバレて…ば、バカにしないで欲しい!!!!!!
あたしは両手に持つ2人の食べかけのホットドッグを眺める。
あたしは誰だ?
悪役令嬢『ディア•ベルンルック』、そう、つまり、あたしは『悪』だ!!
だから、深呼吸で呼吸を整えたうちに、目をギュッと瞑って思いっきり食べる!!
正直、緊張のしすぎで、美味しいはずなのに、味わえてないのが残念だが、食べ進めていく。
「ど、どう!!」
「ディアお嬢様!!!!!素晴らしいです。それで、どうでしたか?私達の味は……」
「ディア様、堪能していただけましたか?」
シンリーの言葉を聞いた瞬間、恥ずかしさがオーバーヒートしたあたしは、目がぐるぐるになり、ふらふらの状態に陥る。そんなあたしを駆けつけた2人が支えてくれた。
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「まだ、魔法演習場まで、時間がありますからねぇ。……んぐっ。ディアお嬢様のホットドッグ美味しいです」
「シンリー様のいう通りです。………んっ…ディア様、ご馳走様です」
「なんで2人はそんな当たり前のようにあたしのホットドッグを食べてるの!?!??」
確かに、2人の食べかけを食べたあたしが悪いのかもしれないけど……!!あたしが相当な覚悟をしたのに、余裕そうに食べられても困る!!
「ディアお嬢様、私達はすでに告白しています」
「ううっ…答えはまだもらえてません」
アルセラとシンリーの言葉を聞いたあたしは完全敗北をする形となり、何も言えなくなった。
その結果、2人に弄ばれたあたしはそのまま、魔法演習場へ移動する羽目となる。




