『魔王の生まれ変わり』と『魔王ごっこ』
多分、なろう向きではないと思いながらも頑張ります笑
「おはようございます。ディアお嬢様」
「天使……?」
「もうっ!!」
まずはいつものように起こしてくれたシンリーへ抱きつき、甘えるまでが朝のセットである。
ちなみに、この世界へ来てから通算62回目のやりとりだ。
「羨ましいです…。ディア様、私にも抱きついてください!!」
「アルセラ、いいのー?」
しかし、昨日からあたしの部屋にはアルセラとパタリーシェフもいる。
その事実を忘れて、シンリーへ甘え続けていたら、アルセラにまで、見られてしまった。
ただ、寝惚けて頭が回らなかったあたしは躊躇いなく、シンリーと同じようにしてしまう。
もちろん、途中で頭が冴え、いつもの癖でアルセラに甘えてしまったことへ気づき、恥ずかしくて悶絶しかける事になるが、彼女から匂う柑橘系の香りに安心感を覚え、身を委ねてしまった。
ーーー
「…………朝食降りてこないと思ったら」
「「「あっ…」」」
しばらく続いた4人で生じた気まずい沈黙の後、当然、あたしはパタリーシェフにも甘えることとなり、あっという間に時間が過ぎていた。
そのため、あたし達は慌てて2Fへ移動して、朝食のエッグベネディクト、ロールパン、サラダ、コンソメスープを口へ運ぶ。
ちなみに、昨日から一緒に住み始めたアルセラもあたしやシンリー達と同様で、ここで食べる事がディブロお父様によって許可されている。
「………………お弁当、アルセラ様の分もある」
「パタリーシェフ、ありがとう!!」
あたしはパタリーシェフに感謝を伝えた後、彼女からお弁当を受け取り、3Fのドレスアップルームへ足早に移動する。
「今日は、白色で行きます!!」
あたしはシンリーの言葉へ縦にこくりと頷き、即座に、白色のドレスへ身を包み、そのまま屋敷を出て、ロンとアースの乗る馬車を発見する。
ーーーー
「ホープ、サクセス、いつもありがとう」
「ホープ様、サクセス様、『セブンス学園』までの送り迎え、いつもありがとうございます」
「「ヒッヒッヒッヒッヒィーン」」
あたしに続いてアルセラまで『ホープ』と『サクセス』へ感謝をしている。
そうすると不思議なことに『ホープ』も『サクセス』もいつも以上の鳴き声を見せてくれた。
「そんなの見せられたら、流石に妬きますね…」
「シンリー?」
「いいえ。ディアお嬢様、何もありません」
『ホープ』と『サクセス』をアルセラと共に撫でていたら、近くで見守っていたシンリーの方から彼女の声が聞こえたので、聞き返す。しかし、どうやらあたしの聞き間違いだったみたいらしい。
その後、あたし達はロンとアースが率いる馬車へと乗り込むこととなった。
ーーーーー
ガララララ……
「ディアお嬢様、率直に聞くが、弁明は?」
「あはははは!!こればっかりはロンの言う通り、ディアお嬢様、ぎりぎりすぎますよー」
「えーと、つい、シンリー達に甘えていました」
現在、あたしは『セブンス学園』へロンが操る馬車に乗り、大急ぎで向かっている途中である。
今日の朝は昨日の朝とは異なり、アルセラやパタリーシェフに甘えていた事もあって、昨日の出発時間よりも大幅に遅れることとなった。
そのため、ロンとアースがあたしに遅れた理由を尋ねるのは当然のため、彼らへ、正直に話す。
「ゴファォ!?」
「あははは!!ロン、下向いてると危ないから、前見てー!!」
そして、あたしの言葉を聞いたロンがいつものように、呻き声を上げて、苦しみだす。そんなロンをアースが笑いながら、彼を支えている。
「ロン、ディアお嬢様の朝の姿は目が蕩けてて、とっても可愛いんですよ。だから、私達が遅れるのはやむを得ないと思ってください」
「昨日のような凛々しいディア様もいいけど、今日の朝のディア様は正に天使そのものでした…」
「グハァッ……」
シンリーとアルセラがロンへ追い打ちをかけるかのように伝えた結果、いつものように彼から大量の血反吐が飛び出した。
「あたしが、朝、弱い事を暴露しないでっ!!」
「ディアお嬢様、可愛いです!!」
「ディア様、大好きです!!」
「褒められても、許さないからっっ!!」
シンリーとアルセラは、あたしを褒めてれば許されると思っているのか、無性に褒めてきたので、彼女達にそんな甘く無いぞと怒り返す。
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「ディアお嬢様、近づいてきましたね…」
「ディア様、私とシンリー様がついています」
しかし、平和な時間は長く続くことはなかった。『セブンス学園』へ近づくと、2人はあたしの事を思って、腕を組んで守ろうとする。
そんな優しい2人の行動に、罪悪感を覚えながらも、あたしは昨日の告白を思い出して、彼女達を意識した結果、恥ずかしくなり俯いてしまう。
「そんなつもりはなかったのですが、先に伝えておきましょう。ディアお嬢様、私達は返事を待つと言いましたが、それまでの間、アプローチをしないとは言ってませんからね?」
「シンリー様の言う通りですっ!!ディア様を必ずメロメロにさせますから!!」
その言葉と共に2人の顔が俯いてるあたしの下から覗き込むかのように近づく。
そんな2人を見ると、更に自分の顔が真っ赤になっていくのを自覚して、『セブンス学園』へ到着するまでの間、あたしは何も言えなくなった。
ーーーー
現在、あたし達は、ロンとアースから『セブンス学園』の校門付近で降ろしてもらった後、1-Aの教室を目指している途中である。
「例の『魔王の生まれ変わり』と『闇の魔女』が来たわよ…」
「シースール伯爵の派閥は『魔王の生まれ変わり』の方から襲われたらしいですわ?」
「そうそう。それなのにもかかわらず、ベルンルック公爵家から圧力をかけられたんですって」
「野蛮すぎるではないか……。もはや、ベルンルック公爵家の全員が『魔族』ではないか」
「しっ…聞こえたらまずいわ」
その途中で、すれ違う貴族からあたし達に関んする改竄された陰口が聞こえてきた。
「旦那様がそんなことするはずありません。情報の改竄とは、本当に不愉快ですね…」
「それにしても、ディア様が魔王私がで闇の魔女ですか…。なんて言う気持ちでしょう。その、え、えへへ…闇と闇、悪い気はしませんね…」
シンリーはディブロお父様のフェイク情報を流されたことに対して、憤慨している。
もちろん、ディブロお父様が脅しをかけたのは事実かもしれないが、先にアルセラへ仕掛けたのはシースール伯爵嬢達の方だ。
その一方で、『セブン⭐︎プリンセス』のキラキラとした主人公のアルセラがあたしのような悪役令嬢と並べられているのに、なぜかだらしない表情をしながら、こちらをチラリと見てくる。
そんなアルセラの愛らしい表情を見ていると、彼女のために何かしてあげたくなった。
「闇の魔女よ、余のために全てを捧げるか?」
「偉大なるディア魔王様、ええ、捧げましょう」
だから、彼女のために少しだけ『魔王ごっこ』をしてみることにした。
あたしはアルセラの顎を持ち上げながら、彼女へ問いかける、アルセラは光悦と言わんばかりの表情で、やや興奮気味にあたしへ伝える。
そして、自然とアルセラと顔が至近距離になっていき………
「2人とも…私に喧嘩を売ってるんですか?そんな魔王と魔女なら、私が勇者になって、真っ先に魔王を攫いに行きすよ!!」
「きゃっ…ディア魔王様、怖いです…!!」
当然のように、勇者役のシンリーから阻まれる事となる。恐らく、優しいシンリーが渋々、あたしとアルセラの余興に乗ってくれたのだろう。
そして、ノリノリのアルセラがあたしへ抱きついてきた。
「ゴホンッ、お二方のノリに乗った私が言うのも何ですが、ディアお嬢様、アルセラ様、周りを見てください。………ドン引きされてますよ?」
そんな茶番をしているとシンリーがやれやれと言わんばかりに、あたし達にジト目を向け、現実という名のど正論をあたし達に突きつけてきた。
「魔王を自称するなんて……」
「闇の魔女も大抵よ…」
「ハルデア皇大使殿下はこれを見抜いて…」
周囲へ耳を傾けると周りにいた貴族達から変な誤解が生まれそうになっていたため、急遽、あたしとアルセラの『魔王ごっこ』は幕を下ろした。
ーーーーー
『魔王ごっこ』を終了したあたし達は本校の『1-A』の教室へと移動する。
バタンッ
「ご機嫌よう」
シンリーが扉を開け、あたしが挨拶しても、返事は返ってこない。
ヒュートン先生くらいならば、挨拶が返ってくると思っていたが、彼は目を伏せて顔を横に振る。その時点であたしはヒュートン先生が『ハルデア皇大使殿下』に圧力を掛けられたと悟った。
「ディアお嬢様…気にせずいきましょう
「ディア様には私達がいます」
「2人とも、ありがとう」
あたしは2人の頭を撫でて感謝を伝える。
「おやおや、『魔王の生まれ変わり』様、『闇の魔女』様、クラスで浮いていて大変そうですね」
「『ハルデア王太子殿下』がわざわざ、声をかける必要なんて、ございませんわ」
挨拶が返ってこなかったあたしに対して嘲笑うかのように、ハルデア皇大使殿下と昨日、アルセラを襲おうとしたシースール伯爵嬢の派閥があたし達へ、分かりやすく挑発する。
「お互い、良い1年にしようじゃないか」
勝ち誇った表情をした『ハルデア皇大使殿下』があたしの肩へ右手を乗せる。
もちろん、この絶望的な状況を打開する手段として、『セブンス学園』内の救済システムがあるのだが、あたしが悪役令嬢に転生しているため、その手段を安易に選ぶ事ができない。
色々な事を想定して考えた結果、ほとぼりが冷めるまで待つしか無いと考えたあたしは『ハルデア皇大使殿下』を無視することにした。
「ハルデア皇大使殿下、授業を始めますので、どうか席にお戻りいただけませんかぁぁ!!」
「ヒュートン『君』、これはすまないね」
「ハルデア皇大使殿下、ご理解いただき至極光栄ですぅぅ」
「ああ、構わないよ。僕は優しいからね」
ヒュートン先生が攻めてもの抵抗と言わんばかりに、『ハルデア皇大使殿下』へ丁寧な言葉と共にお願いした事で、やっと、彼はあたし達の座ろうとした席から離れて自分の席へと戻って行く。
「それでは魔法の講義を始めるぞぉぉぉ。まずは、初日だからな!!魔法の説明から……………」
ヒュートン先生の魔法の講義が進む合間にも、周囲の貴族からの陰口が治る気配はなく、昼休みの間まで、ずっと続くこととなった。




