表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/75

『アルセラ』X『ディア』X『シンリー』

「さぁ!!張り切って、自己紹介の再開と行こうかぁ!!次はシュミレット家のご子息からだぁ!!」


 先程まで号泣していたヒュートン先生はいつのまにか、復活して自己紹介の再会を宣言する。


「私はジークフリート•シュミレット、辺境伯家の長男だ。正直、『魔王の生まれ変わり』とか騒いでいる有象無象共に興味はない。とりあえず、私の魔法勉強の邪魔だけはしてくれるな」


 あたしが自己紹介で殺伐とさせたのが悪いと思うが、それを度外視しても、全員が一癖も二癖もありすぎる自己紹介ではないだろうか?



「そんなに、僕と授業したいなんて、僕のクラスメイトはなんて最高なんだぁぁ!!」


 挙げ句の果てに、あたし達の熱血すぎる教師の感受性が、ぶっ飛びすぎている。ちなみに、『ジークフリート』はそんなヒュートン先生の言葉に言動に出てはいないものの、静かにキレていた。



「んー。俺はホルス、ターンズ侯爵家の次男なり〜、んー。もうこれだけでいいよね〜」


 しかし、殺伐としていた自己紹介もホルスのおかげで落ち着いた雰囲気を取り戻していき、それ以降は普通の自己紹介になって終わりを迎えた。


 それにしても、相変わらず『セブン⭐︎プリンセス』の攻略対象達が一癖も二癖もあることに気づき、あたしは、心身共に疲労した日だった。


「最後に僕だなぁ!!僕の名前はヒュートン•ノルディーク、騎士爵の出身だぁ!!クラスメイト達よぉぉ!!僕についてきてくれぇぇぇ」


 最後にノリノリでヒュートン先生が自己紹介をした瞬間、先ほどまで彼へ文句を言っていた貴族達でが全員押し黙り、1-A教室は一瞬にして静寂へ包まれることとなった。


 そんな地獄的な雰囲気にもかかわらず、ヒュートン先生は笑顔のままだった。



ーーーー



「ディア様、『公爵令嬢のメイド騎士様』、私は寮なのでお先に失礼致します」

「アルセラ様、どうか私の事もシンリーとお呼びください」

「シンリー様ですね?分かりました。では」


 自己紹介を終えた後、あたし達へ別れの挨拶と共にお辞儀をしたアルセラが1-Aの扉から出る。


 そうすると、約6名ほどの派閥と思しき複数の男と彼らに従う使用人達がアルセラを追いかけるように、1-Aから退室した。


「シンリー、行くよ」

「え?」

「いいからっ!!」


 アルセラにはあたしを絶望から救い出してくれた恩がある。それに、なによりあんなモブ程度の貴族なんかにアルセラを傷つけられたくない。


 概ね彼等は、アルセラに『嫌悪感』を示された事による報復として、動くのだろう、でも、あたしからすれば、彼女は意見を言っただけだ。


 だから、あたしはアルセラへ降りかかろうとする『理不尽』を『理不尽の権化』で悪役令嬢の『ディア•ベルンルック』として、消すっ!!


ーーーー


「ディアお嬢様、アルセラ様を追いかけるのはいいですが、宛はあるんですか?」

「『本校』と『魔法演習場』はあたし達の先輩達や教師に気づかれる場合があるでしょう?」


 今日は『セブンス学園』の入学日であり、たまたま、自己紹介のみで終えることとなった。その状態ならば、『寮』に到着する前に襲うはずだ。


 だから、あたしとシンリーは足早に女子寮の方へと移動することとなった。


ーーー


「平民の分際で俺らに楯突いてんじゃねぇぞ」

「その通りですわ。本当に目障りだわ」

「てめぇ、舐めてんのか」

「はぁ…あなた方に私を殴る権利はありません。興味もないので、退いてくれませんか?」


 女子寮へ移動した結果、あたしの予想に反して、敵は多く、男女の派閥から詰められていた。


 人数で表せば、約1vs20のような地獄のような構図が出来上がっている。恐らく、2つの派閥による『利害の一致』と言うやつだろう。

 


「『光の聖女』だか知らないけど、あんた調子乗りすぎよ!!」

「あぁ?俺達が『光の聖女』だかなんだか、知らねえが、手を出せねぇって思ってんのか?」


 アルセラの言葉に我慢ができなくなったのか、派閥を率いるリーダーと思しき、女子生徒が大声で叫び、貴族とは思えない言葉の物言いと共に隣の男が手を上へ振りかざそうとした瞬間だった。


 アルセラは『光魔法』を詠唱しようと口を開けるが、間に合わないと判断したのか、目を瞑る。


「おーほっほっほっ、闇魔法『ダークシールド』ですわ」


 ゴンッッ


 アルセラの頭上にあたしが生成した『漆黒の盾』が現れ、彼の拳があたしの盾とぶつかり、周囲に鈍い音を生じさせる。


「っってぇな!!!なんだこの黒い盾、誰だって、まさかお前は……」

「『ベルンルック公爵令嬢』、いや、『魔王の生まれ変わり』と呼ぶべきかしら」


 男子生徒はあたしの方へ悪態をつき、女子生徒はあたしの姿を見てわかりやすく煽ってきた。


「おーほっほっほっ、『魔王の生まれ変わり』とでもなんとでも呼ぶといいですわ。あなた方と話すためではなく、わたくしは大事な友達を守りにきただけですから」

「ディア様………」

「でも、いいのかしら?ハルデア王太子殿下に加えて、私達とも争う事になるわよ?それに……あなたは『通学生』、私達は『寮生』ですわ」


 あたしは、女子生徒の言った事へ唇を噛み締める。それは『あたし』がいない所で見えない暴力をするぞと言う言葉を濁した脅しだからだ。


「あら、悔しそうね。そんなにこの光属性しか取り柄のない『平民』が大事なのかしら?そうね。いじめてほしくなければ、私の靴を舐めなさい」

「ディア様、私は平気です!!平気ですから!!」


 派閥を率いる女子生徒があたしの弱みを握ると、口角を上げつつ、あたしへ命令する。


 彼女に差し出される靴、完全に勝ち誇り、光悦とした女子生徒の表情………。


 アルセラは、大きな声であたしに大丈夫だと訴えかけるが、寮の中ではあたしが守れない。あたしは全身を震わせながら、身体を地面に落とす。


「『魔王の生まれ変わり』、覚えておきなさい!!これからは私がご主人様よ。なにをぐずぐずしてるのかしら?ほら、早く舐めなさいっ!!」

「光魔法『ホーリースピア』!!」


 あたしが地面に這いつくばり、女子生徒の足を舐めようと近づこうとした瞬間、あたしと女子生徒の間に一本の光で出来た弓矢が突き刺さる。


「え?」


 あたしがアルセラの方へ慌てて振り返ると、彼女が『光魔法』を発動させていた。


「次は、外しません。ディア様、せっかく私の事をお友達と言ってくださったのに、ごめんなさい。でも、私のために、ディア様がこんな事までする必要はありません」

「アルセラ、それって……」

「私は、『セブンス学園』を退学します」

「「なっ…!?」」


 アルセラの言葉を聞いた瞬間、彼等は驚愕の表情へ変わり、顔が青ざめていった。


「っ!?おーほっほっほっ…良くもこのわたくしに恥をって……あら?」

「ディアお嬢様、少し遅いです…」


 一方であたしは彼等よりもアルセラの言葉を理解するのに、時間を要してしまう。


 その結果、あたしが反撃に出ようとした時には、既にアルセラを攻撃しようとした人達が散り散りになり、あたし達から走って逃げていた。



ーーーー


「ディア様、ごめんなさい」

「ううん。アルセラ、怪我はなかった?」

「ディア様が守ってくれましたから…。でも、唯一の心残りがあるとすれば、ディア様とシンリー様の近くに居れないことです」


 あたしはアルセラを抱き寄せて、首を全力で横に振る。もちろん、アルセラが退学をして仕舞えば、魔王を倒せなくなる。でも、それ以上に、あたし自身がせっかくアルセラと分かり合えたのに離れるなんて、嫌で嫌で仕方がない。


「ゴホンッ!!ディアお嬢様、まずはアルセラ様をベルンルックの屋敷へ呼びましょう」

「シンリー?そ、そうね。アルセラと色々話もしたいし、まずは当家に来てもらいましょう」

「え?で、でも…」


 あたしに助け舟を出した?と思い、シンリーの方を見ると、彼女はあたしに対して、やれやれと言った表情を浮かべていた。


 だから、あたしは心の中でシンリーへ感謝をしながら、アルセラを誘う。


「アルセラ、あたしのお願いを聞いて欲しいのだけど、いいかしら?」

「は、はひぃ…ぜひぃ…」


 アルセラの気持ちを利用するようで気が引けるが、あたしは顔を近づけ、彼女の耳元で囁く。そうすると、先程まで困惑していたはずのアルセラが『セブン⭐︎プリンセス』の主人公とは思えないくらい、だらしない表情になっていた。


ーーーー


「…………アルセラ様とパタリー様以上は何がなんでも、認めませんから」

「シンリー、今、何か言った?」


 ロンとアースに合流するため、『セブンス学園』の校門へ向かう途中、シンリーから声が聞こえたが、聞き取れなかったので聞き返す。


コチンッ

「ディアお嬢様の女垂らし…。………絶対に私が1番なんですから…ね」


 シンリーがあたしの方へ近づき、あたしのおでこと彼女のおでこがゆっくりと重なる。おでこが重なった姿勢のまま、シンリーから大ダメージの言葉を受けてしまう。しかし、それも束の間、次に最高に愛らしい彼女の笑顔と小さな声で言った言葉にあたしは胸のドキドキが止まらない。


「シンリー様とディア様、私も混ぜてください」

「アルセラ様には負けないってことです」

「私はシンリー様も大好きですよ?」

「くっ……私は一筋ですからっっ!!」


 アルセラとシンリーはすっかり打ち解けてそうだったので、あたしはそんな2人のやりとりを微笑ましく眺めていた。


「ディアお嬢様もほら、行きますよ」

「ディア様、こっちへ来てください…!!」


 2人を眺めていると、夕陽に照らされたシンリーとアルセラがあたしの方へ振り返り、あたしの方へ微笑みながら、手を差し出す。


『バッドエンド確定の悪役令嬢』だって、パタリーシェフを含めた3人がいれば、ハッピーエンドを目指せるかもしれない、不思議とそう思えた。


「2人に見惚れちゃって…今、行くね」



 あたしのふとした瞬間に漏れた本音が、アルセラとシンリーの表情を夕日よりも赤く染め上げたらしい。あたしは、2人の明るさに気付かないふりをしながら、2人へ追いつく。


 そして、そのまま『セブンス学園』の校門付近に移動して、ロンとアースと合流をした。



 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ