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『サイコパス王子』vs『感謝の公爵令嬢』

「次、ハルデア皇太子殿下、素晴らしい自己紹介を頼むよぉぉ!!」


 あたしが恥ずかしさのあまりに、涙目を浮かべていると、どうやら、少し離れた席の『サイコパス王子』の自己紹介の番となったらしい。


 彼は彼で、あたしが闇魔法を使うと知った瞬間、冷ややかな視線を向けるようになった気がするため、油断できない相手である。


「やぁ。知らないクラスメイトはいないと思うけど、僕はハルデア•セブンスだ。そんな事より僕は、悲しい事実に気づいてしまった…」


『ハルデア皇大使殿下』は自分の自己紹介の時間なのに、まるで演説するかのように1-Aに所属するクラスメイトの視線を集める仕草をしている。


「僕は『ディア•ベルンルック公爵令嬢』が『魔王の生まれ変わり』だと分かってしまった」


 あたしは、すぐにシンリーとアルセラに右腕を彼女達の前にかざす事で、2人を止める。相手は王族であり、権力に関して言えば絶大な存在だ。


 つまり、軽率な行動をしてしまうとあたしでも2人を庇えるかどうか分からない。だから、あたしは深呼吸をして自分を落ち着かせる。


「『ハルデア皇大使殿下』、どういう事でしょう?『王族』といえど、『限度』がございます」

「悪名高い『理不尽の権化』と呼ばれていたお嬢様が、『人』が変わったかのように『感謝の公爵令嬢』と呼ばれ、『闇魔法』を行使、貴族なのに権力に拘る様子もなく、僕との婚約を断った」


 あたしの額から冷や汗が流れてきた。『ハルデア皇大使殿下』の言ってることは支離滅裂で決定的な証拠はない。しかし、嘘だという証拠もなく、状況だけ見れば『説得力』がある。


 なぜならば、あたしが平民達に感謝をしただけで、『感謝の公爵令嬢』と通り名がつく世界だ。


 それに加えて『ハルデア皇太子殿下』は絶大な権力を誇る『王族』のため権力的にも分が悪い。


「ここ数ヶ月で人が変わり過ぎてないか…」

「でも、改心した可能性はどう説明する」

「ハルデア皇太子殿下の言い分が正しいならば、わたくし達に溶け込むためじゃないかしら」


 当たり前だが、貴族という生き物は『権力』が強い方の味方につきやすい。


 あたしは一気にクラス中から『魔王の生まれ変わり』として注目されてしまう。


「お言葉ですが、それは『ハルデア皇大使殿下』の推測に過ぎませんっ!!」

「その通りだぁ!!僕は『ベルンルック』嬢が『魔王の生まれ変わり』とは思わないぃぃ!!」


 あたしは、咄嗟に振りかかった根も葉もない冤罪に対して、大きな声で抗議をする。そうすると『ヒュートン』先生があたしに味方してくれる。


「ヒュートン先生のいう通りだね。じゃあ、本人へ聞いてみないかい?なぜ、『理不尽の権化』から『感謝の公爵令嬢』に変化したんってね?」

「そ、それは、当家が管理する領地の民に感謝を伝えたいと思ったからです!!」

「それは素晴らしい!!もし、それが『本当』ならば、心から『謝罪』しよう」


 あたしの反論に対して、『ハルデア皇大使殿下』は大きな声と共に本当に悪いことをしたと言わんばかりの表情をしながら、お辞儀をする。


 そんな『ハルデア皇太子殿下』の表情を見た瞬間、何も悪い事をしていないはずなのに、あたしは全身から鳥肌が立った。


「じゃあ、最後の質問だ。なぜ、君は『感謝の公爵令嬢』に生き方を変えたのに、ベルンルック家の元メイドを『石のように』扱い、長時間にわたる理不尽を課したのはなぜだい?」



「そ、それは……」




 あたしの嫌な予感が的中して、重要な場面であたしは言葉を詰まらせることとなった。もちろん、元メイドたちに理不尽な行動をした理由はシンリーを守るためである。しかし、この世界の貴族にあたしの話を信じてもらえるのだろうか?



「ほら、黙った。これで『僕が正しい』と分かったかい?ああ…本当に残念だ。残念で仕方ない」



 そして、あたしが言葉を詰まらせたのを好機と捉えたのか、『ハルデア皇大使殿下』は悲しそうな表情とは裏腹に、ここぞとばかりにチェックメイトだと言わんばかりに詰めてくる。



 バンッ



「ディアお嬢様が理不尽をしたのは私を守るためです!!私が弱くて、先輩にいじめられたからです。お願いします。だからっ!!これ以上…私の…ディアお嬢様を、いじめるのをどうか……」




 あたしはシンリーに駆け寄って、彼女を全力で抱きしめる。シンリーにとって辛いはずの過去をクラスメイトの前で公開したのは、彼女があたしを守りたいという本心だろう。それと同時に彼女にとって思い出したく無い出来事のはずだ。


 そんなシンリーの気持ちがわかるから、自分の胸が張り裂けそうになるのを我慢しながら、怒りの感情に飲み込まれないように耐え続ける。


「シンリー、ありがとう…ありがとう……ね…」

「ディアお嬢様ぁぁぁぁぁ…」

「『ベルンルック公爵令嬢達』は本当に『魔王の生まれ変わり』なのに、演技が上手だね。賢いみんなは騙されてはいけないよ」


 そして、シンリーに感謝を伝える途中であたしの声も震え始める。それと同時にシンリーも耐えていた涙をこぼし始めた。


 そんなあたし達を見たのか、周囲の陰口は一時的に治ることとなった。しかし、『ハルデア皇大使殿下』だけは治らずに追及を止めなかった。




「『感謝の公爵令嬢』様が止めてたから言わせてもらいますが、この主従愛を見て、『魔王の生まれ変わり』って思うならこの国は終わりですね」

「アルセラ嬢、一々不愉快だね。『光の聖女』だからと言って調子に乗るのも程々にしたまえ」

「私は平民だから権力なんかに縛られるつもりはないですよ。そして、ここへ来たのは『感謝の公爵令嬢』様に会いたいから入学しただけです」



 あたしとシンリーが2人掛かりでも、どうにもならなかった絶望的な状況が、アルセラの言葉で一変した。当然、『ハルデア王太子殿下』は権力を散らつかせ、彼女を黙らせようとするが、彼女はそれを突っぱねる。言い負かされた『ハルデア皇太子殿下』は聞こえるように舌打ちをした。



「悔しいが、あの平民の『アルセラ嬢』が言いたい事もわかるような気がする」

「しかし、ハルデア皇大使殿下に楯突くのは…」

「ベルンルック公爵家も凄いのは事実だが…」



 その一方で周囲はあたしが『魔王の生まれ変わり』がどうか半々の意見になる。しかし、権力的には『ハルデア皇大使殿下』の方が上手であるため、依然として不利のままである。

 

 しかし、結果から見れば、あたしは全員から『魔王の生まれ変わり』にされかけた中、遠ざけたはずの『アルセラ』に助けられてしまった。


 アルセラはどんな気持ちなのだろうか?

 あたしに怒っているのだろうか?

 彼女に幻滅されてしまっただろうか?

 彼女にどんな顔を向ければいいのだろうか?


 今までの自分の行動を思い返して、正解が見つからず、分からなくなる。


「『感謝の公爵令嬢』様、『公爵令嬢のメイド騎士』様、雨が降ってますねー。そうです。お二方共、私のハンカチでよければ、お使いください」

「あ、ありがとう」

「ありがとうございます…」


 どうしようかと悩んでいた時、隣に座っていたはずのアルセラがいつのまにか、あたしの正面へ回り込んでいたらしい。


 そして、心配そうな表情を浮かべながら、あたしとシンリーへハンカチを渡してくれる。


「『感謝の公爵令嬢』様、『公爵令嬢のメイド騎士』様、私はあなた方の味方です。それと『感謝の公爵令嬢様』、心からお慕いしております。だから、私とお友達から始めてください」


 結局、あたし達はアルセラから傘を受け取り、雨を晴らしている最中、あたしへ満面の笑みを浮かべた彼女から友達からのステップアップとして、告白されることとなった。


「……お友達……うん。分かった。じゃぁ、まずあたしの事は、ディアって呼んで」


 あたしは顔を真っ赤にしながら、両手で顔を覆いつつ、彼女へお願いする。


 隣のシンリーから怒られるかな?と思ったが、珍しく、彼女からは何も言わなかった。


「ディア様ですね。わかりました」


 あたしの返事を聞いたアルセラは1番の満面の笑みを咲かせていた。その一方で、『ハルデア皇太子殿下』はそんなあたし達を睨みつけていた。

 

「ひぐっ…ううっ…なんて…ずーっ…感動するんだ…。美しいぃ…ひぐっ…。少し…ぐっ、落ち着いたら…ひぐっ……自己紹介の続き…だぁ」


 なぜか、1番号泣していたのはあたし達に関する問題の当事者と無関係のヒュートン先生で、彼の都合で暫く、自己紹介は停滞する事となった。


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