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アルセラの想い

 バタンッ


 シンリーがあたしの代わりに『1-Aの教室』の扉を開けると、入り口付近に、教壇があり、少し先に横幅が長い机の席が3列に設置されていた。


 例えるとすれば、日本でいう大学の講義を受ける教室のような構造である。


 そして、長い机に備わっている小さな椅子に、他の新入生は席の指定がないのか、自由に座っている。自由とはいってもほぼ、派閥毎で別れているため、空席も結構ある状態だった。


 次に、あたしの視界に飛び込んできたのは、『セブン⭐︎プリンセス』をプレイしていた時と同一のクラスメイトである。


 クラスの人数は30名を少し超えてるくらいの人数で、あたし達が入学する1年生はA,B,Cの3クラスまで存在する。


 そして、肝心の1-Aには『セブン⭐︎プリンセス』内の攻略対象が7名中3名いる。


 1人目は『ハルデア皇太子殿下』…本名は『ハルデア•セブンス』事あるごとに、あたしへ嫌がらせかのようなタイミングで遭遇する『サイコパス王子』である。


 ちなみに、『サイコパス王子』推しのプレイヤーからの愛称は『漆黒の赤髪王子』と呼ばれており、サイコパスから真実の愛を知るシナリオからそう呼ばれているらしい。


 2人目は『ジークフリート•シュミレット』…ハルデア皇太子殿下の外見が赤髪イケメンだとしたら、『ジークフリート』は青髪イケメンと赤と青で対をなす存在である。属性タイプは高身長で眼鏡をかけるインテリ系だ。


 また、彼は認めた人物以外を見下すため、毒舌キャラクターでもある。そんな『ジークフリートの出自は『シュミレット』辺境伯家の長男であり、彼のルートへの突入契機は『セブンス学園』の試験でトップの成績を収めることである。


 ちなみに、『ジークフリート』は『セブン⭐︎プリンセス』内であたしが過去に推していたキャラクターでもある。そんな彼の推し達からの愛称は『毒舌のツンデレ王子』で親しまれている。


 3人目は『ホルス•ターンズ』……彼は紫色の髪をしていて表情も覇気がなく、おっとりした感じである。しかし、彼は一度好きになった物は種類を問わず、夢中になる性格である。彼の出自はターンズ侯爵家の次男で、ルート契機は、何度も彼だけに話しかけて彼の特別になることだ。


 もちろん、そんな『ホルス』にも『セブン⭐︎プリンセス』内の推しプレイヤーからの愛称がある。その愛称は『闇王子』である。そう、つまり、彼の特別な関係になる+好感度をマックスにすると彼は『ヤンデレ』へ変貌するのだ。


 そして、残りの4人は2年生以降の『クラス替え』の時に同じになる。つまり、基本的には1年生編の3人を攻略しなければ、次の攻略対象とは出会えないシステムである。


 そんなこんなで『セブン⭐︎プリンセス』の攻略知識を思い出していたけど、『セブンス学園』で平穏に過ごしたいあたしにとって、攻略対象は、心から遠慮願いたい相手に変わりはない。


「ベルンルック公爵令嬢ぅぅ…!!どうしたんだぁ!!空を見上げて悩み事かいぃ??なんでもぉぉ、話してみたまえぇ!!!!さぁ!!」

「ヒュートン先生、特にないです」


 1-Aの教室の入り口付近で、あたしなりに脳内で整理している、先程と同じように、ヒュートン先生が大きな声をあげて私達へ近づいてきた。


 とりあえず、彼に話す悩みが本当にないあたしは断り、空いてる席の方へ座る事にする。


 ちなみに、教室内では座れるのは、あたしだけでシンリーのような使用人側は立つことになっている。それに加えて、使用人達は、基本的に授業中でたれば、喋ることが許されない。


「これで全員……いや、1人足りないぃ!?」


 パタンッ


「おおっ、最後は『アルセラ嬢』、空いてる席は……うん!!きっと、それがいいな。君はベルンルック嬢の隣に座るといい!!」


 この熱苦しい馬鹿教師のデリカシーの無さが悩みですとストレートに伝えてやろうか?と声に出さないまでも、心の中で荒ぶりながら、苦笑いを浮かべる。その一方で、アルセラは満面の笑みを浮かべて、あたしの隣の席に座った。


「『感謝の公爵令嬢』様、何度も考えましたが、諦めきれません!!」

「なんっ……」


 あたしはアルセラの言葉を聞いて、目を見開く。そして、あたしが出そうとした言葉は彼女の続く言葉で掻き消されることとなった。


「『ハルデア皇大使殿下』を傷つけずに断った姿勢、『公爵令嬢のメイド騎士』様との信頼関係、やはり、あなた様は、私が聞いていた通り、唯一無二の敬愛する『感謝の公爵令嬢』様です!!」


 ちなみに、アルセラは『セブン⭐︎プリンセス』の主人公のため、戦闘以外のスペックも高い。


 だから、彼女にはある程度、あたしの考えが読まれているのかもしれない。


 どこまで読まれているのだろうと考えながら、アルセラに返答するため、時間も要してしまう。


「………私がディアお嬢様の親衛隊の隊長でなければ、良き親友になれたでしょう。しかし、ディアお嬢様が拒む以上、私はアルセラ様の敵です」



 そんな時、あたしとアルセラだけに聞こえるような声量でシンリーがアルセラへ反論した。そして、不覚にも、シンリーがアルセラに伝えた言葉へ、あたしも心の底から同意してしまう。




 あたしが『バッドエンド確定ルート』の『悪役令嬢』の『ディア•ベルンルック』でなければ、『アルセラ』と仲良くなれた未来もあった……。



 

「今日は入学初日だっ!!だからっ、自己紹介で終わるとしようかぁぁ!!明日から授業だから、心して取り組む事を先生と約束してくれぇ?それじゃ、ベルンルック嬢から自己紹介だぁぁ!!」

「ヒュートン先生、なぜ、あたしからですか?」

「君が1番端に座ってるからさぁぁ!!」


 ヒュートン先生は熱苦しいだけで嫌がらせをするような人間ではない。それは分かっているが、なぜ、無償にここまでイラっとするのだろう。


 ダンッ


 そんな風に心の中で愚痴りながら、あたしは鬱憤を晴らす為、音を立てながら、席を立つ。



「皆様、お初にお目にかかります。ベルンルック公爵家、長女『ディア•ベルンルック』と申します。私は『闇魔法』を使用します。だから、私へ近づくことをお勧め致しません」

「ベルンルック嬢………ううっ…。僕は、君の味方だか……ひぐっ……らぁぁぁぁ!!」


 ヒュートン先生は『セブンス学園』で魔法を教える教師である以上、闇魔法の偏見を知っているのだろう。それでも、一体、あたしの自己紹介のどこに泣く必要があったのだろうか?


「ぐすっ……それでは、アルセラ嬢」

「私はアルセラです。私はここにいる『ディア•ベルンルック』様と『公爵令嬢のメイド騎士』様意外に興味がありません。つまり、『闇魔法』を使うと言うだけで、彼女をいじめたり険悪する人は、全員、漏れなく私の敵です」

「おっふ………」


 アルセラの言葉を聞いた瞬間、あたしの心の本音が漏れ出てしまった。そして、交戦的な彼女の自己紹介を聞いて、嫌な予感がする。そのため、周囲を見渡すとクラスメイトの何人もの貴族が明らかに敵意を持った視線でアルセラを見ていた。


「アルセラ嬢!!君はベルンルック嬢に『恋』をしているんだなぁ!!だから、独占しようと…!!」

「……『恋』?いいえ、『愛』です」

「ぐふぁ……!!」


 あたしはアルセラの言葉を聞いた瞬間、呻き声をあげて机に突っ伏した。


「同性同士がなんだ、先生は応援するぞぉぉ!!」

「………あ、ありがとうございます」


 相変わらず、熱血のヒュートン先生がアルセラへ返事をする。一方で、アルセラも自分自身の言葉が恥ずかしいと感じたのか、彼女は頬を赤く染めながら、彼に小さな声で感謝を伝えていた。


 それよりも、今の状況を整理しよう。


 まず、あたしの知っている『セブン⭐︎プリンセス』の『アルセラ』とこの世界の『アルセラ』は言うまでもなく、別人と認定していいだろう。


 それでは何がトリガーになったか?については『感謝の公爵令嬢』としてのあたしの『ベルンルック公爵領』の視察行動だと思う。


 そして、今のアルセラのような、複数回拒まれたのに、何度も積極的にあたしへアプローチする姿勢を『セブン⭐︎プリンセス』内で『攻略対象』とのクライマックスの時以外見たことがない。


 あれ、

 嘘…

 そんなのって……


 まるで、この世界のアルセラがわざわざ『バッドエンド確定』で『悪役令嬢』の『ディア•ベルンルック』ルートを好感度マックスの状態で攻略しているみたいじゃないか……。


 ドクッドクッドクッドクッ


 アルセラの『愛』という言葉と自分がヒロインルートになってる可能性に気づいて、自分の胸へゆっくりと手を当てる。心臓がどんどんと早くなっていくのを感じていると、無意識のうちにあたしはアルセラの方を見つめていたらしい。


「やっと、私を見てくれましたね?」

「っ!?」


 彼女の言葉を聞いた瞬間、あたしは途端に視線を逸らす。『セブン⭐︎プリンセス』の主人公である『アルセラ』の満面の笑みに当てられてしまえば、意識してしまうのは当然だろう……!!

 


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