『ヒュートン先生』と『シンリーの成長』
基本的に物語の展開速度が、スローペースなので申し訳ないです、
「ディアお嬢様…!!起きてくださいっ!!」
「んゅっ……シンリー、大好きっ」
「も、もうっ…お気持ちは嬉しいですのが……」
いつのまにか、『セブンス学園』の入学のガイダンスは終わっていたのか、あたしは、シンリーの声で目を覚ますこととなった。
「ベルンルック嬢、まずは、貴殿の言い訳から聞こうじゃないかぁぁ!!!ふふん?驚いたかぁ!!僕は、自分の生徒の名前と顔を覚えたのさぁぁ!!」
そして、眠っていたあたしを発見したのだろうか、ゲーム内で何度も見た『セブンス学園』であたし達の1年生を担任する教師、ヒュートン先生が真っ赤な顔をして、あたしを見つめている。
ヒュートン先生は、身長が低めで、黒髪の眼鏡を掛けた外見をしているが、そんな見た目に反して彼は真面目で正義感に溢れ過ぎていて、最早、熱いを通り越して、熱苦しい先生である。
「んーっ、ヒュートン先生、ふぁ……おはようございます」
「はい。おはようございます、挨拶ができて偉いぃ!!じゃないぃぃ!!ベルンルック公爵嬢、説明は聞いていたのかぁぁ!!」
とりあえず、背伸びをしたくなったあたしは、その場で背伸びをして、彼に挨拶をする。
そんなあたしの態度を見たヒュートン先生は一度は、笑顔でおはようと言ってくれたものの、すぐに、阿修羅の如く怒った表情に変わった。
このままでは『問題児』になる可能性があると考えたあたしは、『セブン⭐︎プリンセス』で得た攻略知識を活用する事にした。
「あたしの所属クラスは1-Aで、評価方式は授業の参加率70%以上と特別休暇前に行う2回の実技試験、落ちれば留年になる、合ってますか?」
「なん…だとぉ…!?寝ていたはずなのにぃ、どうやってその情報を手に入れたぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「寝ながら聴く事だってできるんです。人間に不可能なんてありませんっ!!」
「ベルンルック嬢、僕の完敗だ…………」
もちろん、ヒュートン先生は悪い教師ではなく、むしろいい教師だ。ただ、説教をする際に必ず、勝敗を付けて、負けた場合は反省文を書かなければならないため、そう言う所が難点である。
ちなみにヒュートン先生が生徒に敗北した場合、自分で猛省する。
「くっ…どうしてだぁぁぁ。どうして、僕は敗北したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
とりあえず、その場で地面に伏して猛省するヒュートン先生を傍目にあたしとシンリーは所属する1-A教室に向かうことにした。
「それにしても、ディアお嬢様、私は完全に寝てたと思ってました。起きていたんですね?」
「うん。実際、あたしは寝てたしね」
1-Aに移動する途中、シンリーからヒュートン先生とのやりとりについて、質問されたが、あたしの使ったのは知識チートのような物だ。
だから、正直に、寝ていたと答えたら、シンリーからジト目を受けることとなった。
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「『感謝の公爵令嬢』様、お待ちしてました」
「『アルセラ』、あたしは闇魔法属性使い、だから、もうあたしに構わないでほしいの」
あたし達が1-Aの教室に入るために、本校へ入る直前のことだった。また、あたしとシンリーは『アルセラ』に呼び止められることとなった。
『セブン⭐︎プリンセス』の主人公の『アルセラ』は忌避される『闇魔法』を扱うあたしに固執しなくても、自然と『セブンス学園』で生活していくだけで、『攻略対象』と結ばれる未来がある。
だから、あたしは自分と『アルセラ』のためにも強めに彼女を拒絶した。
「それは『感謝の公爵令嬢様』が『闇属性の魔法』を使用するからですか?それとも、私が『光の聖女』と呼ばれてるからですか?」
「ど、どっちもだよ。だから、これにて…」
「嘘ですね…」
アルセラの言う通り、あたしの嘘だ。でも、彼女はあたしのような『バッドエンド確定の悪役令嬢』なんかと関わるべきではない。
それはあたしが想う心からの本心である。
このまま、アルセラと話していたら、彼女のペースに飲まれかねないと判断したあたしは、無理矢理通ろうとすると、彼女に腕を掴まれる。
「私はこの『セブンス学園』に来るのが億劫でした。平民だからと見下す貴族の視線の恐怖を知っていたからです。しかし、そんな私の希望の光が『感謝の公爵令嬢』様、あなたの噂でした」
あたしが『セブン⭐︎プリンセス』で知っている入学した頃のアルセラは『貴族の目』に怯えていたはずだ。
それをあたしの『噂』が彼女の本来あるべき姿を歪めてしまっている。不覚にも、その事実に悔しさともどかしさを覚えてしまった。
「あの!!私のディアお嬢様を怖がらせないでください!!絶対に、私達は『アルセラ』様に危害を与えません!!だから、お願いしますっ!!」
シンリーが大きな声と共にあたしを掴んでいたアルセラの腕を振り払う。
そのまま、あたし達はアルセラから逃げるように走って、1-Aの教室へ移動する事となった。
ーーーー
「シンリー……」
「ディアお嬢様、私はパタリーと親衛隊に託されましたから、私が責任を持ってお守りします」
そう言うシンリーは全身を震わせている。その姿を見て、あたしは彼女とこの世界で初めて、出会った時を思い出す。
きっと、こんな時に、以前のシンリーを思い出したのは、今の彼女が浮かべる表情とあたしに赤ワインを掛け、恐怖に怯えていた彼女の表情が重なったからだと思う。
「シンリー、無理させてごめんなさい…」
「ディアお嬢様、もう、あの頃の私と今の私は違います。あはは…。強がってみたんですが、ごめんなさい。正直、震えが止まりません…」
あたしは自分の無力感に苛まれながら、誰もいない1-Aの教室に行く途中の廊下で、全身を震わせるシンリーをあたしは強く抱きしめた。




