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『アルセラ』と『ハルデア皇太子殿下』/『シンリーとディア』

「ご機嫌よう。新入生の方は『魔法演習場』へ向かってくださいませ」

「全員、まずは『魔法演習場』だ」


『セブンス学園』の校門へ入ると、在校生と教師と思しき人達が大きな声を出していた。


 そして、あたしと同じような新入生は誰1人逆らわずに、彼等の指示に従っている。


 彼等が素直に従う理由は『セブン⭐︎プリンセス』の設定による物だ。基本的に『家名』は『領地の名前』になる。そのため、貴族にしか与えられない貴重な代物であり、領民を代表するような物だ。そのため、変に騒ぎ立てたりすれば、自分達の軽率な行動で悪評につながりかねない。



「ディアお嬢様、貴族って思いの外、集団行動してる方々が多いんですね」

「騎士爵、男爵、子爵、伯爵、辺境伯、侯爵、公爵、王家と意外と多いからね。あたし達には縁のない派閥みたいなもんだよ」


 基本的に領地を持つのは『男爵』からだが、『騎士爵』だけ王城の騎士になるため、例外的に貴族扱いになる。


 こう見ると『騎士爵』が『セブンス学園』で立場が弱そうに見えるかもしれない。


 しかし、1番立場が弱いのは『男爵』と『子爵』である。


 ちなみに、『男爵』と『子爵』が弱い理由は、派閥に入らなければ、生き延びられないからだ。


『ベルンルック家』のような公爵家クラスならば別だが、基本、貴族は集団で群れる必要がある。


 だから、あたしはこういった面に関して言えば、『理不尽の権化』だった事もあり、他貴族との繋がりがない事は最大のメリットだと思う。


「あたし達の領地は必要ないけど、本来、貴族は群れる生き物だからね。ほら、はぐれちゃまずいから、シンリーはあたしと手を繋ごう?」

「は、はい」


 あたし達の周りに、段々と貴族と付き従う使用人達が多くなってきたため、あたし達も彼等の指示通りに『魔法演習場』へと向かう事となった。


ーーーー


 あたしは『ベルンルック家の公爵令嬢』であり、『感謝の公爵令嬢』と呼ばれる前は『理不尽の権化』と呼ばれていた。


 そのため、『魔法演習場』へ移動中、あたし達は他の生徒や使用人から見られはすれども、自分達より、階級が下の貴族から、ほとんど話しかけられることはない。


 だから、油断をしてしまったのだろうか。


「あなた様が噂の『感謝の公爵令嬢』様ではございませんか?」


 あたしは、自分の名前が呼ばれたため、心の中で戸惑いつつ、声のする方向へ振り返る。


 目の前には、特徴的な銀髪のツインテール、あたしより少し身長が高く、真紅の瞳を保有し、画面越しとはいえ、何度も見てきた『セブン⭐︎プリンセス』の主人公『アルセラ』が立っていた。


「お、お、恐らく、人違いかと……」

「えぇ…!!それは飛んだ失礼をしました」


 そ、そんなバカな………そう思い、あたしは咄嗟に、名前を誤魔化すことを選ぶ。そうすると、アルセラは顔を真っ赤にしてあたし達へ謝罪の言葉と共に、お辞儀をした後、走り去っていった。


「ディアお嬢様、どうして、嘘をつく必要があるんですか?」


 アルセラが走り去った後、あたしが誤魔化した事についてシンリーから追求を受けてしまう。


「そ、その…深い事情が」

「浮気とか?」

「そ、そんなわけないよ!!って、あたし達、まだ付き合ってないじゃん!!」


 あたしの誤魔化しに対して、目の前のシンリーが笑顔のはずなのに、目が笑っていない。だから、浮気に関しては、全力で否定をした。


「まだ?」


 しまった…。今度は誤魔化すのに必死で、シンリーに揚げ足を取られてしまう。揚げ足をとったシンリーは大層、嬉しそうに微笑んでいた。


「えーと…その…」

「ディアお嬢様、帰ったら、話せる範囲で話してくれませんか?そしたら、私も手伝えます」

「分かった…。でも、話せる範囲でね」


 どうせ、このまま誤魔化し切れることではないため、あたしの『転生』や『ステータス』等の情報を伏せつつ、『3年以内に死ぬ可能性が高い』ことだけ、伝えることを決心した。


 シンリーと話しているうちに、あたし達は『セブンス学園』の『魔法演習場』へと到着する。


ーーーー


 あたし達が移動した『魔法演習場』はかなり広い場所である。そんな『魔法演習場』は特殊な建築材料でできているだろう。周囲が騒いでいるのにもかかわらず、音が抑えられていた。


 次に、周囲を確認してみると、あたし達以外の新入生がたくさん、この場に集まっている。


 視線を遠くにすると、柔らかそうな椅子がランダムでそこら中に設置されているようだ。


 前世の日本で例えるならば、式典で使うパイプ椅子のような物に近い。


 話を戻そう。それより、あたしの知っている『セブン⭐︎プリンセス』通りならば、1学年に対して、3クラス制度が採用されている。そのため、新入生だけで100名は優にいるはずだ。


 その新入生の中でも、貴族の派閥みたいなのが既に、出来上がっているのか、グループ毎で座っている新入生がほとんどだった。


「あっ、ディアお嬢様、あそこ空いてますよ!!」

「そうだね。じゃあ座ろうか」


 シンリーが空いてる椅子を見つけてくれたので、あたし達は彼女の指す場所へ移動して、腰掛けた後、始まるのを待つ事にした。


ーーーー


「先程は、人違いをして大変失礼しました。ここにいらしたんですね!!」

「おっふ…」


 シンリーと雑談しながら待っていると、先ほど追い払った『セブンス⭐︎プリンセス』の主人公である『アルセラ』があたしの付近に来ていた。


「よければ、隣にご一緒してもいいですか?あ、自己紹介が遅れていました。私は『アルセラ』って言います。よろしくお願いします」

 

 挙げ句の果てに、勝手に自己紹介まで始める。


 その間にあたしは打つべき手を考える。少なくとも、隣に座る事を拒否して『アルセラ』を『敵』に回す行為はギロチンが近づくだろう。


 しかし、先程『人違い』と言ってしまった手前、自己紹介をするとなれば、偽名を使用することとなり、嘘に嘘を重ねることになる。


 あたしはゴクリッと息を呑んだ後、仕方なく後者を選択することにした。


「ご、ご機嫌よう。アルセラ様、あたしはサクセスと申します。以後お見知り置きを。それと、隣の椅子へ座りたければ、どうぞ」

「私はホープって言います。サクセス様の護衛とメイドをやっています」


 驚くほどの棒読みになった自分の慣れない自己紹介に続き、あたしに続いたシンリーも棒読みの自己紹介となる。


「背中まで伸ばしたロングヘアーの金髪、大きな碧眼、カチューシャ、小柄な体型、容姿は完璧に『感謝の公爵令嬢』様だと思うんですけどね。隣の方は『公爵令嬢のメイド騎士』様に似てます」


 あたし達の隣に座ったアルセラはあたしの情報から、容姿の分析をしており、シンリーの通り名まで熟知していた。


「アルセラ様、質問よろしいでしょうか?」

「可愛いメイドさん、どうぞ?」

「あ、ありがとうございます。アルセラ様は、なんでそんなに『感謝の公爵令嬢』と『公爵令嬢のメイド騎士』を探しているんですか?」


 あたしがこの状況の打開する方法を頭の中で模索していた頃にシンリーが、アルセラへストレートに質問をしていた。

 

「私は平民出身です…。『セブンス学園』の生徒は貴族の子息や子女が殆どです。その中で、私にとって『感謝の公爵令嬢』様は憧れなんです…」


 アルセラの言葉を聞いて、あたしが憧れなら、どうか、あたしとこれ以上関わらないでほしいと心の底から願う。あたしから見れば、『アルセラ』がギロチンのように見えて仕方がないのだ。


「アルセラ様は『感謝の公爵令嬢』に出会ったとして何がしたいんですか?」

「まずは『ファン』である事とお慕いしている事、友達になってほしい事、あげればキリがないくらい、たくさんあります」


『セブン⭐︎プリンセス』の主人公が何やってるんだ!!きちんと攻略対象の方へ行けっ!!心の中でアルセラへそう怒っていた時だった。




 運命に抗おうとするあたしを馬鹿にするかのように『バッドエンド』の運命は私に試練を課す。





「やぁ。久しぶりだね。『ベルンルック公爵令嬢』、否、『感謝の公爵令嬢』様、僕との婚約は考え直してくれたかい?」




 あたしの肩に添える不愉快な右手に加えて、耳元に残る目障りな声音、忘れもしない。


『サイコパス王子』………つまり、攻略対象の『ハルデア皇大使殿下』である。そんな彼が、いつの間にか近づき、あたしへ話しかけてきた。


「ハ、ハルデア皇太子殿下、その婚約については既にお断りしたはずです」


 ギギギ…と油が切れたロボットが無理に首を動かすかのような動作で後ろを振り返る。


「やっぱり、噂に違えぬあなた様が『感謝の公爵令嬢』様なんですね?それなのに、先程はなんで私に嘘を吐かれたのですか?」

「どうしてだい!?僕の何が不満なんだい?」

「ハルデア皇大使殿下を振るなんて…」

「いくら『感謝の公爵令嬢』様と呼ばれても」

「しっ…聞こえるわ」


 まずは隣に座る『アルセラ』にあたしが嘘の自己紹介をした事が発覚してしまった。


 もちろん、嘘を吐いた理由はあたし自身がアルセラに存在を気づかれたくなかったからだ。


 しかし。そんな事を包み隠さず、言ってしまっていいのだろうか?


 次に『ハルデア皇大使殿下』も問題だ。以前の婚約を断った意趣返しだろうか?


 まるで、婚約を断った私が全て悪くみえるように、大袈裟なリアクションを取る事で『周囲』にいた新入生達を味方につけ、あたしの返事を否定させにくくするような演出を作っている。


 実際、『ハルデア皇太子殿下』の言葉を聞いた周囲がざわついているのが、何よりの証拠だ。


 今のあたしの状況は、『アルセラ』と『ハルデア皇子殿下』の状況をうまく打開しなければ、3年以内どころか、数ヶ月で死んでしまう。


「皆様、私の『ディアお嬢様』を追い詰めるのはそこまでにしていただけないでしょうか?」


 状況が悪化していくばかりの中、打開策が思い浮かばずに、焦燥感を募らせていたあたしに、光をくれたのはシンリーだった。


「君は…?」

「『ディアお嬢様』の親衛隊でメイドです」

「『公爵令嬢のメイド騎士』様!!私と同じ平民なのにもかかわらず、『ベルンルック公爵令嬢』の右腕として名高い…伝説のメイド様だ!!」


『アルセラ』はシンリーにやや興奮気味で、目を輝かせている一方、『ハルデア皇大使殿下』は不愉快そうな視線でシンリーを見つめていた。


 とりあえず、2人の反応を見比べると、アルセラは何とかなりそうだったため、まずは不愉快な視線で見つめた『ハルデア皇太子殿下』の評判を落とさずに、婚約を断る方法を脳内で考える。


 不愉快……?

 そう言えば、あたしの魔法属性って……


『封印された魔王が使う属性魔法だから偏見や誤解は生まれるかもな』


 思い出したのはロンのセリフだった。つまり、あたしが『闇魔法』と言えば、ハルデア皇太子殿下は穏便に離れることができるだろうと考えた。


「ハルデア皇大使殿下、あたしは御身のためを思って婚約をお断りしました。なぜならば、あたしは『闇魔法』を使います。かの封印されている『魔王』と同じ属性です!!」


 あたしは周囲の新入生達が注目する中、大きな声で婚約を断った理由を説明する。


 その瞬間、あたしの言葉を聞いた周囲の新入生達から困惑の声が続々と湧き起こった。


「皆様!!あたしは闇魔法の使い手です!!あたしには近づかない方がいいです」


 あたしの扱う魔法を『闇属性』だと明かした以上、退路は閉ざされている。そのため、あたしは『自分が目立たなくなる』のではなく『周囲から遠ざけてもらう』方へ舵を切る事にした。


『ハルデア皇太子殿下』も『アルセラ』もあたしが公言した情報に驚いたのか、何も反応がない、


 これでいいんだ…。


 これでいいはずなんだ…。


 あたしは『セブン⭐︎プリンセス』の『バッドエンド確定』の悪役令嬢『ディア•ベルンルック』、どれだけ努力を重ねようが、決して、光を浴びる存在にはなれない。


 元々、あたしは前世も1人だった。この『セブンス学園』で友達ができないことくらい……


「いいえ。ディアお嬢様、私がいます」

「え?」


 あたしが心の中で考えていたことを見透かしたかのようにシンリーが強く手を握ってきた。


「ディアお嬢様を1人にはさせませんから」

「シンリー……大好き」

「私もです」


 あたしはシンリーに手を引かれて、誰も使っていない空いている席に座る。


「シンリー、本当は怖かったの……。そ、その少し、甘えていいかな…?」

「はい。喜んで。いつでもお貸しします」

 

 席に座った後、あたしはシンリーの肩にあたしの頭を乗せ、彼女の温もりから安心感をもらう。


 その一方で『魔法演習場』の最奥に立った『セブンス学園』の1年生担当の教師と思しき人達が大きな声で新入生に向けて挨拶をした後、『セブンス学園』の入学のガイダンスを説明している。


 しかし、『セブンス学園』の入学ガイダンスがあたしの視界に入ることはなく、あたしは隣のシンリーへ甘え続けた。


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