ディアとシンリーの喧嘩
ガララララ……
「ゴホンッ、ディア、余計なお世話だよ」
「ディブロお父様、先程は出過ぎた真似を大変失礼しました」
「分かってくれれば良いんだ。ところで、ディアは何か欲しい物はあるかい?」
「そうですね…あたしもディブロお父様のような立派なお馬さん達と馬車が欲しいですっ!!」
当然、先程のあたしの演説で、ディブロお父様から叱られることとなった。しかし、ディブロお父様の説教の様子が変で、彼の口角がずっと上がりっぱなしだったのが気になった。
それに加えて、真面目なディブロお父様が説教中に欲しい物を尋ねるだろうか?と思ったが、心の中で留めておくことにする。
「それならば、『セブンス学園』へ入学する前日にディア専用の馬車と馬を買うとしよう」
挙げ句の果てに、なぜか、高価なはずの馬車やお馬さん達まで買ってくれることとなった。
この不思議な現象に首を傾げていると、親衛隊のみんなが声を出して笑っていた。
私には理解できない状況だが、みんなが笑っているならば、問題ないかと判断したあたしも彼等と同じように笑う事にした。
ーーーー
「そういえば、ディブロお父様、『セブンス学園』へあたしの親衛隊は入れるんですか?」
過去にあたし達で『セブンス学園』を調べても情報が出てこなかった。だから、ディブロお父様の手が空いてるため、尋ねてみる事にした。
「ディア、その質問も含めてまずは、大前提の確認からしよう。ディアは『セブンス学園』がなぜ、必要なのかを知ってるかい?」
「ええ。封印されている『魔王』が目覚めた時に対抗するため、貴族達が学ぶ場所です」
どうやら、ディブロお父様はあたしの質問に対して認識の整理からしてくれるらしい。あたしの回答に、うんうんと縦に頷いている。
あたし自身も、自分の『セブン⭐︎プリンセス』の攻略知識が正しいのか、この世界と合致しているのか、知りたかったので好都合である。
「今年は平民も入学するみたいだけどね…」
「『光の聖女』アルセラですよね?」
「それはそうなんだが、なぜディアが知っているんだい?」
「あははは、その、えーと……先日、ステラお母様と話しているのを聞いたので…」
まさか、あたしが『セブン⭐︎プリンセス』のゲーマーだからなんて言えるはずもなく、ディブロお父様を必死で誤魔化すことにした。ただ、彼の問答から分かったことは、間違いなく『セブン⭐︎プリンセス』と同様に、この世界は進んでいる。
パチンッ
「ディア…全く」
「っつぅ…デコピンはひどいですっ!!」
「盗み聞きはダメだよ」
ディブロお父様が怒る理由が正論すぎてあたしは反論することができなかった。
ちなみに、『セブン⭐︎プリンセス』の主人公である『アルセラ』の性格は、自分が平民と言うことに負い目を感じている臆病な性格だった。
その一方で、『アルセラ』のスペックは魔王を除けば、どのキャラクターよりも軒並み高い。
そして、攻略対象と『セブンス学園』での生活が進んでいくにつれ、自信を付けて本来の前向きな性格になる。
もちろん、そんな『アルセラ』に興味はあるが、あたしはギロチンイベント回避したい。
そのため、『セブンス学園』内では、彼女から全力で逃げるつもりである。
願わくば、『アルセラ』にはどの攻略対象でも良いので、イケメン揃いの『セブン⭐︎プリンセス』の攻略対象へ夢中になって欲しい。
ーーー
「それにしても、ディブロお父様、『光の聖女』ってすごいですね」
「ディア、君も『感謝の公爵令嬢』という2つ名があるからね?」
『光の聖女』と『感謝の公爵令嬢』を同列に語らないでほしい。前者に比べれば、あたしの通り名なんて、無価値に等しい。
「ゴホンッ、話は逸れたが、ディアの質問へ戻ると1人だけならば、同行可能なはずだ」
ディブロお父様の言葉を聞いて、あたしは前世の『セブン⭐︎プリンセス』の情報を思い出した。
『セブンス⭐︎プリンセス』の主人公である『アルセラ』は平民だから、使用人はいない。しかし、他のキャラクターは使用人を『セブンス学園』内で、1人だけ連れているが多かった記憶がある。だから、ディブロお父様の言葉に納得した。
「ディブロお父様、ありがとうございます!!やったー!!シンリー、あたしと一緒に『セブンス学園』へ行こうね!!」
「ディアお嬢様、お気持ちは大変嬉しいです。しかし、本当に私で良いんでしょうか?」
「えっ?」
シンリーの笑顔が見えると思って、誘ってみると、彼女の返答はあたしの想定外だった。
「ディアお嬢様、悔しいですが、私はあなたを守れる力がありません。もう2度と、私はあなたの足手纏いにはなりたくないですっ!!だから、ロンやアースにした方がいいと思います!!」
きっと、シンリーの中で、あの時の『暴行事件』が尾を引いているのだろう。涙を溜めながら、首を横に振ってあたしとの同行を拒絶する彼女に掛ける言葉が見つからなかった。
「シンリー隊長、何があったか教えてくれよ。俺とアースはシンリー隊長がディアお嬢様をこの世界で1番慕っているのを知っている。……シンリー隊長がそんな易々と道を譲る姿を見たくねえ」
「あはははは、ロン、たまにはいいこと言うー」
暫くの沈黙の後、口を開けたのはロンだった。それに明るく同調するアース、ディブロお父様はそんなあたし達を優しく見守っている。
「元の私はメイド見習いでした。今はディアお嬢様に拾われ、隊長の地位にいますが、そうなる前にあたしは先輩達に暴行を受けた事があります」
「でも、あれはシンリーじゃなく、あたしのせいだよ!!あたしがシンリーを他のメイド達より特別扱いする事の危険性を考慮できていなかった!!」
「いいえっ!!無視されていることなど小さな異変は、私も確認してました。あれは私のせいです」
サウス村へ行く道中の馬車でシンリーとあたしの言い合いが始まった。
ちなみに、シンリーとの喧嘩は『ハルデア皇太子』の婚約の時以来であり、2回目である。
「ディアお嬢様もシンリー隊長も落ち着けよ。悪いのはどう見ても暴行した先輩だろ」
「「それはそうだけど……」」
「あはは、本当にディアお嬢様とシンリー隊長って旦那と嫁みたいなやりとりですよねー」
「「旦那と嫁!?」」
「聞いた俺がバカだった。やめだやめだ」
ロンの正論にあたしとシンリーの声が重なってしまう。そうすると、あたしとシンリーをアースが、揶揄ってきた。それに対して、驚くあたし達の様子を見て、ロンは呆れている様子を見せる。
「シンリー、叙勲式の時の言葉、あたしは、嬉しくて覚えてる。だから、『命令』にするわ。『あたしに全てを捧げた』なら、あたしの隣にいなさい。後、旦那と嫁なら旦那があたしね!!」
「ディアお嬢様は結局、強引です!!でも、この件は、『全てを捧げた』私が折れることにします。しかし、旦那と嫁の話は別です!!ディアお嬢様が嫁ですから、これだけは譲りません!!」
結局、あたしの『セブンス学園』へ着いていく使用人はシンリーということで解決したが、今度はあたしとシンリーのどちらが『旦那か嫁か』問題で馬車内で激しく意見が衝突する。
そして、この『旦那か嫁か』問題は、サウス村へ到着するまで、激しく争うこととなった。




