恋のライバル関係?/サウス村へ出発
もう後少しでカクヨムの最新話に追いつくので複数投稿やめます。ご迷惑おかけしました
「ディアお嬢様、おはようございます」
「天使…?」
「もうっ!!」
ロンとアースとシンリーに狸寝入りがばれた日から約2週間が経過した。目を覚ますとあたしを上から覗き込むシンリーの笑顔がある。
そして、あたしは当然のように、そのままシンリーへ抱きついて彼女に甘えた。この世界に来て通算45回目の欠かせないやり取りである。
シンリーとのやり取りをした後、これまでの自分のステータスを確認しておく。
『Lv34
名前:ディア・ベルンルック
称号:3年以内に96%死亡/父親泣かせ
HP:2000
MP:4000
扱える闇魔法:ダークフレイム(中)、ダークヒール(中)、ダークシールド(小)、ダークセイバー(小)
通り名: 小麦叩きの公爵令嬢
引きこもり令嬢
感謝の令嬢
皇太子殿下の恨みを抱かれる令嬢
3枚卸の公爵令嬢
正義の悪役令嬢
料理人の公爵令嬢
ヘタレの公爵令嬢 』
相変わらず『称号』や『通り名』が好き放題やってる事に関して、追及することは諦めよう。
それにしても、あたしのステータスの高さと異常な成長率は『中ボス補正』なのだろうか。
「んー……」
「ディアお嬢様、どうされましたか?」
「いいえ。朝食に行きましょうかっ!!」
自分のステータスに関して、疑問へ長考していると、シンリーが心配そうに、あたしの顔を見つめてきたので、一旦、切り替える事にした。
その後、シンリーに手を引かれて案内されるまま、2Fにあるいつものディブロお父様とステラお母様が待っている食事場へ移動する。
ーーーーーー
「ディア、シンリーおはよう」
「ディアちゃん、シンリーおはよう」
「ディブロお父様、ステラお母様、おはようございます」
「旦那様、奥方様おはようございます」
食事場へ移動すると、ディブロお父様とステラお母様が待機していた。そのため、まずは彼等に挨拶した後、用意されている自分の席へ座る。
ちなみに、今日の朝食はナポリタンをメインとしたサンドイッチとサラダとスープらしい。
ーーーー
「さて、ディブロお父様、今日は…!!」
「……サウス村だろう?覚えているよ」
「はいっ!!」
あたしがディブロお父様の瞳をじーっと見つめると、やれやれと言わんばかりに、彼は両手を上げて、あたしの提案へ頷いてくれる。
「ディアちゃん、イースト村からはパン、ウェスト村からは鯛の干物、ノース村からはドレスが届いているから後で、確認してちょうだい」
「え?あたし個人に来ているのですか??」
「ええ。それとディアちゃんに、どの村からも遊びに来て欲しいって手紙も添えられてるわ」
ステラお母様の言葉を聞いて、あたしの心は温かくなった。それと同時に、あたしが訪れた村へ他にできることはないか等も考える。
そして、考えるたびに、あたしが『バッドエンド確定』の悪役令嬢じゃなきゃ……実現可能だった未来を思い浮かべて、涙が出そうになった。
コトンッ
「……………………ディアお嬢様、これ」
そんな時、目の前にパタリーシェフが現れ、あたしの目の前にアップルパイを差し出した。
「これはアップルパイ?」
「パタリーがお弁当だけでなくて、ディアお嬢様にスイーツをあげたいってな。ただ、パタリーはスイーツの経験がなかったから俺が教えたんだ」
「……………………師匠、それ言っちゃダメ」
初めて見るパタリーシェフの頬を赤く染める表情と、彼女があたしのためにジェフルさんの元でスイーツに挑戦していた事実が何よりも嬉しい。
「パタリーシェフ、ディアちゃんだけでなく、きちんと、私にもありますわよね?」
そして、刺身の時と同様に、美味しそうなご馳走を見た瞬間、優しいステラお母様が般若に変貌して、パタリーシェフへ圧を掛ける。
「…………もちろん、みんなの分ある。でも、最初はディアお嬢様」
「ディアお嬢様、パタリーのアップルパイを食べてやってください」
あたしはジェフルさんとパタリーシェフの言葉に縦にこくりと頷く。
サクッ
だから、ナイフとフォークで一口サイズに切ると小気味の良い音をアップルパイが奏でる。
次に、香りを楽しむため、アップルパイを一口サイズに切って、持ち上げる。そうすると、林檎の甘酸っぱい香りとバターの風味が食欲をそそる香を引き出していた。最後にアップルパイの香りを楽しんだ後、あたしは自分の口の中へ運ぶ。
「林檎の甘酸っぱい味と包んでいた生地本来の控えめな甘さが絶妙なバランスで、今まであたしが食べた中で1番美味しいよ!!」
「………………………よかった」
「パタリー、よかったな!!」
ジェフルさんがパタリーシェフの髪を撫でて、彼女が満面の笑みを浮かべている。
「パタリーシェフは、あたしのためにどうしてここまでしてくれるの?」
「………………………好きだから」
あたしのためにパタリーシェフがジェフルさんの元でスイーツを学んで、あたし達にアップルパイを作ってくれたとは嬉しい。
でも、パタリーシェフがそこまでしてくれる理由が見当たらないため、質問すると、途端に彼女の声が小さくなり、聞きとれなかった。
「も、もう一度!!」
「………………………喜んでくれるかなって」
「パタリー、頑張った!!」
だから、もう一度、言ってもらうようにパタリーシェフへ頼んだ結果、2回目で聞き取る事に成功した。どうやらあたしのために、スイーツを学んでくれたのは、彼女の優しさのようだ。
それなのに、パタリーシェフの紅潮した笑顔を見た瞬間、あたしの鼓動が速くなる。
そして、速くなる鼓動に気づかないふりをするために、あたしは周囲を見渡す事にした。そうすると、なぜかジェフルさんが涙を流しながら、パタリーシェフの頭を優しく撫でている。
当のパタリーシェフはあたしから視線を外して、顔を両手で覆っていた。なぜ、彼女の方が?と疑問に思ったが、気にしない事にした。
ガタッ
「パタリー様もそうなんですね?」
「……………………うん、一緒」
「私は負けませんわ」
「……………………僕も譲らない」
シンリーが突然、テーブルから立ち上がり、パタリーシェフに質問する。
どうやらシンリーとパタリーシェフの間で意見が通じ合っているはずなのに、あたしの瞳には2人の間で火花が飛び散っているように見えた。
「パタリー、早くアップルパイを…!!」
「…………………し、失礼しました」
シンリーとパタリーシェフの間で睨み合いも束の間、我慢できなくなったステラお母様の言葉でパタリーシェフはアップルパイを取りに行った。
「シンリー、うかうかしてられないわね」
「ええ。まさか、ライバルが現れるなんて」
シンリーとステラお母様の会話している内容が分からなくて、あたしとディブロお父様は首を傾げたままになった。
「…………………冷めないうちに」
しかし、それもシンリーが運んだアップルパイで吹き飛ぶ事となり、あたし達は楽しい朝食の時間を過ごすことができた。
ーーーーー
心暖まる朝食の後、サウス村へ出発するため、シンリーに手を引かれて、あたし達は3Fのドレスアップルームへ移動する事となった。
「ディアお嬢様、今日は黄色のドレスにしてみましょう」
あたしはシンリーが選ぶドレスなら間違いないと拡散しているため、こくりと縦に頷く。
次に、あたし達はそのまま1Fのエントランスの方へと移動する。
「ディアお嬢様、シンリー隊長、お待ちしておりました」
「あはは!!ディアお嬢様、シンリー隊長お待してましたー」
エントランスの方へ行くと黒色のタキシードに包まれたロンとアースと合流する事となった。
どうやら、ロンとアースの着ている服が、あたしの親衛隊の正装らしい。
「以前より体が逞しくなったような…」
「ディアお嬢様の魔法の鍛錬や視察以外はベルンルック家の護衛兵の方々と訓練しているんだ」
「あははは!!ロンは卸者もしてるよー」
彼等の話を聞くとロンとアースは1Fで護衛兵達と訓練に勤しんでいるらしく、そのせいか、彼らの顔つきも変わってきた。
「ディアお嬢様、私も訓練に行くべ…」
「シンリー、怒るよ?」
「でも、ディアお嬢様、ロンとアースに少し見惚れてましたよね!!」
「違うっ!!感心しただけだよっ!!あたしは今のシンリーがいいのっ!!」
確かに、ロンとアースを感心したのは事実だが、見惚れるわけがない。不覚にも、見惚れたと言う点では、パタリーシェフの方である。
「ディアお嬢様、そう言いながら、パタリーシェフにときめいてましたよね?」
「そ、そ、そんな訳な、ないし…!!」
「グハァ…」
「あははは!!ロン、気をしっかり持ってー!!」
シンリーの言葉であの時のパタリーの笑顔を思い浮かべてしまい、視線を逸らしながら、苦しい言い訳をする。そうすると、先ほどまで嬉しそうな表情をしたロンが血反吐を吐いていた。
「も、もうっ、みんな、とりあえず行くよ」
結局、ディブロお父様をこれ以上待たせるわけにはいかないと判断したあたしが、強行突破を計り、シンリーからジト目を受けつつ、ディブロお父様の馬車と合流する事となった。
ーーー
ベルンルックの屋敷を出たあたし達は、すぐにディブロお父様の黒塗りの巨大な馬車とそれを引く赤茶色のお馬さんを見つけた。
「「フッシュブルルル」」
「いつもありがとう!!今日もよろしくねぇ」
そのため、あたしはいつものようにお馬さんを優先にする。今日は珍しくお馬さんの方から鳴き声をあげてきた。そのため、あたしも彼等へ感謝を伝えた後、挨拶をする。
それが終われば、今度はディブロお父様の護衛兵の方々へ身体を向ける。
「みんな、今日はサウス村だよー!!それと、これが多分最後の視察だと思う。だから、今日まで本当にあたし達の護衛をしてくれてありがとう!!」
「「「(あははは!!)ディアお嬢様をお守り頂き、ありがとうございます(ー)」」」
そして、あたしの声のすぐ後ろから、親衛隊の大きな声も周囲へ響き渡る。
「「「「うおおああおお」」」」
「親衛隊!!俺たちのディアお嬢様を任せたぞ」
「親衛隊!!ディアお嬢様を泣かしたら許さんぞぉー」
「親衛隊!!ディアお嬢様は最優先だぞおおおお」
「正直、羨ましいぞぉぉ」
「俺も親衛隊になりてぇぇぇ」
護衛兵の方々が主にロンとアースへ喝を入れている。後半の方がなぜか、嫉妬心丸出しだったように聞こえたのは気のせいだろうか?
ただ、あたしには伝えたいことがまだ残っているため、咳払いをする。
「それとっ!!護衛兵の方々!!あたしにとってディブロお父様は大好きなパパだから、これからも守ってあげてください!!ディブロお父様は恥ずかしがり屋だから、あたしがここで伝えます!!」
「「「「うおおおおおお」」」」
「っちくしょぉ!!ディアお嬢様の頼みなら仕方ねぇなぁ…!!」
「公爵様だからな。簡単に頭は下げれねぇな」
「ディアお嬢様の頼みだ、任せてくれええええ」
あたしの言葉を聞いたディブロお父様は顔を真っ赤にしていた。もちろん、彼にとって最後のあたしの言葉は迷惑だったかもしれない。
それでも、あたしはあたしの大事な人が死んでほしくなかった。
もし、仮に死ぬ未来があるとすれば、それは運命に敗北したあたしだけでいい。




