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ディア•ベルンルックの辿る末路/狸寝入り

「ディアお嬢様、おはようございます」

「天使……?」


 通算37回目のシンリーとの毎朝のやりとりである。その後、シンリーへ抱きつき、甘える。


「もうっ…ディアお嬢様は….」

「シンリーが特別なんだよ…」

「ええ。私はこの世界で1番幸せ者ですから」

「世界で1番は言い過ぎな気がするけどね?」


 シンリーと見つめ合い笑い合った後、自分のステータスを確認することにした。


『Lv19

 名前:ディア・ベルンルック

 称号:3年以内に96%死亡/父親泣かせ

 HP:1100

MP:2000

 扱える闇魔法:ダークフレイム(小)、ダークヒール(小)、ダークシールド(小)、ダークセイバー(小)

 通り名:小麦叩きの公爵令嬢

     引きこもり令嬢  

     自意識過剰令嬢

     感謝の令嬢

     邪道令嬢

     皇太子殿下の恨みを抱かれる令嬢 

     3枚卸の公爵令嬢

     正義の悪役令嬢   

    料理の公爵令嬢          』

 


ーーーー


 まずは、死亡確率が1%も下がっていた。しかし、状況は悲観的である。今まで訪れたのは『イースト村』『ウェスト村』『ノース村』の感謝を伝えるための視察だった。


 確かに、結果だけを見れば、功を奏した。しかし、大きな問題が残っている。ベルンルックの領地とはいえ、『村単位』と良好関係を築いて1%しか下がらなかったという事実だ。


 つまり、この世界であたしが生き残るには、単純計算では村単位100個と関係を築かなければならないが、あたしは『セブンス学園』の入学を控えており、時間もなければ、権力も財力も残っていない。結果、この方法は現実的ではない。


 って、こんな考えをしてはダメだ!!自分の頬を強めに叩いて気を引き締める。


 あたしがみんなへ感謝を伝えたいのは、決して『生き残るため』じゃないっ!!


「ディアお嬢様、どうしたのでしょうか!?急に愛らしい頬を叩いてましたが…」

「シンリー、ごめん。もう大丈夫」

「それなら、よかったです」


 あたしが、自分の頬を強めに叩くと、目の前のシンリーが心底不安そうな表情を見せていた。それに対して、あたしは笑顔で彼女に伝える。


 もしかしたら、シンリーはあたしが隠してるという事実に気づいているかもしれない。


 それでも彼女はあたしに深く事情を聞こうとしない。しかし、いつかは、あたしの運命を打ち明けなければならないと思うが、今は、ただ、彼女の優しさへ甘えることにした。

 

「ゴホンッ、ところで、『セブンス学園』ってシンリーを連れて行けるの?」

「『セブンス学園』は貴族様の学園なのであたしは存じませんが……」

「そうだよねー」

「はっ!!そうでした!!ディアお嬢様、奥方様が待っていますので、朝食へ行きましょう」


 急に思いついたかのように、シンリーから朝食へ行く事を提案されたので、あたし達は2Fへ移動することとなった。

 

ーーー


「奥方様、おはようございます」

「ステラお母様、おはようございます。ディブロお父様は…?」

「ディアちゃん、シンリーおはよう。んー、少し忙しいみたいだわ?でも、ディアちゃんは気にしなくていいわよ」


 今日も朝食の場にディブロお父様はいなかった。少し疑問が残るものの、ステラお母様から聞いた言葉と笑顔を見て、気にしないことにした。


「いつもシェフの皆様、ありがとうございます」


 今日の朝食のメニューは新鮮な野菜が挟まれているロールパンとスクランブルエッグにソーセージ、オニオンスープ等だった。


 あたしがこんな風に食べれてるのは、当家のシェフ達が頑張ってくれてるおかげだと気づいた時、自然と感謝の言葉が溢れていた。


「ディアお嬢様、俺ら料理人は、残さず食べてくれりゃ、それが1番嬉しいんだ」

「ジェフルさん…!!それでパタリーシェフは?」

「ディアお嬢様、もう少し待っててくれ」


 ジェフルさんは黒色の髪をしており、気前の良い性格をした当家の料理長であり、パタリーシェフの上司的な存在である。


 ただ、肝心のパタリーシェフはいなかったので聞いてみると、気前のいい彼の目つきが変わった。恐らく、あたしのためにパタリーシェフはお弁当の修行をしてくれているのかもしれない。


ーーー


 その後、『セブンス学園』の情報を調べようと屋敷を探してみるものの、手掛かりと思しき物は発見することができなかった。


 そのため、あたしはシンリーと共に、1Fの方へ移動する。


ーーーー


「おっ、ディアお嬢様、シンリー隊長」

「あははは!!ディアお嬢様、シンリー隊長、奇遇ですねー」


 そして、あたしとシンリーが闇魔法の特訓に出ようとした頃、護衛兵の最後尾で移動するロンとアースの2人にすれ違うこととなった。


「ちょうど2人共、今からあたしの闇魔法の特訓に付き合ってくれない?」

「げ……」

「ロン、まさか私の『ディアお嬢様』の『お願い』に嫌だとは言いませんよね?」


 ロンが当たり前のようにシンリーの地雷を踏み抜いた結果、彼女からの圧に押されてる、


「我らのディアお嬢様の頼みは当家の頼みだ。ロン、アース、訓練より行ってこい」


 護衛兵の隊長と思しき人に背中を押されたロンとアースがあたし達についてくることとなった。


ーーーー


 ちなみに、あたしが闇魔法を放つ場所はベルンルック家から少し離れた先にある森の私有地だ。


 ディブロお父様もステラお母様もあたしが闇魔法を使うことは知っていて、ディブロお父様達の助言で、基本的には誰も入らないような森の私有地を案内されることとなった。


 そして、この森は、ディブロお父様よりも前の当主が、屋敷で肉の生産をするために購入した森であるが、失敗してしまう。


 その結果、処理もされる事がなかったのか、周囲に草木が生い茂ることとなる。


 なぜ?ここで魔法の練習をする必要があるのかと疑問を感じないことはないが、人目がないのはやりやすいため気にしないことにした。


「今日も大樹さん、よろしくね?いつもありがとう……闇魔法『ダークフレイム』」


 闇雲に森の中の木に闇魔法を放つのではなく、森の中で1番頑丈そうな大樹を選び、あたしはその大樹を目掛けて、闇魔法を唱える。


 ちなみに、あたしの魔法は『ステータス』のおかげか、よくある魔法の『イメージ』は不要で、そのまま口頭で、放つだけで発動可能だ。


 ただ、『イメージ』は不要でも、魔法を発動すれば、MPは減少する。


 そして、MPが減少すると命の危機に直結しないが、身体のだるさ等の症状を引き起こす。


 ヂリヂリヂリ………


 あたしが闇魔法を唱えると、大樹は黒い炎にじわじわと覆われ、倒れそうになった。


「闇魔法『ダークヒール』」


 もちろん、倒れる寸前で大樹にかけて『ダークヒール』をかけて治す。


『Lv19

 名前:ディア・ベルンルック

 称号:3年以内に96%死亡/父親泣かせ

 HP:1100

MP:1800

 扱える闇魔法:ダークフレイム(小)、ダークヒール(小)、ダークシールド(小)、ダークセイバー(小)

 通り名:小麦叩きの公爵令嬢

     引きこもり令嬢  

     感謝の令嬢

     皇太子殿下の恨みを抱かれる令嬢 

     3枚卸の公爵令嬢

     愛しい人を守る闇堕ち令嬢 

     料理人の公爵令嬢

     ヘタレの公爵令嬢        』

 

 一通り『ダークフレイム』と『ダークヒール』を唱えた後、ステータスを確認するとMPの消費は100程である。


「あれは闇魔法か……?」

「あははは。僕も見たことないよー」


 そう言えば、ロンとアースはあたしの闇魔法を見るのは、初めてらしい。ただ、彼らの反応を見る限りあまりいい印象ではなさそうだった。


「ロン、闇魔法はダメなの?」

「なにせ、封印されている『魔王』が使う属性魔法だからな」

「ちょっと、ロン、ストレートがすぎるよ!!」


 ロンの言葉にアースが笑う事もなく、抗議の姿勢を示しているが、あたしは彼の言葉で『セブン⭐︎プリンセス』の情報を思い出していた。


『セブン⭐︎プリンセス』の攻略対象ルートで『セブンス学園』内での中ボスの立ち位置があたし、『ディア•ベルンルック』という悪役令嬢だ。


 この『ディア•ベルンルック』と言うキャラクターの役目は『主人公のアルセラ』に対して、数々の嫌がらせを行うことで、彼女のメンタルを折る役割を担っているキャラクターである。


 実際、『ディア•ベルンルック』はディブロお父様の権力的立ち位置を利用して、『主人公のアルセラ』を目標に数々の横暴や嫌がらせをした。

 

 しかし、残念ながら、彼女の悪事は攻略対象達の活躍により、暴かれた結果、退学となる。


 もちろん、『ディア•ベルンルック』は、最終的に死へ至るのだが、彼女の退学から死ぬまでにも、きちんとしたシナリオが存在する。


 まず、『セブンス学園』を退学となった後、『ディア•ベルンルック』が抱いたのは『主人公アルセラ』を中心とした『復讐心』だった。


 彼女は己が抱いた『復讐』を成就するために、動き始めるが、それを利用するのが、『魔王:ラグナロク』、つまり、『セブン⭐︎プリンセス』内に置けるラスボスである。


ーーーー


 魔王側の動きを中心にするなら、こんな感じだろうか。まず『ディア•ベルンルック』が退学へ追い込まれる頃に、タイミングよく、『魔王:ラグナロク』の封印が解けかかっていた。


 封印が解けかかっていた魔王は、同じ『闇属性魔法』を扱う『ディア•ベルンルック』の脳内へ直接、甘い誘惑を掛けるのだ。一方で、復讐しか頭に入っていない『ディア•ベルンルック』はまんまと乗せられて、魔王の封印を解いてしまう。


 当然、封印が解けた魔王軍団へ『ディア•ベルンルック』が加担して、利用される事となる。


 しかし、最終的に蘇った魔王軍団も、主人公である『アルセラ』率いる攻略対象達から討伐されることとなった。その結果、魔王は再度の封印を施される事となり、『ディア•ベルンルック』は国家転覆罪で死刑の末路を迎える。


 その後、主人公のアルセラと攻略対象によるエピローグが流れて、物語は終わりを迎えるのだ。


 当然、魔王に利用されるきっかけも同じ『闇属性魔法』がきっかけであり、ロンの言ってることは『セブン⭐︎プリンセス』をプレイしているだけならば、気づかなかった事だ。しかし、よくよく考えれば、当然の結果だと思った。


「別にいいわ。あたしが誰にどう思われたって関係ないもの。アースとロンは闇魔法を使うあたしを護衛するのは嫌かしら?」

「俺も同じだ。ディアお嬢様はディアお嬢様だ」

「あははは!!ロン、たまにはいいこと言うー」


 ロンとアースは首を横に振り、笑顔で肯定してくれる。2人の笑顔に胸を撫で下ろす。


「それじゃ、ロン、アース、あたしの闇魔法の特訓に付き合ってちょうだい!!」


 あたしの言葉を聞いた瞬間、顔色が悪くなるロンとアースだが、あたしのことを拒絶しなかった彼らが悪い。だから、彼等にはあたしのMPが切れて倒れるまで、新たに覚えたあたしの闇魔法の『ダークシールド』『ダークセイバー』の練習相手へなってもらうことにした。


ーーーー


「そして、このように倒れるまで魔法を放ちまくったディアお嬢様は眠りに付きます」

「いや、あれは魔法の特訓というより拷問の方が正しくないか?」

「うん。身体全体が息が上がって限界のはずなのに、魔法を放つ姿勢は怖いよ…。その後、急にディアお嬢様は地面に倒れちゃったし…」


 今日も魔法の特訓の後、あたしは眠ってしまっていたらしい。『Re魔法講義から始まるMP消費生活』のレベル上げ方法はやはり、偉大だ…!!


 今日は早めに起きることができたため、シンリーとロンとアースの会話があたしの耳へ入る。


「ディアお嬢様は、今でこそ『感謝の公爵令嬢』と呼ばれていますが、その前は当家の使用人の間で『理不尽の化身』と呼ばれていました」

「あのディアお嬢様が……??シンリー隊長の情報とはいえ、俄かには信じられんな…」

「イースト村の村長は知っていたようでしたが、ロンとアースは知らないみたいですね。ディアお嬢様はある日を境に変わり、ありとあらゆる者に優しく、感謝をするようになりました」


 どうやら、ロンとアースは知らなかったらしい。どちらにせよ、『理不尽の化身』から『感謝の公爵令嬢』なら出世した方だろう。


 このまま、もう少し狸寝入りをして、シンリー達の話を聞こうとしようっ!!


「あはは!!質問だけどシンリー隊長はディアお嬢様の事、異性として好きだよねー?」

「おい、アースそれは……」


 きっと、アースにとっては何気ない質問なのかもしれない。しかし、狸寝入りのあたしにとっては、他人事ではなく心臓がバックバクである。


 あたしはラブよりだと自覚しているし、シンリーもそうだと思っているが、確証はない。だからこそ、聞くのが怖くった。


「h…………」

「だ、だめぇぇぇぇぇ!!」

「「「ディアお嬢様!?」」」


 結果、答えを聞くのが怖くなってしまったあたしは3人の間に割って入る。


「ディアお嬢様、起きてたな?」

「ディアお嬢様、起きてたよね?」

「ディアお嬢様、起きてましたよね?」

「すみませんでした…」


 当然のように、ロン、アース、シンリーから追及されることとなり、素直に謝罪する。その時に、狸寝入りはあまりしないでおこうと誓った。

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