ノース村とシンリーと2回目のドキドキ
「皆様、お手を止めて申し訳ないです。こちらにあたし達のお手製サンドイッチを持ってきました。手が空きましたら、ぜひご賞味ください!!」
あたしが作業場へ持ってきたサンドイッチの匂いに釣られたのか、さっそく、数人の作業をしていた方々があたしの方へ足を運ぶ。
「美味しそうなサンドイッチだね。これを嬢ちゃんが作ったのかい?」
「いいえ。あたしとあたしの親衛隊と共同作業で作りました」
もちろん、『あたしが作った』と言っても問題ないのかもしれないが、あたしは手柄を独り占めにしたいわけでもない。ただ、日々の感謝として、彼等に自分ができる恩返しをしたいだけだ。
「美味しいわ…!!」
「こりゃ最高だ」
「やる気が漲るぜ」
あたしのサンドイッチを食べた方の感想で他の作業をしていたノース村の方々もあたしのサンドイッチを取っていく。その結果、サンドイッチは15分も経過することなく無くなった。
「ノース村の皆様には日頃の感謝していて、この度、このような形でお礼をさせて頂きました」
パチパチパチパチパチパチパチパチッッッ
「ありがとうー!!」
「美味しかったー!!」
「最高だわ!!」
あたしの言葉に盛大な作業場から拍手が巻き起こり、たくさんの嬉しい声が聞こえてきた。
「あたいはアンリエッタ、それにしても、『感謝の公爵令嬢』でもノース村では、手も足も出ないと思ってたんだけどね」
「アンリエッタさん、違います。あたしの第一は皆様に感謝を届けたいだけです」
「そうなんだい?んまぁ、それよりあんたのサンドイッチ、最高だったよ」
「ええ。ありがとうございます」
最後に作業場を監督していたアンリエッタさんと話をした後、あたしは3人が休憩している調理場の方へと向かった。
「ディアお嬢様、どうでしたか?」
「あたしの自慢の親衛隊のおかげで、大好評、すぐに無くなったよ」
「ディアお嬢様の役に立ててよかったです」
調理場の方へ戻ると、ロンとアースは目を瞑っていたが、シンリーは起きていたらしく、彼女の質問に返答をした。
「うぉあ…!?ディアお嬢様、帰ってたのかよ」
「ふぁははは!!ディアお嬢様、教えて欲しいー」
「2人を起こしちゃまずいかなと…」
ロンとアースもあたしとシンリーの会話の途中で目を覚ましたらしく、驚いていた。
「護衛対象を気遣うご主人様ってのもな…」
「あはははは!!でも、ディアお嬢様らしいー」
ロンの言うことはごもっともだが、偉そうにするのは苦手なため、仕方がない。あたしをこの世界の貴族とは『別個』と考えてくれる方が楽だ。
「それじゃ、最後に片付け手伝ってくれない?」
「「「(あははは!!)ディアお嬢様、任せてください(ー)!!」」」
その後、頭を切り替えて、みんなに助けを求めると、元気のいい返事が返ってきた。
そのため、あたし達は調理した後の食器洗い等の掃除やゴミの処理を終える。それだけでは時間が余ったので作業場の方へ移動して、床に落ちてる糸くずなども拾うこととにした。
ーーーー
「ディア、待たせたね」
「いいえ。ノース村もとても良い村でした!!」
作業場の掃除も終わったちょうどいいタイミングでディブロお父様が帰ってきた。
「ディアお嬢様、アンリエッタから聞いたぜ。料理を振る舞ったんだってな?そして、掃除もしたらしいな。大活躍だったみたいだぜ」
「ラスタ村長、色んな作業をしたいって気持ちはあります。しかし、あたしは『ベルンルックの公爵令嬢』でセブンス学園も控えています。だから、あたしの目的は感謝を伝えることです」
「その言葉を信じるしかないね。正直、華を着飾る貴族の売名活動のような物だと思っていたんだけど、ディアお嬢様の気持ちは本物だったな」
その言葉と共に、ラスタ村長は嬉しそうな表情をしながら、あたしの髪を優しく撫でてくれた。
「ディア、屋敷に帰ろうか」
「はい。この度の視察も大変面白かったです。ノース村の方々、いつもありがとうございます!!これからもよろしくお願いします!!」
ディブロお父様の言葉に縦にこくりと頷いたあたしは、ノース村の作業場を出る前に彼等へ振り返ってお辞儀をして感謝を伝える。
「ディアお嬢様ならいつでも歓迎するわー!!」
「また料理を作ってちょうだい!!」
「最高のドレスを作ってやるからなー!!」
そうするとノース村の作業場の方から心暖まる言葉が聞こえ続けた。
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「ディアお嬢様、お目覚めになられましたか?」
「ん、確か、あたしは……馬車に乗って…」
「きっと、疲れていたんでしょう」
「そっか…」
あたしは、馬車でそのまま寝てしまったらしく、目を覚ました時には、見覚えのある自分の部屋のベッドへ運ばれていた。
「そ、そういえば、シンリーはあたしと暮らしてるような物だし……もうここはあたしとシンリーの部屋みたいなもんだから…その………ね?」
ベッドから上半身を起こして、なぜか、緊張してしまい、所々、言葉を詰まらせながら、シンリーへ視線を合わせながら、提案をする
「えーと…お恥ずかしながらですね………実は旦那様に同じこと指摘されて、ディアお嬢様が寝ている間に部屋の荷物を運ばせていただきました」
あたしの提案は、既にディブロお父様にされていたことに驚きつつ、シンリーが頬を赤く染めているため、あたしも顔の温度も上昇する。
「デ、ディアお嬢様、ど、同棲みたいですね!!」
「しょ………しょうぇすね」
シンリーの言葉に動揺してしまった結果、うまく呂律が回らなくなる。
あたし自身、シンリーの事は大好きだし、あたしの想いはラブ寄りだと思う。
実際、あたしはシンリーに押し倒された時に、彼女にならば、何されても構わないと思って目を瞑って身を委ねた経験がある。
ただ、あたしの中ではまだ、『ライク』と『ラブ』の違いが分かっていない。
それに、もし『ラブ』でシンリーと両思いだとしても………それは続かない可能性がある。
って、弱気になっちゃだめだ!!
そもそも周囲へ感謝を始めた理由はあたしの人生にタイムリミットがあるからだった。でも、その生き方が死亡率を下げた。きっと、あたしが『ディア•ベルンルック』としてこの世界で生き残るには、この方法しかないと思った!!
だから、あたしは前世と生き方を変えて、今世では生きている間にたくさんの人へ感謝を伝え、少しでも長生きする為にも続けていくんだ!!
「ディアお嬢様、大丈夫ですか?」
「ふぇえ!?ああ、うん。考え事してた」
自分の生き方の決意をしていたら、シンリーが不思議そうな表情をしていた。
「ゴホンッ、明日は『セブンス学園』の情報を調べたいかな」
「いつものようにどこか適当な場所で闇魔法を放ちまくって倒れるかと思ってました」
「それもいいんだけど、あたしは、シンリーの隣に居続けたいから、『セブンス学園』にシンリーが入れるかどうかが何よりも重要なのっ」
ガバッッッ
デ、デジャヴ!?
あたしが何気なく発した言葉がシンリーの押し倒すトリガーとなったらしい。
目の前には、荒い息をしたシンリーの顔があって、あたしはベッドへ押し倒される形となる。
「ディアお嬢様が私の気持ちを考えもせず、そんなことを言う方が悪いんですからっ…!!」
あぁ…押し倒されて分かった。
抵抗も何も生まれそうにない。
むしろ、シンリーならば、あたしはされたいって心から思ってしまう。
これが『友愛』なのか『恋愛』なのか…本当の恋を未経験のあたしには全然わからない。
でも、徐々に近づいてくるシンリーの艶のある唇、ぐらっときそうになる彼女のフルーティーな甘い香に包まれて、あたしも目を瞑る。
コンコンコンッッ
「ディア、馬車で寝ていたから、様子を見にきたんだけど、どうやら起きてるようだね」
「ディアちゃん、私も心配で様子を見にきたの」
当然、ノックのコンマ2秒の間、シンリーがあたしの上を退く。
次にあたしは、そのまま身体を起こす。そして、いつもの姿勢に戻るまでがセットである。
「ディブロお父様、ステラお母様、ご迷惑をおかけいたしました。この通り、あたしは無事です」
「もしかして、お邪魔だったかしら?」
「ステラお母様、そんな訳ありません!!」
「2人とも顔を真っ赤で視線を合わせようとしないから………私の気のせいですわね」
チラリと横を見るとシンリーが顔を紅潮させたまま、頬を膨らませていた。
そんな彼女の表情を見て、あたしは、ファーストキスをシンリーにあげたいと思った。
「ゴホンッ、次のサウス村は2週間後だ」
「2週間後?かなり、期間が開きますね」
「少し用事ができたのでな」
「ディブロお父様、かしこまりましたわ」
あたしのジト目から逃げるようなディブロお父様ではなく、今回の彼は本気の表情だった。だから、あたしも何も言わずに、了承する。
「それじゃ、早めに寝るんだよ。ディア、シンリーおやすみなさい」
「ディアちゃん、シンリー、良い夢をね」
その後、ディブロお父様もステラお母様はあたしの部屋を去っていった。
「ディアお嬢様、電気消しますねー」
「シンリー、ありがとう」
あたしとシンリーもそのまま、彼等の言葉に従って、電気を消して眠る事となった。
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百合シーンは描いていて筆が乗ります。最近は百合シーンだけ拘るようにしました




