『ノース村』と『あーん』
ガララララ……
「俺は貴族様って高いプライドがあって、絶対に頭を下げない生き物だ思ってたんだけどよ、ディアお嬢様はなぜ、頭を下げれるんだ?」
ノース村へ移動中にロンから小さな声であたしに質問された。
もちろん、答えとしては、あたしが3年以内に死ぬのが確実だからだ。
だから、その前に多くの人達へ感謝を伝えたいから、頭を下げているのが本音である。
それと同時に、バッドエンドを迎えずに生き残る方法も、あたし自身は分かっていた。
その、生き残る方法とは『3年以内』に『バッドエンド確定』ならば、そもそも『セブンス学園』へ通わずに、家を出る方法だ。
しかし、それは、せっかくこの世界で見つけたあたしの大好きな家族を裏切る行為になる。
だから、あたしは家を出ると言う選択肢を取ルカとはできない。それに、本音を話して仕舞えば、シンリーが何をするか予測ができない。
それならば、あたしなりの家族としての考え方をロン達へ伝える方がいいと判断する。
「あたしは『貴族が偉い』んじゃなくて、『あたしが偉いから貴族』になりたいって思ってるの」
「あはは!!ディアお嬢様、どういうことー?」
ディブロお父様はあたしの言葉の意図に気付いた様子だけど、シンリーとロンは首を傾げていて、アースは分からずに笑っていた。
「あたしは自分の中で『貴族に生まれたから平民より偉い』のではなく、『平民より能力が高いから貴族になれた』と思いたいの」
あたしの言葉に、ロンとアースとシンリーはこくりと縦に頷いて聞いている。
「だから、あたしは全てに感謝をするし、教えてもらえる事があれば、頭を下げて教えてもらいたい、要はあたしのわがままなような物だわ」
これはあたしが思っている本音の1つでもある。特にこの世界の『平民』と『貴族』の格差はベルンルック領内でもはっきりと明確だった。
実際、その価値観がこの世界では正しいと思う。だから、これはあたしのわがままである。
「そういえば、イースト村では脱穀作業、ウェスト村では3枚卸、ディアお嬢様は全て積極的に村の方々と楽しそうにやってました」
「ええ。貴族の生活の財源は領民の方々による努力の結晶だからね。いつか、あたしも彼等のようにできるようになりたかったんだ」
あたしの考えを伝えると、ロンとアースは遠い景色を眺めて、呆然としていた。
「ロン、アース、聞いてのとおりディアは『天性の人垂らし』だ。そして、私もシンリーもディアのおかげで変わったよ。もしかしたら、ディアによって変えられたの方が正しいかもしれないね」
「旦那様の仰るとおりです。ディアお嬢様は誰よりもすごい方です。それに、ロンとアースもディアお嬢様に変えられたでしょ?」
ディブロお父様とシンリーがロンとアースへ同意を求めているが、あたしは別にみんなへ何かをした覚えはないため、首を傾げる。
そうすると、なぜかその場にいた全員から、生暖かい眼差しを受ける事となり、急に恥ずかしさを覚える事となった。
「見ての通り、本人は自覚なしみたいだがな…」
「あははは、ロン、それは仕方ないよー。そして、これもディアお嬢様の魅力だねー」
「もうっ!!みんなであたしを揶揄わないでっ!!」
その後、あたしは生暖かい視線に対して抗議をした。そうすると、あたしの抗議を聞いた瞬間、馬車内で笑い声が巻き起こることとなった。
「これ以上やるとディアに嫌われそうだ」
「ディアお嬢様に嫌われたくありません」
結局、あたしが涙を浮かべているとディブロお父様とシンリーが止めてくれる。
最終的に、他の話へ夢中になるうちに、あたし達はノース村の入り口へ辿り着いていた。
ーーーーー
「ようこそ!!ノース村へお越しくださった!!ベルンルック公爵様御一行、中へどうぞ!!」
いつものように門の入り口では村長と村長を守る護衛達が待っていた。
イースト村とウェスト村の村長はおじいちゃんとおばあちゃんのようなお年寄りだったが、ノース村の村長は40代くらいで、身長が高めの筋骨隆々の体型をしたおっちゃんだった。
「ラスタ村長、入れさせてもらおう」
馬車から降りて、あたし達はラスタ村長の後をついていく。
「さて、正式な自己紹介がまだだったな。俺はラスタ、ノース村の村長をしている」
「ご機嫌よう。ラスタ村長、あたしはディア•ベルンルックと申します。以後お見知り置きを。この度は、ノース村の繊維業を拝見させて頂きたく、参らせていただきました」
「ディアお嬢様もとい『感謝の公爵令嬢』、イースト村、ウェスト村では大活躍だったと聞いている。ぜひ、俺の村でも大活躍を期待している」
どうやら、あたしが訪れて行った情報は既に彼の村にも知れ渡っているらしい。それと、その『通り名』は恥ずかしいから言わないでほしい、
ーーー
「ここが服などを作っている作業場だ。どうぞ。ディアお嬢様もやりたければ、自由にしてくれて構わない。それではディブロ公爵様はこちらへ」
ラスタ村長に連れて行かれた先は、日本でいうライン工場のような場所で、まずは、ゆっくりとした流れに沿って、服の土台を完成させていく。
そして、縫う人達へ渡されて、目にも止まらぬ速さですぐに仕上げられていく。
「あたしには無理ですね」
「ディアお嬢様が諦めた……?」
「はっきり言えば、アレは職人技です。あたしの見様見真似は彼等の邪魔になるだけです。だから、あたしはできることをやります」
だから、この場で作業を監督していると思しき女性へ声をかけることにした。
「あの、この工場の調理場ってどこですか?」
「調理場かい?てっきり、教えて欲しいと言われると思ってたんだけどね。んま、ついてきな」
ここまで広々とたくさんの領民を収納できる工場ならば、調理場があると思ってたが、どうやらあたしの考えは正解だったらしい。
「ラスタ村長から、あんた達の願いは聞き入れるよう言われてるからね。まっ、貴族様の口に合う材料かわかんないけど、好きに使いなっ!!」
「はーい!!ありがとうございますっ!!」
女性が調理場から去った後、あたしはまず、かなり汚れている調理場を洗い始めた。
「ディアお嬢様、手伝います」
「シンリー、ありがとう」
「お、俺も」
「僕もー」
「ロンとアースもありがとう」
話し合った結果、床はロンとアース、あたしとシンリーが調理器具等を洗う事となった。
ーーーー
かなりの時間が経過した後、積年の汚れだったのか、全部は取れなかったけど、ある程度、調理場の方が綺麗になった。
「ディアお嬢様、綺麗になりましたねー」
「ここからよ」
そのため、食糧庫にあるパンをナイフで半分に切り、それと同時にフライパンを油で熱する。
「シンリー、卵を大量に割ってちょうだい」
「終わりましたっ!!」
ジュワー
そして、熱々のフライパンに卵を入れて、加熱しすぎないように気をつける。
「シンリー、ふわふわになったらフライパンから出しててケチャップで和えて!!ロンとアースはあたしが切ったサラダをマヨネーズで和えて!!」
卵をシンリーに任せて、あたしは野菜を切って、ロンとアースにマヨネーズで和えてもらう。
そして、予めに半分に切っていたパンにサラダと卵を交互に挟んでいく作業にかかる。
「完成。それじゃ、働いてる方に差し入れしてくるね。ほら、シンリー、口開けて、あーん」
「デ、ディアお嬢様、は、恥ずかしいです」
もちろん、ここまで作業が早く終わったのはシンリーとロンとアースの手伝いがあったからだ。
だから、あたしはシンリーにあーんをしようとした結果、彼女が顔を紅潮させている。
「あたしのあーんは嫌?」
「そんな聞き方はずるいです…」
軽く上目遣いをしながら、シンリーに尋ねると彼女はあたしから視線を逸らしながら、恨めしそうな表情をする。思わず、抱きつきたくなったが、今は『あーん』の時間である。
「じゃあ、お口を開けて、ほら、あーん」
「あ、あーん…」
堪忍したのか、シンリーがあたしの『あーん』を受け、彼女の小さな口に運ぶ。
「シンリー、どう?」
「あ、味がわかりません…だから、ディアお嬢様も私のあーんを受け取ってください」
「え…いやその…私はやるべき事が…」
シンリーに味を求めると想定外の返答とカウンターを喰らう羽目となった。当然、あたしはなんとか彼女から逃げようと考える。
「ディアお嬢様、私のあーんは嫌ですか?」
「ぐっ…ひ、卑怯だわ…」
「いいえ、ディアお嬢様と同じやり方です。それでは、あーん…」
「あ、あーん…」
確かに、シンリーとの胸のドキドキのせいで味がわからなかった。
シンリーと視線が合うと気まずくなってしまうので、ロンとアースの方へ振り返る。
「ロンもいる?」
「ひ、1人で食えるからなっ!!」
「え?うん、あーんはシンリーだけだよ?ところで、アースもいる?」
「あははは、ロン、恥ずかしいー!!ぜひ、ディアお嬢様の料理の腕の拝見させてもらいますー」
ロンはなぜ、あたしが彼に『あーん』するとすると思ったのだろう。
シンリーにしてあげたからだろうか?と考えながら、あたしの言葉を聞いて、ロンは分かりやすく肩を落としていた。
しかし、アースの言葉を聞いた瞬間、今度は、アースにロンは顔を真っ赤にしながら、ブチ切れていた。
ちなみに、今回はサンドイッチのため料理の腕を測るには物足りないが、あたしは家族を早々に亡くしていたため、料理はかなりできる方だ。
3人を見渡すと、慣れない作業で疲れたのか、ロンもアースもシンリーもかなり疲弊しているようだったので、休ませることにした。
「それじゃ、3人は休憩しててね」
あたしは休んでいる3人へ告げた後、作業場で働いてるノース村の方々の元へ向かった。
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