シンリー(メイド)✖︎ディア(悪役令嬢)
「シンリー…ごめんなさい」
あたしはディブロお父様とステラお母様の胸の中で泣き続けた後、彼等にシンリーの居場所を聞いたら、あたしの部屋ということで自分の部屋へ急いで戻ってきた。
自分の部屋へ戻ると、ディブロお父様とステラお母様が言った通り、シンリーはあたしのベッドで、すーすー…と寝息を立てて寝ていた。
そんな寝ている彼女へ懺悔するようにあたしは謝罪の言葉を口にする。
その後、タオルを濡らして彼女の患部を冷やす。怪我の痛みは消せても患部の跡は消えない。
できるだけ残らない様、寝ずに看病をする。
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「シンリー……ほへんね…ぜっひゃいにらいひょうふらから…」
「なぜ、ディアお嬢様が謝るんですか?」
「シ、シンリー!?もう大丈夫なの!?」
「はい。それはもう…!!ディアお嬢様が治してくださいましたから!!」
いつの間にか、陽が差し込むほど、夜が更けていたようで、どうやら、あたしはシンリーの看病をしながら、寝ぼけてしまっていたらしい。
しかし、シンリーの言葉を聞いた瞬間、一気に脳が目を覚ました。
そして、そのまますぐにシンリーへ駆け寄って、彼女の上半身を支える。シンリーの笑顔を見ると、目に涙が込み上げてくる。
「よかった…本当によがっだぁぁぁ。きづがなぐてごめんねぇ……」
「もうディアお嬢様……」
そして、とうとう耐えられなくなったあたしはシンリーへ抱きついた。そんなあたしを彼女は優しく、受け止めてくれる。
コンコンコンッッ
シンリーへ抱きついていると、あたしの部屋をノックする音が聞こえてきた。そのため、咄嗟に彼女と距離を取る。
「どうぞ」
「ディア、シンリー入るよ」
「ディブロお父様、おはようございます。それと、シンリーをあたしの部屋へ連れてきてくださりありがとうございます」
「旦那様、ご心配をおかけいたさました。それと、おはようございます」
どうやら、あたし達の部屋の中へ入ってきたのは目に隈がある『ディブロお父様』だった。
「それくらいは当然だよ。とりあえず、2人に事件の顛末について話そうと思ってね」
「ディブロお父様、お願い致します」
きっと、当主であるディブロお父様が彼女達の取り調べ等をやってくれていたのだろう。
ディブロお父様の言葉に、心の中で感謝をしつつ、あたしは縦にこくりと頷いた。
「まず、主犯格は、『リルアナ』『エカテリーナ』『カトレア』『ミモザ』『ルーズ』の5名で間違いないな?その上で、シシリーの話も聞きたいのだが、いいだろうか?」
「旦那様、私がお答えできる事でしたら、なんでも喜んでお答えします。まず、昨日の事件で私に直接的な被害を与えたのは、その5名です」
主犯格の名前を聞いてもシシリー以外と仲良くしていないため、誰の名前もピンと来なかった。
「彼女達に詳しく話を聞いたところディアの特別待遇による『嫉妬』で『無視』から始まりエスカレートした、であってるか?」
「………はい。旦那様、間違いございません」
あたしはシンリー以外見えていなくて、基本的にずっと隣で行動していたつもりだった。その一方で、シンリーは『無視』されている現実に気づいていた。大事な人を守れなかった後悔が、罪悪感となってあたしに押し寄せてくる。
しかし、過去は変えられない。だから、あたしは切り替えることにした。
「ディブロお父様、彼女達の処遇は?」
「それについて頭を悩ませ続けていてな…」
「ディブロお父様、それならば、当家から追放のみでいいと思いますわ」
「なっ!?」
ディブロお父様はあたしの言葉にすごく驚いた様な表情をしている。
「昨夜の事件にはあたし自身にも反省点がありましたからね」
「まぁディアがそういうならば、検討しよう」
「旦那様、私からもお願いいたします」
もちろん、昨日の事件を起こした5人を許している訳ではない。しかし、あたし自身がシシリーを特別視したのも騒動の要因の1つだった。
今後起こさないという自戒を込めて提案するとシンリーもあたしの提案に援護をしてくれる。
「それと…ディブロお父様、シシリーを『あたし専属のメイド』からあたしの『騎士』に昇格してもらえないかしら?」
「『専属メイド』から『騎士』だと…?」
「あたしは100の腕より100の信頼が欲しいのです。そして、シシリーなら心の底から信頼できます。だから、彼女をあたしだけの『騎士』にしたいと思っていますわ」
『私は…何をゴハッ…否定しても……構いません…。ですが…っは…訂正してください!!私のディアお嬢様はそんな事する人じゃありません!!』
あの時、痛かったはずなのに、あたしを信じて忠誠を示してくれたシシリーならば、有象無象の100人の部下を持つより信頼できる。
「騎士は『騎士爵』が必要で私の独断では難しいが、ちょうど、『セブンス学園』を通う護衛のため、ディアの親衛隊を募集していて、シンリーを親衛隊の隊長に任命するのはどうだろう?」
「わ、私がディアお嬢様の親衛隊の隊長……!?」
あくまで『騎士』の提案も『親衛隊の隊長』の提案も、今回のような事が起こらないための予防策である。正直、予防ができれば、あたしにとって肩書きなんてどちらでも構わない。
「シンリーはあたしの親衛隊の隊長は嫌かしら?嫌ならば、やらなくてもいいけど…あたしはシンリーがいいと思ってるわ」
「ディアお嬢様にそんなこと言われたら断れないじゃないですか……」
「決まりのようだね」
そのため、あたしはディブロお父様の意見に賛同して、シンリーの説得に成功した。
「ゴホンッ、それで、ディブロお父様、いつ、ノース村の視察へ行けるのかしら?」
「シンリーの件もあるし7日後に行こう……」
「ディブロお父様、絶対ですからね?」
「あ、ああ」
ディブロお父様にジト目を送り、逃がさない様に念押しをしておく。
「それと、ディブロお父様、今更ですが、あたしの親衛隊を募集してくれたんですか?」
「ああ、親衛隊の隊員の主な任務はディアの『セブンス学園』の行き帰りの護衛だ。ただ、シンリーだけ、護衛に加えて今まで通り、ディアの全てを任せるつもりだよ。どうだろう?」
「旦那様、護衛を含めて、ディアお嬢様の全てを私にやらせてくださいっ!!」
シンリーが目を輝かせて、ディブロお父様が掲示する仕事内容に賛同している。
「ちなみに、あたしの親衛隊の応募者はどんな感じでしょうか?」
「実は…応募が殺到していてな…」
「それでは応募者を見せていただけませんか?」
「いいだろう」
ディブロお父様から了承をもらい、彼の執務室の方へシンリーと共に移動をする。
そして、ディブロお父様の執務室の中へと入り、あたし達は、彼から応募者の書類をたくさん渡されることとなった。あたしはディブロお父様から受け取った書類を軽く目を通していく。
「ディブロお父様、ざっと見させていただきましたが、この中ならロンとアースがいいわ」
「そういうと思ったから、2人は採用予定だ」
どうやら、ディブロお父様にあたしの考えは見透かされていたらしい。それならば文句はないため、あたしとシシリーは自分の部屋へと戻る。
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『Lv19
名前:ディア・ベルンルック
称号:3年以内に97%死亡/父親泣かせ
HP:1100
MP:2000
扱える闇魔法:ダークフレイム(小)、ダークヒール(小)、ダークシールド(小)、ダークセイバー(小)
通り名:小麦叩きの公爵令嬢
引きこもり令嬢
自意識過剰令嬢
感謝の令嬢
邪道令嬢
皇太子殿下の恨みを抱かれる令嬢
3枚卸の公爵令嬢
正義の悪役令嬢 』
自分の部屋に帰ってステータスを眺めてみる。
とりあえず、死亡率下がった要因が不明であるものの、死亡確率が2%下がっていた事は、大変喜ばしい。本当はこのままの勢いでステータス上昇のための闇魔法の訓練をしたいが、シンリーの身体が不安のため、今日は休むことにした。
そして、相変わらず『通り名』と『称号』は消したほうがいいと思ったが、『通り名』の中の『正義の悪役令嬢』だけは少し嬉しかった。
「ディアお嬢様、ごめんなさい」
「シンリー、どうしたの?」
「私が怪我をしなければ…」
あたしは水の中にタオルを入れ、絞ったタオルをシンリーの痣になった患部へゆっくり当てる。
「痕が消えなかったら、どうしよう」
「ディアお嬢様、気にしないでください」
「もし、傷跡が治らなかった未来があったとして、あたしが一生面倒見るから結婚しよう………なんていったら、シンリーはどうする?」
悲しそうな表情を浮かべるシンリーに対して、軽い冗談のつもりで言ったつもりだった。
しかし、頭の中で想像すると急に顔の温度が急上昇する事態に陥ってしまう。
「きっと、そんな提案を聞けたら、ディアお嬢様を押し倒して襲っちゃうと思います……」
「そ、そっか…。あたしはシンリーが相手なら別に襲われても…」
「本当ですか?」
「きゃっ…」
自分でも似合わない小さな悲鳴をあげて、シンリーにベッドへ押し倒される姿勢となる。
シンリーの両手があたしの頭の左右に置かれ、彼女の体重があたしへのしかかる。
これが『ハルデア皇太子殿下』なら余裕で、闇魔法を発動して、ぶっ飛ばしていただろう。
しかし、相手がシンリーなら嫌な気がせず、なぜか目を瞑ってしまった。
「シンリーならいいよ………」
「後悔しても知りませんから……」
お互いの吐息がかかる直前……
コンコンッッ
「ディアちゃん、シンリー、朝食よー」
ノックが鳴り響いたことにより、あたしとシンリーは咄嗟に距離を離して、姿勢を戻す。どうやら、ステラお母様が呼びにきてくれたらしい。
恐らく、他のメイドが呼びに来なかったのはシンリーへの配慮だと思うが、そんな事よりあたしの心臓の鼓動のドキドキが止まってくれない…。
「シ、シンリー朝食行きましょうか」
「は、はい」
お互い顔が真っ赤になり、視線を逸らしながら、2Fの方へ降りていつもの場所へ向かった。




