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『悪役令嬢:ディア•ベルンルック』再誕

「シンリー、側にいる君の意見が聞きたい」

「ディアお嬢様はあの日以降、人を変える不思議な力をお持ちのような気がします。しかし、時々寂しそうな表情しているのが気がかりです」

「……その通りだね。『ディア』はあの日以降『天性の人垂らし』だからな」


 ん…あたしは眠ってしまっていたのだろうか?断片的とはいえ、馬車の中で聞こえてきたのはディブロお父様とシンリーの一部の会話だった。


「ええ。私もその人垂らしに救われた1人です」

「恥ずかしながら私もその1人だ。昔の野心がある私ならハルデア皇太子殿下との婚約を強行しただろう。しかし、ディアは鳥籠に閉じ込めるより羽ばたいてる方がいいと最近、思う様になった」

「ええ。ディアお嬢様は私がどんな事があろうと、生涯かけてお仕えします」


 内容を聞くとすごく恥ずかしい内容だったので寝たふりを強行することにした。


 あたしはディブロお父様やシンリーが言う様な人垂らしでもなんでもない。


 ただのアル中、

 ただの寂しがりやなゲーマー

 ただの死ぬ事が確定されている悪役令嬢


 だから、死ぬ前にあたしのために動いてくれているこの世界のみんなへ感謝を届けたいんだ。

 

ーーーー


「ディア、起きたのかい?」

「ん……ゆ、ディブロお父様?」

「馬車で寝ていたからね。背負ってきたんだ」

「ディブロお父様の背中、暖かい…」


 どうやら、あたしはあの後も馬車で本気で眠っていたらしい。そのため、ディブロお父様が、あたしの部屋まで運ぶ途中に起きたそうだ。


「はっ、そう言えば、2Fの食事場へステラお母様を呼んでくださるかしら?」

「あ…ああ」


 リア村長から頂いた『刺身』の存在を思い出して、ステラお母様とディブロお父様、シンリーを2Fのいつも食事している部屋へ集める。 


「シンリー、塩持ってきてくれるかしら?」

「ディアお嬢様、かしこまりました」

  

 ディブロお父様達が集まったのを確認した後、シンリーへ塩を持ってくる様にお願いする。一方であたしは、氷が溶け切ってない事を確認した上で、『鯛の刺身』をテーブルへ置く。


「ディアちゃん、これは『刺身』ね」

「まさか、ディアが気難しい『リア村長』に気に入られたとは思わなかったよ…」

「だって、『刺身』なんて貴重な物を持たせるくらいだもの」


 ディブロお父様とステラお母様は既に『刺身』について詳しい様子だった。実際、『刺身』は日持ちしないし、『新鮮さ』が大事である。前世の日本のような場所ならばともかく、『セブン⭐︎プリンセス』のような偏っている世界において、『刺身』が流通してないのは仕方がない事だ。


「ステラお母様、やはり珍しいのですか?」

「名前は知ってるけど、私は食べた事ないわ」

「ちなみに、私もないね」


『刺身』と言う言葉だけが一人歩きしているこの世界に思わず、呆然としてしまった。


「ディアお嬢様、塩をお持ちしました」

「それじゃあ、みんなで食べましょう!!あたしに習ってください!!」


 呆然としていると、新リーガ塩を持ってきてくれたので、お皿から鯛を一切れ取って、塩を少し掛け、口へと運ぶ。


 リア村長がお土産でくれた『刺身』の鯛は、臭みはもちろん、ほんのり甘くて食感も兼ね備えている鯛本来の味を楽しめる絶品だった。


「お、美味しいわ…!!」

「こ、これほどとは…!!」

「噛めば噛むほど旨味と甘味が飛び出します!!」


 どうやらあたしの食べ方はディブロお父様やステラお母様、シンリーにとっても好評だった。

 

 その後、4人でリア村長から頂いたお土産の『鯛の刺身』を完食することとなった。




 その時のあたしは、『鯛の刺身』に夢中で、後ろに控えていたメイド達が送るシンリーへの視線に気づくことができなかった。 




ーーーー


「シンリー、寝るよー?」


 ディブロお父様とステラお母様と共に、刺身を食べて、お風呂へ入り、部屋に戻ると、いつも笑顔でいるシンリーがいない。


 なんだか嫌な予感がしたあたしは、廊下を出て、まずは4Fの部屋から探すことにした。


 コンコンッ


「誰だい?」

「ディアですわ。ディブロお父様、シンリーを見ませんでしたか?」

「うーん、見てないな」


 まずはディブロお父様の部屋を訪ねてみたが、見かけていないと情報をもらって後にする。


 コンコンッ


「誰かしら?」

「ディアです。シンリーを見ませんでしたか?」

「シンリーなら2Fの方に行ってたような…確か、他のメイドの子達と一緒だったような」

「ありがとうございます」


 普通に考えれば、シンリーも他の使用人達と交流を深めていると考えるかもしれない。


『私、メイドの仕事辞めようと思ってました…。いつもディアお嬢様に怒られてばかりで…っぐ…周りの使用人とも馴染めていませんでした』


 しかし、あたしには出会った時のシンリーの言葉の一言一句が頭に残っている。


 だから、あたしは急いで2Fへと移動した。


ーーーー

 

「………ディアお嬢様、僕じゃ止めれない。シンリー、まずい」

「パタリーシェフ!!シンリーはどこにいるの!!今すぐ教えてっ!!」


 2Fに到着すると階段付近で左右を見渡しているパタリーシェフがいた。シェフの時はコック帽で見えなくて、分からなかったが、緑色の髪をした大きな瞳を持つ美人な僕っ娘だった。


 そんなパタリーシェフに話しかけ、事の重大性に気づく。そして、あたしの願いにこくりと頷いた彼女の後を着いて行った。


ーーーー


「なんでっ、あんたみたいな見習いが上にいってんのよ」


 ドンッ


「うぐっ……」


「大体、あの我儘で世間知らずのお嬢様に何を吹き込んで取り込んだの?あなたの色仕掛けかしら?そう言えば、いつも『シンリー』ってまるで、恋人のようだったわね!!」

「もしかして、あのお我儘嬢様に惚れられて調教されたんじゃない??」

「なんとか言ったらどうなのよ!!」

「「「あっはっはっはっ」」」


 バンッ


「私は…何をゴハッ…否定しても……構いません…。ですが…っは…訂正してください!!私のディアお嬢様はそんな事する人じゃありません!!」

「あんたなんていなくてもあの『理不尽の権化』は何も思わない。だから助けに来ない!!」


 扉越しから聞こえてきたシンリーと他のメイド達とのやりとりに全身が怒りで震えだす。


 あたしはどうせ死ぬ。だから、死ぬくらいならたくさんの人に感謝してから死にたい。


 そう思っていた。


 でも、これは我慢できそうにない。


 だから、お願い。


 今だけでいいの。


目の前で起こる『理不尽』を『理不尽の権化』の『悪役令嬢:ディア•ベルンルック』になりきって、『理不尽』を消し去ってやるんだっ!!


ーーーー


「おーほっほっほっ、パタリーシェフ、着いてきなさい。闇魔法『ダークフレイム』」

「………………前のディアお嬢様だ」


 グツグツグツ………バンッ


 あたしが放った闇の炎が扉を焼きつくした。そして、そのまま、足音を響かせ入っていく。


「デ、ディアお嬢様!?どうしてここに……」

「ち、ちがうんです。私達はシンリーと戯れてていただけよね?」

「「「「そうよ」」」」

「おーほっほっほっ、誰が『ディア•ベルンルック』であるわたくしの前で『石ころ』風情が喋っていいと許可したのかしら?」


 そして、喋る5つの石ころを無視して、そのままシンリーの元へ行く。彼女は見えない所のみ、集中して攻撃を受けていたみたいだ。


「闇魔法『ダークヒール』」


 あたしはシンリーに闇の回復魔法を放って、傷を回復させる。


「ディア…お嬢様、やっぱり……来て…くれた」

「おーほっほっほっ、わたくしのシンリーとはいえ、わたくしがいいと言うまでは喋っちゃダメよ。パタリーシェフ、貴殿に任せてもよくて?」

「…………は、はい!!」


 シンリーへにっこりと微笑み、パタリーが彼女を背負って部屋から移動した。


「おーほっほっほっ、わたくしのシンリーをいじめた落とし前をどうつけさせてもらうかしらね」

「「「「「ひぃ」」」」」

「誰が喋っていいと許可したの?そこに馬になりなさい。わたくしは眠たいの」


 黙らせた後、5つの石ころを四つん這いにさせて、縦一列に並べた後、5つの石ころの上からあたしは、寝転がる。


「おーほっほっほっ、まあまあの寝心地ね。それでは、ディブロお父様かステラお母様が来るまでここを動かないですわ。体制を崩せば、その時は闇の炎があなた達を焼き尽くすと思いなさい」

「「「「「ひぃ」」」」」

「おーほっほっほっ。学ばない石ころさん達、誰が喋っていいと許可しましたの?」


 結果、騒ぎを聞きつけたディブロお父様とステラお母様は30分ほどで駆けつけることとなり、メイド達は怯えた視線であたしを見る。


「ディア…」

「ディアちゃん…」

「おーほっほっほっ、ディブロお父様、ステラお母様、こ、この者共はわたくしの『シンリー』を害しました。だから、どうか厳粛に…」


 あれ、おかしいな…。


 ディブロお父様とステラお母様の顔を見た瞬間、緊張の糸が切れたように『ディア•ベルンルック』を上手に演じれなくなった。


 そして、そんなあたしを見たディブロお父様とステラお母様に強く抱きしめられた。


「ディア、もう無理はしなくていい」

「ディアちゃん、心の優しい今のあなたじゃいくら取り繕っても昔みたいになれないわ」

「ひぐっ……あっ……ぐっ……うぁぁぁぁぁ」


 あたしならば、自分が何度も見てきた『セブンス⭐︎プリンセス』の『ディア•ベルンルック』のように振る舞えると思っていた。


 それなのに、頬に伝う雫が止まってくれない。

 

 なんで気付かれた事がこんなにも心が温まって、嬉しいんだろう……。


 その日、あたしはこの世界に来て、ディブロお父様とステラお母様の胸の中で泣き続けた。

 

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