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ウェスト村2

「ふぇっふぇっ…ディブロ公爵様、そちらが噂の『ディアお嬢様』ですかえ?」

「その通りだ」

「ふぇっふぇっ…『イースト村』から聞いたよぅ。うちの村も存分にみとくがいいさ」

「ご機嫌よう。ディア・ベルンルックですわ。以後お見知り置きを…と堅苦しい挨拶は辞めるね!!おばあちゃん、いつも美味しい水産を食べさせてくれてありがとうっ!!見させてもらうねっ!!」


 ウェスト村の門には杖をついたおばあちゃんと彼女を支える男3人と女2人がいた。


 直感に近いが、ウェスト村の村長には硬い言葉より本音を伝えた方がいいと思い、家族と接するかのように感謝を伝えた。


「「「「「えぇ…」」」」」

「ふぇっふぇっ…イースト村が『感謝の公爵令嬢』を絶賛するの無理ないね。わたしゃ、このウェスト村の村長のリア、よろしく頼むさ」


 あたしが本音の感謝を伝えると、リア村長に付き添っていた5人に驚かれることとなった。


 その一方で、リア村長は楽しそうにあたしを観察している。


「とりあえず、中へ入れてもらおうか」


 あたしがウェスト村の人々を困惑させてしまったのか、事態が硬直してしまったので、ディブロお父様が先導してくれる。


 そんなディブロお父様の先導のおかげで、そのままあたしはウェスト村へ入ることができた。


 イースト村は村と離れたところに黄金色の小麦畑があった。この構造はウェスト村でも同じらしい。軽く観察していると男性が海の方へ釣りに出掛けて、女性は村で釣ってきた魚の後処理をしている。そして、後処理を終えた魚へ塩を振りかけ、日持ちする様に遠くの網に干していた。


 ちなみに、風魔法を行使しているのか、干されている魚の前に複数の人が常に待機しており、定期的に魚の状態を確認後、回収作業もしている。


「本当は釣りをしたいけど…」

「「ダメだ(です)」」


 一瞬でディブロお父様とシンリーから二重で怒られることとなった。


「ふぇっふぇっ…アレン、包丁を貸してやんな」

「え?リア婆、いいのか?」

「ディアお嬢様、実際にやってみるかえ?」

「はいっ!!」


 しかし、リア村長が包丁を貸してくれることとなれば、話は別である。


 その結果、釣りはできないものの、魚の3枚下ろしの体験が出来ることとなった。


「ディアお嬢様、出来るんですか!?」

「多分かなー」

「ディブロ公爵様はリア村長へお話がありますでしょう。ここはどうか我々にお任せを」


 イースト村同様、ディブロお父様は、あたしの視察のためだけに来ているのではない。


 そのため、あたしとシンリーと残ってくれたウェスト村の護衛の方以外は別行動となった。


 少し寂しい気もするが、割り切って包丁を構えて楽しむことにした。


ーーーー


「貴族の方?きれーい。あ、僕の名前はスイレン!!この魚は僕が釣ったんだよ!!後処理をお姉ちゃんへ任せてもいい??」


 しかし、現実は残酷だった。魚を釣った男の人達は当然のようにあたし以外の女性へ行く。これは当たり前なので文句はないが、悲しくもある。


 そんな状況なので、シンリーに泣きついていたら、あたしより小さい濃い青色の髪をした男の子が大きな魚を持って、あたしの所へやってきた。


 手に持ってるのは鯛だろうか?


 この歳でここまでの大物を釣るなんて、将来がすごい楽しみな男の子である。


「うん!!任せて。まずは、洗います!!」


 少し重いと感じながらも、鯛を洗い、ブラシを使って、早めに鱗を取っていく。


「その後、魚に切れ目を入れて内臓を取り出します」


 出来るだけ臭いを残さない様に、さーっと取るのがいいんだよね。


「後は包丁の刃で魚を無闇に傷つけない様に、力を入れずに、すーっと3枚に下ろしていきます。後は塩を振って、あそこに掛けたら終わりだね」

「お姉ちゃん、すごく手際いいね。次の僕が釣る魚も頼むよ!!」

「ええ。もちろん」


 スイレン君のおかげで、あたしの方にもちょくちょく3枚下ろしの依頼が回ってくる様になる。


 そして、夕陽が落ちる手前、リア村長があたしの所へ来るまで、あたしは集中して、3枚下ろしを続けていたらしい。


 ちなみに、あたしに料理を負けたくないと意気込んで参戦したシンリーは上手にできず、途中であたしと変わる羽目となり、涙目になっていた。


ーーーー

 

「ふぇっふぇっ…大したもんだえ。イースト村の様な小麦ではなく、魚の後処理は鮮度が命、それを任されるとはすごいことだえ」

「いいえ。あたしも最初は任されることなくてシンリーに泣きついてました。でも、スイレン君を機に信頼される様になりました」


『イースト村』の小麦は良くも悪くも『叩きつけ』であり、収穫できた小麦を分けていく作業だが、『ウェスト村』のような水産物は『鮮度』が求められ、基本的には、速さが命だ。


 あたしも、前世の日本の知識がなかったら、きっとうまくできていなかっただろう。


ーーー


「ふぇっふぇっ…スイレン、こっちおいで」

「リアお婆ちゃん、なあにー」

「ふぇっふぇっ…この子はわたしゃの孫だよ」

「リア村長のお孫さんでしたか!!通りで凄い釣りの腕前をお持ちなんですね」


 リア村長に呼ばれたスイレン君がこちらへやってきて、リア村長に優しく髪を撫でられて、彼は気持ちがいいのか、目を細めている。


「きっと、将来は立派な男性になりますね!!」

「えへへ。お姉ちゃんも間違いなくいい嫁になるよ!!僕が貰ってあげたいけど、貴族様だし…」


 子供は自由でいい。しかし、そんな子供でさえ、出自を気にして自分の願いの1つさえ言えない。その状況に、あたしの前世が日本出身だったからか、すごく喉元に引っかかる部分があった。


「いつか、スイレン君がいい子のまま、大人になったら迎えにきてちょうだい。その時、お互い相手がいなければ、前向きに考えようかしら?」

「本当?約束だよ」

「うんっ!!」


 だから、あたしはスイレン君に純粋のままでいて欲しいと願いを込めて、腰を下ろして、彼の頭を撫でつつ、真っ直ぐ視線を合わせて伝える。


 なぜか、シンリーからものすごく殺気が放たれてる気がするが、所詮、子供同士の約束である。


 それに、現実が残酷な事を知るのは後でいい。


「ディア、待たせたね。帰ろうか」

「ディブロお父様、おかえりなさい」


 リア村長やスイレン君と約束をした直後、帰りの馬車の準備をしていたディブロお父様があたしの所へ戻ってきた。


 それと同時に、あたしに抱きついてくる。


 髭が少しもじゃもじゃで痛いけど、嬉しさが勝って苦ではなかった。


「ふぇっふぇっ…ディアお嬢様、これを…」

「これは…?」

「リアお婆ちゃんが『刺身』を渡すなんて、お姉ちゃんの事、相当気に入ったんだね!!そうだ!!必ず、僕が立派になって、お嫁さんとしてもらってきてあげるからねっ!!」

「ふぇっふぇっ、スイレン、ベルンルック公爵様の前ではだめだよ。ふぇっふぇっ…でも、まぁ『ディアお嬢様』なら、わたしゃはいつでも歓迎する準備ができているよ」


 リア村長から渡されたのは、氷で冷やされている皿の上に盛り付けられた鯛の刺身だった。あたしはそれを大事に両手で抱える。


 刺身と同時にこんな暖かい言葉をかけてもらえてあたしは本当に幸せ者なんだと理解した。


 こんな人達だからこそ、あたしは日頃の感謝を全力で伝えたい。そして、守りたい。その想いが日に日に強くなっていくのを感じる。


「ディア、馬車へ」

「みんな、本当にありがとう!!イースト村もウェスト村も大好きだよ!!」

「「ヒヒーン」」

「「「「「ありがとうございました」」」」


 ディブロお父様の声であたしとシンリーは馬車へ乗り込む事となった。


 そして、馬車へ乗り込んだ後、そのまま、あたしは全力の声でウェスト村の全員へ届く様に大きな声をあげて叫んだ。


 そうすると不思議なことに、お馬さんもあたしに同調するかの様に感謝を伝え、護衛兵の皆さんも一緒に感謝を伝えてくれたのだ。


 感謝を伝えた後、最後にウェスト村の皆様へ手を振りながら、ディブロお父様の馬車へ乗り込み、あたしはウェスト村の人達が見えなくなるまで手を振り続けた。


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