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第65話 コウガン王国とシュンカク王国咆哮

シュンカク王国の北端、エルディナ草原そこには、シュンカク族の白を基調とした軍旗がはためいていた。

 そして、対面に掲げられているのはコウガン王国の南端、中立を現すような水色――コウガン族の紋章を刻んだ旗である。


 風は止み、騎人馬と軍馬の蹄音も、咆哮もない。

 ただ張り詰めた空気だけが、静かに、そして重たく大地を圧していた。


 シュンカク族の陣営。戦列の中央にはハイオーク兵二千、後方に騎馬の人間兵二千、そして最前列には突撃を前提としたシュンカク族のケンタウロス兵七千、合わせて一万一千が展開されていた。

 それは歩兵戦を捨て、機動力と破壊力に全てをかけた構え。


 その最後尾。金色の戦陣幕の奥に、国王ヤズール・シュンカクの姿があった。

 獅子のたてがみのような髪を高く結い、鋭く冷えた眼差しで、エルディナ草原の彼方を見据える。


「……見ろ、コウガンの布陣。後衛が薄いな。ザイ・コウガンは、前面突撃に全振りか?」


 副将ソルジュが進み出て、低く答えた。


「あるいは、それが罠かと……」


 ヤズールは鼻で笑い、軍配を握る手にわずかに力を込める。


「ならば、こちらも罠を仕掛けるまでだ」



 一方その頃、コウガン王国の陣営では、国王ザイ・コウガンが軍扇を静かに開いた。

 その中列から後列に並ぶのは、コウガン族のケンタウロス兵七千。最前列には、薄布を纏った人間奴隷兵二千、合わせて九千が配置し、人間たちが盾のように立たされていた。


 その武器は粗末で、戦列の形も整ってはいない。

 だが、ザイの瞳には一切の慈悲はなかった。


「奴らは捨て駒だ。肉の壁で敵の勢いを削げ」


「了解しました」


 副将ライがうなずく。ザイ王は軍扇をゆるりと振った。


「奴らは人間たちに怯むだろう。その隙を突いて我が軍は三段突撃。機を見て一気に中央突破……決着をつける」


 それは単純であるがゆえに、恐ろしくも強力な戦術。

 だが――ザイ・コウガンは知らなかった。

 その背後――地の底で、闇がすでに動いていたことを。



 地下トンネル――


 わずかな光の中、漆黒の影たちが音もなく進み始めていた。

 先頭を歩くのは、サーティーン配下の上級悪魔・ナタル。

 その後ろには、中級悪魔・ギーブ、そしてミノタウロスとハイオークからなる千の兵が続いていた。


「……さすがサーティーン様だ。こんなトンネル、たった数日で掘りきるとは」


 ギーブがぼそりと呟くと、ナタルは小さく笑った。


「そうね。初めて会った時は、正直、逃げたくなった。でも今は――凄いお方に仕えているって、心から思うわ」


「なあ、ナタル。ほんとに、俺たちの出番、来るのか?」


「来るわ。サーティーン様の計画に、狂いなんてない。ザイ・コウガンの軍が動き出せば、背後はがら空きになる。その時、私たちが背を奪う。それが今回の任務よ」


 ギーブは口の端を吊り上げて笑った。


「ふっ……逃げ道塞いじまえば、後は袋のネズミってわけだな」


 ナタルはふっと息を吐く。


「ただし、命令を忘れないで。国王を確保すること。殺してはならない。いいわね?」


「心得てる。任務優先だ」



――地上の戦いが佳境に達したその時、

この地の底から、戦場の命運を左右する決定打が放たれるのだ。


 風が止まり、空が不気味に曇る。

 北のコウガン、南のシュンカク。二つの咆哮が、草原を貫こうとしていた。


 その咆哮が交わるより先に、戦の結末は――すでに「地の底」で決められようとしていたことを。





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