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第52話 交易商人ドロワ 中編

 ジンビ族の夜襲は、わずか二時間で決着を迎えた。


 奇襲部隊の人数は十八名。毒薬と火薬を巧みに使いこなし、焼き討ちと暗殺を同時に遂行するよう訓練された精鋭たちだった。彼らは獣道を抜け、まるで狩りに臨むかのように無言で進軍し、火を放ち、扉を破壊し、人々を切り捨てようとした。


 だが、彼らが知らなかったのは――この交易所が、すでに変化していたということだ。


 警戒網の再構築、地下避難口の整備、そして何より、武器の所持を許された労働者たちの意識の変化。


「生き延びる」ためではなく、「守る」ために戦う者たちが、そこにはいた。


 ロロハの通報を皮切りに、ドロワが配備していた私兵部隊が即座に動いた。建物の外に仕掛けられていた爆裂筒のいくつかは未然に発見され、処理された。高所には狙撃手が配置され、ジンビ族の斥候を次々に排除していった。


 交易所裏手では、火矢を放とうとするジンビ族が罠を見破られた刹那、元傭兵で鍛えられたドロワ配下の防衛工たちが応戦。石弓と手斧が火花を散らし、狭い通路で激しい白兵戦が繰り広げられた。


 戦いは熾烈を極めたが、ジンビ族の情報は明らかに不足していた。


 何より致命的だったのは、彼らがいまだ奴隷として見下していた労働者たちが、すでにドロワの教育と待遇のもとで、ひとりの戦力として自ら立ち上がっていたという事実だ。


 そして――


 その夜の終わりには、ジンビ族十八名のうち十四名が死亡、三名が捕縛され、隊長格のナカロクは重傷を負いながらも逃亡。


 対して、ドロワ側の損害は私兵二名が重症、労働者五名が負傷するも、命を落とした者は一人もいなかった。


 翌朝、焦げた交易所の一角で、ロロハは拳を握りしめて立っていた。


「……守れた」


 血塗られた槍を片手に、彼女は目を閉じて、静かに天を仰ぐ。


 誰ひとり逃げることなく、その場にとどまり力を合わせて砦を守り抜いた労働者たち。それはもはや奴隷の精神ではなかった。自らの意思で生き、自らの手で世界と向き合う者たちの姿だった。


 この勝利は、トママイにおける「支配の形」の限界を、まざまざと示すこととなった。


 数日後、ムロロン王国とムーカワ国の城にも、この襲撃と勝利の報告が届けられ、改革派の者たちは密かに快哉を叫んだ。


 一方、黒岩高地の砦「ドゴバル」では、報を聞いたモンテが怒りに震えていたという。


「……小賢しい裏切り者が。ならば次は、戦だ!」


 その言葉とともに、モンテは第二の砦都市ダルグ砦の防衛準備を急がせ、より大規模な武装強化へと舵を切ることとなる。


 だが、この一戦はまだ序章にすぎなかった。


 トママイの支配構造が大きく揺らぎ始める中で、静かに、だが確実に、新たな時代の鼓動が鳴り始めていた――。





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