第43話 サーティーンの陰謀
トママイ連合の会議が決裂し、ケンタウロス族の三国は二対一に割れた――。
その数日後。
冥界――暗黒の魔力が満ちるこの異界の奥深くにて、極悪魔サーティーンは静かに次の一手を見据えていた。
彼の部屋に足音もなく現れたのは、一人の魔人。
黒衣のフードをまとい、片眼に漆黒のアイパッチをつけた異形の者――名をグレウスという。
諜報の魔人にして、サーティーンに命を救われた少年。ピクシブらと多国を見にゆき、世界の歪みを観察し続けてきた男である。
「……ご報告いたします、我が主」
グレウスは膝を折ることなく、淡々と口を開いた。
「トママイ問題は、想定より早く動きました。三部族の会議は決裂。和平を望むシュンカク族はムロロンと結び、ジンビ族はモンテの保護を受けて軍備を増強中。コウガン族は沈黙を保ちながらも、裏で武器供与を継続しています」
サーティーンは肘をついた姿勢のまま、虚空に指を滑らせるように伸ばす。
「……ふむ。燃やすには、薪をもっと丁寧に積まねば面白くもなかろう」
「はい。私の見立てでは、この問題は収束に三年くらい。和平と戦火、信仰と現実、理想と利権――すべてが絡み合う矛盾の盆地が形成されるでしょう」
「なるほど。あの茶毛の王――ザイ・コウガンも、いずれは正義という泥を自ら纏うことになるな……。で、モンテはどうだ?」
「健在です。黒槍同盟と呼ばれる戦闘集団を率い、ジンビ族との結びつきを強めています。また、ドロワ――奴隷商ドクワの子も、地下経済の再編と資金流通を掌握しつつあり、トママイの闇を支えています」
サーティーンは軽く笑い、立ち上がる。
その背から、二枚の巨大な黒い翼が静かに揺らめいた。
「……ふむ、良いだろう。そいつらはまだ泳がせておけ。金と血に肥え太った獲物は、焼くと旨味が増すものだ」
一歩、また一歩。闇を踏みしめるように歩きながら、サーティーンは続けた。
「グレウス。お前はこれよりコウガン族の内部に潜れ。ザイの息子――ナム・コウガンの動きが気になる。現実主義を疑い、信仰と倫理に傾いていると」
「はい。すでに接触の種は撒いてあります。ナムは揺れています。……理想という毒が、心に染み始めているのです。裏切りの芽としては上出来です」
サーティーンの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「腐りかけの秩序には、いずれ腐った者が群がる。……それでよい。風が吹いているぞ、グレウス。白き風が」
グレウスの片眼が、わずかに輝いた。
「その風が、穢れを祓う光の風か……それとも、死を撒き散らす灰の風か――」
彼はゆっくりと頭を垂れた。
「いずれ、明らかになります。我が主の劇場にて」
サーティーンは顔を上げ、虚無の空を見上げた。
そこには、ただ何もない――空虚なる暗黒が、無音で広がっている。
「さぁ、幕を引け。トママイの地に立つ者たちが、いかなる真実を選ぶか……見届けようではないか」
世界はまたひとつ、深淵へと足を踏み入れた。
それが誰かの正義であろうと、悪魔にとってはただの変化にすぎないのだった。




