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第30話 サーティーン XⅢ教の真理を説く

 異世界から来た、女神の使いと思われる人間の男女がミホロ町にいる――その報告を受けたサーティーンは、上級悪魔ザイアックの居場所をつかむのと、奴が復活し二人に接触してくる可能性を考慮し介入はせず、ペコに二人の監視続行を命じたのだった。


 そして物語は、未完成だったヒラーク城――ピラミッド型の巨大建築物が、ついに完成を迎えたという話へと移る。

 

 黒く塗りこめられたその外観は、まるで地の底からせり上がってきた古代の神殿のようであり、いまやヒラーク領主ゲオラークの居城であると同時に、サーティーンを神と崇める新興宗教「ⅩⅢ(じゅうさん)教」の拠点となっていた。


 その頂点において、冥闇より生まれしⅩⅢ教の神にして指導者――サーティーンが、演説を始めようとしていた。


 漆黒の神殿と化したヒラーク城の中心部。巨大な黒曜石の祭壇を中心に据えた大広間には、数百の人間とオークの信徒がひれ伏していた。燭台の炎は震え、床には七芒星が描かれ、不可解なルーンが天井を覆う。壁に塗られた灰色の血文字は、今にも脈動せんばかりに揺らめいていた。


 沈黙の支配する空間に、ひとつの足音が響く。

 厚く敷かれた黒布を踏みしめ、法衣をまとった影が進む。

 その歩みは、まるでこの世の重力さえ従わせるかのようだった。


──サーティーン。

 闇そのものが人の形を取ったかのような存在。

 祭壇に立った瞬間、空気が凍りつき、燭台の炎が膝を折るように沈む。

 影が波打ち、信徒たちの輪郭が歪んだ。


「──よく来たな。我が愚かにして哀れなる子らよ」


 その声は、鋼を削ぐ冷気。

 神が人間に語りかけるのではない。人間が神の声を聞かされてしまう音だった。


 サーティーンはゆっくりと片手を掲げ、天井の闇を指した。

 その指先が動くたび、空間が震え、黒曜石の壁に裂け目が走る。

 灰色の血文字が明滅し、七芒星が脈打つ心臓のように光を放つ。


「お前たちは塵だ。無知にして弱き塵。

天の神どもに弄ばれ、地の法に縛られ、永劫の奴隷として生きるしかなかった」


 冷徹な響きの中に、わずかな愉悦が混ざる。

 まるで人の惨めさを美酒のように味わっているかのように。


「だが──その鎖は、今日で断ち切られる」


 祭壇が唸りを上げ、黒い石の裂け目から光ではなく闇が噴き出した。

 闇は形を持ち、ⅩⅢの印を刻む。

 それは神聖ではなく、畏怖そのものの輝きだった。


「見よ。我こそが十三の闇より生まれし真理。堕天の果てに座す、唯一の導き手──サーティーンである!」


 その宣言とともに、彼の影が波のように広がり、信徒たちの足元を覆い尽くす。

 誰も逃げない。逃げられない。

 それが崇拝であり、恐怖の極致だった。


「善も悪も、光も闇も──我が言葉ひとつで塗り替えられる。お前たちは選ばれた。破滅を越えてなお、我の影と共に歩む者として!」


 最後の言葉と同時に、天井が割れ、外の夜がひとつの瞳となって覗き込む。

 それはまるで、世界そのものが彼の演説を聴いているかのようだった。


 サーティーンは微笑む。

 その微笑は慈愛ではなく、「支配の確信」そのものだった。


「問おう──光に縋り、滅ぶか。冥闇に跪き、生きるか」


 瞬間、群衆の中で熱狂が爆ぜる。


「サーティーン様万歳! 冥闇の主こそ真なる神!」


「主よ、導きたまえ!」


「冥闇に生き、冥闇に昇る!」


 歓喜と狂乱が嵐のように祭殿を呑み込んでいく。

 天井が軋み、封印された空が闇に覆われる。


──新たなる終末の胎動が、いま始まった。




「ルカたん、あれ大丈夫なの?」


 サーティーンの演説を見ていたペコが、不安そうに問いかけた。


「ええ、問題ありませんよ」


 ルサールカは静かに微笑み、熱狂を冷静に見つめていた。


「今まで誰にも語る事ができずに、独り言のような演説ばかりだった、ストレスを発散できたのでしょう。

天使の体と悪魔の心を持つ、自身を神と信じることでアイデンティティを保ち。そして働く意味も希望もなかった人々にとって、彼の存在は救いに映る。……まあ、これは一種の依存ですけれどね」


「そうかな? そうかな……」


 ルサールカは楽しそうに恍惚の表情を浮かべ、ペコはなおも不安げに、狂信に染まりつつある群衆を見つめるのだった。



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