表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

第2話 暗黒神が与えし役割

「あなた様には、いくつかの使命がございます」


 ルサールカはゆっくりと、言葉を選びながら告げる。


「まず、下級悪魔を除いた上で、極悪魔六体、上級悪魔六体、中級悪魔六体――計十八体の悪魔のコアに刻印を入れてください」


「刻印……?」


「ええ。あなた様のデーモンコアから放たれるXⅢの印を、各悪魔のコアに刻むのです。それが掌握の証となります。中級悪魔は肉体がなくても、デーモンコアさえあれば構いません」


 サーティーンは小さく頷き、静かに聞き入った。


「さらに、あなた様は勇者の加護と魔王の加護を同時に手に入れ、それを暗黒神様へ持ち帰る使命があります。それこそが、あなた様がこの世界に存在する意味です」


 サーティーンは腕を組み、少し間を置いた後、問いかけた。


「数が合わないな。俺はその十八体に含まれてるのか?」


「いいえ。あなた様は含まれません。暗黒神様に選ばれた特例存在――既存の分類に収まらない、例外中の例外です」


 ルサールカはくすりと笑ったが、その言葉には確かな重みがあった。


「あなた様の力は極悪魔に匹敵します。ただ、ランクとしては上級悪魔相当。未完成ですが、潜在力は計り知れません」


「……力はあるが、地位は微妙ってわけか」


「そのとおり。でも安心してください。私は、そんなあなた様に仕えることを選んだ特例の悪魔です」


「特例の悪魔……?」


「ふふ。私もまた、異例の存在なのです。上級悪魔が、格下げなしで別の上級悪魔に仕える――珍しいでしょ?」


ルサールカは楽しげに肩をすくめ、茶を一口すする。サーティーンは怪訝そうに彼女を見つめたまま尋ねる。


「……で、なぜお前は俺に仕える気になった?」


「理由ですか?」


 ルサールカは目を逸らし、少し芝居がかった口調で答える。


「あなた様の力が未知数で、ぼっちな様子があまりにも哀れだったからです」


「……本音を言え」


 サーティーンの鋭い視線に、ルサールカは観念したようにため息をついた。


「……こんな異例中の異例。そんな存在が何をするか、どんな未来を描くか……想像するだけで面白そうじゃないですか!」


 しばらく見つめ合った後、サーティーンは口元をゆるめる。


「フッ……お前は信用できないな」


「当然です。私は悪魔ですもの」


 そう言いながらも、どこか嬉しそうに微笑むルサールカに、サーティーンは少し安心した。


「それと、サーティーン様」


「なんだ」


「お前ではなく、ルサピョンかルカたんとお呼びください」


「……いきなり本気か? 人前で言うには恥ずかしいぞ?」


「大マジです。百歩譲って……ルカで手を打ちましょう」


「……わ、分かった。ルカ、な」


 ルサールカの目が妖しく輝く。その表情を、サーティーンは心の奥で楽しんでいる自分に気づく。


 彼女は主従の力関係を試していた。通常、悪魔は下位の者の願いなど聞かない。だが、サーティーンは素直に受け入れた。そこに、元・天使としての性質が見えていた。


「さて、私は主に仕え、家事をこなすのが得意です」


 ルカは自分を語り始めた。悪戯好きの上級悪魔で、六つの大罪にも属さず、どの主にも仕えるし仕えない、自由気ままな存在。


 見た目年齢は二十代後半ほど。黒い長いメイド服に身を包み、端正な顔に眼鏡をかける。その佇まいは上品だが、内に秘めた好奇心と悪戯心は尋常ではない。


「今後、主様がどんな恥ずかしい姿を見せてくれるか……楽しみで、楽しみで」


「……なんとも言えん悪魔だな。そして……タチが悪い」


 溜息をつくサーティーンに、ルカはにっこり笑いながら足元に一枚の紙――否、写真を落とした。


「……なんか落ちたぞ」


 拾い上げた写真を見たサーティーンは、言葉を失った。


「これは……」


 そこには、頬を膨らませ、奇妙に可愛らしい寝顔をさらけ出した自身の姿が写っていた。


「これは何事か!?」


「申し訳ありません。属性変化中のあなた様の姿です」


「なっ……!」


 ルカは内心で歓喜していた。


「天使が堕天使になるのはよくありますが、悪魔に属性変化する過程は極めて珍しい。貴重な資料として記録してしまいました」


「俺は寝てる間にこんな顔を……?」


「えぇ。他にも変化はいくつもあり、大変有意義でした」


「……くっ!」


「でもご安心ください。私から主様に攻撃することはありません。ただ――」


「わ、分かった!」


 サーティーンは彼女の言外の圧を察し、すぐに言葉を引っ込めた。


(そうです。あなた様は悪から生まれた悪魔ではない。元・天使なのですから。自らに仕える者を無下にはできないはず……)


 ルカの観察眼は鋭く、サーティーンの本質もすでに見抜いていた。この主従関係は、通常の悪魔のそれとは大きく異なる。悪魔は価値がなくなれば容赦なく切り捨てられるが、サーティーンは違った。


 天使から生まれた悪魔――その異例の存在が、これからどんな未来をもたらすのか。


 その運命は、まだ誰にも分からない――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ