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第12話 冒険者ナタル

 サーティーンがサマル町を拠点とするようになって、三ヶ月が過ぎようとしていた。

 この地を荒らしていた盗賊や山賊、野党といった無頼の徒は彼によって一掃され、今では人々から守り神のように崇められていた。


 その評判を聞きつけ、各地から冒険者や、かつて悪に手を染めていた者たちが次々と町を訪れ、町長に許しを請うては、魔物退治や警備に自発的に参加するようになっていた。


 だが、町長も町の住民たちも、彼らの行動に対して特別な反応を見せることはなかった。

 必要なやり取り以外は干渉せず、あくまで距離を保ち続けている。


 それには明確な理由があった――

 たとえ悪党がいなくなろうとも、ここはムーカワ国王マルカスの支配下にある土地。

 王の判断ひとつで町の運命は容易く変わる。だからこそ、町は波風を立てない。

 あくまでも「サーティーンという一個人が現れ、悪党たちは町の意向に関係なく勝手に潰された」――という体裁を保ち、目立つことを避けていたのだ。


 だが、サーティーンの名は徐々に国の中枢にまで届きつつあった。

 そしてある日、彼の家をひと組の来訪者が訪れる。


「初めまして。私は冒険者のナタルと申します。こちらは傭兵のギーブです」


「同じく。傭兵ギーブと申します」


 ナタルは、身長百七十センチほどの女性で、長い髪を後ろで結い、軽装の鎧に身を包んでいた。左腰にはよく手入れされた細身の剣が下げられている。

 ギーブは一回り大きく、筋肉質の体格に黒髪短髪、背には大剣を背負い、鉄鎧の上から黒の外套を羽織っていた。


 応対したルカが丁寧に一礼し、二人をリビングへと通す。


「サーティーン様、冒険者ナタル様と傭兵ギーブ様がお見えです」


「……サーティーンだ。よろしく」


 現れたサーティーンの姿は、外見こそ若年の少年のようであったが、ただそこに在るというだけで場の空気が張り詰めた。ナタルは瞬時に察した。この人物は只者ではない。


「私はムーカワ国筆頭冒険者、ナタルです。以後、よろしくお願いします」


 ギーブも静かに頭を下げた。


「ご用件を伺ってもよろしいですか?」   

 とルカが尋ねると、ナタルは落ち着いた声で語り始めた。


「まずは、サマル町を守ってくださったことに深く感謝申し上げます」


 話を聞く中で、ナタル自身が十年前、この町で暮らしていたことが明らかになった。剣の才能を見出され、やがてマルカス王の命によって王都へと召され、現在では筆頭冒険者の地位に就いている。


 ムーカワ国は光と闇のふたつの側面を持ち、光の側では育成制度が整っているが、闇の側では兵士を除けば、冒険者や傭兵は放任される傾向にあった。力を示せば地位を得られる。示せなければ、そのまま忘れ去られる。

 ナタルはその不均衡を、身をもって経験していた。


「……こちらに戻られるおつもりですか?」とルカが尋ねると、ナタルは小さく首を振った。


「いいえ。あくまで王命により、町の様子を見て報告するだけです。町長にも顔を出した後、王都へ戻ります」


「さようですか。では、こちらを」


 ルカがそっと手渡したのは、手のひらほどの紙を四つ折りにしたものだった。


「これは?」


「おまじないのようなものです。困った時や強く願いを抱いた時に、使い方が頭に浮かぶでしょう」


 ナタルは一瞬戸惑ったが、静かにそれを受け取った。


「ありがとうございます。ありがたく頂戴します。では……ご無礼いたしました」


 ナタルとギーブが去り、ルカが静かに扉を閉める。戻ってきたルカにサーティーンは問う。


「……あれは、魔法陣ではあるまいな?」


「ただの紙ですよ。ただ……願いが叶うと良いですね」


 その含みを持たせた言い方に、サーティーンは何も言わず、目を伏せたまま黙っていた。


――その頃、町を離れたナタルとギーブは小道を歩きながら、重い沈黙を破った。


「……怖かった」


「ただの少年にしか見えなかったが?」


「あれが分からないようでは、ギーブもまだまだね。あの存在感……あの目の奥にあるもの。冷や汗が止まらなかった。もしかすると――作戦実行の時期が来たのかもしれない」


 ギーブは立ち止まり、低く問う。


「……本当にやるのか?」


「このままでは、何も変わらない。苦しむ者は減らず、犠牲だけが増えていく。ならば――根底から変えるしかない」


「……分かった。ただし、細心の注意は怠るな」


「当然よ。私たちが動く時が来た」


 ナタルの眼差しには決意が宿っていた。

 そして彼らは、ムーカワ国の闇へと、静かに歩を進めていく――。


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