表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/30

第11話 悪を狩る悪魔

 サマル町長から譲り受けた一軒家に、サーティーンは拠点を設ける準備を進めていた。

 石造りの二階建ては、もともと腕利きの冒険者が住んでいた家らしく、簡素ながら堅牢で、見晴らしの良い丘の上に佇んでいた。二階にはグレウスとマカリアの部屋が、そして一階にはサーティーンとルカの部屋がそれぞれ割り当てられていた。


 ルカとペコが家の整備を担うと言うので、サーティーンは一人で町の北部を歩いてみることにした。

 町外れの風景は、想像よりも穏やかで、どこか懐かしさすら感じさせた。


(悪魔の目にも、美しさは映るのか……。もっと歪んだ世界に見えるものだと思っていたが)


 そんなことを考えながら静かに歩いていると、汚れた衣服の男が近づいてきた。


「おい、見ねえ顔だな。金を貸してくれよ。返すかどうかは……まあ、分かんねぇがな」


 サーティーンは言葉を返すこともせず、通り過ぎようとした。しかし、男は苛立ち、腕を掴もうと手を伸ばした瞬間――。


 サーティーンの両目から、細く鋭い破壊の光が走った。

《デモンズブレイクアイ》 相手の悪心を急激に膨らませ肉体を破裂させる技、悪人に効果大。


 次の瞬間、男の体は内部から破裂し、肉片と化して崩れ落ちた。


「……せっかく綺麗なものを見ていたのに、また穢れを見てしまったな」


 そう呟いたサーティーンは、軽く指を鳴らし《デモンズフレイム》を放つ。悪魔の炎は瞬く間に死骸を焼き尽くし、汚れを拭うように空気を浄化していった。 浮かんだ魂は熱にあぶられながら、ゆっくりとサーティーンの掌へと吸い込まれていく。


「汚物は、消毒せんとな……」


 悪魔にとって、魂は力の源である。悪魔契約を通じて得る魂は大きな力をもたらすが、こうして無作為に奪い取った魂は、ただ腹を満たすだけの粗末な糧にすぎなかった。


 町の一通りを見て回った後、町長が再び姿を現し、深々と頭を下げた。どうやら、先ほど始末した男も含め、北部の治安には長年悩まされているらしい。


 一軒家に戻ると、室内の掃除は終わり、グレウスとマカリアはルカに読み書きを学んでいた。


 ペコが迎える。


「おかえり~主様。……悪党どもがあちこちにいたでしょう?」


「ああ、愚か者ばかりだったな」


「でも、これからもっと増えるよ。ザンガニがいなくなったと知れば、空いた縄張りを狙って、次から次へと湧いてくるからね」


 ペコの話によれば、盗賊の多くは元兵士や冒険者で、国やギルドに見捨てられた者たちが流れ着いて野党となり、集団を形成しているという。

 特にサマル町の立地――大陸の南端に位置し、東に山脈、南西に海があり、他町との接点は西隣のサマニ町だけと少ない閉鎖的な地形――は、まさに盗賊たちにとって魅力的な拠点となっていた。


「他の町は、四方八方から来る同業者との縄張り争いが絶えないけど、ここは行き止まりの町……守りやすいので価値があるのですよ」


「なるほどな。それは、支配したがるな……」


 ペコの言葉は、予言のように現実となった。翌日から、どこで聞きつけたのか、盗賊、野党、山賊、海賊といったならず者たちが続々とサマル町を訪れ始めた。


 町の外を歩けば、「ここは通さねぇ!」と野党が道を塞ぎ、

 

 山を歩けば、「者ども、かかれ!」と山賊が襲いかかる。


 海に近づけば、帆にドクロの紋を掲げた海賊船が荒々しく波を切り裂いてきた。

「おらぁ! この町は俺たちがいただくぜぇ!」

「金も女も魚も、ぜんぶ差し出せぇ!」

 どなり立てる海賊ども。だが、日焼けした漁師が岸から手を振った。


「おい! そこは危ねえ、離岸流だ! 戻れ!」


 だが彼らは笑い飛ばす。

「へっ、田舎漁師がなにをぬかす! 俺たちゃ黒潮より速ぇんだよ!」

「海を制するのは海賊様よ!」


 その瞬間、海は牙をむいた。

 轟々とうねる離岸流に船は吸い込まれ、黒潮の闇に翻弄される。

「な、なんだ!? 船が勝手に――」

「おい! 舵がきかねぇぞ!」

 笑い声は悲鳴に変わり、次の瞬間には帆柱ごと波に呑み込まれ、海面には泡ひとつ残らなかった。


「……海賊はないな」


 サーティーンは、やってくる悪党たちを、冷静に容赦なく駆逐した。

 気づけば三ヶ月が過ぎ、町の人々は彼を「守り神」と呼び始めていた。


「主様、最初は人間など知らんと言ってたのに、案外満更でもないようだね?」


 ペコが冗談めかして言うと、サーティーンはわずかに笑みを漏らした。


「……神と呼ばれるのは、悪くはない」


 かつて天より堕ちた悪魔は、今や町を守る影の存在――

 その姿は、まるで闇に潜む英雄のようでもあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ