プロローグ 悪魔の胎動
ルシフィス外伝は、天空門のルシフィス本編の数年前の話で、地に落ちたルシフィスの肉体(魄)が、暗黒神からコアを授かり、亜空間にて天使から悪魔へ変わったあと、惑星イオに自らの野望を叶えに進出する物語です。
これは、まだ天と地の均衡が保たれていた時代の物語。
──下界。
無数の星々が瞬く夜空に、白銀の翼を広げた熾天使ルシフィスの姿があった。
その瞳は誰よりも澄み、誰よりも正しく、誰よりも神に近いと讃えられていた。
だが、その胸の奥底には、消し去ることのできない影が芽生えつつあった。
「もし……この世界を、神ではなく、私が導けたなら」
一瞬の思考。そのわずかな隙間から、黒い影が生まれ落ちる。言葉にすれば「望み」、形を変えれば「悪心」。
影はルシフィスの内奥で膨れあがり、やがて彼自身から切り離された。
──暗黒の欠片、黒き影。
「……フフ、そうか。お前は願ったのだな。神に匹敵する力を」
影は囁き、魂から肉体を支配せんと蠢く。
その刹那、瘴気をまとう巨影――極悪魔ベルゼブブが姿を現した。
「お前がこちら側に来るのは迷惑なんですよ……大人しくこの槍で眠っていなさい」
閃光のような魔槍がルシフィスを貫き、光り輝くエンジェルコアが肉体から弾き飛ばされる。
「ルシフィス様!」
金色の翼を羽ばたかせ、熾天使ミカイルが飛来する。
彼女はその砕けそうなコアを抱き取り、叫んだ。
「ルシフィス様は、私が必ずお守りします!」
ミカイルは天界へと戻り、ベルゼブブは魔虫たちを従えて魔族領へと去っていく。
残された肉体は影に呑まれ、地上へと堕ちながら朽ちていく……その最中。
(……待っていたぞ、ルシフィスよ。そなたの影に、この黒き心臓と役目を授けよう。光に抗うも、闇に堕ちるも――それを選ぶのは、そなた自身だ)
暗黒神の声は冷たくも甘美に響く。
堕ちゆく肉体の奥底には、なおも消えぬ純白の輝きが残されていた。
それを覆うように、漆黒の鼓動が脈打ち始める。
――その鼓動に混じって、なお囁きは続く。
「下界に蠢くものどもを束ね……勇者と魔王に刻まれし力を……我がもとへと……」
意味のすべては掴めない。
だが確かに、その身に刻まれた使命の影は消えることなく残っていく。
闇と光がせめぎ合う胸の奥で、影はゆっくりと形を成した。
やがてその名は サーティーン。
己が何者かを知らぬまま、深き眠りについた。
だがその目覚めは、決して祝福ではない。
世界にとって、それは再び訪れる災厄の予兆だった。
ただひとつ確かなのは――
ここから、サーティーンの物語が始まってしまうということだ。
本作には戦争・暴力・拷問・奴隷制度に関する描写、および死・出血・精神的苦痛を伴う表現が含まれます。
作品はあくまでフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
苦手な方、精神的に不安定な状態にある方は、無理せずご自身のペースでご覧ください。
毎週火曜、木曜、土曜日、21時更新予定してます。




