表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/35

第25話 絶望の淵の閃き、職人の覚悟

 霧の山脈、山頂付近の洞窟。

 月光鉱石を守る古代ゴーレムの圧倒的な力の前に、カイたちは絶望的な状況に追い詰められていた。


「ぐっ……はぁ……!」


 リゼットは壁に叩きつけられた衝撃で、呼吸もままならない。

 深紅の鎧は健在だが、中の体は悲鳴を上げている。

 黒曜の剣を杖代わりに、なんとか立ち上がろうとするが、足が震えた。


「くそっ、ちょこまかと……!」


 ガオもゴーレムの放つ霧の弾丸を回避し続けるが、その動きは明らかに鈍くなっていた。

 瞬足獣道着はあちこちが破れ、肌が覗いている。

 疲労の色は隠せない。


「これほどの魔力抵抗と再生能力……通常の魔法では……!」


 シルフィも魔法障壁を何度も砕かれ、ローブは焼け焦げ、肩が露わになっていた。

 得意の精霊魔法も、ゴーレムの霧の力に相殺され、決定打を与えられずにいる。

 三人の顔に、焦りと、そして諦めの色が浮かび始めていた。


 ゴーレムは、感情のない青白い光を目に宿し、ゆっくりと、しかし確実にヒロインたちを追い詰めていく。

 その巨大な石の腕が、再びリゼットに向かって振り上げられた。

 もう、避けられない――!


「(くそっ……! 何もできないのか、俺は……!)」


 後方で、カイは自分の無力さに歯噛みしていた。

 戦う力のない自分は、ただ仲間たちが傷ついていくのを見ていることしかできないのか?

『絆のチョーカー』で連携は取れても、根本的なパワーが違いすぎる。


(何か……何か手はないのか!? このままじゃ、みんなが……!)


 カイは必死に思考を巡らせた。

 ゴーレムの動き、攻撃パターン、あの硬い装甲、そして再生能力……。

 何か弱点は? 攻略の糸口は……?

 視線が、広間の中央で神々しく輝く月光鉱石に向けられる。

 あの鉱石から、ゴーレムはエネルギーを得ているように見える。

 そして、鉱石自身が放つ、あの膨大な魔力……。


(あの鉱石の力……! もし、あの純粋なエネルギーを、直接みんなの装備に付与できたら……? 一時的にでも、ゴーレムに対抗できるだけの力を……!)


 無茶かもしれない。

 危険すぎる賭けだ。

 だが、他に方法はない!


「(……やるしかない!)」


 カイは覚悟を決めた。

『絆のチョーカー』を通じて、ヒロインたちに必死の念を送る。


『みんな、聞いてくれ! 俺に考えがある! 少しだけでいい、あいつの足止めを頼む! 絶対に、無茶はしないでくれ!』


『カイ!?』

『何を……?』

『カイ兄、危ないぜ!』


 戸惑いと心配の声が返ってくるが、カイは構わなかった。


「頼む!!」


 カイの悲痛な叫びにも似た念が届いたのか、三人は一瞬顔を見合わせ、そして覚悟を決めたように頷いた。


「……わかった!」

「……時間を稼ぎます!」

「カイ兄を信じる!」


 三人は最後の力を振り絞り、再びゴーレムへと立ち向かっていく。

 リゼットが挑発するように剣を構え、ガオが攪乱するように動き回り、シルフィが援護魔法を放つ。

 ゴーレムの注意が、完全に三人に向けられた。


(今だ!)


 カイは工房から持ってきた工具袋を漁り、掌に収まるほどの長さの、星屑鉄(ほしくずてつ)でできた細い棒と、小さな魔石をいくつか取り出した。


「ナット、行くぞ!」

「ハイ! カイ様!」


 カイはナットと共に、広間の中央、月光鉱石へと向かって疾走した!


「……侵入者……!」


 ゴーレムがカイの動きに気づき、巨大な腕を振り下ろす!

 轟音と共に、カイが先ほどまでいた場所の床が砕け散る!


「うわっ!」


 カイは紙一重でそれをかわし、鉱石の根元へと転がり込む。


「ナット!」

「オ任セヲ!」


 ナットがゴーレムの足元へと飛び込み、小さな体でちょこまかと動き回り、注意を引く。

 その隙に、カイは月光鉱石へと手を伸ばした。


 触れた瞬間、ビリビリと痺れるような、膨大な魔力がカイの体を貫いた。

 普通の人間なら、触れただけで意識を失うか、最悪の場合、体が弾け飛んでもおかしくないほどのエネルギーだ。


「ぐっ……!」


 カイは歯を食いしばり、耐える。

 そして、星屑鉄の棒の先端に取り付けた魔石を、鉱石の表面に押し当てた。


 バチバチバチッ!!


 激しい火花が散り、魔石が眩い青白い光を放ち始める。

 月光鉱石から溢れ出る純粋な魔力エネルギーが、星屑鉄を触媒として、魔石へと流れ込み、蓄積されていく!

 腕が焼け付くように熱い。

 意識が飛びそうだ。

 だが、カイは耐えた。

 仲間のために。


(これだけあれば……!)


 魔石が限界まで光を溜め込んだのを確認すると、カイは棒を引き抜き、ヒロインたちが後退してきた場所へと駆け戻った。


「みんな、装備を!」


 カイは叫ぶ。

 時間がない。

 ゴーレムはナットの攪乱を振り切り、こちらへ向かってきている。


「リゼット、剣を!」

「ガオ、手甲!」

「シルフィさん、チョーカーに!」


 カイは、エネルギーを蓄積した魔石付きの棒を、それぞれの装備――最も効果的に力を伝達できるであろう部位――に押し当てていく。

 これは、時間をかけて行う《神器錬成》とは違う。

 もっと荒々しく、瞬間的なエネルギーの注入――応急的な強化エンチャントだ。


 カイの持つ魔力と、卓越した職人技術、そして星屑鉄の触媒効果が、月光鉱石の莫大なエネルギーを、それぞれの装備へと定着させていく。


 カン! キン! シュン!

 金属が打ち合わされるような、あるいは光が走るような音と共に、ヒロインたちの装備に新たな変化が現れる。

 リゼットの黒曜の剣の刀身に、青白い稲妻のような紋様が走り。

 ガオの瞬足獣道着の手甲部分が、オレンジ色の光と共に硬質化し。

 シルフィの首元の『絆のチョーカー』の青い宝石が、月光そのもののように輝き始める。


 カイの額からは、滝のような汗が流れ落ちていた。

 全神経を集中させ、持てる力の全てを注ぎ込む。


「……侵入者……!」


 ゴーレムの巨大な拳が、カイたち目掛けて振り下ろされようとした、その瞬間――。


「できた!!」


 カイが叫ぶのと同時に、強化された三つの装備が、一斉に眩い青白い光を放った!

 それは、月光鉱石と同じ、清浄で、しかし圧倒的な力の輝き。


「これは……!」


 リゼットが自分の剣を見て目を見開く。


「すごい力だ! 体の中から力が湧いてくる!」


 ガオが拳を握りしめる。


「魔力が……満ちてくる……! これなら……!」


 シルフィの瞳に、確かな勝機の色が宿る。


「今だ、みんな!」


 カイは息を切らしながらも、叫んだ。


「これなら、あいつを倒せるはずだ!!」


 新たな力を得た三人のヒロインが、再び古代の守護者に向き直る。

 その瞳には、先ほどまでの絶望の色はない。

 反撃の狼煙が、今、上がったのだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ